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雨の日に笑うの、透明人間。  作者: 踏切交差点
大学3年
7/51

理不尽はいつも待ったなし

約束の月曜日。

天気予報の通り、1日中雨だった。


5限の授業を終えると、指定した9号館の建物の裏へと向かう。

室外機が置かれている以外に何もない。

まず生徒が訪れることのない場所だ。


雨が降る中、私はさしていた傘を”閉じて”歩いた。


緊張した面持ちで彼が立っていた。

私からどんな条件が出されるか、不安で仕方ないといった様子だ。


「こ、こんばんは。来てくれたんだ」


彼の挨拶に返事もせず、携帯電話を取り出してストップウォッチを起動させた。

早速、条件を告げる。


「小学校時代から大学時代に至るまでに、あなたが築きあげた人間関係に別れを告げなさい。あなたたちと過ごした青春は虚無そのものだったから、もう二度と関わらないでほしいって」


開始、のボタンを押して彼に見せた。

意味がわからないといった様子だ。


「な、なんだよそれ!」


「3秒経過」


「理不尽だ!なんか意味があるのかよ!」


「意味がないから、理不尽なんでしょうね」


「ちょっと待てよ。待ってくれって」


彼は哀願した。私は無視をする。


「あなたが条件を飲むって言ったら、携帯電話をその場で借りて別れのメッセージを発信するから。その場しのぎに頷いて、誤魔化そうだなんて思わないでね。同世代の人間を相手に出し抜くことは難しいわよ」


彼は訳がわからないといった表情だった。


そして、反論をしてきた。双方に利があることをしよう。ウィンウィンの関係にしようなんて言い出している。


ふざけないでほしい。私だけが勝って、あなただけが敗北すればよいのだ。


残り2分。


彼は自ら条件を提示してきた。

能力の実験台になるだの、大学の出席や宿題を全て代わりに引き受けるだの。

なるほど、私からこの程度のことを提案されると思っていたということだ。私はゆっくりと首を横にふる。


残り1分。時間は容赦なく過ぎていく。


彼は交渉をやめて、手で顔を覆った。やっと、二択で考えることに集中したのだろう。

事前準備を怠ったのがいけないのだ。自分に主導権が1%もないことを自覚するべきだった。

ありとあらゆる条件を想定し、条件に応じた結論をあらかじめ下しておくべきだった。


残り10秒。

彼は口を開いた。


「条件を、飲む」


私は別に驚かなかった。まだ私を誤魔化せると信じて、その場限りで返答しているだけの可能性がある。


「スマホ、貸して。ロックを解除してから」


彼は従い、不安そうに携帯を渡した。


「トーク一覧から私が別れを告げる人を選別する。誰かに乗っ取られたとか後で誤魔化せないように、別れを告げる動画メッセージを撮りましょう」


「待ってくれよ!」


「恋を叶えたくないの?ストーカーの風上にも置けないわね」


「他のことなら何でもするから」


「何でも出来ても一つのことはできないのね。お友達を失ってまでは、その子と結ばれたくないのね」


「因果関係がないからだよ。好きな子を助けるのに直接役立つ行為なら何でもする。あるいは、君の役に立つためなら頑張れる。でも、ただ僕が友達を放棄するだけなんて、一体誰が幸せになるんだ」


「やっぱり辞めるってことでいいのね?」


彼はぎゅっと目を閉じた。そして言った。


「……貸して」


彼は携帯を私から取ると、自分で操作をはじめた。


「君が言った条件は、人間関係を断ち切ることだった。0にするということであって、マイナスにすることじゃない。別に傷つけるような言葉を告げて離れる必要もない」


端末情報リセットの画面を見せてきた。


「データを消す。あとは僕が誰かとつるまないように、君がストーカーみたいに僕を観察していれば良い。携帯電話もくれてやる」


私は、反射的にとめようとしてしまった。


しかし、彼はボタンを押した。


「頼む。力を貸してくれ」


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