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九龍組  作者: 大蔵 富造
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第三・五話

 翌日、早朝。

 城の庭には徐江(じょこう)一派と新豪(しんごう)一派が合わせて百人ほど待機していた。新豪の所に唐嘉(とうか)が来る。

「おい、新豪まで行くのか?」

「そうだよ、組長が来いって言うからさ…」

 ジッと新豪の目を見る唐嘉。つい、目をそらす新豪。

「新豪、隠し事をしているな? なんだ、言ってみろ」

 団扇をビシッと前に出した。

「か、隠し事なんかねぇってばさぁ~。疑うなよ、兄貴~!」

 そこに安然と前慶が来た。

「前慶! これはどういうことだ!」

「な、なんだよぉ、唐嘉ぁ。朝っぱらからぁ。大きな声を出すなってぇ」

「なんで新豪まで連れて行くんだ。徐江だけで十分だろ。大人数で動いていけば、それだけ的になりやすいんだぞ」

「殺されることぁねぇんだから、平気だぁ。それに目立った方がぁ九龍九品党の名前も広まるだろ? おい、新豪ぉ! 先に行けぇ!」

「は~い! 先行きます! あとで町田屋に行きますから!」

 新豪一派はまるで唐嘉から逃げるように、安然を警護しながら城を出て行った。

「おい! 今のは安然殿じゃないか?!」

「え? 俺にぁ見えなかったけどなぁ」

 わざとらしくシラを切る前慶。

「謀ったな~。もうこうなったら止められん。どこに連れていった?」

「家族を迎えに行くんだとさ。俺に行ってくれって頼まれたけどよぉ、九龍組が行くよりいいだろ」

 唐嘉はため息をついた。

「どうせ国進党にも顔を出させるつもりだろ? いいか、安然殿に何かあったら責任を持てよ。彼は本日より有権党の党首であり、九龍九品党との繋がりだ。もしもいなくなったりしてみろ、九品党も終わるぞ」

「あ、あれぇ? 俺ぁちょっと危険なことをした?」

「狙われないことを願うんだな。あとでシュウと天嵬を送っておく」

「天嵬もか?」

「この際、暴力団を一斉壊滅する。何をするからわからないからな。九龍組の調査で暴力団の拠点はだいたい把握している。新豪に余裕があったら一緒に働かせてやってくれ」

「わかった。そっちぁ任せろ。じゃ行ってくるぜぇ。行くぞ、徐江!」

 徐江一派に囲まれて前慶も城を出て行った。



 王国には昼過ぎに着いた安然と新豪一派は国進党本部に向っていた。一方、前慶は王様がいる王宮に向っていた。王宮は城より大きな敷地であり、王様が住むのは三階建ての宮殿である。

 王宮三階、王の間。豪勢な広い部屋に東王国大陸を仕切る王様・星明王(せいみょうおう)(四十一歳)が高い位置にある大きな玉座に座っている。星明王は燕尾服の上にきらびやかな袈裟をかけ、王冠を被っている。これが王様の正装である。

 星明王の左手側には国進党党首である高山が玉座に一番近い位置に立ち、党首を意味する水色のネクタイをしている。国進党幹部の六人は、国主の位である赤いネクタイをし、縦一列に並んで立っている。

 本来であれば国進党幹部が全員参加であったが、有権党に加担する四人はもちろん来ていない。


 高山が前慶を呼び出すと、前慶は玉座から十m程離れた所に立ち、シルクハットを脱いで軽く会釈する。

「中には初めて会う幹部の皆様もいるようなんで、俺が九龍組の前慶ですが、今日ぁお話しがあって来ました」

「ん? なんだ改まって? 前慶らしくないな」

「じゃあオー様、いつもの口調で話しを進めるぜ。幹部のみんなは失礼だとか言わないでくれよな。さてぇまず最初に、いつも九龍組から国進党に献金しているが、これからぁ国進党に金をやらねぇ」

