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殺戮の使徒様と結婚しました~偽装夫婦の苦くて甘い新婚生活〜 【コミカライズ】  作者: 守雨


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44/49

44 裁判 

 王城で開かれたフレディ・エドモンズ元侯爵の裁判は、大広間で開かれた。

 いつもは夜会や式典に使われる大広間には椅子が並べられ、各貴族の家の当主とその後継者が詰めかけている。


 彼らは侯爵だったフレディ・エドモンズが囚人服を着させられ、手枷(てかせ)をつけて入って来るのを見て息をのんだ。

 エドモンズ侯爵は狩りの場での襲撃事件の主犯として、既に爵位を剥奪され、牢に入れられていた。


 裁判の冒頭、原告のギルバートがエドモンズ侯爵の誘拐、人身売買について自身が調べたことを資料と共に話をした。


「長年王都で続いている平民の少女の誘拐は、エドモンズ侯爵の指示によるものでした」

 というギルバートの言葉は衝撃的だったが、貴族たちは半信半疑だった。平民の少女という貴族にはあまり関係のない被害者なので、どこか他人事という空気もあった。

 しかし次の言葉で大広間は凍り付いた。


「エドモンズ侯爵一人が計画し実行させたわけではありません。それに手を貸したのが宰相のデクスター・ホワード侯爵です」

「ばかな! なんの証拠があってそのようなでっち上げを言い出した!」


 国王の近くで書類を読んでいた宰相デクスターは立ち上がって声を荒げ、国王に注意された。


「宰相、座りなさい。裁判の場だぞ。ギルバート、証拠はあるのだろうな?」

「はい。証人を呼んであります」


 ぞろぞろと入って来たのは粗野な雰囲気の男たち四人だ。

 彼らは名を名乗り、職業を傭兵と答えた。彼らを説得したのは元傭兵のガスだ。「絶対にお前たちの安全は保証する。こっちには国王陛下がついていなさるんだ」と。

 それを聞いてやっと傭兵たちはギルバートの要請に応じる気になってくれた。

 傭兵たちは全員がこう証言した。


「我々は年に一度か二度、少女を移民としてザハー王国へと運んでました。移民を送り届ける正規の仕事として請け負い、国境も証明書を持っていたので問題なく通ることができました。しかしながら、少女たちは全員、誘拐されたと訴えていました」

「今回、その件に関しては我々に責任を問わないとお約束いただいたので証言に参りました」


 そこで裁判官が彼らに尋ねた。


「その依頼主はこの場にいるかね?」

「はい、二十年の間に何人か代わりましたが、最近の依頼主でしたらあそこに」


 四人全員が指さしたのはエドモンズ元侯爵家の護衛、ジュスタンである。

 ジュスタンは無表情のまま下を向いている。

 ジュスタンは下町でテッドにナイフを突きつけて逮捕されたのだが、取り調べでは一切の黙秘を貫いていた。

 国王がそこでエドモンズに穏やかに語りかけた。


「エドモンズ、ずいぶん罪を重ねたね。このままではお前のみならず現在蟄居(ちっきょ)しているお前の妻と息子二人娘二人の五人も斬首の上、その首は広場で骨になるまで晒されることになるな。気の毒に」


 エドモンズは唇を噛んで目を閉じ、王の言葉を聞いた貴族たちは震えあがる。


「少女誘拐は二十年前にさかのぼる。その頃のお前は二十代の若造だよ。お前はそんな若い頃から悪事に手を染めていたのかい?」

「陛下っ!私が誘拐に関わったのは十年前からでございます。全てをお話しいたしますので、どうか家族だけはお許しくださいっ!」

「ふむ。平民の親たちは我が子を誘拐され取り戻すことができなかったが、それについてはどう思うんだ?」


 うなだれて言葉を発しないエドモンズ。

 そこで新たな証言者が入ってきた。

 でっぷりと太った男はオドオドしながら広間に入り、証言台に立った。


「マチューと申します。私はザハー王国で二十年前から職業手配師をしております。私はエンフィールド王国で国外追放になった人間に仕事の斡旋をしております。誓って正規の仕事でございます」


 マチューは「正規の仕事」「やましいことはしていない」を繰り返して裁判官に注意された。


「マチュー、二十年前から我が国の少女を受け入れていたそうだが、少女が国外追放になった理由は知っていますか?」

「親が大罪を犯したので連座で追放されたと聞いております。正規の書類もありました。誓って、私は、」

「はい、もう結構。それで、その少女たちの受け入れ先は?」

「はい、受け入れ先はいつも同じで、とある貴族のお屋敷でした」

「その貴族の家はつい最近、爵位を取り消されましたね」

「はい、ザハー王国の国王陛下のご指示で」


 それを聞いて宰相デクスターが驚愕の顔になった。

 ブラッドフォード国王は面白そうな顔で宰相を見ている。


「マチューさん、あなたが先程から繰り返している正規の手続き書類は手元にありますか」

「はい、ございます」


 マチューが大切そうにかばんから取り出した書類は裁判長に渡り、それから国王へと渡された。


「デクスター、この正規の書類の最終署名者はデクスター・ホワードとなっているが、どういうことだろうか」

「それは、陛下、それは、」

「念のためにお前の前に署名したはずの役人たちを呼んでいる」


 入って来たのは八人の文官たち。

 男たちは生真面目そうな顔を青白くして、全員が「そんな書類に署名した覚えがない。見たこともない」と証言した。


「デクスター、頭の回るお前でも、こんな細かいことまで調べられるとは思わなかったか。最初は用心していたのだろうが、長年悪事が露見しない故に油断したな。衛兵、デクスターを拘束せよ」


 デクスターはその場で拘束され、その状態で裁判に参加となった。

 このあと、ギルバートはたくさんの証拠を挙げてデクスターとエドモンズの共謀した罪を明らかにした。


 デクスターはザハー王国の侯爵と通じてエンフィールド王国の軍事情報を漏洩していた。

 先の戦争では軍隊の規模、移動場所、作戦の情報を伝え、戦争でザハー王国が勝利を収めるよう動いていた。見返りはもちろんエンフィールド王国がザハー王国の支配下に置かれた時の傀儡(かいらい)政権の国王の座である。少女たちを買い入れていたザハー王国の侯爵は、国王のお気に入り且つ宰相の弟だという。


 エドモンズ侯爵はデクスターが国王になった時には宰相の地位を約束されていた。

 それらの証言はブラッドフォード国王がザハー王国に密偵を送り、集めたものだった。


 宰相デクスターは公文書偽造、軍事機密漏洩罪、誘拐罪、焼き印を押させた暴行傷害罪、奴隷制度禁止法違反、人身売買禁止法違反、そして反逆罪の罪に問われた。


 ちなみに、傭兵たちがこの場に出てきたのはガスの説得で、ザハー王国の国王に対してはブラッドフォード国王が『誘拐された少女を買い入れていた貴族を処罰しないなら、総力を挙げて我が軍隊がその貴族を叩き潰しに行く。その先頭には殺戮の使徒が立つぞ』と軍事力をちらつかせて動かした。


 ザハー国王は再び戦争に負ける可能性を試す勇気は出なかったらしい。


 


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コミック『殺戮の使徒様と結婚しました1・2・3巻』
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