崩壊の時
優は混乱した。
手探りで宙を探るも、何者にも触れなかった。
耳を澄ますが、強まった雨脚が桜の足音をかき消した。
冷静さを失った優は、正しい判断ができなかった。
最初、桜は公園に戻って、幼馴染を追跡か、復讐でもするのかと思った。
そんな危険を犯さなくとも、一旦僕をふりきって、交番にでもかけつけて対処をしようとしているのだと。
この二択しか選択肢がないと思っていた。
まず、公園へ向かった。
桜がいつも使っている透明傘と、靴が転がっていた。
辺りには誰もいなかった。
桜はどこにいるのだろう。やはり警察か?
捕らえたところで、数年後にはきっと、またあいつが現れるのに。
自分で殺しに行ったのだろうか。
僕が提案したことを、自分で実行するのだろうか。
いや、あの子が人殺しをするというのは想像できない。
透明人間という人類史上最悪の兵器になりうる力を、あんな些細な人助けに使っていた女の子だ。
だとしたら。
副作用。
最悪のアイデアが浮かんだ。
「う、嘘だろ、桜……」
心臓の鼓動が早まる。
全身からドクドクと嫌な汗が流れ出す。
彼女は今夜、どこかに向かったのではない。
ただ透明になったまま、雨に打たれ続けるつもりだ。
透明人間の力を使い続け、幼馴染に至るまでの全ての人間関係を崩壊させるつもりなのだ。
直近の人間から崩壊するとしたら、彼女の高校時代の友達の関係が崩壊したあと、中3の冬に出会った僕との関係が崩壊するはずだ。
僕と桜の関係は深い。
僕は桜との思い出を全て失ってしまうだろう。
遠ざかり現象が強く生じ、彼女が今後僕に話しかけても、僕は人一倍彼女の存在に関心を払わなくなる。
桜は僕と、別れるつもりなのだ。
幼馴染の呪縛から逃れるために。
僕をもう巻き込まないようにするために。




