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第1話 乙女ゲームのモブに転生?!


 どうしよう、どうしよう、どうしようっ。


 目の前にいるのは、婚約者に手を出されたと勘違いをしている悪役令嬢のクリス。


 私のことを完全に敵と認識していて、金髪のウェーブをなびかせながら、これでもかというくらいに私を強く睨んでいる。


 多分、私がこんなことを言ったところで、その言葉を信じてはくれないだろう。


 このままでは、私の学園生活は悪役令嬢とその取り巻きにいじめられる日々が待ち受けることになる。


 なんとか、今の状態を打開できる方法はないのだろうか。


 必死に考えを巡らせながらクリスに視線を向けたとき、偶然その後ろにいる人物と目が合った。


 そして、その瞬間、解決策はこれしかないのだと悟った。


「クリス様! ご安心ください!」


 私はクリスに大声でそんな言葉を告げた後、小走りでクリスの奥にいた人物の元へ走っていった。


 自分のもとに走ってくると思っていなかったその人物は、私が突進してくる姿を見て少し後ずさったようだった。


 本当なら説明をしなければならないと分かっていながら、そんな時間はなかったので私はそのままの勢いでその人に抱きついた。


「私は、お兄様一筋なので!!」


 何が起きたのか分からない様子の兄のルークをそのままに、私はもう少しだけ強くその腰に抱きついたのだった。


 私がこの世界で生きていくためには、この選択しかない。


 乙女ゲームの世界でモブとして転生した私は、ブラコンを演じることでしかこの世界では生き残れないのだ!


 そんな固い決意のもと、私はそのまま兄のルークの胸に強く顔を埋めたのだった。




 その時は突然やってきた。


 目の前に現れたのは、白い狼のような魔物。それが唸るような声を漏らしながら、私に少しずつ近づいてきていた。


 ハイネス魔法学園という魔法を学ぶ学園に入学が決まって、入学式の後にふらっと夜の散歩をしていたことが悪かったのかもしれない。


 でも、学園内に魔物が現れるなんて思いもしなかった。


 このままでは死んでしまう。早く助けを呼ばねば……。


 この瞬間、私は思い出したのだ。


 これが乙女ゲームの中の世界であることに。


 死の瞬間に見ると言われている走馬灯。今までの出来事を振り返るはずが、私が見たのはこの世界にない情報の数々だった。


 日本で乙女ゲーム三昧の日々を送って、乙女ゲームの発売日にウキウキ気分で家を出た先で車に跳ねられた記憶。


 そして、数々の乙女ゲームをプレイした私の記憶の中には、確かに今の光景と一致するイベントがあった。


乙女ゲーム『虹の彼方へと続く』。今の場面は、そのゲームの中の攻略対象がヒロインを助けて、二人が出会うシーンに間違いない。


ということは、今の私はヒロインであるティア・ブロワということになるのだろう。


腰まで伸びた桃色の髪が特徴的な純情オトメのようなヒロイン。庇護欲を掻き立てるような女の子で、数々の男の子を虜にするのだ。


ゲームの世界に転生したということに驚きながらも、小説でその展開は飽きるほど見てきたから、そんなに動揺したりはしなかった。


なにより、このゲームのメインヒロインであり主人公。そんな女の子に転生したのだから、何も恐れることはない。


だって、きっと主人公補正もバンバンにかかるだろうし、オトメが期待する展開がこの先の人生で次々に起こることになるのだろう。


そう考えると、突然死んでしまったというショックよりも、この世界に対する期待の方が大きいかもしれない!


そんなことを考えながら、私は目の前に魔物がいるという状況にも関わらず、余裕そうに腰まで伸びている桃色の髪をさらりと指の先で撫でてみてーーん?


腰まで、髪がない? ていうか、髪色が桃色でもない。


まってまって、どういうこと? 主人公に転生したのではないの?


いや、そうだ。私がよく読んだ小説では、主人公ではなくて悪役令嬢に転生することの方が圧倒的に多かった。


なんだ、ていうことは、悪役令嬢に転生した感じかな? 


ま、まぁ、悪役令嬢に転生するにも全然悪くないと思う。悪役令嬢のイメージが根付いているだけに、周囲の人たちは私が普通に振舞うだけで優しくなったと勘違いしてくれるわけだしね!


むしろ、初めから貴族の令嬢である設定の方が色々と楽だと思うし!

……いや、まって。


確か、このゲームの悪役令嬢の髪は金髪でウェーブがかっていて、長さも長かったはず。


それなのに、いくら触ってみても髪は肩に付くぐらいの長さしかなくて、その色は平凡な茶色。


茶髪のショートボブなんてキャラクター、このゲームにはいないはず。


 少なくとも、私が知っているキャラクターにはいない。ということは、どういうことか。


 ……もしかして、私って乙女ゲームのモブキャラに転生した?


