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雨の日に笑うの、透明人間。  作者: 踏切交差点
大学3〜4年
11/51

傘泥棒の記憶なし

パスタを食べ終わり、時計を見ると、14時近くだった。


2限後の昼休みにはご飯も食べずに図書館で寝ていたので、お腹が空いていた。


授業を抜け出して食べにきてよかった。

授業時間の学食は、学生が少なくていい。


孤独感というのは、本当に一人きりの時には感じない。


漫画喫茶や一人カラオケ店の中で寂しさを感じたりはしない。


楽しそうに笑っている人たちの中で、自分だけが笑えていない時に感じる。


知り合いがグループで楽しそうに居座っている場所の隣で、一人惨めに過ごしているときに感じる。


だから、孤独な人が比較的多く集まるこの時間帯は、孤独を感じずに済むので心地が良かった。



ご飯もゆっくり味わえた。


お腹も膨れ満足したので、学食を出る。


外は、天気予報の通り雨が降っていた。


傘立ての前に立ち、冷や汗が流れる。


「傘が、ない……」


来た時に確かに置いたはずだった。

きっと傘を忘れた誰かに取られたに違いない。


このまま外に出れば私も濡れてしまうが、そんなこと、祖父との思い出の品である傘が取られたことに比べれば問題ではない。


盗んだ人は大学キャンパスに向かったのだろうか。それとも駅に向かったのだろうか。


今走って探せば間に合うかも知れない。


雨の中を走り出す覚悟を決めていると、知っている顔が近づいてきた。目があった。


「あなただったのね」


数ヶ月ぶり。

夏越しの再会だった。


濡れるのも構わず、ずかずかと千笠優(ちがさゆう)に歩み寄った。


彼は固まった表情をした。


「え、なに?」


「あのときの仕返しのつもり?私があなたの願いを無下にしたから?」


「なんの話だよ。何で俺が怒られてるんだよ。俺が怒る立場だろ」


「とぼけないで。私の傘、あなたが取ったんでしょ」


「取ってねーよ。今さしてるのに、なんで人の傘を取るんだよ」


彼は黒い傘をさしていた。


「……ごめん。人違いだった」


「傘を取られたんだな。急に雨降ってきたもんな」


「天気予報で言ってたわよ」


「俺天気予報見ないんだよね。君の傘を取ったやつもさ、俺みたいに折りたたみをバッグに入れっぱなしにしとけばいいのに。とにかく、俺は何もしてないからな」


「ごめんって」


「どんな傘だよ」


「透明の傘。持ち手の柄と生地の縁がピンク色で……」


「あれ、さっきのビニール傘かな?」


「さっきの?」


「というか、前に会った日にもさしてた傘だろ。持ち手の紐に房みたいなのもついてるよな?タッセルっていうんだったか」


「そ、それ!!」


「ああー、さっきぶつかった変な奴がいたんだ。そいつ、自分の傘をさしてる癖に、片手で閉じた傘を持っていたんだよ。置き傘してたのを持ち帰ってるのかなぁって思ったけど」


「どんな人だった?」


「どんな人?」


「性別とか、特徴とか」


「……いや、全然興味なかったから覚えてない」


「えっ、ぶつかったんでしょ?性別くらいはわかるでしょ?」


「うーん……」


「何にも覚えてないの?」


「一人で歩いてたのは確か。向かってるのは駅の方向だった気もする。ついさっきの出来事だから、走れば間に合うかも」


「わかった……ありがとう」


「そんなに大事な傘なの?」


「祖父の形見なの。大切な思い出もいっぱいつまってる。値段も9千円近くする」


「まじか」


「行ってくるね」


「ちょっと待って」


私が走り出そうとすると、彼が傘を差し出した。


「濡れるだろ。使ってよ」


「……ありがとう」


「あとさ、ごめん。俺、今足怪我してて、走れないんだ。階段でくじいちゃって」


「ううん。いいよ」


「悪いな」


「あとさ、あの時はごめん。いくらなんでも、私」


「謝罪は後でいいから。早く追いかけなよ」


「……うん」


自分が激しく傷つけたはずの相手から、思いもよらぬ善意で送り出され、私の気持ちは深く沈んだ。

自分の中に堪えきれない感情が沸いてきてしまう。


つくづく、嫌になる。


群れて騒いでいる連中を邪険に思っていた後に、一人でご飯を食べているような学生に傘を盗まれる。

ただ、自分が濡れたくないからという理由で。


孤独な人は、相合い傘をしてくれる人が、隣にいないから。


「ふざけるんじゃないわよ。私だって、もう雨なんかに濡れたくないのよ」


駅が見えてきた。電車に乗られたら終わりだ。


彼に借りた黒色の傘が、雨から私を守ってくれる。

普段、雨の日は透明な傘をさしているだけに、世界の上半分を黒く覆われるのは不思議な感じがした。


傘が違うと、雨の景色も、いつもと違って見えた。


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