 皆の顔が変わった。

「ほぅ、なんでだ?」

 高山よりも最初に口を開いたのは星明王だった。

「おっ、なんでぇ~、オー様も気になるかぁ?」

「もちろんだ。国進党と九龍組の間には約束と言うものがあったのだろう」

「まぁな。でも元ぁと言や、先代が決めたもんだ。実ぁそんなの関係なしに金を提供してきたんだ。でもよ、もっと他のもんに金をやらなくちゃいけなくなってなぁ」

「何か不満があるのか? 土地を買うのか?」

 前慶は横に首を振った。

「一体、何があった?」

 高山が詰め寄った。

「あんたらの態度が気にくわねぇ。外国が攻めてきてんだろ? ついでに上西国(じょうさいこく)も来てんだろ? なんで戦わねぇ?」

 一瞬にして緊張が走る。

「そ、それはだな…国民のために――」

「高山殿ぉ、確かに国進党も国民だぁ。だが国進党ぁ国進党のためだけに動いてる。俺にぁそう見える。でな、これぇ置いてくから読んどけ。じゃあな」

 懐から出した手紙を床に置き、シルクハットを被りなおして部屋を出て行った。


「フフフ、まったく…前慶らしいな。その手紙を呼んでみよ」

 星明王の指示で、手紙に近い雄河(おがわ)(三十九歳)がその場で読み上げる。

「我々は国進党を離れ、この国に生まれた民のために……有権党を立ち上げる。追伸、九龍組は九龍九品党と名を変え、……新たな政党として有権党に付く。有権党党首、松山義仁(まつやまよしひと)。九龍九品党党首、前慶…」

「なんと! 松山が国進党を離れるか! どうするのだ、党首よ?」

 星明王の問いに、高山は雄河が持ってきた手紙を破り捨てた。

「私が思うに、有権党に参加しているのは松山と九龍どもだけではなさそうですな。ここにいない三ヶ国の国主も参加していると思われます。壁側の三ヵ国と松国の裏切りです。だが国進党は微動だにしません。ご心配なく」

 不敵な笑みを浮かべた。

「うむ、そうだな。だが、ただちに有権党とやらを調べよ。壁側であれば壁国で西の使者を止められてしまうかもしれん。そうなると保身案も進めることが出来んぞ」

「はっ!」

 王の間から国主達は出て行く。最後に党首の高山が出て行った。その顔には怒気が込められている。



 日が沈む頃。松国の町田屋、二階の一室。部屋には安然がすでにいて前慶、徐江が入ってきた。

 町田屋を貸しきっているので一階には二十人程の組員が控え、町田屋周辺の警備を七十人程で行っている。

「星明王の反応はどうだった?」

 安然は一番気にしている事を真っ先に聞いた。

「それがさ、最後まで見てねぇんだ。手紙置いてカッコよくキメて出てきちまったから」

「え! 組長、何やってんスか~!」

 呆れた徐江はつい突っ込んだ。安然も呆れている。

「まぁ、いいじゃねぇか。金をやらねぇって言ったらアタフタしてたしよぉ。そんなことより、そっちぁどうだったぁ?」

「あぁ、会議の日だからな。国進党本部に誰もいなくて助かったよ。私物を持ってきたし、家族も保護できた」

「そうかぁ。家族ぁもう壁国に連れてったんかぁ?」

「いや、隣の部屋にいる」

「え? さっさと連れてっちまった方がよかったんじゃねぇか?」

「私もそう思ったんだが、今は一緒に行動した方が安全だ。そうそう、それからこの紙を私の城で配ったんだ」

 安然が見せた紙には〝外国の侵略に国進党は対抗しない。そのため、我らは有権党を立ちあげ、国民を守ることにした。東王国大陸のために働く者は残り、国進党のために働く者は出ていくべし〟と書いてあった。

「へぇ~、こいつぁいいやぁ。で、どうだった?」

「国進党の直属以外残って私に付いてきてくれたよ。嬉しい限りだ」

「国進党の直属ってのがいるんスか?」

「いるよ、国進党に就職した者と、松国に就職した者の違いだよ。例えば、徐江殿はどっちかわからないが、九龍組に就職した者と、暴力団から就職した者とちょっとは違うだろ?」

