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雨の日に笑うの、透明人間。  作者: 踏切交差点
大学2年
33/51

良いニュース

「私達の関係が崩壊しないのは、それなりに構築したのが早かったからかもね。あなたが傘を届けてくれたのが、中3の時だったから」


「このまま使い続けてたら、俺達の関係も崩壊しちゃうのかな」


「多分、今ぎりぎりなんじゃないかな。私はまだ残数に心当たりがあるけど」


「友達のこと残数とかいうなよ」


「もう、能力使えないね。やめましょうか、人助け」


「……そうだな」


「ボランティアに行った方が、より直接誰かの力になれるよ」


「ボランティアなんかするのか?」


「しないと思う。だって、私らしくないもの」


「君らしくないことを言うなよ」


「私らしくないことをいくら言ったって、私は私のままだよ。テセウスの船と一緒」


「鈴守どうするんだ」


「どうしようかしら」


「捨てちゃえばいいじゃん」


「それも考えたんだけどさ。もしも、透明人間になることでしか解決できない事態が訪れたとしたら、その時に後悔するだろうと思ってさ」


「どんなときだよ、それ」


「わかんないよ」


外は雨が降っていた。


優は学食の中を見回す。どの学生も、みんな幸せそうに見えた。


「それで、良いニュースって何」


「聞きたかったのね。これ、実家から送られてきたの」


「みかんだ」


「一緒に食べましょ。ただそれだけよ」


桜はみかんを優にわたした。


「大きいな」


「でしょ。いただきます」


「いただきます……。おお、うっま」


「ねっ。おいしいね」


「こんなに大きなみかんを見たら、人間の悩みなんてちっぽけに感じてしまうね」


「あなたが富士山の日の出を見たら、月が落ちても笑ってられるわ」


桜は笑って言った。涙をこぼしていた。


「ねえ、優。晴れの日もさ、一緒にいてよ」


「うん」


「ご飯も、いっしょに学食で食べてさ」


「うん」


「それと、それと……」


「大丈夫だよ。いなくなったりしないから」


「……生意気だね。口説きにかかってるの?」


「どうしてそうなる」


「いつもみたいにドン引きするようなこといってよ」


「なんだよ、せっかく慰めようとしたのに」


「あなたらしくないんだもん」


「じゃあさ、おっぱい見せてくれない?」


「…………」


「ごめん。今のはないわ。冗談が過ぎた」


「いいよ」


「えっ?」


「私がまた、透明人間になっちゃったらね」


「……もう、使わせないよ」


「冗談だってば」


桜は泣きながら、笑顔でみかんを頬張った。

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