-東高王伝-
洞淳高王の父・東高王の話。
「あのクソ野郎! いい加減しやがれ!」
陣中で怒鳴っているのは、鎧姿の道国である。
この男はこの大きな大陸の中心に位置する『真国』の国王の従兄弟にあたり、戦争での強さは一騎当千、豪将とも呼ばれている。二十歳で大陸の東側に派兵され、東側を平定した。
その功績から東道高位の爵位を与えらえ、真国の東側に領地が与えられた。高位の階級は真国で上位五番目に位置する。
現在、四十歳になった東道高位は真国の南側に布陣している。戦の相手は真国の支配下で西側にある柳国である。支配下にあるとはいえ数年前からほぼ独立国家に近い。
十年前に東道高位の母の兄であった「真国・前国王」は、当時の柳国国主に高位を与えた。高位の権力を使い、西側の開拓を進めると次第に力を増していった。真国からの移住もあり、人も土地も増えて兵数は真国の二倍以上となった。これに「真国・前国王」は脅威を感じ、東道高位に柳国の討伐を命令したのだ。
戦に関して東道高位に敵う者はまずいない。一人でも強ければ軍を率いても強かった。東道高位軍はすぐに柳国を追い詰めた。
しかし、この戦の最中に「真国・前国王」が死に、後を継いだ現在の真国国王は東道高位の父の兄の息子である。道国よりも若い従兄弟である。そして国王は東道高位の脅威的な統率力と武力に、このまま東道高位に力を持たせてはいけないと、遠征中の東道高位にわざと食糧補給を止めた。
国王に裏切られた東道高位は柳国討伐のあと一歩のところで敗北し、残った兵士千人と共に真国を迂回し、この大きな大陸の南側にそびえたつ千丈頂天山の樹海のような麓を超えて、東道高位の国葬の準備が進む中、東道高位が帰ってきた。国民は英雄の姿に大いに沸いた。
警備兵が止めるが振り払って王の間にズカズカと入ってきた東道高位に国王は青ざめた。食料補給について問い詰められた国王は「前国王が秘密裏に指示していたことで私は知らなかった」と白々しく答えた。
東道高位はいつか国王を殺してやろうと心に決めた。
東道高位に兵力を削がれた柳国は戦後処理もそこそこに賄賂で国王に近付き、手を結んだ。そして東道高位が静養中の東側に真国と柳国が合同で攻め込んだのだ。しかし、東道高位は早馬から合同軍侵攻の伝令を受け、すぐに地の利を活かして兵を配備した。東道高位も戦場に現れると静養中にもかかわらず、異常な強さを見せつけて合同軍を押し返した。
その後、更なる侵攻は無かったが真国はたった半年で柳国を見限った。
しばらくすると真国が東道高位に近付き、様々な条件を提出されたもののなんとか手を結ぶ事に成功した。東道高位も真国と断交するにはまだ早く、柳国くらいしっかりと基盤が築けていれば断交するつもりだった。
真国と東道高位が合同で柳国に侵攻すると、東道高位以外の武将には柳国の地の利を弾き返すほどの力はなかった。柳国のことは東道高位に任せて真国軍は撤退した。
それからは真国を避けて真国南側方面で東道高位と柳国の対立は続いている。東道高位は真国に対抗するために柳国が欲しく、柳国も真国を囲むために東側を欲しがっていた。
対立が続く中、今から三ヶ月前。
柳国国主が病死し、その息子が跡を継いだ。真国国王は柳国の新しい国主に公牧高位の爵位を与え、それを利用して再び柳国と手を組もうとしていた。
そして、その知らせが陣中の東道高位に届けられた。
「あのクソ野郎! いい加減にしやがれ!」
現場を配下に任せると二千騎を率いて真国に突入した。謁見の予定もないのに無理やり王の間まで進むとすでに公牧高位がいた。東道高位は公牧高位より少しだけ年下の血のつながりはない従兄弟である。国王も公牧高位と従兄弟同士である。
