第二話 九龍組解散 ~九龍と安然~
王国の昼間。広い庭付きのある大きな武家屋敷から有権党の使いが出てきた。この大きな屋敷が九龍組本部である。
九龍組の幹部は八人いる。組長と幹部を合わせて「九龍」の愛称で呼んでいる。幹部は定期的に本部に集まり、会議をすることになっている。
本部の大きな一室に円卓があり、すでに九龍組幹部八人が雑談しながら円卓を囲んでいる。スーツ姿で各々の好みでワイシャツを着用し、中にはスーツにTシャツというツワモノもいる。正装が緩いのも組長の前慶の影響である。
前慶がいつも通りシルクハットをかぶって部屋に入ってくると円卓の一番大きな席に座り、前慶の右隣には唐嘉、左隣には周泰征が座っている。唐嘉はいつも通り団扇を持っている。
前慶は軽く見渡すと、シルクハットを円卓に置いて話を始めた。
「話しがある。それぁな……唐嘉頼む」
説明をめんどくさがった前慶の指示で唐嘉が立ち上がる。
「これから、我ら九龍組は国進党を離れ、有権党に力を貸すことになった。有権党については前慶から話があったと思う。そこで――」
皆、首を横に振っている。唐嘉は前慶を見た。
「えへへっ、忘れてたぁ」
と、頭を掻いて茶目っ気を見せるも唐嘉の冷たい視線が前慶を射した。
「ハァ……前慶、なんにも教えてないのか?」
「わりぃわりぃ。説明して」
前慶は唐嘉を拝んで見せた。
「さっき言った通りで有権党に手を貸す事となった。有権党とは松国の国主・松山殿と壁の三ヶ国が国進党を離脱して作った新党だ。国進党は上西国の要求を受け入れ、この東王国を外国に譲渡しようとしている。そこで松山殿は有権党としてそれを阻止すべく国進党に対抗するつもりだ。で、ここからが今日の議題だ、前慶の提案で…九龍組は本日を持って解散する!」
前慶、唐嘉以外は驚いた。周泰征も解散の事は知らず、声が出ない。
「ちょ、ちょっとどういうことッスか!」
いち早く立ち上がったのは徐江(二十七歳)である。短髪の彼は「~ッス」が口癖であり、なかなかの子分肌である。
次いで新豪(二十九歳)も立ち上がった。彼は唐嘉の弟であり、兄と違って正装を好んでいる。
「組長! 何を考えてるんですか! 有権党と九龍組の解散は関係ないでしょう!」
新豪の言うとおり、他の幹部もそう思っているが九龍組解散がショック過ぎてまだリアクションが取れない。
「最後までぇ話しを聞けぇ。みんなも落ち着いてよく唐嘉の話を聞けぇ」
唐嘉は団扇で新豪をなだめるように扇いで座らせた。徐江も座る。
「すぐ熱くなるのはお前の悪い癖だ。九龍組は解散! 九龍組は新たに政党として発足する!」
団扇を軍配のようにビシッと前に出した。再び混乱が皆を包む。
前慶の正面に座っている九龍組の古株・堂紅奉(四十五歳)は大きくうなずいた。彼は少し白髪が混ざっているがオールバックでキメている。九龍組副組長を任され、九龍組に入った者はまず彼から礼儀を教わる。
「なるほど。政党となれば有権党に対して献金ではなく、同じく政党として協力できるわけだな。考えおったな」
「そぉだ、九龍組ぁ解散! これからぁ九龍九品党を名乗る!」
前慶の宣言から少しの間があり、九龍組事務管理の正弦(四十歳)が手を挙げた。彼もオールバックにしている。何事にもきっちりとした性格のため、髪型にも妥協を許さない。見た目よりも運動神経は良い。
「では、誰が党首をやりますか? 組長ですか? それから名前は九龍九品党でいいですか?」
「え? 正弦よぉ、その名前じゃ駄目かぁ?」
「駄目というのではなく、皆で決めるべきです」
きっぱりと言い返す正弦に、前慶は張り切って名前を叫んだ時のテンションを返して欲しいと思った。
