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九龍組  作者: 大蔵 富造
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第四・五話

 それから一ヵ月が経ったある日。緑山国(りょくさんこく)からやっと暴力団を追い出せた。

 緑山国の城に周泰征(しゅうたいせい)が呼ばれ、ソファーのあるあの部屋に通された。そこには国主の渡場(とば)が待っていた。周泰征は普通に太刀を腰から取って座る。国進党の廃刀令にも九龍は法律を無視して、今でも太刀や木刀は所持している。

 渡場は腕を組んでソファーに座っている。周泰征は渡場が話すまで待っている。

「シュウ殿、聞きたい事がある。廃刀令まで出した国進党だ…もしも歴史にあるような東高王(とうこうおう)のような軍隊でも作られたら我々は簡単に捕らえられてしまうのでは?」

「そうなれば、刑務所から脱走してでも戻ってきます。我ら九龍を舐められては困ります。星明王(せいみょうおう)に国進党がいるならば、有権党には九龍九品党が控えています。お守りいたしますのでご心配なく」

 その気迫に渡場も安堵の表情である。

「そ、そうだな。ちょっと気になったもんでな」

「私にも気になることがあります。廃刀令後、他国の国主が消えたそうです。どこにいったかご存知ですか?」

「私はもう有権党だ。国進党の情報は一切入ってこなくなったよ。それも気になるな。だが、今はそれは置いといて、シュウ殿」

 真剣な顔をする渡場に周泰征も真剣な表情になった。


「女はいないのかね?」

「は???」

 肩透かしを食らった周泰征は戸惑った。

「だから! シュウ殿には女はいないのかね?」

「い、いきなり何を言われます」

「ハッハッハッ! その様子ではいないな? 今日、ここに来てもらったのはそれを聞きたかったのだよ」

「そんなくだらないことを聞くため―――」

 渡場は周泰征にグッと近付き、小声で言う。

「実はウチの娘がね、シュウ殿に惚れたらしいのだよ」

 周泰征は固まった。実は周泰征もその娘の事を気にしていた。渡場の娘は緑山国一の美しさで評判である。その名を夕維(ゆい)(二十三歳)と言う。

「あのように可愛くて美しい娘が…なぜ私のような者の元に生まれたのか解らんが、親としてはあの子に合ういい男を捜していた。そして私はついに見つけたのだ! それが、シュウ殿だ!」

 ビシッと指をさした。

「しかし、破王前にうつつを抜かしている場合で―――」

「そう言うと思った! 私にはきっとシュウ殿を説得できない。だが私も娘もシュウ殿を認めている! もう私の息子にしたいぐらいだ! なんとしても結婚させたい! だからある方に来てもらっている! さぁ行こう!」

 興奮気味に周泰征の腕を無理に引っ張り、別の部屋に案内する。

「ちょ、ちょっと、どこに連れて行くつもりですか?」

「ここだ、入りますぞ!」

「お~ぅ、どぉぞ~」

 中から声がして、ふすまを開けるとそこにいたのはシルクハットの後ろ姿。部屋の奥にはドレスを着た夕維が座っている。


 シルクハットが振り向くと周泰征は声を上げる。

「組長! 何故ここに!」

「なぜっておめー。渡場殿から頼まれてな」

 前慶はお茶をすすっている。

「ささ、そこに座って。そう、これでいい!」

 周泰征を夕維の隣に座らせて、二人を見る渡場の顔は満面の笑みである。周泰征は下を向いている。夕維も下を向いたままだ。

「シュウ、夕維君にぁおめぇが九龍組だった事を全部しゃべっちったぁ、てへっ」

 周泰征は顔を上げ、目を丸くして前慶を見た。

「な! 組長、それはどう言うことか―――」

「わぁってるよぉ、だからしゃべっといたんだ。これから結婚するのによぉ、隠し事ぁよくねぇ。それに…おめーが抱えてる義理。ここらで捨ててくれ、なぁ?」

 周泰征はまた下を向いた。


 義理とは九龍組に入る前にとあることから餓死しかけていた周泰征を、前慶が助けた事である。九龍組に入った後は周泰征は恋人を作らなくなった。それは仕事を怠けているとか、調子に乗っているなどと前慶に思われたくなかったからだ。

