AM11:23〜AM:12:46
「あーあ、やられちまったよ。しゃーないか。完全なる遺物を前にしてコピーじゃなあ」
ここはハル達がいる公園から遠く離れた田舎にある、大型ショッピングセンターのフードコート。休日故に、子供連れの家族で溢れ、フードコートは満員状態だ。平和なワンシーンの中で男は平和からかけ離れた動画を見ながらぼやいた。
ボサボサでまるで整えられていない茶髪に対して、身につけているのは、シミもシワもない綺麗な白色のワイシャツに、ブランドもののネクタイ、新品同様に整えられた紺色のスーツとズボンだ。ほとんどが私服の客で、スーツを着ている彼は、フードコートの中で一際目立っていた。
彼は、スマートフォンを横に持ち、イヤホンを差し込んでミチルのようなモノが『粉砕王』で頭を潰されたシーン見ながら、800円で買ったうどんを啜った。
「んめえんめえ。それにしても本当にめちゃくちゃなやつだよ。投げ飛ばして立ち上がる瞬間とバットが落ちてくるタイミングを完璧に合わせやがった。やだねぇ、優秀な敵っつーのは」
歯応えのある麺と、鰹出汁ベースの濃い汁を絡めてちゅるりちゅるりとゆっくり丁寧に味わいながら、彼はため息をついた。周囲の家族客はそんな彼とは対照的に、楽しそうに家族団欒を楽しんでいた。
ファストフード店のポテトとハンバーガーを美味しそうに食べる彼らを横目に、寂しくたった1人でうどんを啜る彼の背中は、哀愁が漂っていた。
「遺物そっくりだな本当に。ハルに加えてこいつも殺せってなあ。ボスは本当に何をしたいんだか」
動画に映っているミチルを指で弾きながら、最後の麺を啜り、汁を飲み干した。そして彼はスーツに汁がついていないかを確認して、お冷を飲み、ポケットからハンカチを出して口元を丁寧に拭いた。
彼はスーツを汚すことを異常なほど嫌っている。そのため、手入れには人一倍気を使っているので、10年以上同じものを着続けていても、生地に新品同様のハリがり、襟がしっかり立っていて崩れていない。
「ふーぅ。ハルに加えて正体不明のこの女。前途多難だねえ……」
「おい」
ぼやきながら腕を頭の後ろで組み、天井を仰いでいると、彼は声をかけられ、背中をそらして相手を確認した。
ストリート系の長袖トレーナーを着て、カンガルーポケットに手を突っ込み、少し大きめの長ズボンを履いている。フードを深く被った女だ。胸部に書かれた『Don’t look me』の文言が、胸の膨らみで歪んでいる。
「なんだお前か。暑苦しい服装だな。店内ではフードを外せ」
「お前に、言われたくない。でも、フードは外す」
彼女は不満を漏らしながらも、素直に従ってフードを外して顔を見せた。
なんとハルと同じ顔だった。肌は褐色に焼けていて、背はハルより大きいし胸も豊かで、声色もどこか大人びている。その上髪は白いどころか烏の濡れ羽のように黒く美しい。だが、目も鼻も口もパーツはハルと同じだ。ただ、ハルのように不敵な笑みは浮かべていないし目に感情がこもっていない。
「本当にハルと同じ顔だな。白黒反転のハルって感じ」
「アキ、興味ない。でも、不愉快だ」
「へへっ、そうなのね。設置は終わったか?」
「終わった。アキ、誰にも見つからなかった」
彼女ーーアキは無表情ながらも少し誇らしそうに胸を張った。そして、ほら褒めろと言わんばかりに男を見つめた。彼はその幼児のような姿を見て、立ち上がり、微笑みながらポンポンと頭を優しく叩き、フードコートを出た。
褒められたと気づいていない彼女は、一瞬落胆の表情を見せたが、すぐに無表情に戻り彼の隣へと走っていった。
通路は客でごった返しているが、男達は誰にもぶつからずスイスイと歩いている。
「なぜ、皿を戻さない?周りはみんな、そうしてる」
「なんだ、悪党にルールを守れってか?」
「ルールを破るのは、目立つ。目立つのは、良くない。お前が、言った」
「あの程度で目立たねえよ。ま、どうせここはそのうちボン!だ」
その時、アキに子供がぶつかった。よそ見をしながら走っていたので減速できずに派手にぶつかり、尻餅をついた。アキには大した痛みでもないが、子供にはその痛みは耐え難く、大きな声で泣き始めた。