「じゃあ、ひとまず名前ぁ置いといて、党首ぁやっぱり俺だろ~よ?」
自信満々に満面の笑みで自分を指差した。
ここで今まで発言を控えていた天嵬(三十四歳)が立ち上がった。彼は髪質が固いためソフトモヒカンである。そして虎髭を生やした強面。九龍組の中でも体が大きく、まるでレスラーのようである。前慶と同郷のため、訛りが似ている。
「オイオイィ、もう娯楽屋じゃねぇんだ! 政党なんだろ? おめぇに出来んのかよぉ?」
「天嵬っ、そこらへんぁ平気だ。実ぁ、名前を変えるだけでやる事ぁ九龍組と変わらねぇ。この国にぁ政党ぁこうでなきゃいけねぇという法律ぁねぇ!」
前慶は大笑いしているが、正弦がもう一度手を上げる。
「変わらないというのであれば、九龍組副組長の堂紅奉殿が副党首でよろしいですね?」
「そぉだな。堂紅奉、いいだろぉ?」
前慶が指差すと、堂紅奉は組んでいた腕を机に置いた。
「うむ。名が変わっただけと言うのであれば、いつもと変わらんからな」
「では、今までの組員はどうします? 今までと同じと言えども中には辞める者もいるでしょう」
正弦の問いかけに前慶が答える。
「そこら辺ぁ、おめぇに任せる。九龍九品党でも組員の管理ぁ正弦に任せる。好きにしてくれぇ」
「かしこまりました。では、九龍九品党にするかどうかはともかく、計画を立ててきます。皆さん、夜までいますよね?」
前慶はまだ名前が認めてもらえずがっかりする。そこに天嵬が助け舟を出した。
「九龍九品党の発足を祝って宴会だぁ! 徐江ぉ、酒ぇ買って来い!」
前慶の顔に光が戻った。正弦は鋭い眼差しで天嵬を見るが、天嵬はニコっと笑顔を帰した。
「なんで俺だけなんスか、天嵬殿も来てくださいよ!」
「んだよ、お前ぁ一人で買い物もできねぇのかよ~! おらぁ、行くぞ! 金ぁお前が出すんだからな」
「え~、なんでっスか~!」
徐行の肩を組むと無理やり外に連れ出した。一緒に正弦も部屋を出ていく。その時、正弦は天嵬に対して「まだ政党の名前は決まっていない」と釘を刺していた。それが聞こえた前慶はフテくされた。
「チェッ、正弦めぇ。別に九龍九品党でいいじゃねぇか~、なぁ?」
「僕は好きだけどなぁ、九龍なんとか~」
程子(二十三歳)が前慶を庇った。彼の容姿は女の子に見える。これは極少数がかかる奇病と認定されている。髪型はロングで日によって違い、今日はポニーテールである。病気のせいで年齢以上に若く見え、発言も子どもっぽいながらも数字には強く、九龍組の財政を管理している。
「程子ぃ、九龍九品党だからなぁ、九品党! よぉく覚えとけよぉ!」
「わかったよぉ、そんな怖い顔しないでよ~。で、そんでさ、みんな、ここにいるってことは九品党に参加なの?」
「俺は組長に付いていく。有権党には興味はないが、九龍九品党としてこの大陸に何かできるのか、それには興味がある」
周泰征はバシッと答えた。それに堂紅奉が付け足して言う。
「九龍九品党は有権党と行動せずとも、我らだけでも戦える状態にしなければならないな。有権党が失敗した後には国進党と外国と、もしかしたら上西国とも戦うかもしれん」
一同はこれからやろうとしていることが、かなりの大事なんじゃないかと思い始めていた。そんな状況でも前慶は気にせず、帽子をいじっている。
新豪が隣に座る唐嘉に聞く。
「それは嫌だなぁ。兄貴もそうだろ?」
「そうだな。そのためには有権党を支える力が必要だ。それにな、まず外国に対抗するには上西国の力も必要かしれないと思っている」
「なんでだよ! 俺は嫌だぜぇ!」
兄の思わぬ意見に声を荒げた。東王国に住む者も上西国に住む者も互いの国を嫌っている。古い戦争の名残である。
