良いニュース
「私達の関係が崩壊しないのは、それなりに構築したのが早かったからかもね。あなたが傘を届けてくれたのが、中3の時だったから」
「このまま使い続けてたら、俺達の関係も崩壊しちゃうのかな」
「多分、今ぎりぎりなんじゃないかな。私はまだ残数に心当たりがあるけど」
「友達のこと残数とかいうなよ」
「もう、能力使えないね。やめましょうか、人助け」
「……そうだな」
「ボランティアに行った方が、より直接誰かの力になれるよ」
「ボランティアなんかするのか?」
「しないと思う。だって、私らしくないもの」
「君らしくないことを言うなよ」
「私らしくないことをいくら言ったって、私は私のままだよ。テセウスの船と一緒」
「鈴守どうするんだ」
「どうしようかしら」
「捨てちゃえばいいじゃん」
「それも考えたんだけどさ。もしも、透明人間になることでしか解決できない事態が訪れたとしたら、その時に後悔するだろうと思ってさ」
「どんなときだよ、それ」
「わかんないよ」
外は雨が降っていた。
優は学食の中を見回す。どの学生も、みんな幸せそうに見えた。
「それで、良いニュースって何」
「聞きたかったのね。これ、実家から送られてきたの」
「みかんだ」
「一緒に食べましょ。ただそれだけよ」
桜はみかんを優にわたした。
「大きいな」
「でしょ。いただきます」
「いただきます……。おお、うっま」
「ねっ。おいしいね」
「こんなに大きなみかんを見たら、人間の悩みなんてちっぽけに感じてしまうね」
「あなたが富士山の日の出を見たら、月が落ちても笑ってられるわ」
桜は笑って言った。涙をこぼしていた。
「ねえ、優。晴れの日もさ、一緒にいてよ」
「うん」
「ご飯も、いっしょに学食で食べてさ」
「うん」
「それと、それと……」
「大丈夫だよ。いなくなったりしないから」
「……生意気だね。口説きにかかってるの?」
「どうしてそうなる」
「いつもみたいにドン引きするようなこといってよ」
「なんだよ、せっかく慰めようとしたのに」
「あなたらしくないんだもん」
「じゃあさ、おっぱい見せてくれない?」
「…………」
「ごめん。今のはないわ。冗談が過ぎた」
「いいよ」
「えっ?」
「私がまた、透明人間になっちゃったらね」
「……もう、使わせないよ」
「冗談だってば」
桜は泣きながら、笑顔でみかんを頬張った。