「痛いよお!痛いー!おかーさーん!どこー!」
「アキ、お前泣いてると、イライラする。泣き止め」
アキは見下ろしながら命令した。そうすれば泣き止むと思ったが、泣き止まずに子供は凄まれたと思い、恐怖でさらに大きな声で泣き始めた。ざわざわと周りがアキに注目する。どうやら迷子のようで、男があたりを見渡しても親が来る気配はない。
アキは子供が泣き止まなかったので居づらくなり、お前のせいだぞと睨んだ。
「おかあさーん!怖いよー!お姉ちゃん怖いー!」
「あーあ。睨むから……お前が1番目立ってるぞバカ」
「アキ、悪くない。こいつが、悪い。おい、お前のせいで、怒られた。謝れ」
「こらバカ。もっと泣くからやめろ。こーゆー時に子供に罪はないの。ったく……兄ちゃん。これなーんだ」
男は呆れながらアキを止めて、屈んで子供に目線を合わせ、ズボンのポケットからブドウ味の棒付きキャンディーを出して見せた。
「グスッヒグッ、飴……ヒグッ」
「よしよし、正解。俺からこのお姉ちゃんにはきつーく言っとくからな。もう一本つけてやるから。な?これで許してくれねえか?」
「ヒグッ、グスッ、分かった……」
「よぉしよぉし、いい子だ。何味がいい?イチゴ、コーラ、プリン、あと抹茶」
男はもう片方の手で4つの同じメーカーのキャンディーを出して子供に見せた。涙で顔がぐちゃぐちゃになってはいるが、子供の涙は止まった。
「プリン……ヒグッ」
「よし、ほら、もう怖くないな。ほら、お前も謝れ」
「でも、アキ、悪くない」
「うるさい、謝れ」
「ごめん、なさい」
アキは渋々と謝り、頭を下げた。男はそれに満足して頷き子供に飴を渡し、残りをアキに渡すと、子供を肩車して立ち上がった。
男は子供好きで、このような時に備えて飴を常に5本持っている。これは彼が高校生の頃から行っていることで、そのせいで彼は誘拐犯と言う甚だ不名誉なあだ名をつけられていた。実際、彼は今誘拐犯よりも非道な人間に成長しているぐらいなので、当時も不名誉とも思ってもいなかったが。
「俺はフルキ。お兄ちゃん、おじちゃんと一緒にお母さん探そうぜ!」
「うん!」
「よぉし、俺の肩に乗りな!」
子供の涙はもう止まり、笑っている。フルキも楽しそうに笑いながら歩き始めた。アキは不満そうに口を尖らせながら、コーラ味の飴を咥えて、連れ立って歩き始めた。
近くにいたのか、母親はすぐに見つかった。フルキが肩車をしていたおかげで目に入りやすく、見つけるや否や、慌てながら駆け寄ってきた。相当焦っていたらしく、汗で化粧が少し崩れているし、髪も乱れている。
「シュウヤ!」
「あっ、お母さん!」
子供を肩から下ろすと、すぐに母親の元へと走っていった。母親は子供を抱きしめ、フルキはそれを微笑みながら見ている。
アキは不思議でならなかった。今からここは爆発してあの親子も漏れなく死ぬと言うのになぜこんな意味のないことをして嬉しそうにしているのか、心底不思議でならなかったし、理解ができなかった。助ける意味などない。バラバラになろうが一緒にいようが、死ぬのには変わりがない。
「すいません、本当にありがとうございます!この子が迷惑かけませんでしたか?」
「いえいえ、姪がその子を怖がらせちゃったみたいで。この子人見知りでね。怖がらせて泣いちゃったのでお詫びみたいなもんですよ」
フルキはアキを姪として紹介した。アキはつんとしながらめ親子を見ていたが、フルキに促されておずおずと頭を下げた。
「本当、ありがとうございます。えっと、お名前は?」
「俺はフルキって言います」
「フルキさん、本当に、本当にありがとうございました!ほら、あんたも」
「おじちゃーん!お姉ちゃーん!ありがとう!」
子供は今度こそ離れまいと、母親と手をしっかりと繋ぎ、フルキ達から離れていった。
フルキは嬉しそうな笑顔を浮かべたまま手を振り返して、親子が人混みに紛れて見えなくなると、トイレへと向かった。
「なんで、あいつら、助けた?爆発して、死ぬのに。意味ない」
