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九龍組  作者: 大蔵 富造
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第十・五話

 翌朝。武士五人と赤坂は夜遅くまで集団戦法というものを論議していた。東軍との戦いで一騎打ちだけに頼ることはできないと感じてはいたものの、実際に集団戦になってみるとそれは確かなものとなった。

 カイタタハイラに住んでいた滝本も武古屋も外国の戦い方はよく分かっていなかったため、一騎打ちに応じなかった場合のために江墨州に出陣前するに武士達は東軍の部隊長らから集団戦の戦い方を教わってはいた。しかし、錬兵の暇はなかったので言葉で聞いていただけだた。もともと一騎打ちを主流にしていた者達に集団行動はとても難しいことだった。それに陣太鼓の数も、目印の旗の数も足りなかった。

 滝本は部隊を細かく分けて集団戦法を取るかのように見せかけることにした。


「なるべく外国を食い止めなければならない」

 滝本の意見に武士たちは頷くものの不安は残る。

「それらしく見えてるとは思いますが、これでうまくいきますかねぇ。敵が――」

 その時、あの異様な音が辺りに響いた。

「なんだこの音は!」

「これは外国軍の音です! 早く周りに知らせないとまずいですよ!」

 武古屋が叫ぶと、滝本達は幕舎を飛び出した。前方の方で火の手が上がり、雄たけびや叫び声が聞こえる。キラキラと銀色に光り輝く外国軍の姿を確認した。その姿にただ驚愕した。

 西軍は一人一人と戦ってしまい背後の事を忘れる。そして見た事もない武器に手間取っている。混乱は広がるものの、部隊を細かく分けたことで本陣までに部隊が折り重なっているので、いきなり本陣に外国軍が突撃してくることは無かった。もしも、まだ一騎打ちを主流と考えていた場合は本陣を先頭に配置するため、この突撃で武士達は死んでいたことだろう。

 次第に西軍は押され始め、一部隊、一部隊と退却していった。ついに滝本達も退却した。




 昼過ぎ。上国まであと少しの距離で、滝本の旗印を見つけると退却してきた部隊が次第に集まり始めていた。

 滝本の幕舎に赤坂が入る。

「皆、無事かい?」

「いや、丹野が腕をやられて、南海は足を折った」

 そう言う滝本の鎧も泥で汚れていた。

「見たこともない武器でな…斬られたというより引っ掻かれてしまった」

 包帯で縛ってある腕を見せる丹野。南海は骨折した足に添え木が当ててある。

「奴らは馬を殺した。そのときに馬の下敷きになってな」

「おいおぃ、これじゃ戦じゃねぇぜ! やられるだけじゃねぇか!」

 武古屋は苛立ちを隠せないでいた。

「集団戦法だけなら、東の者が戦えるかもしれないさ」

 赤坂の提案に滝本は腕を組んでいる。

「しかし、彼らは騎馬隊だけで構成されていない。ここに来るには早くても1日はかかるだろう。それにまだ上国にいるのか? とにかく増援してくれるとしても…それまでに外国がここに来ないとは思えん」

 滝本は立ち上がるとグッとこぶしを握った。

「我々の生き様を見せ付けるのだ! 外国が来た時には死に物狂いで止めるぞ。殺されかけたら外国人にしがみついてでも進行させてはいけない!」

 滝本の気合で士気が高まった。赤坂は幕舎から出て部下に指示する。

「上国に東軍が残っていたら連れてきてくれ。それから居なかった時は国民を連れて来い」

 部下数名が早馬として陣から出て行った。

 丹野と南海は滝本の幕舎に残り、織田島と武古屋は自分達の幕舎へ戻った。



 夕方、日も沈み始めて夕飯を用意する西軍。その時、朝に聞いたあの異様な音がした。幕舎を飛び出す滝本。

「もう来たのか! 皆の者、武器を持ち戦え! 一人を相手にするな! 敵は複数だ!」

 滝本の指示は近くの者にしか聞えなかった。音のせいですでにパニックに陥っている隊もあった。滝本は動けない丹野と南海を守るために幕舎前で応戦する。自分達と同じ鎧を着ている者は倒せるが、あの銀色に輝く者達には歯が立たない。そして、その銀色に輝く者達が攻めてきた。

「ぬぅ…ここまでか!」

 いつの間にか滝本は数人に囲まれていた。そこに武古屋が突撃してきた。数名を蹴散らしていくが丹野がやられた武器に馬から引きずり落とされた。その武器は長い熊手だった。

「大隊長、早く逃げてください!」

「武古屋ぁ! くそっ! 何度、外国に屈するのだ!」

 滝本は無理やり外国人にされた時の事を思い出していた。一方的な武力行使によって戦う間もなく城が占拠されて国民達は外国人として戸籍を作らされた。そして外国人の誇りを持つようにと宗教を与えられた。その宗教を馬鹿にするものは死罪となった。

