Ep2-7 戦う理由
「あれ?でも剣は空から降って来たよね?」
風兎が呟く。確かにその疑問は尤もだ。ナイフだけではあの状況は作り出せない。
「ああ、それはな。⋯⋯よっこいしょ」
一旦ソファから起き上がり、アルセーヌに変身して帽子を手に取る。
──────ぽんっ、と軽い音を立てて現れたのは、マジックでよく見るような白い鳩だった。
「こいつの能力だよ。盗める物や既に盗んだ物、それから俺自身や俺の持ち物と場所を入れ替えられるんだ」
「へぇ〜、可愛いね!」
但し、入れ替える物と同じくらいの体積の鳩が必要になるので、大きな物を入れ替えようと思えばその分大量の鳩を用意しないといけない。剣が消えた時に鳩の群れが飛び立ったのはそれが理由だ。
「あれ?でも動画だと鳩さんなんてどこにも飛んでなかったけど、これも映ってないだけ?」
「帽子取った後に煙幕を張っただろ?その時にこっそり飛ばしておいたんだ」
「あぁ、あの時!」
とは言えあの黒騎士の場合、気配とかで鳩の存在自体には気付かれていた可能性はある。視覚に頼っていたり魔力を感知しているなら煙幕で誤魔化せたけど、どうもそれだけじゃなさそうだったんだよな。
「見えないように色々やってたんだねぇ」
「⋯⋯そういう能力だからな」
その言い方だとまるで俺が悪い事をしていたみたいじゃないか。ただコソコソと敵を嵌める準備をしていただけなのに⋯⋯。
総評として、実に様々な事が出来る代わりに、勇者の武器にしてはかなり威力が低い上に消費魔力が多いのが俺の武器の特徴だ。と言うか手数が増える分多く消費すると言った方が正しいか。レベル3相手だったから圧倒出来たものの、これがレベル4となるとそう上手くはいかなかっただろう。
ソファの上でお利口に佇んでいる鳩を、興味津々といった様子でじっと眺める風兎。そんなに気に入ったのか?
「ねえ、これって本物なの?」
「あー、それがよく分からないんだよな。魔力は感じるから、少なくとも普通の鳩ではないんだけど⋯⋯」
見た目や動き等はどう見ても本物にしか見えない。けど普通に考えて、いくら勇者武器とは言え帽子から生き物を取り出すのはおかしいよな?手品じゃあるまいし。⋯⋯魔法ではあるけれど。
「そいつは眷属だな」
今まで黙って話を聞いていたマモ様が答える。⋯⋯そう言えばマモ様って、不必要に会話に割り込んだりして来ないよな。会話に入って来るのは大抵、何かを教えて貰う時な気がする。
風兎とマモ様が会話していたりすると特に感じるが、世話焼きっぽい節があるなあと思う。
「⋯⋯なんだ、童。他人の顔をジロジロと」
「いや、何でもない」
⋯⋯人?いやこれ前もやったな。他狐とか言われてもよく分からないので全然良いんだけども。
「分類で言えば精霊に近い。精霊が神によって生み出されたものであるのと同じように、眷属は勇者等が自身の魔力を使って生み出すまたは使役するものだ」
「⋯⋯それってつまり生きてるって事か?」
どうしよう、この鳩装束を解くと消えるんだよな。かと言ってずっと変身したままでもいられないし。
「生きていると言えば確かにそうだが、恐らく貴様が考えているようなものでは無い」
「???」
「本質は生命エネルギーそのもののような存在であり、鳩の肉体はあくまでただの依代という事だ。だから装束を解いて鳩が消えても、別に死んだ訳ではない」
なるほど、良く分からないけど、とにかく問題無いって事だな⋯⋯!
「鳩さん良かったね〜」
そう言いながら鳩を撫でる風兎。鳩も彼女の手に擦り寄っていて嬉しそうだ。⋯⋯え、俺まだ撫でさせて貰えた事無いんだけど。
「⋯⋯あ、やば。またしんどくなって来た」
「阿呆。回復しきってもいないのに魔力を使うからだ」
いや、少し楽になったから大丈夫かなって⋯⋯。説明するにしても、実際に見せた方が分かりやすいだろうと思って⋯⋯。
「マモ様、お兄は大丈夫なの?」
「単なる魔力酔いだ。明日には治る」
「それなら良いんだけど⋯⋯」
マモ様曰く、短期間に魔力を消費し過ぎると起こるらしい。俺は保有魔力が多いから特に発症しやすいのだとか。
「そもそも、日頃から魔力を節約し過ぎているのが根本的な原因だ。もしもの場合の連戦を想定するのは良いが、その所為で倒れるのでは本末転倒である」
「すみませんでした⋯⋯」
「今日の戦い、確かに消費した魔力自体は多いが、貴様の保有魔力全体の割合で見ればそう大したものでもない。装束やスキルを覚えて間も無いレベル2の新米でよく見かける症状だな」
俺レベル3なのに⋯⋯。まあ、新米には違いないので、これも一種の通過儀礼という事にしておこう。
その後も、近頃の反省点等について少し長めのお説教を食らってしまった。いつも文句は言うが怒られた事は無かったので、マモ様にしては珍しいなと思う。
「行き先を都度指示している我が言うのもアレだが、お前は働き過ぎだ。何故そこまで多くの魔物を狩ろうとする」
確かに最初、魔物の討伐は2日か3日に一回で良いと言われたのを、出来る事なら毎日やらせてくれと頼んだのは実は俺の方なのだ。
理由なんて、そんなもの決まっている。
「⋯⋯二度と失いたくない。誰からも、失わせたくない」
それが、俺が勇者になった意味だと思うから。
「⋯⋯そんなものはただの理想に過ぎん」
「分かってる。だからせめて、俺の手が届く範囲くらいは守りたいんだ。じゃないと、きっと後悔するから」
全てを救うというのは流石に傲慢だ。俺にはそこまでの力は無いし、手も足りない。
だけど、俺の大切な場所を、日常を守れるくらいにはなりたい。
「⋯⋯そうか」
一瞬、本当に瞬きをするような僅かな間だが、マモ様が今まで見た事の無いような、酷く悲しげな顔になった気がした。
「⋯⋯我は寝る。飯が出来たら起こせ」
そう言ってマモ様は眠ってしまう。
「⋯⋯⋯⋯本当に、嫌になる程よく似ている」
最後の呟きは、残念ながら俺の耳には届かなかった。
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