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ハルはバケモノ。  作者: 門田代々木
4/15

AM8:53~AM9:34

 ハルは5階に着くと『粉砕王』でドアを破壊して大胆に侵入する手段をとった。

 中にいる男たちは何事かとハルの方を向いた。


「ひぃ、ふぅ、みぃ……12人?」


 右手に鈍色のバット。そして隠す気など微塵も感じられない殺気。これだけで敵だとはわかるが、その気の抜けたような声は少女のものだし、ひょっとこのお面をつけている。

 見たこともないタイプの敵に、男たちは戸惑って、一瞬の隙を生み出してしまった。時間にして5秒もないだろう。その隙は、ハルにとっては大きすぎる隙だった。

 ハルは立ち幅跳びの要領で、1番近い男に向かってジャンプした。そして『粉砕王』を全力で振り下ろした。

 唐突に襲われたため避けることもできず、グチャと、グロテスクな音を立てて石榴のように男の顔は弾けた。一瞬のうちに鈍色のそれは赤黒く染まった。

 血を服で拭き、男たちを見回しながらハルは笑った。


「ハハハ、いいねえ。この感じ」


 ハルはそう言って1人の腹に『粉砕王』をフルスイングで叩き込んだ。

 強烈な一撃で内臓が破裂して、血を吐きながら倒れ込んだ。声にならない叫びを上げながら地面をのたうちまわる仲間に気を取られた男がまた1人頭を叩き潰された。

 バット一振りで1人。二振りで2人。ハルは楽しげに笑いながらどんどん殺していった。

 男たちは銃を売買して稼いでいたのだが、人を撃つ、銃を使って人を殺すということがまるでなかった。いわゆる横流しで儲けていて、海外から安く仕入れた銃を売るだけで撃つなんてことはなかった。人を撃つ度胸も経験もない彼らは、急な襲撃に対応できず、何人もハルに殺されていった。


「クソッタレがぁ!」


 残すところあと3人となった時に、1人がようやく銃を取り出してハルに向かって撃った。ろくに狙いもしなかったが、偶然その銃弾はハルの心臓を破壊し、そのままハルの体を貫いた。


「いっだああああああああ!」


 ハルは胸を押さえて痛がった。心臓を撃ち抜かれる痛みは今まで味わったことのない痛みだった。肺に骨が突き刺さったり、肝臓が破裂したりすることはあったが、心臓を撃ち抜かれるのは初めてだった。撃ち抜かれた心臓は破裂して、血液は全て胸の穴から漏れ出るだけとなった。全身に寒気が走り、息を吸っても息苦しさが加速していく。

 残った男たち3人は確実に殺すために銃を構えた。その構えもお粗末なもので撃とうものなら自分の肩が粉々に壊れてしまいそうなのに、全員が勝ち誇った顔をしている。

 ハルは痛みに耐えて、胸を押さえて血の流れを止めながら立ち上がり、男達を見据えた。


「ぐっちゃぐちゃに……してやんよ」


 ハルは血を吐き出してふらつきながらも、しっかりと立ってそう言った。そして片手で予告ホームランのように『粉砕王』を敵に向けた。


「はっ、死にかけが何ができんだよ」


 男たちは余裕の表情を浮かべながら引き金に指をかけた。次の瞬間、銃弾が3発撃ち出された。


 一方その頃屋上でミチルは、キュウとどう接するべきか思案していた。


「さっきの音なんなんですかね……?」

「銃声だよ」


 勇気を出して話しかけてもそれだけの素っ気ない返しをして、キュウはただ気怠げな目で遠くを見ながらタバコを吸っているだけだ。

 確実に共通の話題になるのがハルだけなのだが、ハルのことを深く知っているわけではないし、キュウがハルのことを嫌っていたら雰囲気が悪くなり自分が辛い。かと言ってハル以外の話題も思いつかない。さらにいえば無言が辛くてミチルはストレスで胃が穴だらけになりそうだから喋らせて欲しい。

 常に聞き手、常に読者、常にオブザーバー。受動態な生き方を通して、ミチルのコミュニケーション能力は無になっていた。喋りかけられたら返せるが、喋りかけることができない。失言をしたら相手に軽蔑される気がしてならないのだ。

 ミチルがその恐怖に負けて、無言に耐えていると、キュウが唐突に喋りかけた。


「お嬢ちゃん、ハルが化け物なのは知ってるよな?」

「あ、えっ、はい。生きた遺物?なんでしたっけ。遺物ってなんなのかよくわかりませんけど」

「ん、ああ。あいつ説明しなかったのか。遺物っていうのは絶対に壊れない上になにかとんでもねえ物理法則完全無視な能力を持ってる道具だ。裏社会じゃ持ってるとかいう奴がいても、だいたい所持者が暗殺されて持ち主を転々としてるな。ハルが持ってるのはなんでも壊す遺物だっけな。ま、そんなもん持ってるのにあいつは他のも集めてるらしい。理由は知らん」


