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偽りの忘却 ※あらすじのみ

作者: さわゆう

「希望する方に丸を付けていただきますようお願いいたします。」


 管理官に渡された電子パネルには、その一文が記されていた。そして選択肢は「銃」と「刀」の2つ。他に選択肢はなかった。以前は「矢」とか「槍」という選択肢もあったそうだが、時代の流れとともに消えていったらしい(「刀」が残っているのはよく分からないが)。



 だが、雪平真澄ゆきひらますみにとって、この選択はどうでもよかった。


 いちいちこんなことを聞くな、そっちで勝手に決めろというのが本心だが、そうやって楯突くと心証を悪くする。


 せめてもの抵抗としてできたのは、馬鹿なフリをして両方にかかる大きな丸印をつけた。管理官が「チッ」と舌打ちをしながら戻っていくと、少しは気が晴れたように感じるが、やはり気のせいだった。



(俺は無実なんだ・・・どうして誰もわかってくれない・・・)






 ある朝、雪平が会社で仕事をしているところに突然警察がやってきた。逮捕令状を突き付けられたかと思ったら、あれよあれよという間に上司や同僚が見ている前で連行された。


 今考えると、あの時に逃げ出すか、せめて逃げ出さないまでも、その場にいる人間全員に聞こえるような大声で無実であることを訴えた方がよかったのかもしれない。だが、その時は「何かの誤解で、すぐに戻ってくるだろう」と高を括り、また恥や外聞を気にして、騒ぎ立てることができなかった。



 だが、連行された先で、自分には謂れもないいくつもの罪が着せられていることを知った。大型所ピングモールの爆破計画に始まり、駅や空港の占拠、国会議事堂の襲撃、果ては日本名義で他国へのサイバー攻撃まで、テレビドラマの大犯罪組織の親玉のような扱いを受けることとなった。


 もちろん、最初のうちは否定し続けた。こんなことは身に覚えがない、全く知らないと言い張った。だが。なぜか誰も信じてくれなかった。拘置所にいたので世間でどのような見られ方をしているかは分からなかったが。どうせろくな扱いじゃないだろう。



 そう思ったら、ある時、ふとどうでもよくなった。これまで人並みに必死に積み上げてきた人生が崩れるような気がした。同時に、何もかもどうでもよくなった。自分の命でさえも。




 そんな彼にとって、自らの命を奪われる方法がどちらになるかなど、もはやどうでもいいことだった。



(どうせ死ぬんだ。なら早い方がいい・・・)



 そう思っている雪平のもとに食事が届いた。この頃は食事にも手を付けていない。どうせ食べても食べなくても変わらないんだから、意味がないことだ。



 だが、この日の食事は少し違った。正確に言うと、食事のメニューではなく、その届け方だ。普段は部屋の扉の小窓から差し入れられるだけなのだが、今は小窓どころか扉そのものが開き、管理官がトレイを持って立っている。



「雪平、お前が自らの人生を放棄するのはよく分かった」


 そう言った管理官はニヤリと笑った。


 「機は熟した。部屋を出ろ」


「・・・もうどうでもいい・・・」


 部屋にうずくまったまま、ボソッとつぶやく雪平の腕を管理官がつかみ上げた。


「自分の人生すべてを、命すらも放棄した、今のお前にしか果たせない役目がある」


「え・・・?」


「やってもらうぞ。この国を救うために」

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