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殺戮の使徒様と結婚しました~偽装夫婦の苦くて甘い新婚生活〜 【コミカライズ】  作者: 守雨


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22 アビー、覚悟を決める

 ギルバートは御者に指示を出し、アビーだけがその場から馬車で屋敷へと帰された。

 夜になり、夕食の時間がとっくに過ぎたころにギルバートが帰って来た。


「おかえりなさいませ、旦那様」

「ああ。アビゲイル、ちょっといいか」

「はい」


 ギルバートは尋問のときのテッドの様子を話してくれた。


「テッドは王城へと連行され、牢に入れられた。テッドの取り調べは陛下のご指示で俺が行うことになった」

「そうですか。旦那様はいきなり暴力をふるったりはなさらないでしょうから、助かります。安心しました」

「俺は『殺戮の使徒』と呼ばれてるんだぞ。いきなりあいつを殴り殺すかもしないが?」

「そんなことはなさらないって、知っていますから」


 穏やかに微笑んでいるアビーを見て、ギルバートは顔をしかめる。


「自分の妻が男とあんな安宿に入っていたんだ。腹立ちまぎれに殴り殺すかもしれないだろう」

「いいえ。私とテッドは断じてそういう関係ではありません。それに旦那様は理不尽なことをなさる方ではありませんから。それより、私とテッドがあそこにいること、なぜわかったのですか?」

「オルトだよ。お前がこっそり家を出るところから心配してずっとつけていたんだ。そしてお前たちが宿に入るのを確認してから俺を呼び出したんだ。そりゃ全速力で駆けつけるさ」


 険しい顔になって、ギルバートがアビーを問い詰める。


「アビゲイル、なぜ一人で会いに行った」

「テッドを助けたかったんです。それだけです。申し訳ございません」


 そう言ってアビーはテッドからの手紙を渡した。ギルバートはそれに素早く目を通し、「はああ」とため息をついた。


「あいつは殺人未遂犯だぞ? なのにあんなノコノコと!」

「テッドは騙されたんです。私はテッドを雇った人を聞き出したら、旦那様に報告するつもりでした」

「テッドはお前に惚れているから、そりゃ危害は加えないだろうが」


 それを聞いてアビーは目を閉じた。あの時のテッドは弟の顔ではなかった。

 幼なじみの可愛い弟がこの世から消えたようで、つらかった。


「今日、あっさり白状したよ。お前を連れて遠くに逃げるつもりだった、とな」

「テッドがそう言ったのですか」

「ああ。そしてこんなことも言っていた。『あんたはアビーの苦しみを知っているのか』と。俺が何のことだと聞き返したら、『ああ、あんたとアビーは本当に形だけの夫婦なんだな』と言って笑ってたよ。そこから先は何を聞いても口を割らなかった」


『アビーの苦しみ』と聞いた瞬間にアビーの顔が強張った。


「アビゲイル。お前の苦しみとは何のことだ。俺には話せないことなのか」

「テッドをお救いくださいますか。それを約束してくださるなら、お話しします」

「俺はお前を妻として扱ってきた。気が利かない夫だったろうが、俺はお前をひとりの人間として尊重してきたつもりだ。その俺には話せないことを、テッドには話せると? それとも、契約上の夫婦だから話す必要がないと思っているのか」


 しん、と静まり返った部屋の中で、音を立てているのは柱時計のカチコチいう音だけ。

 テッドは捕まってしまったのだから、ギルバートの誤解を解かなければこの結婚をした意味がなくなる。

 十五歳の自分を助けてくれたテッドのために、焼き印のことを話すべきだと頭ではわかっている。


(でも、もう少しだけここにいたかった。もう少しだけ旦那様と一緒に暮らしたかった。だけど私の身体に奴隷の焼き印があると知られたら、きっとここにいるわけにはいかなくなるだろう)


 ギルバートと二人でおしゃべりしたこと、二人で一冊の絵のカタログを眺めたこと、二人で歌劇を観に行ったこと、腕を骨折したときに甲斐甲斐しく世話をしてもらったこと。

 どれも自分は経験せずに人生を終えるのだろうと諦めていたことばかりだった。

 ギルバートと仲良く暮らす幸せ。それをこんなに早く手放さなければならないのか、と泣きたくなる。


(でも、テッドのためなら諦めなきゃ。テッドは私を地獄の人生から救ってくれたじゃない)

 アビーは覚悟を決めてギルバートの目を見た。


「私の秘密をお話します。その代わり、テッドの命だけはお助けください。そしてお約束の二年には全く足りませんが、私を離婚してください。秘密をお話したら、ここにはいられませんので」


 アビーは微笑んでお願いをするつもりだった。

 だが、みるみるうちに緑の瞳に涙が盛り上がり、こぼれ落ちる。白い室内着の胸にいくつもの染みができていく。


「ああ、約束しよう。君が抱えている苦しみを俺に話してほしい。俺は君の力になりたい」


 アビーは部屋のドアに鍵をかけ、ギルバートの前に戻った。そしてぽたぽたと涙をこぼしながら室内着の前ボタンを外し始めた。


「おい、何をやっている?」

「旦那様、十五歳のときから私が抱えている苦しみを今からお見せします」


 ギルバートに背中を向け、前ボタンを全部外し、アビーはするりと室内着を床に落とした。

 

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コミック『殺戮の使徒様と結婚しました1・2・3巻』
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