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13  テッドに連なる者 

 観劇した日の夜。

 ギルバートと執事のオルトが書斎で互いに酒を飲みながら会話している。


「付き合ってもらって悪いな」

「いえ。酒のお誘いはいつでも大歓迎です」

「今日のことなんだが」

「劇場で何かございましたか」

「ああ。エルダ夫人に会って、アビゲイルが茶会に誘われたんだ。誘われたとたんに、彼女がずいぶん怯えた顔になった」

「怯えた、ですか。そういえば独身時代の奥様はほとんど家の外に出なかった、と近所の人間が言ってましたね」

「なぜだろうな」

「直接ご本人に聞いてみたらいかがです?」

「うーん。触れてほしくないことかもしれないだろう?」


 オルトは「ほう」という笑いを含んだ顔になった。


「なんだよ、その顔は」

「ギルバート様が、そんな気遣いをなさるようになったのか、と驚きまして」

「保護者みたいなことを言うんじゃない」

「失礼いたしました。確かに少し気になりますね。あちらのご両親にご挨拶がてら話を聞いてきましょうか?」

「そうだな。俺が行くと話しにくいかもしれないから、頼めるか?」

「お任せください。人当たりの良さなら旦那様よりはるかに上ですので」

「まあ、確かにな」


     ※・・・※・・・※


「こんなにたくさんのワインを伯爵様が、ですか?」

「はい。急なご結婚で、ご両親に申し訳なかったとおっしゃって。それと、こちらは奥様に。今、王都ではこの色が流行しているそうです」


 そう言ってオルトは高級なワインを木箱で十二本、流行りの絹の布地をたっぷりと、ヘイズ男爵夫妻に差し出した。


「実は、ご両親に少々おうかがいしたいことがございます。奥様はあまり外出を好まれないご様子ですが、理由をご存じでしょうか」

「ああ、アビーったら、結婚してもそうなのですね。伯爵夫人になったというのに」


 母親がそう言って悲し気な顔になった。父親が説明をする。


「途中まではそんなことはなかったんです。ある日突然、という感じでした」

「それは何かきっかけが?」

「私も妻も、散々本人に尋ねたのですが、本を読むほうがいい、と言うばかりで」

「最後に出かけたとき、帰りが遅くなったのです。主人も私も心配のあまりきつく注意したものですから、それが原因かもしれません」

「帰宅が遅くなった原因は?」

「近所の幼なじみ、あの、伯爵様にクロスボウを放った、あのテッドですが、あの子と空き家探検をして遅くなったそうです」

「それはいつのことです?」

「アビーが十五歳のときです。いい年の娘が空き家探検なんてと、それも叱りましたの」

「テッドという男性とはそれ以降は?」

「ごく普通に仲良しでした。変な意味ではありませんのよ? 本当の姉弟のように仲良しなだけで」

「そこは疑ってはおりませんので。ご安心ください」


 オルトは笑顔で会話をしめくくり、

「では、お邪魔しました」

 と挨拶をして屋敷に戻った。そして、帰りを待っていたギルバートに聞いてきた話を報告した。


「なるほど。アビゲイルが命がけでテッドを守ろうとしたことを、幼なじみを守ろうとしただけだと思っていた。実はそれだけではないのかもな」

「恋愛関係ではないとご両親は言ってましたが」

「恋愛、ではないような気がする。それにしても十五歳の娘が、空き家探検などに夢中になるものだろうか。彼女はそういうタイプには見えないが」

「確かにそうですね」

「最後に出かけたときに、外出をしたくなくなるような何かがあったのか?」


 一度そう考えると、それしかない気がした。

 テッドという男とは、本当に幼なじみというだけの関係なのか。

 だが、結婚の申し込みをした日の様子では、アビーがテッドと恋愛関係にあったとはとても思えない。本人の言うとおり、姉と弟のような関係だったのだろうと思う。


「ならばその日、何があったのか」


 そのテッドの行方は今も不明で、警備隊は必死にテッドを探している。しかし一向にテッドの情報が入って来ない。


「もしかすると既に口封じされてしまったか」

「可能性はありますね」


 八年前に始まった他国との戦争は、武力衝突が主だった。

 だが、戦争後に続いた王位を巡る三年間の内戦は、武力衝突と並行して汚い手段が横行していた。

 毒殺、裏切り、情報操作、誘拐。女性を使った暗殺、事故に見せかけた殺人。


 ギルバートは戦闘で活躍しただけでなく、内戦でも活躍し続けた。

 その働きあっての爵位の授与だ。今回の毒殺未遂は、内戦に関係しているのではないか。ギルバートはアビーの赤く大きな傷を思い出して険しい顔になった。


(アビゲイルを俺への復讐に巻き込んでしまった)

 

「オルト、俺を恨んでいる人間の中で、毒を扱い慣れていた者、またはその関係者を探す。内戦で俺が斬った人間の関係者がテッドを捨て駒に使ったのかもしれない」

「かしこまりました」


 その日からギルバートは、伯爵としての仕事の他に、毒を扱い慣れている人間を探すことにも時間を費やすようになった。



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コミック『殺戮の使徒様と結婚しました1・2・3巻』
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