Ep2-5 黒騎士②
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「さあ、開演だ!」
そう言うとアルセーヌは徐に頭に被ったシルクハットを取り、その中に手を入れた。
そうして出てきたのは小さな赤いボール。計4つのそれを、それぞれの指の間に挟む形で持っている。
「折角なら派手にやろうか!」
──────ボフンッ
ボールが全て地面に叩きつけられると、瞬く間に周囲が煙で満たされた。
煙は黒騎士も巻き込んで広がり、暫くの間視界を奪う。
軈て煙が収まると、やはりアルセーヌの姿はそこに無かった。
『ーーーッ!』
素早く後ろを振り返った黒騎士が両手剣を振るう。
ガキンッ!という金属同士がぶつかる硬質な音が鳴り、小さなナイフが弾き飛ばされた。
『ーーーッ!?』
それを皮切りに無数のナイフが黒騎士を襲う。ナイフが飛んできた方向には、妖しい笑みを浮かべたアルセーヌが佇んでいる。
「剣一本じゃあこれは捌けないよな?」
4本のナイフをそれぞれの指の間に挟み、まるで扇のように広げる。扇を一度閉じてからまた開くと、何故かナイフは1本になっていた。
アルセーヌが斜め上にナイフを放り投げる。放物線を描くそれは頂点を越えた辺りで一回り小さい数多のナイフに分裂し、またも黒騎士に降り注いだ。
『ーーーッッ!!』
両手剣で防げなかった部分が少しずつ抉られていく。滑らかな金属光沢のあった黒い鎧は、細かな傷で一杯になってしまった。ナイフが鎧を貫通して突き刺さっている場所さえある。
「どうだ、素手とは威力が違うだろ?なんたって勇者の専用武器だからな」
身振り手振りも加えてそう語る彼女の姿は、正にパフォーマーといった様相であった。
『ーーッ!』
隙だらけのアルセーヌに黒騎士が接近し、剣を振るおうとするが──────
「おっと、危険物の持ち込みは禁止だぜ?」
──────パチンっ、と彼女が指を鳴らす。すると黒騎士の持っていた両手剣は、なんと白い鳩の群れとなって一斉に飛び立ってしまった。
『ッッ!?!?』
何が起こったのか理解出来ないという様子で硬直する黒騎士。それを見たアルセーヌの笑みが更に深くなる。
「それにしても、ナイフが降るなんて今日は珍しい天気だな」
『⋯⋯』
黒騎士は唯一の武器を失って佇んでいる。⋯⋯否、次は一体何が起こるのかと警戒して動けずにいるのだ。
「次は槍かな?」
そう嘯くアルセーヌの顔と掌は空を向いており、まるでただ雨が降るのを心配しているだけにも見える。
──────ドガァッッ!
直後黒騎士の真上から落ちてきたのは、先程消えた筈の自身の両手剣だった。
「残念、剣でした」
にまぁっ、と怪盗が嗤う。顔の半分を覆うマスクから覗く紅い目からは、彼女の心底愉快といった心情が伝わって来る。
『⋯⋯ッ』
剣が直撃した右肩が脇腹の辺りまで歪に裂けてしまっている黒騎士。相当深刻なダメージだったのか、中身の無い鎧の身体にも拘わらず、右腕の動きはまるでブリキの如くぎこちない。
『ーーーッ!』
「お、まだ動けるのか。けど──────」
無事な左腕のみで剣を持ち、アルセーヌとの距離を詰める黒騎士。当たれば間違い無く有効な一撃となるであろうそれは、敵からの渾身の反撃だった。
「これで、チェックメイトだ」
剣に触れる寸前に黒騎士の後方へと転移するアルセーヌ。手に握られているのは、野球ボールより一回り大きい朱色に輝く丸い石。これが魔石である。
『⋯⋯ッッ!』
黒騎士が焦ったように彼女の方へと腕を伸ばすが、既に決着がついているのは誰の目にも明らかだった。
「貴方の心臓を盗みます。⋯⋯なんてな」
アルセーヌが掌上の魔石を砕くと、手を伸ばした妙な姿勢のまま黒騎士の動きは完全に停止してしまった。
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