Ep2-2 帰りたい
2024,4,14, Ep2-1においてギャルの距離感を下方修正しました。
「風兎、明日って空いてるか?」
「うん、大丈夫だけど、どうしたの?」
金曜日の夜。丁度晩ご飯を食べ終わった頃に「そう言えば」と俺は話を切り出した。
「この前服が欲しいって言っただろ?そろそろ買いに行こうと思って」
ここの所ずっと、学校に行く時は制服だしそれ以外の時は『アルセーヌ』に変身していたから問題無かった。しかしこのままだと『坂富 志衣奈』は外に出られない。
まあ正直、俺はインドア派だからそこまで切羽詰まっている訳ではないんだけど、行ける内に行っておこうと思った次第である。
「おー!やっとスウェット以外のお兄が見られる!」
「⋯⋯何だよ、便利じゃんスウェット」
こうなる前から使ってた部屋着だぞ、文句あんのか。⋯⋯身体のサイズが軒並み変わってて、今でも着られる服が少ないんだよなあ。
身長が縮んだからズボンの丈が長いと思ったらお尻はキツかったりするし⋯⋯。男女の差をはっきり突き付けられた気分だった。
⋯⋯因みに下着は、流石に女になってすぐ買いに行った。恥ずかしかったから妹は置いていったけど、店員さんに聞かないと俺が下着の事など分かる筈も無い。
替えを含めた数着の下着を何とか手に入れる事に成功したものの、結局精神力をゴリゴリと削られる結果となった。
帰ってから改めて妹から下着の付け方を教わった時は、冗談抜きで羞恥で死ぬかと思った。⋯⋯早く店から出る事しか考えていなかった所為で、余計に辛い思いをする羽目になってしまったのだ。
あの時の風兎の顔、今思い返してもキラッキラと輝いていたな⋯⋯。もう楽しくて仕方が無い!って顔だった。俺は泣きたくて仕方が無いよ。
「楽しみだね、お兄!」
しかし圧倒的一番の鬼門である下着はとっくにクリアしているのだ。服を買うだけの簡単なお仕事、何の問題も無く遂行してやろうじゃないか!
× × ×
「帰りたい⋯⋯」
「ずっと居られる!」
誰だよ簡単な仕事とか言ったやつ。とんでもないブラック重労働じゃないか。
「しぃ姉顔もスタイルも良いから、何でも似合って迷っちゃう!」
「ちょ、恥ずかしいからあんま大声で言わないで」
服を買うという事で、俺たちは近場のショッピングモールに来ていた。今は店の一つで俺の服を探している(風兎が)。
人目のある所では、風兎は俺の事を『しぃ姉』と呼ぶ。妹は歳の割には凄くしっかりしているけど、時々やらかすから『お兄』と呼び間違えたりしないか今からとても不安である。
「ん〜、しぃ姉はどれが気に入ったの?」
自分一人では選べないと悟ったのか俺に意見を求めて来た。実際俺の服だからその判断は正しいんだけど、生憎俺はファッション、それも女性物の事など特にさっぱりだ。
「⋯⋯派手じゃない無難な物なら何でも良いかな」
「えー!勿体無いなあ」
今日の風兎の服装は、春らしいライトグリーンの薄手のブラウスに膝上くらいの黒いプリーツスカート。それにスカートと同色のベレー帽とローファーを身に付けている。
可愛らしいという事は分かるんだけど、自分で服を選ぶとなると話は違う。お手上げ状態である。
俺の服なんて、ダボダボの白いTシャツにジーパン、黒いキャップだぞ?靴は当然スニーカー。
⋯⋯お察しの通り、今の俺でも何とか着れそうな服を適当に引っ張って来ただけである。
足も小さくなっていたので靴は中敷きを2枚詰めてある。そうまでしないとブカブカだったのだ。
⋯⋯その割には胸周りだけジャストサイズなんだよな。原因は分かってるけど敢えて言うまい。
ただ、風兎も言ってたけど、こんな馬鹿みたいに適当なコーデでもそれなりに様になって見えるから美人ってずるい。⋯⋯本当、それが俺自身の話でなければ何も問題は無かったのに。
「⋯⋯あれ?志衣奈ちゃんじゃん!」
俺たち二人(主に風兎)がああでもないこうでもないと服を取っかえ引っ変えしていると、突如後ろから俺を呼ぶ声が聞こえた。
「んぇ、月島さん!?」
振り返るとそこにはギャル、⋯⋯もとい月島さんが居た。なんで?
