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待ちに待った長期休暇である。
リュケイオンに入学するまでは領都を出たことがなかったリエトは、カントリーハウスにいる母や姉から帰って来るのを首を長くして待たれていた。友人たちを連れて行く、しかもカントリーハウスに戻る前に二か所経由して行くとあって、楽しそうでなによりだと手紙にしたためられていた。
「ぜひ、領都のお祭りに合わせていらっしゃい」
とあったから、リエトの家には最後に行くことになった。
「サーカスかあ。俺、見たことないや」
「というかさ、アーテルもサーカスに飛び入り参加しているってなんだよ! ぜったいに見たい!」
「なんだか、すっかり定着しちゃってね。サーカス団も祭りに合わせてやって来てくれるんだよ」
「火の輪くぐりって、アーテルみたいな大きな獣がくぐれるくらい大きいの? 毛に燃え移っちゃわない?」
「アーテルが乗れるくらいの頑丈な玉。すごいな」
少年たちも話を聞いてぜひとも祭りを見たい、というか、アーテルの臨時サーカス団員ぶりを見たいとなった。
「みんな、アーテルの活躍を見たいって」
『おれ、がんばる! がんばって、投げナイフをキャッチする!』
「それ、頭にのっけたリンゴなんかに向かって投げているんじゃないの?」
「投げられたナイフをキャッチしても口は切れないのか?」
投げられたナイフを口で咥え取るということなのだろうが、それは果たして可能なものかと少年たちが興奮する。
『大丈夫! でも、力かげん、むずかしい』
アーテルがしょんと先がとがった耳を倒す。
「前にやって、ナイフを折っちゃったんだよね。アーテルの牙は頑丈だものね」
『おれの歯、つよい!』
もうすでにやったのか、ナイフを噛み砕いたのか、などと話し合う傍ら、リエトは自慢げにするアーテルを撫で褒めている。
さて、少年たちが乗る馬車は二台仕立てられ、二手に分かれることとなった。一台はリエトの家が、もう一台はアルフォンソの家が出した。当然のことながら、リエトはアーテルといっしょに乗りこむ。バルドとシストはいっしょにしない方が良いだろうという暗黙の了解がある。最近ではそれなりに互いに歩み寄っているが、片やカタブツ君、片やいい加減だと言い合うふたりである。長時間、狭い空間に押し込められればただでさえストレスが溜まる。
そこで、リエトの馬車にはアーテルとシスト、ルーベンが乗り、アルフォンソの馬車にはバルドとルキーノが同乗することになった。
「あとでメンバーチェンジする?」
「気にせず、リエトとアーテルも俺の方の馬車に乗っても良いんだぞ」
「街から離れたら、アーテル、馬車と並走する?」
『うん! リエトも走る?』
「さすがに、馬車に追いつけるかなあ。あ、おやつをたっぷり持たされたから、このバスケット、そっちの馬車にどうぞ持って行って」
「うちも用意してくれている。そっちの馬車にもどうぞ」
「「うわーお!」」
馬車に乗る前からわいわいと賑やかだった。たいてい、遠出は出かける前から楽しいものである。
なお、馬車は揺れる。さらに舗装されていない道を走れば尻が痛くなり、飲食などとうていできない。しかし、リエトやアルフォンソの家が用意した長距離用の馬車は懸架装置を用いられた高級品である。荒れた路面を走っても緩衝装置や車軸、車輪の位置決めなどによって乗り心地も操縦性も抜群である。
おやつを食べ、おしゃべりをし、車窓を眺めて楽しく過ごした。頻々と休憩を取って馬車から下りて身体をほぐす。
アーテルは馬たちに挨拶し、慣れてきたのを見計らって外を走った。
「アーテルがいたら魔獣も寄って来ないね」
「うん。だから、護衛はいらないと思うんだけれど」
少年たちが乗る馬車のほかに伯爵家から従者が付き、少年たちの荷物と共に乗る馬車が一台と護衛が二騎ついている。
「道中の入市手続きなんかをやってくれるんだよ」
歳若い者たちだから、宿泊地である都市に入市する際の手続きやなにかあったときの身分証明なども担う。
「至れり尽くせりだなあ」
「アルフォンソの家からも出そうかという話があったんだけれど、街道沿いだから大丈夫だってお父さまが断ったらしいんだ」
言葉に感謝を込めるルーベンに、リエトが双方の父親同士が仲良くなっていると話す。どちらも、貴族にしては商取引きに積極的であることから、気が合うのかもしれない。
「侯爵家ではアーテルも歓迎してくれるそうだな」
「うん」
良かったな、というニュアンスのシストにリエトも唇をほころばせる。
「アーテルも最新の魔装スクリューを搭載している船に乗せてくれるって」
『ふね! 海に浮かぶんだって!』
「そうだぞ。良く知っているな」
『リエトがおしえてくれたの!』
得意げに顎を上げて、そうだよね、とリエトに小首を傾げてみせる。
「アーテルは泳ぎも上手いけど、さすがに、最新の魔装スクリューを搭載している船には負けるかなあ」
『まけないもん! おれの方が速い!』
ふんす、と鼻息を漏らして闘志を燃やす。リエトの一番はつねに自分でありたいアーテルである。だからといって、最速の船と勝ち負けを競う必要もあるまいが。
「おお! すごいな」
珍しく笑い混じりに声を上げるシストもまた、友人たちの家や故郷に招待されて高揚しているのだ。
途中、向こうの馬車のおやつが早々になくなって、こちらのをおすそ分けしたりなどして、道中も存分に楽しんだ。
少年たちは移動途中に寄った街中の散策も楽しんだ。
「やはり、街もそれぞれの特色があるな」
「分かる。所変われば食べ物も変わる」
「同じ肉を使っていても味付けが違うしな」
「売られているものも地方色が出ているよ」
「街道沿いや水路沿いの街とそうでない街の規模の違いははっきりしているね」
「あー、せっかく売れると思ってたんまり船にのっけてきても、みんなが同じものを船で運んで来たら安くでしか売れないってボヤいていたなあ」
少年たちは各々の観点から、商業について読み取っていた。
そうして一行はアルフォンソの実家であるカファロ侯爵領に足を踏み入れた。




