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雨の日に笑うの、透明人間。  作者: 踏切交差点
大学3年
8/51

叶わぬ希望

雨は降り続けている。


想定外の行動に驚きはしたけれど。

私は、冷たく言い放つ。


「あなたが望むような断ち切り方なんて、無効よ。そんなのいつでもやり直しがきくじゃない。それに」


最後の言葉を突きつける。


「虹の足元を目指す人生なんか、やめた方がいいわよ」


私は走り出した。


彼は一瞬唖然としていたが、あわてて追いかけてきた。


待ち合わせをこの場所に指定したのは、人気の少ないここなら、透明になる瞬間を他の生徒に見られる心配がないからだ。

曲がり角を過ぎ、彼の死角に入った一瞬で、鈴守を掴む。

りりん、と音が鳴ると、自分の身体が見えなくなった。

数秒後には、彼は私を見失っていた。


「いない!!やっぱり本物だ!今も近くにいるんだろ!!」


ひと目を気にせず声をあげていた。交友関係を断とうとしただけのことはある。


彼はゾンビのように手を宙に這わせながら、血眼になって私を探している。

私は無視し続ける。


しばらくそうしていたが、やがて、彼は力を失ったように、膝からへなへなと崩れ落ちた。

携帯電話の中には、想い出もいっぱい詰まっていたに違いない。

悪いことをしたな、と思った。

罪悪感もわいてきたけれど。

3m前で泣いている彼を置き去りに、音を立てぬよう慎重に、その場を去った。



そもそも、彼が透明人間の間違った使い方をしようとしたことがいけないのだ。


誰にも見られず、気づかれず、褒められもしないこの能力を、恋などという人間関係の構築に使おうとしたのだから。


存在しない存在が、誰かと関係など築けるものか。


きっと彼はほっとするはずだ。今までの日常を失わずに済んだことに。


何もかもを失い一つのものを手に入れるか、それとも平凡なままで生きるか。


その究極の二択を迫られる苦痛に比べたら、平凡で幸せな日常の一択しかないことの、なんと恵まれたことか。


私こそ、やさしいことをしてしまった。


透明人間がこの世にいることを、彼に示したのだから。


希望が無いことに比べたら。


叶わぬ希望があることの方が、まだ、マシでしょうから。


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