⋯⋯いや、冷静に考えたらここって学校からそこまで離れていないショッピングモールだし、同級生と出会う可能性は全然あるのか。
「しぃ姉の友達?」
「そうそう、あーしは月島 茶瑠兎!妹ちゃんかな?よろしくね〜!」
「風兎だよ!よろしくね!」
⋯⋯いつの間にか友達って事になってる。ギャルって怖い。
「風兎ちゃんは志衣奈ちゃんの事、しぃ姉って呼んでんだ!あーしも真似していい?」
「えっ、ひゃ、ひゃい!」
「やった!これからはしぃちゃんだね〜!」
⋯⋯ん?なんか勢いで良く分からないまま了承してしまったぞ?
「お兄⋯⋯」
風兎が呆れた目をこちらに向けてくる。⋯⋯仕方無いだろ、俺は陽キャ女子耐性のスキルを持っていないんだ。
ただでさえ最近心許ない兄の威厳が、益々損なわれている気がする。
「⋯⋯つ、月島さんはどうしてここに?」
見たところ一人きりだし、友達と遊びに来た訳ではなさそう。普通にショッピングだろうか。
「実はそこでバイトしてんだよね〜」
そう言って月島さんは俺たちが今いる店とは反対側の店を指差した。どちらかと言うと派手めな服が置いてあるお店で、確かに彼女のイメージに合っている。
「勇者の仕事と兼業でですか?」
「そ!大変だけど楽しいんだ〜」
実は月島さん、学年どころか学校でもそこそこ珍しいレベル3の勇者なのだ。
三年生になるとそれなりの数がいるレベル3だが、一年生では今のところ俺と彼女しかいない。俺は自身のレベルを学校では公開していないので、公には月島さんが一年生唯一のレベル3だ。
「って言っても、この前始めたばっかだけどね〜」
それもそうか。俺たちは高校生になりたてなのだから、まだバイトを初めて一週間前後しか経っていない可能性が高い。
「てかそっちこそ何してんの?二人で買い物?」
「そう!しぃ姉の服を買いに来たんだよ!」
「⋯⋯あぁ、なるほどね〜」
何かを察したようにそう呟く月島さん。⋯⋯なんで俺の方を見るの??いや理由は分かるけども。
「なんか、意外だね〜」
「な、何がですか?」
「何て言うか、学校では割とお淑やか?な感じじゃん。話す時も敬語だし〜」
⋯⋯それはうっかり『俺』とか言ってしまわないようにするためです。
なんと言うか、男でも大人は仕事とかで自分の事を『私』って言う時があるから、それを意識して真似ているんだけど。⋯⋯まさかそれがお淑やかと思われていたとは。
「ボロが出るから猫被ってるんだよ」
「あ、そーなん?」
「ちょ、風兎!?」
事実だけど!事実だけど!!兄の風評被害を言いふらすのはやめて!!
「家だと全然違うのにね!」
「お願い、もうやめて⋯⋯」
兄のライフはもうゼロよ⋯⋯。
「あははっ、妹ちゃんも面白いね〜」
妹"も"?もしかしてその面白いに俺も含まれてますか?俺って、おもしれー女枠だったのか⋯⋯?
「良かったら一緒に回んない?あーしコーデには結構自信あるよ〜」
「わあ、助かる!丁度悩んでた所だったんだー!」
二人はきゃっきゃと、あの店を回るだったりこんなアイテムが欲しいだとかを相談している。⋯⋯あれ、俺の意見は?
⋯⋯結局俺は一言も発さないまま、月島さんと一緒にショッピングをする事が決定してしまった。
帰りたい⋯⋯。
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