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第4話 モブの友達はモブであって欲しい


 エルドナを振り切って教室に向かうと、そこではすでにグループのような物ができつつあった。


 教室は大学の講義室のようになっており、自分で好きな席に座るタイプらしい。


 とりあえず、授業が始まるまでの少しの間に私も友達を作らないとと思って、辺りを見渡してみるが、一人でいるようなクラスメイトは結構少なく、すでにクラスに打ち解けている人たちが多いみたいだった。


 できれば、私みたいにモブな感じの人がいいな。


 そんな失礼なことを考えながらきょろきょろとしていると、少し後ろの方の席にぽつんと一人で座っている女の子がいた。


 赤い髪色のくせっ毛で、少しおどおどしたような感じの女の子。綺麗な顔立ちをしているし、私よりも小さな身長をしていて女の子らしいのに、不思議とその子の周りには男女ともに集まっていなかった。


 なんでこんな可愛い子をみんな放置しているんだろ?


 そんなことを考えてもみたが、『虹の彼方へと続く』で見たことのない子だったので、同じくモブだろうと思って、私はその子の元に近づいていった。


「えっと、初めまして。隣の席いいかしら?」


「え? わ、私の隣ですか?」


「うん。いいかな?」


 私が訪ねると、彼女は少し驚いて固まった後、激しく顔をぶんぶんと振って頷いてくれた。


 私が席に着くと、ちらちらという視線を彼女から感じたので、私はまだ自己紹介をしていなかったことを思い出して、小さく咳ばらいをした後に彼女の方に視線を向けた。


「私はエリ―・アルベルト。よろしくね」


「あ、よろしくお願いします。ミーア……ベネット、です」


「うん。よろしくね、ミーアさん」


 なぜか視線を逸らされてしまった自己紹介だったなと思いながら、私が笑顔を向けると、ミーアはそんな私の笑みを見て目をぱちくりとさせていた。


 ただの自己紹介だというのに、何を驚くことがあるのだろうか?


 そんなことを考えながら、私はふとここが貴族社会であったことを思い出した。


そして、自分がしでかしたかもしれない事態を想像して、一気に顔を青くさせていた。


「えっと……もしかして、ミーアさんって結構な身分の方だったりします?」


「い、いえ、身分はエリ―様の家の方が上ですよ。アルベルト家ですもんね」


「いや、様って」


 わたわたと胸の前で手をぶんぶんと振っている姿を見て、私は失礼なことをしたわけではないことに安心して、小さく息を吐いていた。


 ルークから聞いたアルベルト家の身分は公爵家らしい。どうも、モブにしては高すぎる身分な気がするけれど、身分が高くて悪いことはないと思うので問題はないとは思う。


 公爵家なら御付の人がいそうなものだが、何を考えたのかエリ―自ら学校に付き人が来ることを拒んだらしい。


 何かと付き人がいてくれた方が便利な気はするんだけど、なんでエリーは付き人が学校に来ることを拒んだのだろうか?


 自立したかったとかなのだろうか?


 まぁ、今はそんな話はどうでもいいか。


 さすがに、ミーアが王族とかだったらと失礼な態度を取ってしまったと反省するところだが、どうやらそういうわけではないらしい。


 そうなると、一体何が問題だったのだろうか?


 そんなことをいくら考えても分からないでいると、痺れを切らしたようなミーアが申し訳なさそうに口を開いた。


「その、ベネットと聞いても態度変えたりしないんですか? 気味悪がったりとか」


「気味悪がる?」


 言っている意味が分からずにきょとんとしていると、周りから視線を向けられていたことに気がついた。


 なるほど、確かに周りから視線を感じると思ったらそういうパターンか。


 おそらく、ベネット家というのは何かしらのいわく付きの家ということなのだろ。だから、周囲にいるクラスメイトも話しかけようとはしなかったのだと思う。


 乙女ゲームとか、それを舞台にした小説とかに出てくるいわく付きの家という訳か。


 でも、そんなゲームの設定外の事情なんて私知らないしなぁ。


 何かしらフォローを入れた方がいいのかもしれないけれど、事情を知らない以上あんまり深いことは言えないし、正直に言うしかないのかな。


「ごめんなさい。私そういうの詳しくなくて。それに、どんな家だったとしてもミーアさんはミーアさんでしょ?」


「……へ」


「あなたと話したくて、友達になりたいなって思ったから話しかけたの。だから、あなたがどんな家の出身でも関係ないっていうか――み、ミーアさん?!」


「え?」


 私が軽い気持ちでそんなことを言うと、ミーアはぼろぼろと涙を零し始めた。


どうやら、ミーアは私が言うまで涙の存在に気づかなかったらしく、ミーアは私に言われ頬を濡らしいていた涙の存在を知って驚いていた。


「え、あっ、す、すみません」


 ミーアは謝罪を言いながら、ただひたすらに涙を抑えようとして拭っていた。それでも、その涙は止まることなく流れ続けて、ミーアの目元を赤くさせていった。


「そんなふうに言ってくれる人、いなかったので、そのっ」


 私はそのまま教室で本気で泣き出してしまったミーアを泣きやめさせようと奮闘したが、優しくすればするほど泣いてしまうミーアを前に、ただあたふたとするしかできないでいた。


 それと同時に、些細な言葉をかけられただけで思わず泣いてしまうほど追い詰められていたミーアの状況を知って、私は少しだけ胸の奥の方を痛めたのだった。




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