遠ざかり現象
「お隣いいかしら」
「どうぞ」
「今日も学食で一人なのね」
「お互い様だろ」
「そうね。ところで、良いニュースと悪いニュースがあるの」
「悪いニュースだけで頼む」
「マゾヒストみたいなこと言わないでくれる。どんだけ落ち込んでるのよ」
「仕方ないだろ」
「それじゃあ、悪いニュースから話すわね。透明人間の副作用が判明した」
「直近の人間関係から崩壊するんだろ」
「……そうみたいなの。ごめんなさい。副作用なんてないかと思ってた。私の交友関係が高校時代の友達に集中していたから、気づくのが遅れてしまったの」
「それを言うなら俺が気づくべきだった。サークルもバイトも、明らかに大学時代で直近に築いた関係から失われていった。ちょっとした人気者になってたから、やっかみかと勘違いしてた。桜ばっかりに鈴守を使わせていたのもよくなかった」
二人は副作用について整理をした。この日以降も仮説を検証し続けた結果、下記のようなルールを発見した。
・透明になる能力を発動した時間に応じて、直近に築いた人間関係から崩壊する。
「直近」は、初めて関係が構築された期日を基準とする。
一人分の時間を使い切った瞬間に、相手と築いてきた関係が崩壊する。
・関係が崩壊するのは、一方通行である。
崩壊の対象者は鈴守の使用者に対する人間的興味を失う。
しかし、鈴守の使用者が崩壊の対象者への興味を失うことはない。
・関係の深さに応じて能力の使用時間が伸びる。
友達一人を消費するより、親友一人を消費させる方がより長く能力を発動できる。
また、知人以下の間柄では基本崩壊の対象にならない(親密度によりけり)。
・関係の崩壊後に「遠ざかり」現象が生じる。
関係の深度によって、崩壊の度合いが異なる。
関係が浅かった相手の場合、関係を失った直後は無視される程度で済む。しばらく友好的に接していると、再度関係を築くことができる。
しかし、関係が深かった相手の場合、使用者との記憶ごと失われることがある。
・「遠ざかり」が重度である場合、使用者との過去の繋がりの痕跡を無意識的に排除する行動を取られる
例1:トーク履歴や連絡先の削除
例2:思い出の品を捨てられる
例3:プレゼントとしてあげたものを自身が買ったものだと思い直される
友好的に接しても、まるで興味を持たれず、長い間自分の存在を認識してもらうことができない。




