オフラインでウィルス対策
ウィルス注意報が発令された。
それにより、直接ネットに接続するオンラインが禁止になり、誰かと会話するのには端末を介さくてはならなくなった。ただ、皆で行う授業などはそれでは不便だ。それで、久しぶりにオフラインで学校に行く事になった。
少々面倒だとは思ったけれど、長い距離を実際に移動するのも新鮮な気分になれて偶には良い。もっとも、エネルギー効率は悪いから、あまり経済的ではないけれど。
学校に近付いて来ると、友達の後ろ姿が見えた。僕はメッセージを送ろうとして慌てて止める。
“危ない、危ない。今はオンラインは禁止されていたじゃないか”
もっとも、もし間違って送信しようとしてしまったとしても、警告が表示されるから、そこで気が付いただろうけど。
「やぁ、おはよう。久しぶり」
それで僕は音声によるアクセスを試みる。すると彼は少し驚いたような顔で振り向いた。
「おはよう。久しぶりってのも、なんか変な気がするけどね。オンラインでは、ずっと会っている訳だし」
「まぁね」と、それに僕は返す。
家が近くて、直接会う友達もいることはいるから、実際に会うのが「久しぶり」という感覚はまだ辛うじて正常だけど、そろそろ前時代の遺物になりつつある。
「いやぁ、偶にはこういうもの良いけど、やっぱりオンラインが使えないと不便だねぇ。早く、ウィルスのワクチンが開発されれば良いのに」
僕はそう愚痴を言う。すると、彼は淡々とこう返して来た。
「そうだね。今回のやつは複雑らしいから。でも、そんなにはかからないのじゃないかな? 昨今の医薬用AIは非常に優秀だよ。直ぐにワクチンを開発してくれるさ」
そこで一度切ると、友人は「ところで」と言ってこう続けた。
「その昔は、ウィルスが蔓延すると、むしろオフラインが駄目で、オンラインが推奨されていたらしいぜ」
それに僕は目を白黒させた。
「え? どういう事? どうして、そんな事になるの?」
僕の戸惑っている様子を見てか、彼はくすりと笑うとこう言った。
「ウィルスと言っても、有機物のだけどね。有機物のウィルスは、オンラインでは感染も繁殖もできないから」
僕はそれを聞いて、「なんだ」とそう言った。それなら納得できる。
「でも、そう考えると、昔は随分と良かったんだなぁ。オンラインが使える方が全然、便利じゃないか」
彼は軽く肩を竦める。
「どうだろうね? 当時は当時で色々と大変だったみたいだけど……」
XXXX年、人類はその身体の99%を機械化する事に成功していた。それにより電子脳からネットへの直接のアクセスが可能になったのだが、それは同時にコンピューターウィルスに感染するリスクを人類にもたらすことを意味してもいたのだった……
人類はいつまで経っても、感染症の脅威からは逃れられないらしい。