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第8話 三人目の攻略対象

「ふんっ、ふんっ……ふんっ!」


 ティアの学園復帰が定期試験後になることが判明して、二人っきりでレイラ―と少し会話をしている所を、悪役令嬢のクリスに睨まれて。


 そんなヒロインが送りそうな学園生活に巻き込まれてしまった私は、定期試験で起こるであろう悲劇に備えて朝から剣を振っていた。


 学園の敷地内にある木々が並ぶ庭に隠れるようにして、私は朝日を浴びながら部屋にあった剣で素振りをしていたのだった。


 本来なら回避しようとしていたヒロインの代行。否定しようが逃げようがそのルートから逃げることができない感じになってきたので、私は腹をくくって最低限の準備をすることにした。


 魔法の実技の授業で判明してけど、モブの私には魔法の才能はなかった。それなら、定期試験のダンジョンで生き残るために筋力だけでも付けようと思って、部屋にあった剣で素振りをして筋肉を付けようと考えたのだ。


「ふんっ……はー、はー、ふんっ! はっ、はっ、はぁー」


 剣があるということは、もしかしたら剣が扱える系のモブなのかもしれないと思って期待してみたが、素振りを数十回した頃にはすでに手はぷるぷると震え出していた。


 腕がぷるぷるとするくらい疲れた私は、剣を近くに置いてそのままその場に倒れ込んで休むことにした。


 これあれだ。ただ学校で授業があるから剣を持ってただけで、エリ―は剣術とか習ったことないんじゃない感じの奴だ。


 そもそも、公爵令嬢が剣なんて振ったことあるわけないじゃん。なんで気づかなかったの私。


「あー、もう、どうすればいいのよ」


 やさぐれるように、空を見ながら呟いても何も解決がするはずがなくて、私は大きなため息を一つ吐くことくらいしかできなかった。


「形が毎回バラバラなんだよ。ただ闇雲に剣振り回してる感じになってるぞ」


「え?」


 空を見上げながら呟いた大きな独り言に返答があって、その返答のあった方に視線を向けると、そこには近くのベンチに脚を組んで座っている男の子がいた。


 銀色の髪を上げている、ガタイの大きな男の子。野生児を思わせるようなガサツな性格が服の着こなしにも出ているみたいだった。


 貴族出身には見えない脚を投げ出すような休憩の仕方をしているが、この男が何者であるのか私はすぐに分かった。


「おまえ、エリ―・アルベルトだろ? なんでアルベルト家のお嬢さんが朝から剣振り回してんの?」


「……マイネル・マース」


「あれ? 俺のこと知ってんのか」


 ええ、知ってますとも。国家騎士団の団長の息子で、攻略対象の男の子ですからね。


 きょとんと首を傾げているマイネルにそう言ってやりたかったが、それを押さえ込みながら、私は自分が本当にヒロイン代行になってしまったのだと再確認させられたのだった。


 思いつきで剣を振った先で、攻略対象と出会うとかもう逃れようがないみたいだ。


「まぁ、同じクラスだから知っててもおかしくはないか」


「ええ。初めまして、エリ―・アルベルトと申します。」


「公爵令嬢に寝そべりながら挨拶されるとは光栄だな」


「腕がぷるぷるで動けなくて……」


 おまけに足にも結構疲労がきていて、すぐに立ち上がることができずにいると、それを見ていたマイネルは小さく噴き出すように笑った後、私の手を引っ張って起こしてくれた。


 そのまま背中に付いた汚れを払ってもらっていると、背中越しにマイネルが口を開いた。


「それで、何してたんだ?」


「見て分からないですか? 剣の稽古ですよ、稽古」


「剣の稽古って、あれがか?」


 背中の汚れを払い終えたみたいだったので、マイネルの方に振り向くと、マイネルは何か言いたげな顔をしていた。


「む、なんですか?」


「いや、あんな剣をぶんぶん振り回す流派は知らないと思ってな」


「マイネル……様の剣だって、力でぶんぶん振り回すタイプじゃないですか」


