遠くへ
桜と初めて会った日のこと。
二人で人助けに歩いた日々が楽しかったこと。
名前を呼ばれる度に嬉しかったこと。
自分も思い出し笑いをすることが増えたこと。
誰かが不幸になりそうな物語に手を出さなくなったこと。
一人の女の子に認められたおかげか、不思議とお母さんにやさしく接してあげられるようになったこと。
遠ざかりが起きても、僕は絶対に桜のことがまた好きになるということ。
引かれるかもしれないと思って言わなかったけど、顔も凄くタイプだった。
雨に濡れた桜はとても魅力的だった。
君と出会えたから、中学時代に好きだった女の子と結ばれなくてよかったと思えた。
後悔にまみれた過去に絶望していたけれど。
絶望した過去が、君との仲人だった。
この人生でよかった。
桜と出会って、僕は救われた。
ひらがなが多く混じり、ミミズののたくったような字で書いた文章だ。
思いは込めたけど、直接伝えることはできなかった。
愚かだった。
冷静さを欠いた発言をして、桜を追い詰めなかったら、二人でもっと別の選択肢を探れたかもしれないのに。
幼馴染との関係まで全て崩壊させることを決断したとしても、せめて最後に語り合う時間を取れたのかもしれないのに。
君に幸せになってほしいと、心から伝えることができたのに。
僕の未来が、どうなろうと構わない。
どうか、見返りを求めず、人に手を差し伸べてきた彼女の人生が。
どうか、人との距離に戸惑いながらも、目の前の一人を助けようとし続けた彼女のこれからの未来が。
どうか、間に合いますようにと願いながら、トイレに駆け込んだ。
危ない、漏れるところだった。
ひどい女子大生だ。
飲み会で倒れた僕を介抱した見返りとして、僕に床掃除をやらせるなんて。
近くにあったマジックペンを手に取り、落書きされていた床をきれいに塗りつぶした。凄い注文をするよな彼女も。
そういえば、大学のレポート提出も手伝わされたんじゃなかったっけ。
ええと、これだ。凄い文量を書かされたな。削除っと。酔いながら、こんなの書けたんだっけ?
そもそも、俺今日飲み会なんてあったっけ。どうやってここまで来たんだっけ。
というかあの子って誰だ?
まだ酔ってるのかも。少なくとももう何か頼まれるのはごめんだ。早く家に帰ろう。
孤独に家と学校を往復するだけの、糞みたいな学生生活だ。
中学時代を思い出しては、あの時ああしていればと後悔に襲われてばかり。
花火の日の約束をまだあの子も覚えているだろうか。
今度会いに行って、確かめてみようか。例えば、雨の降る日に彼女の前に姿を現すのなんて、エモい感じがしないか?
彼女の日記を見て僕との想い出でも書かれていたら、迷わず告白しに行くんだけどな。
まあいいや。帰るか。