「話は最後まで聞け。お前の悪い癖だ。いいか、上西国は外国の力を知っているわけ。ならば何かしら対抗策を作りだしているかもしれない。ただそれが実行できないだけだとか――」
「どうだかな、奴らはすでに外国の道具と化しておるよ」
堂紅奉は特に上西国を嫌う。その言い方にもトゲがあった。
「そうだよなぁ、変な服も着てるし」
「おぅ新豪ぉ、おめー見たことあんのかぁ?」
「はい。向こうの使者ですけど。ダボついた服でした。赤とか青とか妙に派手な服で…。組長、この前の使者も見なかったんですか? 国進党と一緒にいたんですよね?」
「そん時、ちょっと便所に行っててなぁ。そぉかぁ、話にぁ色々聞くが実際に見たことねぇ。…よし! 見に行くか?」
団扇で前慶を頭を叩く唐嘉。
「何を言ってる。馬鹿言うんじゃない」
その言葉はすごく冷静であった。
「おめーぁ西の力ぁ必要かもっつったんだぞ? 勉強だぁ、べ・ん・きょ~」
前慶と唐嘉は睨み合う。唐嘉は諦めたように小さく息を吐く。
「…勉強か。その言葉が出たら止められないな」
前慶はニヤッとした。それを見ていた程子は隣に座る新豪に耳打ちする。
「さすがクミチョーだね。勉強の一言でトーカを止めた」
「勉強の一言で諦めたんだから、兄貴もそんなに悪いと思ってないんだよ。俺だった後世のためとか言わないと止まらねぇぜ」
その時、正弦が部屋に戻ってきた。
「組長、我々の新政党は王国に残るのでしょうか?」
「おっ、そうだなぁ。考えてなかった。やっぱ王国近くぁ危ねぇかなぁ?」
前慶は皆を見た。周泰征が付け足す。
「松山殿のように、国進党に狙われる恐れがあります」
「ここは…壁国に行くのはどうだろう。街としても多少は栄えてるようだし、有権党も壁国を本部にするらしい。もし万が一、外国が来ても壁国を通らなければならない。その時は我らでも食い止めることができる」
唐嘉の説明には一同納得した。
「はいは~い! じゃ、金がいるよね? 国進党から金を貰っちゃおうか?」
金の話になると程子の笑顔はいつも以上に輝く。
「できんのか、程子ぃ?」
「できるよぉ、クミチョーとは違うも~ん」
食ってかかる前慶に嫌味で返す程子。
「このぉ、一言多いんだよぉ。失敗したらぁその顔を泣き顔に変えてやっからなぁ~」
前慶は顔をつねってやるぞというジェスチャーをするも、程子は相変わらずの笑顔である。
天嵬が戻ってくると、徐江が両手いっぱいに酒の入ったヒョウタンをたくさん持って入ってきた。小さめのひょうたんに入っているそれなりに高価な酒である。
「これじゃあ、まだ足りねぇだろうからよぉ、もっと持ってくるように言っといたぜぇ」
「早かったの、そんなにたくさんあるのか」
堂紅奉の問いに天嵬は、
「ちょうど酒持ってきた組員がいてよぉ、ぶんどってきた」
と、大笑いである。一同は「またか」という感じで呆れている。徐江が全員に酒を配る中、天嵬だけは大きいひょうたんをすでに取っていた。
「さぁ! みんな持ってくれぇ!」
天嵬は酒を高々と持ち上げた。周りも酒を持ち上げ始めるが前慶が酒を掲げていない。
「天嵬ぃ仕事がある。程子と一緒に国進党行ってこい」
酒を手にする天嵬は思いっきり不服そうな顔をしている。
「なんっで俺なんだよ! 徐江、新豪、仕事だぁ! 国進党に行ってこい」
「なんで俺達なんスか、自分が行きたくないからって~、さっきだって酒を持ちたくないから全部俺に持たせたくせにー!」
「徐行の言うとおりです。今回は天嵬殿の仕事ですよ!」
徐江と新豪は腕を組んで断固として拒否した。
「帰ってくるまで待ってるからよぉ。行ってこい、天嵬ぃ」