「なんだよお前、故郷の星が爆発したやつみたいなこと言いやがって。いいんだよ。最後ぐらい親子の温もりを楽しんでもらいたしな」
フルキはさっきの優しそうな顔のまま言った。
「あと何分で爆発する?」
「あと、9分と58秒。そろそろ、急ぐ」
「あいあい」
フルキ達は若干歩く速度を上げてアキと共に多目的トイレに入り、スーツのポケットからコンパスのような遺物を取り出した。
「おい、フードかぶっとけ」
「わかった」
遺物の針がぐるぐると高速で回転し始め、白い光が2人を包み、トイレから2人は消え去った。
そして数分後、大爆発が起こった。ショッピングセンターの基礎の部分に仕掛けられた爆弾合計50個が同時に爆発して、基礎を失った建物はガラガラと崩れ、中にいた人間は圧死、焼死、失血死、さまざまな死因があれど、全員死んだ。それはフルキが助けた子供も例に漏れず死んだが、しっかりと母親と手を繋いだままであった。最後まで親と離れずに、皮肉にも爆発の原因であるフルキに助けてと祈りながら、もらった飴を握りしめていた。
時は少し遡り、ミチルのようなモノとの戦闘を終えた頃。ハルは先程の戦闘で興奮冷めやらぬと言った様子で、口元は少し吊り上がり、やけに嬉しそうな顔をしている。同族を見つけ、そしてこれから始まるそして『粉砕王』を握りしめたまま大の字に寝転び、軽く提案した。
「うち来る?」
それは魅力的ではないが、ミチルが生きるために選ばざるを得ない選択肢であった。裏東京という魔境に戻りたくはないが、ミチルには『裏東京に行く』以外の選択肢などなかった。
もう一度自分のコピーに襲われたら1人で生きていられないことは十分に理解しているし、それを撃退できるのはハルだけだということも分かっている。
「よ、よろしくお願いします」
「だいじょーぶ大丈夫。なぁに、またあいつがきたら守ってやんよ。ま、よろしくな。ミチル」
ハルは満足そうに笑って立ち上がった。部下を持ったことは一度も無く、初めての経験に、ハルの胸の奥は少しむず痒くなってた。
ハルは誰かと組んで仕事をする時はあったが、ずっと組む仲間を持ったことはなかった。基本は1人で、それ以外は依頼主、もしくは指定された人物と組むだけであった。それ故に仲間という漫画でしか見たことのない存在に憧れていた。
ハルは立ち上がると、バットケースを拾い、ハルはそこからナイフとチャイナドレスを取り出し、ナイフで髪を切り取って風に散らし、髪の毛が再生している間に血濡れた買ったばかりの古着を捨ててまたチャイナドレスに着替えた。
鉄扇が似合うのだろうなと、ミチルは戦う姿を思い浮かべた。
「よぉし、あのビル戻るぞ」
「え?あそこ立ち入り禁止で無理じゃないですか?」
「まあ連絡すりゃあ大丈夫でしょ」
ハルはそう言ってバットケースからスマホを取り出した刹那、ヒョオッという空を切る鋭い音と共に黒い何かが飛んできてスマホが壊された。
破片が宙を舞い、キラキラと光を反射する。スマートフォンはあっさりと粉々に壊れ、風に散った。
「おっと連絡はよしてくれ。数の有利が無くなっちまう」
ハルが振り返ると、そこにはスーツを着た男とフードを深くかぶった女がいた。女は禍々しい模様が彫られた、石突から穂先まで黒い槍を片手で持ち、ハルに向けていた。
「私めはフルキ、そしてこの少女はアキでございます。以後お見知り置きを!」
「自己紹介ご苦労さん。私、今は血が一滴でもつくとやばいからな。これで終わらせてやんよ」
「は?おいおいバカバカ!街中でぶっ放す気か!?」
「大丈夫、ついさっきサイレンサーゲットしたから」
焦るフルキを見てハルは悪意に満ちた笑顔を浮かべた。
「ばーん」
そして拳銃の引き金が引かれた。
どーも門田です。週一更新目標にやってました、できませんでした。スランプに陥ってました。なんとか復帰しました。
新キャラのアキちゃんとフルキさんです。彼らもさらに話を彩ってくれることでしょう。ではでは、また次回お会いしましょう。
Twitter始めてました。→@yoyogi_kadota