「なるほど~!」

 徐江が感心していたその時、新豪が部屋に入ってきた。


「おぅ、新豪。おめぇどこ行ってやがったぁ?」

 前慶に睨まれ後ずさりする新豪。

「まぁまぁ。新豪が便所に行っている間に、前慶が来ただけだよ」

「おめぇ、護衛する奴置いてぇ便所だとぉ? なってねぁな~」

 新豪を睨んだ。新豪は深々と頭を下げた。

「はい、すいません!」

「…ハッハッハッ! 冗談だぁ。町田屋全体に部下がいるし、おめぇがいなくても平気だぁ」

「でも、ちゃんと仕事をしないと駄目ッスよ」

「そうだよ。私の話し相手という仕事をしておくれ」

「ちょっと、安然殿まで勘弁してくださいよ~!」

 新豪以外は皆、笑った。

「そうだ、組長、今日はどうします? 唐嘉殿から連絡で天嵬殿と周泰征殿が緑山国(りょくさんこく)に向ったらしいッスよ」

「なんだよぉ、先に行っちまったのか。新豪、おめぇも行って来い!」

「え? 緑山国ですか?」

「で、天嵬の指示を聞くようにな」

「天嵬殿ですね、わかりました! 今からなら間に合うから、行ってきます!」

 新豪は礼をすると急いで部屋を出て行った。まだ急いで行けば真夜中になる前に緑山国には到着できる。この行動力が新豪のいいところである。


「ちょ、ちょっと組長! 新豪殿を行かせたらここはどうやって守るんスか? 俺の一派に任せてくれるのは嬉しいッスけど」

「それもそうだなぁ…安然殿を連れて壁国へ戻れ」

「おいおい、私たちを護衛してくれるのは助かるが、前慶はどうするんだ?」

「俺ぁここに残るよ」

「馬鹿言っちゃいけないッスよ! 残ってどうするんスか!」

「そうだ、徐江の言う通りだ。前慶一人になってしまう。それはいくらなんでもいかん」

「なぁに、人を隠すにぁ人の中ってな。松国にぁ俺の顔を知ってる奴ぁ少ねぇし、それに太刀がある。……あれぇ? 俺の太刀ぁ? 下に置いてきたっけぇ?」

「あっ! 組長! もしかして王宮に置いてきたんじゃ?」

「…あっ! うわ~、最悪だぁ。やっちまったなぁ」

 一気に落ち込む前慶。

「もう、組長~、カッコつけてさっさと王宮出てきたんでしょ! カッコつけてる場合じゃないッスよ。もう、組長も帰りましょうよ」

「…俺の太刀ぃ。しょうがねぇ、帰るか。…そういえば、安然殿を党首ってぇ呼んだ方がいいか?」

「なんと呼んでくれても構わない。君達は有権党の配下ではないのだから」

「じゃあ安然殿ぉ、家族連れて帰ろう。それから徐江。安然殿ぁ有権党の党首であり、九龍九品党との繋がりだ。そして俺ぁ九龍九品党の党首だからなぁ。ちゃんと警備しろよぉ」

「唐嘉殿も同じことを言ってったスね。でも…、な、なんかすごい警備を任されちゃってるんスねぇ、俺! 頑張ります! では先に下に行っています!」

 徐江は一階に下りていくと部下達に喝を入れる声が聞こえた。部下たちの掛け声も聞こえた。

「フフフ、言い過ぎじゃないのか?」

「これぐらい言っときゃ、気合が入るってもんだぁ。徐江ぁ人一倍やる気もあるし、責任感もあるからよ。でかい仕事になればなるほど、あいつぁ成長する」

「ちゃんと見ているんだな、さすがは組長だ」

「おだてないでくれよぉ、調子に乗っから。さぁ、行こうぜぇ。夜だけど深夜には壁国に戻つくだろう。明日になったら王国を通れなくなるかもしれねぇ…たぶんな」

 こうして有権党と九龍九品党は発足。この日が正式に九龍九品党が有権党と同盟を結んだ日である。

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