 今回は前慶も取り持つ形になり、その思いを捨ててもらおうとしている。

「では、若い者だけで話しをしてもらいましょうか、ね?」

「おいおぃ、渡場殿ぉ俺も若いんだぜぇ? シュウと歳は離れ―――」

「まぁまぁそう言わずに…」

 前慶の腕を引っ張り外に出そうとする。

「おぅおぅ、俺にも綺麗な子ぉ紹介してくれよ~」

 その声と共に前慶は部屋から連れ出された。邪魔者がいなくなっても二人は相変わらず無言。しばらくして周泰征が話しはじめる。

「私が九龍組にいた事は驚いたでしょう?」

 うなずく夕維。

「私は組長に助けられてから組長のために働いてきました。そのためには恋愛などしている場合じゃないと考えていました」

「そ、それでは…仕事にも恋愛にも、真剣に取り組むのはいかがでしょうか?」

 緊張した小さな声で言われて、周泰征は考え込んでしまう。

「そ、そんな事ができるのでしょうか?」

「た、試して…みませんか?」

 それから二人は徐々に話し始め、笑い声も聞えるようになった。ふすまに耳をつけて盗み聞きをしていた渡場と前慶も笑顔である。


 夕方、前慶が帰る時間である。前慶の周りには数十人の護衛がいる。出迎えに周泰征と渡場親子もいる。

「シュウ、一つ言っておくぞ。夕維君を悲しませるな。それと仕事は怠るなぁ。…二つだったわ」

 はにかむ前慶に皆、笑った。

「わかりました。恋も仕事もこなしてみせます!」

「おぉい、人が変わったみてぇだな。精進しろよぉ~」

 そういうとシルクハットを取り、渡場に会釈をして帰っていった。護衛が前慶の周りを固めるため、その光景は黒い塊が動いているようだった。

「う~ん、相変わらず面白い男だ。九龍組が強かった理由もわかる」

「渡場殿、私は夕維君を幸せにします」

 夕維は顔を赤らめた。渡場も感涙である。

「おぉ、おぉ、頼むよ! もう義父さんと呼んでくれても構わんぞ」




 周泰征が夕維と付き会い始めた頃、岩海国(がんかいこく)では吹っ切れた小篠(こじょう)がバリバリと仕事をこなしていた。その小篠の部屋で和んでいる徐江(じょこう)

「ねぇ、国主。最近、すごい熱の入れようッスねぇ?」

「僕も破王の一員になりたいんです。松国(しょうこく)には王国からの圧力を跳ね返す天嵬(てんかい)殿が居ます。緑山国には前慶殿の右腕であるシュウ殿がいます。僕にはそんな力がないから頑張らないと!」

「おぉい! 俺じゃ駄目ッスか?」

 小篠はジッと徐江を見る。

「徐江殿…天嵬殿に勝てますか?」

「…無理だ」

 真剣な眼差しで答えた徐江。そして、徐江も小篠もため息をついた。

「つーか、そもそも天嵬殿がヤバすぎるんだよ。組長だって剣術じゃ敵わないって噂ッスよ」

「そうですね、確かに天嵬殿ならあり得ますね。それよりも、五国(ごこく)に行ってみませんか? 国主を説得をしてみたい」

 五国は岩海国の隣国である。

「小篠~、焦るっつーか、逸る気持ちは抑えた方がいいよ~」

「しかし…」

 そこに堂紅奉(どうこうほう)が来る。

「しかしもへったくれもない! 今が一番大事な時だ。ここで五国を味方にできなければ、破王の片道が閉ざされるのだぞ!」

「あっ、お師匠様。しかし…」

 堂紅奉が小篠に政治や武芸を教え始めたため、小篠は堂紅奉を「お師匠様」と呼ぶようになっていた。徐江が二人の間に入る。

「そうだよ、良く考えてみな。まず王国は落ちないっしょ。だから、五国を説得できないと、その向こう側の堂国(どうこく)に入れないじゃん?」

「その通り。国進党も馬鹿ではない。各国国主がなぜか消えた今、五国に行っても無駄足かもしれん。とにかく! 我々はまだ力を溜める時なんだ!」

「そ、そうか…すみません」

 頭を下げる小篠の肩を叩く堂紅奉。

「気にするな、お前はまだ若い。わしも昔はよく無茶をした…」

 遠くを見つめる堂紅奉。

「お師匠様もそのような時期があったんですか!」

 徐江の顔色が変わる。

「おぉ、もちろんだ。あれは確か…」

 堂紅奉は昔話をし始めた。

(はぁ…始まった…。長ぇんだよなぁ、これ。もう、何回も聞いたっての…)

 徐江はそっと部屋を出ていった。堂紅奉の熱心な弟子となった小篠は師匠の言うことには従う。そして、師匠の教えの最後には必ずと行っていいほど、昔話が始まるのだ。最初の頃は聞いていた徐江もすでに飽きていた。

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