天嵬は前慶を睨む。その睨みに負ける事はなく、前慶は笑顔である。
「わぁったよ! 行きゃあいいんだろ。程子ぃ、行くぞぉ!」
「じゃ行こっか。護衛よろしくね~。天嵬に敵う奴なんかいないけど~」
天嵬の顔が不満から笑顔に変わった。
「お~お~、良くわかってんじゃねぇかぁ! さぁ行くぜぇ」
程子のお世辞にご機嫌になった天嵬は意気揚々と部屋を出た。あとに続いて程子が笑いながら出ていった。
「うまいな。天嵬をその気にさせおった」
堂紅奉は感心した。背伸びしながら徐江が言う。
「悪い人じゃないんスけどね、ホントにわがままッスよ~」
「子どもの頃からわがままだぁ。あいつぁなんで部下に慕われんだぁ?」
「組長もそうお思いですか? これは九龍組の謎です」
正弦もそう言うのだから本当に謎なのだ。
国進党本部に向かう天嵬と程子は九龍組の幹部なので、車椅子に乗ってもいいのだが老人が乗るものだと言って乗らない。幹部ではあるが護衛やお供を付けること自体も少ない。九龍組の中で車椅子に座るのは堂紅奉だけである。
国進党本部は九龍組本部からそれほど離れてなく、九龍組本部以上の大きさを誇る武家屋敷である。入口には大きな門があり、国進党という看板も飾られている。門番が何人か立っているが九龍組組員の証明である名刺のようなものを門番に見せて中に入る。
豪華な応接室には天嵬と程子しかいない。国新党党首・高山と新党発足を隠して出勤していた松山が来ると二人は立ち上がり、礼をした。全員が座ると、さっそく高山が口を開く。
「それで九龍組が何のようだ?」
「今回ね、新しい賭博場を作りたいんだ」
ニコニコ笑顔で話す程子の生意気そうなタメ口にも高山はもう慣れている。
「ほぅ、まだまだ稼げるのか?」
「もちろ~ん。こっちもトーオー国の為に働いて稼ぐんだよ~」
「それだけか? 好きなようにしていいと言ってあるはずだが?」
高山の言うとおりで九龍組には好きなようにしていいと国進党から通達されている。だが、今回に限ってわざわざ相談に来たことに、高山は引っかかっている。
「土地の候補があるんだけど、立退き料、建築費、そこらへんが少し足りないんだ~」
「いくらだ?」
「ざっと五年分かな」
笑顔のままでサラっと言う程子だがこの五年分を一般市民が持っていれば、百年は自由に生きていける。
「五年だと? …多すぎないか?」
高山の顔色が変わった。松山は何も言わずにいる。その時、
「ハックショイ! ハックショイ! あ~~誰か悪口言ってやがんなぁ。わりぃ、わりぃ。ハックショイ! ちきしょ~。今度は誰だぁ?」
天嵬のクシャミに場の空気も吹き飛んだ。松山が言う。
「九龍組からはついこの間、献金を受け取ったばかりだ。だから金がないのだろう?」
その一言に高山も金を出すことを決意した。
「では必要なときに用意してやろう」
「たった今、必要なんだぁ。即刻用意してくれねぇか?」
「たしか…天嵬って言ったか? 口の利き方には気を付けたまえ。それでは前慶と一緒だぞ」
程子の口調は気にも留めない高山だが、前慶の訛りは許せないらしい。
「訛りなんでねぇ。アイツよりぁ聞きやすいだろぉ?」
「……用意してくる」
高山は部屋を出て行った。
「チッ、偉そうなことぉ言いやがって。おめーの口だって悪ぃじゃねぇかよなぁ?なぁ、松山殿ぉ?」
「国進党党員として口の利き方には気をつけるよ」
苦笑いしながらも茶目っ気を見せた。
しばらくして高山が戻ってくる。
「裏庭に金を乗せた馬車を用意した。この書類にサインを」
そこには三年分の値段しか書かれてなかった。
「ちょっと~少なくない~?」
笑顔を崩さないが不服そうな程子。