 滝本は斧で外国兵に振り下ろすと、袈裟懸けに肩に刺さったのものの抜けなくなった。後ろから兜に外国人の剣が振り下ろされ、滝本は倒れた。兜に守られたものの頭がグラグラする。

 その時、また異様な音がした。耳鳴りかと思ったが、外国の音とは違う。外国軍も聞きなれない音に動きを止めて辺りを見回している。


 滝本と外国兵の間に一騎が駆け込んできた。

「極龍組組長、前慶ぃ! ただいま参上ぉ! 助太刀に参ったぁ!」

 滝本がシルクハット姿が現れたのに驚いたのと同時に、前慶を熊手が襲うがすぐ馬から飛び降り、熊手を持っている兵士を斬った。しかし太刀は跳ね返される。

「うおぉ、なんなんだぁ!」

 突きのように繰り出された熊手を避けて、前慶はすれ違いざまに敵の膝裏を斬った。そこには何も防具が無かった。全身を覆う鎧でも関節を曲げるための隙間を作っていたのだ。

 さらに前慶は辺りの兵士を斬りまくる。膝裏を狙えない時は蹴り倒していった。そしてなかなか起き上がらない銀色の兵の頭を蹴り飛ばした。

「硬ぇ~。丈夫な兜だなぁ。これぐらいでぇいいかぁ。おぅ、滝本ぉ平気かぁ!?」

 呆気に取られたのは滝本と武古屋。一瞬の内に辺りの敵が動けなくなっている。滝本は頭を押さえながら、痛みも前慶出現の混乱も止めたいと思っている。

「なぜここに?」

「なぜってぇ、助けに来たんだよ」

 滝本は会話になっていないなと思いつつ、やっと立ち上がったその時、滝本を守るべく後ろにいた武古屋の背後に外国兵が迫っていた。

「武古屋ぁどこ見て戦してやがる!」

 武古屋は声に気づいて後ろを振り向くと、二股の槍が外国兵を薙ぎ倒した瞬間だった。その槍の持ち主は天嵬であり、外国兵を倒したことでしてやったりのにんまり笑顔である。

「あっ! 後ろ!」

 武古屋の声に天嵬が振り向くと剣が振り降ろされる瞬間、とっさに左腕で頭をかばうとガチィンと何かが剣を防いだ。天嵬を守ったのは月乃からもらった防具だった。

「つ、月乃君! ぬぅおぉ~~! うらぁ!」

 槍になぎ払われた外国兵は数メートル飛んだ。

「ちくしょ~! 月乃君からもらった物に傷つけちまったぁ。…しかし月乃君の愛のおかげで助かったぜぇ~!」

 防具を撫でながらニヤける天嵬。

「気持ち悪ぃ事言ってやがんなぁ。男から愛をもらってどうすんだ?」

 武古屋の言葉に天嵬は激怒した。

「なんだとぉ! 月乃君のどこが男なんだぁ!」

「『君』つってるじゃねぇかよ!」

「月乃君ぁ、月乃君だろうがぁ!」

「ん? もしかして女か? 女なら『さん』だろ?」

「『さん』ってなんだよ」

 二人は良く分からなくなった。

「…文化の違いかぁ?」

 二人の声は揃っていた。


「おうおぅ、なに二人でボケてんだぁ? さっさと別のとこぉ助けに行くぞ」

「いや、文化の違いを体験しちまってよぉ。男が女で女が男なんだぁ…」

「わけわかんねぇ事言ってんじゃねぇ! 寝ぼけてんじゃねぇぞぉ」

 珍しく前慶にツッコまれる天嵬は納得がいかない様子で頭を掻いた。

「大隊長、東は男が女ですよぉ」

「お主も訳の分からない事を言うな、さぁ行くぞ!」

 西国では目下の男に「君」を付け、女には目上、目下に関わらず「さん」を付けることが多い。だが、大体は呼び捨てにすることも多かったりもする。

 その時、また外国軍の音が聞えた。しかし、リズムが違う。辺りを見回すと外国兵が退却を始めたようだ。

「お~い! まだ生きてるかぁ!」

 赤坂を先頭にして極龍組が集まってきた。

「組長! 外国が退いていきました! ですが、ずいぶんと味方もやられました」

 新豪の報告に滝本は肩を落とした。そして、頭を下げた。

「すまん、西の事に東を巻き込んでしまって」

「おいおぃ、来たのは極龍組だけだぁ。やられた味方ってのぁ西軍のことだぁ。俺たちぁやられてねぇ」

「極龍組だけだと!? どうしてそれだけで来た!?」