「なぜ貴様がいる!」
東道高位がそう言うと公牧高位が言い返す。
「それはこちらの言い分だ! 貴様、何しに来た!」
公牧高位と東道高位は子どもの頃からとても仲が悪かった。
「待て、待て。二人とも。こうして身内が三人揃ったんだ。酒でも飲んでいかんか?」
そう言う国王を二人は睨んだ。公牧高位が座るとその正面に東道高位が座る。もちろん上座には国王が座っている。身内の話しということでこの場には三人しかいない。
「酒を飲む前に聞いておきたい。貴様は西に着くのか?」
東道高位が国王に聞いた。
「そうだ。お前が西か東か、どっちかはっきりしてくれ!」
公牧高位も聞いた。国王は呆れた感じで言う。
「お前達はいつまで戦争しているんだ。おかげで真国は武器の輸出で儲かってはいるが…。命を削って何の徳がある? 金を稼いで楽しめばいいじゃないか。よく考えろ、兵士が死ねば葬儀屋が儲かる。その葬儀屋が俺に金を持ってくるから、お前達は俺の金ために命を削ってることになるんだぞ。もっと稼がせてくれても構わないけどな」
高笑いをした。東道高位の顔は怒りのあまり真っ赤になり、勢いよく立ち上がる。
「貴様はどこまで性根が腐っとんじゃ! ぶっ殺してやる!」
「わしを殺せるか? 国王だぞ!」
その言葉に東道高位は刀を抜いた。この刀は無理やり持ち込んだものである。
「神聖なる真国国王様の前で何してる! これだから夷蛮戎狄と言わざるを得ん!」
瞬間、東道高位は国王の肩の辺りを斬った。堪忍袋の緒が切れるというやつであり、肩を切り落とせなかったことが冷静さを失っていたことを表している。
「何をする…。公牧! 助けろ! 礼ならたんまりやる!」
公牧高位も無理やり持ち込んでいた刀を抜くと国王を刺した。
「己えぇぇ!」
国王は絶命した。東道高位は刀を引き抜くと公牧高位に向けた。
「公牧、邪魔者はいなくなった。決着を付けようじゃないか」
公牧高位も国王から刀を引き抜くと、国王の着物で刀の地をぬぐいながら言う。
「ここで貴様とも勝負してもいいが、退かせてもらう。それに周りを見てみろ」
公牧高位の兵士たちが王の間に入ってくると公牧高位を囲む。
「これくらいの数なら全員殺せるぞ? 俺も舐められたものだな」
「いいか、東道。我らにこれ以上の戦は必要ない。ここは好きにしろ」
公牧高位が王の間を後にすると東道高位は玉座に座ってみた。
「真国国王も悪くない。さて、公牧め、どうしてくれよう。我らに戦は必要ない、か。待て…、やつは真国に軍を向けるつもりか!?」
東道高位も急いで出て行った。
東道高位の読みの通り、公牧高位は真国南側から兵を引き、真国西側から一直線に攻め込んだ。一時的に真国は公牧高位が侵略したがすぐに東道高位も真国に攻め込み、真国は二つに裂けた。
真国東側は東道高位を王にして東王国と名乗り独立した。東道高位は東高王と名乗る。
公牧高位も真国西側と柳国を合わせた土地を上西国と定め、公牧高位は国王を改めて天人と名乗った。
そして東西戦争は続いた。
東高王が五十三歳で死ぬと息子の洞淳高王が天人と会談し、大陸の中心に境界線を引く事で戦争は終了となった。
その境界線は高く頑丈な壁となって、まだ国すら定められていない荒れ地にまで建てられたがさすがに千丈頂天山に立てることはできず、樹海となる麓までである。
こうしてこの大きな大陸は東西に分断された。
東高王→洞淳高王→太禅高王と歴史は続いている。




