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雨の日に笑うの、透明人間。  作者: 踏切交差点
大学3〜4年
9/51

痛みの無い傷跡

独り言が欠けているのは、会話が噛み合う(つが)いがいるから。

133、134、135……。


幼い私は、階段を登っている。


ママだっこ、とせがんでも、母は無言で先に登っていく。


途中、人の顔に見える樹に見惚れていると、はやく来なさいと叱責された。


階段を登り終えると、藤の花が垂れ幕のように下がっていた。


広場に人は少なく、親子が何人かいるだけだ。


お線香をあげて、カランカランと大きな鈴を鳴らしたあと、母はまた奥へと進む。


石段を登る。お地蔵さんがたくさん並んでいる。こどものように、小さな。


頂上につき、母はお賽銭を石にのせた。


小さな一角まで歩き、バッグを開ける。お菓子、文房具、戦隊モノの人形。


それらを丁寧に置くと、両手をあわせてお祈りをする。


私も隣で、ただ母にならって同じように真似事をした。


しばらくして、顔をあげると、母は涙を流していた。


「……ママ?」


「ごめんね。疲れたでしょ」


「ううん」


「お腹空いたね。下のお店でお団子売ってたから、食べよっか」


そう言うと、私の手を握って一緒に階段を降りた。


さきほど通った広場についたときに、鳴き声が響いた。


「クオーン!クオーン!クオーン!」


得体の知れぬ音に怖がっている私を見て、母は微笑みかけながら、お姫様を扱うように胸の前で抱っこしてくれた。


私は丸くなる。


ぬくもりを感じ、安心する。


冬の外気で冷えた身体があたたまる。


やわらかな匂いがする。


さみしくない。




スカートが母の腕の中でずれ落ちていく。


私はじっと、自分の膝小僧を見つめていた。


空気は乾いている。


木枯らしが吹いた。


お母さんがつまづいた。


よろめいたけれど、体勢を戻す。


誰かが、そばを通り抜けた気がした。


ぷつぷつ、という感触。


私の膝とすねに、切り傷が浮かぶ。


血が滲み出る。


私は不思議そうに、ぼおーっと眺めていた。


違和感に気付いた母は、悲鳴をあげて。


そして、それから。


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