透明人間の副作用
学食に人は、少なくなっていた。
いつの間にか外は晴れていた。
「これが中3から大学4年の今に至るまで、その子を好きでい続けることになった理由だよ。夏休み明けに、彼女が転校したことを知った。あの子と一緒にお祭りに来てた女子も聞かされてなくて驚いてたらしい」
「…………」
「SNSを通して、都内の大学に通っていることがわかった。うちの大学からも近い。君を探すためにずっと正門に張り付いてたことはあるけれど。本人を待ち伏せるなんてことは、トラウマになりかねないからしようとは思えなかった」
「未練が消えないんだね。大切な想い出なんだね」
「ストーカーじゃんって言わないんだ。だって結局、あの子の日記を見たい願望は消えていない訳だし」
「今を頑張ろうとは思えない?」
「過去をやり直すことを今頑張りたいんだよ。どうしても過去を確かめたい」
「もう、傘、探さなくていいよ」
「どういうこと?」
「これだけ待って、もう、返しに来るはずないよ」
「可能性は0じゃないだろ」
「叶う可能性があるから人は追い続ける。じゃあ、叶う可能性がなくなった人はどうすると思う?賢い人は、諦める。馬鹿はね、追い続けるの。追い続けているということは、可能性があるってことだって、間違った論理で自分を励ますためにね」
「もう嫌になったの?内心、気持ち悪いと思ってる?協力したくないならいつもみたいに素直に言ってくれる方がマシだよ」
「嫌になったの反対って、なんて言えばいいと思う?」
「……言ってることわかんねえよ」
「日記、盗み見に行こうよ」
「えっ?」
「ずっと気になってたんでしょ。私が透明人間になって、いとも容易くその子の部屋に侵入してあげる」
「ちょっと待てよ。待ってくれって」
「今更また待ちたいの?」
「なんでその気になったんだ。俺のこと、信頼したから?」
「あなたのことは最初から信頼してるよ」
「見え透いた慰めはいらないよ」
「見え透いてる?透明人間は、透けてるから見えないのよ」
「話をそらすなって」
「じゃあ本題を言うよ。透明人間になるにはね、副作用があるの」
「副作用?」
「使用時間に応じて、直近に築いてきた人間関係から崩壊するの。私とあなたが9号館の裏で会った日。あなたが携帯のデータを消した直後、私は能力を使っていた。そのことで、私はバイト先で一人の後輩から無視されるようになってしまった」
「……嘘だろ」
「大学2年生の夏。能力を極限まで使った私は、親だけを残して他の人間関係を全て失ってしまった。だからもう、大学で私とご飯を食べてくれる人、あなたしかいないのよ」
「それって……」
「次使ったら、あなたとの関係が消えちゃうかもしれないね。ちょうどいいね」
ばいばい、と彼女は言った。