 これでも真剣に剣を振っていただけに、私は思わずそんな言葉を漏らしてしまっていた。


 そうなのだ。このマイネルという男は、剣の腕は確かなのだが、力技で人を圧倒する剣の使い方をするので有名なのだ。


 だから、人のことを言えるのかと思って、思わずそんな言葉を漏らしてしまった。


「俺の剣を見たことあるのか?」


「風の噂で」


「じゃあ、聞いたことあるだろ? 俺の剣は品がない野蛮なダメな剣なんだって噂も」


マイネルはそう言うと、失笑気味に口元を緩めていた。


その言葉の裏にどんな感情が隠されているのか、これからマイネルがどんな剣の道を歩むことになるのか私は知っている。


マイネルの兄はマイネルとは違い、型が綺麗な剣捌きをすることで有名だった。見る物を魅了する剣捌きをする兄の下で、野蛮な剣だと言われながらも強さを求めたマイネル。


しかし、兄にどうしても勝てないからという理由で、一度綺麗な型通りの剣を習得しようとする。


周りは評価してくれるようになったが、それでも兄にも勝てず、自慢の力を押し殺した剣ではヒロインも守れなくなってしまう。


ヒロインを守り切れなかった後悔から、再び力でごり押す剣の道にまた進んで、そこで本当の自分なりの力を付けるといった感じだった気がする。


 つまり、マイネルが自分の剣に自身を失くす必要なんてないのだ。


「ダメなんかじゃないですよ」


「え?」


「力でぶん回してもいいじゃないですか。むしろ、それがマイネル様の長所じゃないですか? それに、なんかマイネル様の剣って実践向きな気もしますしね」


 だから、私はただ思ったことを口にした。


 徐々に腕の力も戻ってきたので、剣を拾って再び型なんてない素振りをしながら、私は言葉を続けた。


「型なんかどうでもいいから、手っ取り早く強くなりたい人もいるんですよ。私は好きですよ、マイネル様の剣」


 そう、私は将来的に剣豪になる予定もない。ただこの学園を卒業したいだけだ。だから、純粋に魔物を屠れるくらいの力が羨ましいし、ただ魔物を薙ぎ払うだけの力が欲しいのだ。


 綺麗な型を身に着けようとしていたら、とても定期試験に間に合わないし、そんな演武みたいな綺麗さは私に入らない。


 そ、それにしても、剣が重いっ。


「……その剣の振り方じゃ、力は出ないぞ」


「はい?」


 私が息を切らしながら剣を振っていると、ベンチに立てかけてあった剣を手にしたマイネルがそんなことを言ってきた。


「体重を乗せて踏み込んで、その勢いを剣に乗せるんだ。こうやって、なっ!」


 そして、私の方に少し目配せをした後、剣を強く握って鋭いひと振りをした。


 風を荒々しくぶった切るような音が聞こえて、その風圧すら感じさせるような勢い。そんな剣筋を前にして、私は思わず言葉を失っていた。


「どうだ?」


「獣みたいな、荒々しさですね」


「獣か。それも悪くないかもな」


 自身の剣を見つめながらそんなことを口にしたマイネルは、少しだけ呆れるような笑みをしていた。


 自分の悩んでいたことに対して呆れているようで、剣を一振りしたマイネルの顔は、何かが吹っ切れたような表情をしていた。


 その剣に魅入っていると、私の視線に気づいたマイネルは少しだけ気まずそうに軽く剣をもう一振りした後、ちらりと視線をこちらに向けながら言葉を続けた。


「……こんな荒い剣でよければ、教えてやってもいいぞ」


 なんだか思春期の男子みたいに顔を赤くしている姿を見て、私は少しだけ可愛いなと思いながら、小さく口元を緩めた。


 こうして、私はマイネルから剣を習うことになったのだった。


 本来なら、攻略対象であるマイネルとは関わらない方がいいのかもしれないけれど、このままだとダンジョンで死ぬことは確定である。


 そんな待ち受けている悲惨な未来から逃れるため、私はその申し出をありがたく受けることにしたのだった。


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