透明人間様への手紙
透明人間 様
高校の卒業式の日、僕は憎しみに駆られていた。
青春を虚無で終わらせてしまったと。
中学3年生の夏に好きになった女の子との思い出に囚われているうちに、高校三年間が終わってしまった。
自分を変えたくて、大学デビューを頑張った。
失敗続きのストレスで吐くこともあったけど、自分にぴたりと合う場所と出会えた。
2年時にはサークルで代表候補になれたし、後輩の女の子からご飯にも誘われるようにもなった。
自分は、なりたかった自分になれたと思った。
自分が話しかけなくとも、周囲から話しかけてもらえるような人間関係に恵まれ、かつての想い人の記憶は薄れていった。はずだった。
今振り返っても、これだ、と言える真因は突き止められてないんだけど。
バイトでもサークルでも人間関係が悪化して、大学時代に築いた人間関係の大半を失った。
結局僕は誰とも付き合うことがないまま大学3年生になった。
当時激しいストレスでも抱えていたせいか、経緯を明確に思い出せない。
おそらく、当たり前じゃないものを、当たり前だと思うようになって、調子に乗っていたのだろう。
手にした自分の幸せを誇示して、周囲の人を傷つけてしまったんだと思う。いつの間にか、僕は一人ぼっちになっていた。
そして一人の時間に考えてわかったんだ。僕にあの子の代わりはいないんだって。僕には呪いがかけられているんだって。
二十歳までにお互い恋人ができなったら、恋人になる。
そう、あの子と約束をしていたんだ。
僕はその約束を思い出しては、縋り付きながら孤独の日々を過ごしていた。
あの子は日記を書いていると言っていた。
僕は知りたい。
今も彼女がその約束を覚えているのか。当時から今に至るまで、僕はどんな存在だったのか。
直接本人に聞くことなんかできない。拒絶されるのが死ぬほど怖い。失恋ほどつらい出来事なんてあるだろうか。自分の運命の人の運命の人が、自分じゃないと突きつけられるだなんて。
友人としてどこまでも笑顔で接してくれても、恋人としては全く受け入れてくれないなんて耐えられない。いきなり現れて、相手にトラウマを与える可能性だってある。
日記の内容次第で、僕は行動を決めようと思う。告白をするか、しないか。
これは幸運な出来事だ。
あの子と僕の二十歳の誕生日が既に過ぎたことに気づいた頃に、透明人間が僕の前に現れた。
いや、正確には、人間が透明になって僕の前から姿を消した。
うちの大学の生徒かもしれないと思って必死で探していたら、また君と出会えた。
君の力を使えば、日記を見ることなんて造作もないことだろう。
願いを聞いてくれたらお礼は何でもする。と、言いたいところだけど。君は透明人間だ。お金で手に入れられるものはきっと何でも手に入れられる。お金では手に入れられないものを、提供するしかない。
僕は、君の恋を叶える。
男という立場で、君が好きな人と結ばれるように手伝えることはなんだってする。
もしも今特定のパートナーがいるんだったら、別に他の願い事でもかまわない。できることは何でもするから、力を貸してほしい。希望が残る過去が、人生のピークだった。今とは違う人生を送ってみたいんだ。
千笠優より