 一気に血の気が引く中で、忘れかけていた目の前の事態を思い出す。


「グルルルルッ」


「ヒッ」


 唸り声をあげている狼のような魔物は涎をたらしながら、私の方にじりじりと歩み寄ってきていた。


 そんな、光景を前にして私は一つの正解を導き出していた。


 これあれだ。私はモブはモブでも、ゲームの冒頭付近で殺されるモブAだ。


 完全に思い出したわ、なんか冒頭で殺されるモブいたわ。


「バウバウッ!!」


「ッ!」


 それに気づいた私は、悲鳴を出そうとしていた声を押し殺して、そのまま全速力でその場から逃亡した。


「バウバウッ!! ガルルルルッ!!」


 悲鳴を出したら、きっと驚いて私に襲い掛かってくると思って、その場から逃げ出したのだが、当然悲鳴を出さずともその魔物は私を追ってきていた。


 それもそのはず。悲鳴は出さなくても、がっつり背中を見せてマジダッシュだもの。狩猟本能くすぐり過ぎでしょ、私。


 本来なら、視線を合わせないようにして後ずさるのが良いとか聞いたことあるけど、こんな緊急事態にそんな冷静な行動取れる奴なんていないでしょ!


 狩猟本能を丸出しにした四足歩行の魔物を相手に競争で勝てるはずがなく、私とその魔物の距離はすぐに詰められていった。


あぁぁっ! もう最悪だ!


「なんで転生先がヒロインでもなければ、悪役令嬢でもなくて、ただのモブなのよ!!」


 それもただ魔物に殺されて、悲鳴を上げるためだけのモブなんてひどすぎる!


 そんなふうに絶望する中で、段々とこのゲームのことを思い出してきた私は、この後の展開を思い出していた。


 確か、モブの女の子の悲鳴を聞いてすぐにヒロインが駆けつけてくるのだ。そして、無残なモブを見たヒロインはさらに悲鳴を上げる。


 そして、その悲鳴を聞いて攻略対象である男の子が駆けつけてくるという展開。


「キャアアアアアア!!」


 そうそう、まさにこんな感じの声を上げて――――上げて?


 本来私が出すはずの悲鳴。


 魔物から襲われて逃げている私にそんな声を上げる余裕はなくて、私ではない誰かがその悲鳴を上げていた。


 その悲鳴の方に視線を向けると、そこにいたのは桃色の髪をした女の子の姿だった。


 腰まである桃色の髪に、庇護欲を掻き立てるような瞳。低身長なのに、胸だけはほどほどにあって純情無垢みたいな顔をしている女の子。


 ティア・ブロワ?


 なんで彼女が私より先に悲鳴を上げてるの?


「バウバウッ!!」


「え?」


 そんなティアの悲鳴を聞いて目標を変えた魔物は、急カーブするように目標を私からティアの方へと変えた。


「ちょっ、その子メインヒロインーー」


 そんな私の静止が魔物の耳に届くはずがなく、魔物はそのままティアの腕に噛みついた。


「キャアアア!!」


 魔物はティアの腕に噛みついたまま首をぶんぶんと振りティアを転ばせた。転ばされたときに頭を強く打ったのか、ティアは気を失ってそのまま動かなくなってしまった。


そして、その魔物は動かなくなったティアをじっと見つめていた。


 片手には魔物の歯型と流血。さらに、無理やり転ばされたせいで、おかしな角度に曲がった手足と動かなくなった体。


そんなティアの様子を見て、魔物はティアを仕留めたと思ったのかもしれない。


 その魔物はティアが動かないことを確認した後、すぐに次の標的を私に変えたみたいだった。


 おそらく、食べるのはもう一人の標的を殺してからでいいと思ったのだろう。


 のそのそっと私の方に歩いて近づいてくる口を血だらけにした魔物の姿を前にして、私は腰を抜かしてしまっていた。


 そうなるのも当然だ。だって、目の前でメインヒロインがあっさりと倒されたのだから、モブの私が何かできるはずがない。


 そんな恐怖のせいで、体が動かなくなるのも自然というもの。


 目の前で人が殺されかけているという事態を前にして、恐怖から腰が抜けてしまうのも仕方がないのだ。


 こちらに戦う意思がないことが分かっていても、目の前に迫ってきている魔物が手を抜くなんてことはなく、動けない私を見て魔物は好機だと思って私に跳び込んできた。


 ああ、転生して結局すぐ死ぬことになるのか。


 そんなふうに諦めようと思った瞬間、私に襲い掛かってきていた魔物の体が大きく横に跳ね飛ばされた。


「え?」


 目の前で何かが爆発したような風圧と、少しの熱。それが私の顔を撫でた。


 何が起きたのか分からずに、突然横に跳んだ魔物の方に視線を移すと、その魔物の横腹に大きな火傷の跡が残っていた。


 小さなうめき声を出すだけで動けなくなっている魔物の姿を見て、私はただ目をぱちくりとさせることしかできないでいた。


「大丈夫ですか?」


 そんな声が聞こえてそちらに視線を向けると、そこにいたのは金髪碧眼の男の子だった。さわやかな見た目と現実離れした美貌。そして、少しの所作から品のある人であることがすぐに分かった。


 満月に照らされて、女の子の悲鳴を聞いて颯爽と助けに来る攻略対象。ロドル王国の第二皇子、レイラ―・フェルメン。


 私が魔物に襲われそうになったところに現れた救世主。


 ……あれ? これって、メインヒロインが助けられるイベントだよね?


 私、モブなんだけど。


 そんなことを考えながらも、私はレイラ―から差し出された手をそっと掴んでいた。


 ヒロインの代わりにモブが攻略対象に助けられる。こんな乙女ゲームがあっていいのだろうか?


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