 それを聞いてミチルは慌てた。


「えっ?それハルさんが壁とかに当てちゃったらビル崩れて私達死んじゃいますよ!」

「あー、いや大丈夫だ。遺物の都合の良いところがその能力を使おうと思って使わないと何の意味もないってところだ。だから壁に当たってもなーんもねえよ」


 キュウはタバコを踏みつけて消火し、また新しいものをとりだして吸い始めた。


「その中でもあいつは異端だ。そもそも生きて話す遺物なんて見たことがねえのによ、それが、不老不死、再生、超人的な力を持ってるときた。これだけでも十分厄介なのにあいつはそれだけじゃない」


 キュウはそこでタバコを軽く振って、灰を落とした。落ちた灰は地面に止まらずにすぐに風で散らされた。


「あいつは」

「何?私の悪口言ってる感じ?」


 ハルの嬉しそうな声がキュウの言葉を遮った。

 ひょっとこのお面を外して、『粉砕王』を肩に担いだ手ハルがいつの間にかそこにいた。

 着ている服は穴が開いていて血で染まっている上に埃が付いてただのボロ切れにしか見えない。美しかった白い髪は返り血で赤黒くなって、辛うじて白い部分が残っている程度だ。


「早かったな」

「初めて心臓が撃ち抜かれる痛みを知れたぜ」

「そのまま死んじまえばよかったのに」

「ダハハ!言ってくれるねえ」


 ハルはキュウの悪態も気にせずに笑っている。キュウはそれを見てため息をつきながらヘリコプターの中から白色のチャイナドレスを取り出してハルに投げ渡した。藍で縁取りされ、襟元に小さな牡丹の刺繍がされている。


「うぇ、なんだよ、これ着ろって?お前の性癖?」

「ちげえよボケ。ヘリをマツリに借りたんだよ。そんときに絶対それ着て帰ってこいってよ。あぁ、あと服が血で染まってたら愛で倒すってよ」

「げえっ、あいつからかよ……」


 ハルは露骨に顔をしかめた。しかし渋々と血濡れてボロボロになった式服を脱いでチャイナドレスに着替えた。ハルは着替えた後に髪を縛ったゴムを外して、バットケースからナイフを取り出した。そして、それを使って血で染まった髪の毛を根元からバッサリと切り落とした。


「ゑ!?」


 ミチルが洗えばいいのにそんなことするなんてもったいない、などと思っていると、髪はみるみるうちに元の長さまで戻っていった。再生をしているのに、逆再生を見せられているようでとても気持ち悪い。

 刺し傷が塞がる瞬間を見てないから何も思わなかったのだが、目にしてみるとこれはおかしい。自然の摂理に反している。こんなことができるのに、人間の形をしないで欲しいとミチルは心から思った。

 しかしそんなことを思っていても、表情に出さないように頬の筋肉を意識して動かして愛想笑いを作り出した。


「は、はは……何でもありなんですね……」

「髪の毛も体の一部ってことでどんどん治っちゃって短めにできねえんだよな。変える気ないからいいけど」


 ハルは切った髪を風に飛ばしてそう言った。そしてまた、ゴムで縛ってローポニーテールにした。

 ふむ、少女のチャイナドレスもまた乙なものだ。とミチルは吟味するようにハルを眺めた。

 胸の小さな膨らみを強調しながらも、繊細で美しい脚を大胆に見せて少女の色香を増幅している。髪と服の色が同じで、なにかの精霊のような神聖で儚い趣がある。


「あ、そういやキュウ。お巡りさんは?」

「来るぜ。ただなぜかシステムのトラブルで相当遅れてくる。何でだろうな」


 キュウはニヤリと笑い、わざとらしく肩をすくめながらそう言った。

 裏東京に隔離されている組織の特権で司法へのある程度の介入ができる。裁判の判決を軽くしたり、今のように警察の到着を遅れさせたりとその内容は様々あるが、その権利は全て犯罪の隠蔽に使われている。


「じゃあヒガノヤマさん連れてくぜ」

「おう、帰るときは連絡しろよ」

「お前は私の母親か」


 ハルは『粉砕王』をゴルフクラブのように構えて、屋上を囲うフェンスを打った。フェンスは大きな音を立てて隣のビルの屋上へと飛んでいき、そこを囲うフェンスを壊した。


「え、ハルさん、まさか……」

「そのまさかだぜ!」


 ハルはミチルを米俵のように持ち上げ、ある程度フェンスから離れ、そこから全力で走り出した。


「ぴぎゃああああああ!」

「ダハハハハハハハハ!」


 泣き叫んでいるミチルとは逆に、ハルはとても楽しそうに笑った。

書き上げました。遅筆すぎて自分に呆れてます。まあ色々と忙しかったの許してください。

ミチルは隠キャの極みみたいな人間なんで喋るときに「えっ」とか「あっ」とかつけるようにしたら自分を見ているようで悲しくなってきました。

最後になりますが感想・ブクマ等々よろしくお願いします。モチベーションに直結するのでお願いしますね。いや本当に。

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