「勝手に来ちゃったんだよねー! あとから東軍も来るんだけどー!」

「はっはっは! この程子とかいう若造、なかなかやりおる!」

 滝本は織田島の肩を叩いて喜んだ。

「おぉ、織田島! 無事だったか!」

 しかし、織田島は逃げる際に兜を紛失していた。命からがらの退却だった。外国兵の追撃を程子が食い止めてくれたのだ。



「組長、外国人を捕まえました。どうぞ」

 正弦は縛犯網にかかっている外国人を連れてきた。皆、まじまじと見る。この外国兵は背が高い。西軍兵士も取り囲む中、座らせてから銀色の兜を脱がすと目は青色。しかし左目は包帯を巻いていた。髪の毛は金色。おもしろいことに武士と同じように髷を結っている。武器は反りのある青龍刀。その容姿は東と西のどちらにも似ていない。

「わぁ~、片目だけで戦ってたんだぁ。よく戦えるねー」

 程子は自分の片目を塞ぎながら外国人を見ていた。

「ともかくこいつぁ離しちゃえ。いてもしょうがねぇ。ほらぁ早くいけぇ」

 前慶は丸越しの外国人を押した。外国人は頭を下げると走って逃げていった。

「組長、いいんですか? 逃がしたらまた追ってくるじゃないですか」

「新豪よぉ、今の見てたかぁ、礼したんだぜ? もうあいつぁ追ってこないさ」

「そうですかねぇ~。礼は良いとしても…外国人ですよ?」

「気にすんなって。さてとぉ、滝本ぉ早く陣を立て直せぇ。追うぞ、今度ぁこっちが奇襲する番だぁ」

 前慶は何故かワクワクした表情をしていた。

「お、おう。なんか楽しそうだな?」

「そうかぁ?」

 程子が滝本に近づくと耳打ちする。

「暴れる事がないから楽しんでるんだよ。戦争だから楽しいっていうのも変だけどねー」

 困惑の表情の滝本であったが、言われた通り軍の立て直しを始めた。元気な者を先頭にし、怪我のひどい者と南海・丹野を上国へと帰している。死んでいる外国兵を調べて弱点を探した。鎧を着てみたり、武器を使ってみたり、身体的特徴は無いものかと調べた。

 その間に、極龍組は偵察を出して外国軍の強襲に備えた。




 翌日、夜。安然王に東軍総大将として任命された周泰征が東軍一万人を引き連れて合流した。東西軍と極龍組合わせて約一万八千となった。

 一つの幕舎内に武士や極龍組幹部、そして東軍指揮官達が円になって座っていた。円の中心にはこの辺りの地図が敷かれている。

「偵察の話でぁここら辺にはいないんだってよ。ひとまず先行したいところだがぁ…新豪、武古屋、先に言行ってくれぇ」

 前慶の指示に新豪は威勢のいい返事をしたが、武古屋は不満だった。

「おめぇに命令される筋合いはねぇぞ」

「そんな固い事言うなぁってぇ、じゃシュウ頼むわぁ」

 武古屋が言うとおり前慶は軍師でもなければ何でもない。ただ極龍組の組長と言うだけである。

「新豪殿、武古屋殿の両名は先発隊を率いて先を調べてくれ」

 再び、新豪は威勢よく返事をしたが、武古屋は納得していない。

「そう言うことじゃなくてだなぁ、なんでお前らに命令されなきゃならねぇんだよ!」

「こら、武古屋。今は東も西もない。外国を倒すために戦うのだ! それに集団戦法は東軍が得意とする。新豪殿の動きを勉強するべきだ」

「ぬぅ…。じゃ大隊長が命令してください!」

「それは構わんが、今は集団戦を知っている東軍の命令を聞くんだぞ」

「わかりました! 新豪殿よろしく頼みます」

 武古屋は人が変わったようにすんなりと指示を聞くようになった。

「今日は進まんのか?」

「滝本殿ぉ、俺たちは夜の行軍にも慣れてるけどよ、進みすぎても昨日の朝みたいに突撃されるかもしれねぇ。出来ることなら土地も知ってる西軍と一緒に進む方がいいんだぁ。だから土地の事を色々教えてくれ」

 前慶の言う事に納得した滝本は広げてある地図を指さしながらどんな場所なのかと話を始めた。

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