無意味な高校3年間
「手紙を読んでほしい」
2限に授業があるので向かっていると、正門で声をかけられた。懲りない男だ。
「どういうこと?私の時間割把握してるの?」
「違うよ。朝から校門の前に立って、君が登校するのをずっと待っていたんだ」
「ストーカーみたい」
「君のストーカーなんかしていない。僕は、僕が好きな女の子を救うために君の力を借りたいだけだ」
「やっぱりストーカーじゃないの。その子の」
「あの子は僕の、運命の人なんだ」
「……めまいがしそう」
「事情は全てこの手紙に書いた。これを読んでくれたら僕の気持ちを理解できると思う」
「前回私に捨て台詞を吐いておきながら、よくものうのうと頼み事をできるわね」
「代償は払う。どうしても君の力が必要なんだ」
「なんで私なのよ」
「君が透明人間だからだ」
嫌になる。
思春期の頃からずっと、人の輪からはみ出していた生活の中で。
稀に誰かが近づいてきたと思ったら、自分を利用しようとする者だけだ。
「あっ、大事なことを一つ書き忘れた」
彼はそう言うと、青色の模様が鮮やかなボールペンを取り出した。
「きれいなボールペンね」
「ああ、これ?親に買ってもらったんだっけな。それより、連絡先を書き忘れた」
彼はそう言って、手紙の端に電話番号を書き足した。
「大事なことを忘れたわね」
「うっかりしてた。それじゃあ、返事を待ってる」
そう言うと、背を向けて歩いていった。
押し付けられた手紙を見る。何かを勘違いしたのか、二人組の女子大生がこちらを見て嬉しそうに騒いでいた。
「私の力が必要、か」
このまま捨てようかとも思ったが、思い直した。読み終わった後に彼に伝えよう。
しっかりと読みました。けれど、ただひたすら、気持ち悪いと思ってしまいました。さようなら。
そう言って、相手の目の前で破るのがいいかもしれない。
自分勝手な恋に溺れる男の人生なんか、台無しになってしまえ。
家に帰りベッドに座ると、私は手紙を開いた。