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殺戮の使徒様と結婚しました~偽装夫婦の苦くて甘い新婚生活〜 【コミカライズ】  作者: 守雨


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24 テッドの願い

 翌朝、ギルバートは王城の牢獄に向かった。


「テッド。少女時代のアビゲイルをお前が救ってくれたんだな。深く感謝する。感謝の印として、俺の条件に同意してくれるならお前をここから出してやろう」

「条件?」

「ひとつ、彼女が閉じ込められていた場所を教えてくれ。二つ、彼女にあんなことをした男たちの特徴を覚えているなら教えてほしい。俺からの要求はその二つだけだ。同意してくれたら自由にしてやる。お前の依頼主に見つからないよう、どこか遠くで暮らすための金も出す。母親と二人で安全で平和に生きろ」


 テッドは長期間の強制労働か悪ければ死刑になると思っていた。だからギルバートの申し出はとてもありがたい。


「考える時間が欲しいなら、明日のこの時間まで待つ」

「あんた、本当にアビーの秘密を知ったのか」

「ああ。アビゲイルはおそらく、お前を救うために俺と結婚したんだ。彼女の願いを叶えてやりたい」

「あんた、あれをやった人間を知ってどうするつもりだ」

「妻の仇は俺の仇だ。それ以上はお前は知らなくていい」


 それだけを言って、ギルバートはいなくなった。

 ギルバートの申し出はまたとない好条件だ。

 九年前のあの連中の見た目なら正確に答えられる。

 だが、真実を話せば、自分は死刑になるかもしれない。


 テッドは深いため息をついた。


     ※・・・※・・・※


 あの日、配達の仕事で目的地に向かっている途中、アビーが怪しげな男に道案内をしているのを見かけた。

(不用心だな)と思って仕事そっちのけで後をつけて行くと、途中でアビーは口を押さえられ、横抱きにされて一軒の家に運び込まれた。

 王都では人さらいが時々現れる。間違いなくそれだと思った。


「アビーが運ばれる先まで尾行して、隙を見てアビーを取り返そう。警備隊は……当てにできないな。俺みたいな貧乏人の子供に、警備隊員がどれほど冷たいかは散々思い知らされてる」


 だからテッドは配達中の荷物を利用することにした。

 平民の家に配達するワイン二本に別の家に配達する液体のネコイラズを流し込んだ。元通りに栓をして、アビーが連れ込まれた古い家の玄関ドアを叩いた。

「ワインの配達に来ました」と呼びかけた。


「ワインなんて頼んでない」

「あれ? じゃあ間違えたのかな。『ヤツらに差し入れてくれ』って言われてここの住所を聞かされたんだけど。じゃあ、持ち帰ります」

「待て待て。貰うさ。もしお前の聞き間違いなら、お前が代金を支払えばいい」


 嫌な笑い方をして男はテッドからワインを二本、ひったくるようにして受け取り、テッドの鼻先でドアを閉めた。


 テッドは中で何か騒ぎが起きるだろうと耳を澄ませて待っていたが、しばらく待っても何も聞こえない。そっとドアに近寄ってドアノブを回すと、ドアが開いた。

 男たちは四人全員が死んでいた。

『無味無臭、即効性のネコイラズ』はテッドが想像していたよりもずっと強力だった。


 死体の顔を見ないようにし、何も考えないようにして地下室に下りると、アビーは手足を縛られて転がされ、呻いていた。脂汗をかいていて、髪も服も乱れていた。

 部屋の隅に粗末な暖炉があり、そこに焼き印が置いてあった。テッドも知っている奴隷の印の焼き印だった。

 アビーが何をされたのか、すぐにわかった。


 横たわっているアビーを起こし、縄を解いて二人で階段を上がった。

 もう少しで階段が終わるというところでアビーに「目を閉じろ」と言った、アビーが目を閉じているのを確かめて、手を引いて男たちの死体の間を通り抜けた。

 

 テッドはアビーを家まで送り届けたあと、配達の依頼主には「ひったくりに遭って荷物を取られた」と報告した。

 普段の真面目な働きぶりから、テッドの嘘は信じられ、賃金から品物の代金を分割で延々と支払うだけの罰で済んだ。

 その後は現場には近づかないようにしながら、心がけて噂を聞き集めた。

 四人の男たちは対立する組織に殺されたと思われているようだった。

 

 奴隷の焼き印を押されてから、アビーは最低限の用事以外は外に出なくなった。テッドもアビーには「忘れろ、俺にも何も聞くな」と言っておいた。

 それが十三歳のテッドが考えつく最良の方法だった。


     ※・・・※・・・※


 城の牢屋でテッドは考え続けている。

(アビーがあの男とうまくいっているなら、俺なんかと暮らすより、よっぽどアビーは幸せだ。何より、アビーは自分のことを弟としか見ていない)


 アビーが焼き印のことをあの男に打ち明けたのだ。そのくらいあの男を信じてるということだろう。

 アビーの遅い初恋が実ったのだ。

 幼い頃から育て続けた自分のアビーへの初恋は、花咲くことなく終わったということだ。

 翌日、テッドは牢を訪れたギルバートに落ち着いた声で話しかけた。


「あんたの条件を受け入れる。それを聞いてあんたがもし俺が許せない場合は、せめて俺の母親だけでも助けてほしい。それを約束してくれるなら全てを話す」

「いいだろう。お前が知っていることを全て話してくれ」


 テッドはまずアビーの事件のことを話した。

 アビーが連れ去られるところから話し、自分が男たちに何をしたか。男たちがどうなったか。

 アビーには転がっている死体を見せなかったこと。それ以降、アビーとテッドは互いにその話に触れないようにしてきたこと。


「アビーの事件はこれで全てだ。警備隊で記録を調べてみればわかる。九年前、その場所で四人の男が毒で死んでいるはずだ。俺はあの件に関しては一切後悔していない。小指の先ほどもな」


 ギルバートは驚いたものの、納得していた。


「そうか。それは俺でも後悔しないだろうな。それで、クロスボウの件は?」

「今回の毒矢のことは、酒場でフード付きのローブを着た男から持ちかけられた。少し外国訛りがある男だった。ザハー王国から来る行商人の話し方に似ていたと思う。そいつがどこの誰かは知らない。そいつが雇い主か、雇い主の手下なのかも知らない。あんたにインクのついた矢を放って恥をかかせたら、小金貨一枚をくれると言われたんだ。毒が仕込まれてるなんて知らなかった。誓って本当だ」


 ギルバートは最後まで口を挟まずに聞き、しばらくテッドの顔を見ていたが

「わかった。約束は守る。それと、十五歳のアビゲイルを救ってくれたこと、心から感謝する」

 と言って、テッドに頭を下げた。


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コミック『殺戮の使徒様と結婚しました1・2・3巻』
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