「後日届けさせる」
「わかった。はい、名前書いたからね」
サインを書くと程子と天嵬は出て行った。高山はサインを見つめている。
「…すごい額を取られたな。まぁ、しばらくすれば金は戻ってくる。前党首のおかげだな」
前党首は九龍組の先代と義兄弟で、二人は東王国の政治を思い、表では国進党、裏では九龍組として東王国を支えると約束をしていた。そのため、前慶に代替わりした九龍組は国進党に献金という手助けをしているのだ。
「奴らは国進党がなければ生きてはいけん。松山殿、もう一度考え直したほうがいいぞ」
これは国新党の保身派に移れと言う意味だ。
「まだ考えるところはたくさんある。即答はできないな」
その日の夜。
松山が有権党の党首として九龍組本部を訪ねてきた。大きな客間にて松山は九龍と自己紹介を交わした。食事も運ばれ、会食が進むと松山は疑問に思っていた事を聞いた。
「前から気になっていたが貴殿達の名はあだ名かね?」
「そうです。先代が遊びとして思いついたのです」
正弦が代表して答えた。
「あ、遊び…?」
「俺と新豪殿と程子は組長に付けてもらいました」
徐江が胸を張って答えた。
「では…私に付けるとしたらなんだろう?」
照れたように笑う松山。それには一同も驚き、新豪が聞く。
「有権党党首にあだ名ってのは…まずいんじゃないですか?」
「これから長い付き合いになるんだ、私も九龍組との結びつきを深くしてみたい」
「前慶、何か付けたらどうだ? もともと遊びで始まったものだ」
食事を終えていた唐嘉は団扇を仰ぎながら言った。前慶は紙と筆を用意させるとサラサラと書いてみせた。
「これだぁ、アンゼンと読む!」
松山は『安然』と名前が書かれた紙を受け取り、まじまじと見る。
「おぉ、素晴らしい!」
「これは遊びじゃないですよ。組長は真剣に考えてました」
周泰征が松山こと安然に酒を渡して言った。前慶は照れくさそうに頭を掻く。
「見る人、見る人、こんな名前かなぁって思っちまうんだ。癖だなぁ。松山殿にぁそれが真っ先に思いついた」
「確かに松山殿って感じがするよ。さすがクミチョー!」
拍手をしておだてる程子。
「そういえば先代も遊びを通り越してクセになっていた」
先代と同期の堂紅奉が腕を組みながら懐かしそうにしている。
「名前を貰うとはなんと嬉しいことか。みんな、これから私を安然と呼んでくだされ」
「ねぇねぇ、安然って歳いくつ~?」
程子がいきなりタメ口で聞いた。昼間にタメ口を聞いていたもののあまりにも突然だったので驚いて答えられない。
「言い忘れてたがぁ、九龍の間でぁタメ口で構わねぇ事になってる。それほどの信頼関係ってかぁ、別に気にならねぇんだな。んで、特にこの程子ぁ組長の俺にもタメ口叩きやがる」
九龍の間でも殿を付けたり、組長と呼んだり、前慶を目上に見ることが多い。しかし、前慶に対しても唐嘉と天嵬、程子は呼び捨てである。程子は誰に対してもほぼタメ口で話すが嫌われないのが不思議である。
「しかし、あくまであだ名であって、安然殿は九龍ではありません。タメ口では失礼です」
「いやいや、周泰征殿、構わんよ。仲間に入れてもらえて嬉しいんだ。それから程子殿、私は五十歳だ」
「僕と二十七も離れてるんだ~」
九龍の中で一番年下の程子に安然はタメ口で話された事になる。それに安然は再び驚いた。
「程子の態度に頭にきたら言ってくれて構わないですので」
周泰征はこっそりと助言して席に戻った。そんな中で天嵬は立ち上がると酒を高々と掲げた。
「さぁさぁ、ここらで安然殿の誕生に乾杯だぁ! 乾杯ぃ!」
「乾杯!」
一同の乾杯の後、無礼講のどんちゃん騒ぎが始まった。




