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九龍組  作者: 大蔵 富造
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第十話 東西統一 ~外国の脅威~

 天宮(てんきゅう)の大門を超えた安然王(あんぜんおう)の一行を警備兵達が取り囲むが、ここでも東王国の使者であると嘘をついた。それに織田島(おだじま)丹野(たんの)が一緒にいたため、嘘にも説得力が増していた。

 天人の間。織田島、丹野、極龍組幹部が安然王を取り囲むようにして部屋に入る。天宮警備兵も室内で天人近くに立っている。天人の両脇には側近の寒田(かんだ)山野(さんの)も控えていた。天人の間に入ってから前慶(ぜんけい)はまるで美術館にいるかのように色々な装飾品を見て回っている。


 玉座に座る天人の前に、煌びやかな装飾が施された燕尾服に王冠を被った安然王がゆっくりと進んだ。

「私は東王国国王、安然王です」

 てっきり使者とばかり思っていた天人は驚きのあまり立ち上がった。寒田も言われて見れば本物の安然王に驚いた。

「なんと! 王だと! この天人を騙すことは許さんぞ、本当だろうな!」

 織田島と丹野も本物の王様だと説得するが天人は聞かない。極龍組も王様だと説明するが天人は認めない。寒田が王国で見たと言うとやっと天人は信じた。


「さて天人よ、上西国を外国の物にしてどうする? この大陸は我々の物ではなくなってしまうのだぞ?」

「安然王よ、我は外国に支配されていない。外国は東王国を支配しに行くのだ。お主の国をな」

「すでに外国の進行を認めていることに支配されていると気づかないのか? あなたの国にはカイタタハイラという植民地があるという。それが出来た時に上西国はなにをしたのだ? 外国に対抗したのか?」

「支配などされてはいない。それにな、カイタタハイラの国民は外国に支配される事を望んでおった」

「支配など私達は望みませぬ! これは残された武士ら全ての同意見です!」

「黙れ、丹野! 武士が何を言う! …この裏切り者め!」

「なぁ、裏切り者ぁおめぇだろうがぁ」

 前慶は装飾品を見るのを止めて、天人の方へ歩く。

「な、なんだ、お主は!」

「極龍組組長の前慶だぁ。おめぇ、滝本殿の家族を監禁してんだろぉ?」

「貴様、何を言うか! 貴様のような奴が―――」

「おめぇにぁ聞いてねぇよ! 黙ってろぉ」

 寒田は気迫に押された。寒田が黙ってしまっては天人が話を進める。

「なぜ知っている?」

「おれぁ極龍組の前慶だぜぇ。知らねぇことぁねぇ」

 ニヤリと不敵な笑みを見せた。


「天人! それは本当ですか! そんな卑怯な真似をするのは武士ではない!」

 織田島が声を上げた。

「我は天人だ。武士ではない」

「おいおぃ開き直りかよぉ。オー様、やっぱりコイツにぁ天人は任せられねぇな」

 前慶の意見に安然王はうなずいた。

「お主達は我を殺すつもりか!」

「いえ、話しに来たのだ。だが保身のために国民を巻き添えにする天人がいてはいけない。あなたの考えが変わらない限り、ここは武力に頼るしかない。上西国を、いや、この広大な大陸を外国の物にしないためにも私たちは戦わなければならない。あなたを殺す」

「待て、早まるな! わ、我に何をして欲しいのだ!?」

「東王国の王として、上西港の王に望むことは、外国の支配を取り除き、外国に恐れない事だ」

「それでは上西国はどうなるというのだ? カイタタハイラを奪い返すのか?」

「カイタタハイラに生まれた子ども達は外国人だ。その子ども達が今、外国を排除しようとしているそうだな。それは外国を嫌っているという事ではないか?」

「なぜ髷を切る者が増えてきたのだと思う? それは外国の文化だからだ。国民はそれを自ら望んだということではないか?」

「違うな、それはただの流行だ。まだ国民達は西のままでいたいのだ。外国の支配を望んでいるのならカイタタハイラ以外の国ができているはずだ。外見を変えると言うのは前慶のように帽子をかぶるのと同じことだ。ただそれだけのことなのだ」

 前慶はシルクハットをいじった。確かにこの場で帽子を被っているのは前慶だけである。


 大きく息を吐いて天人は深く腰掛けた。丹野が前に出る。

「天人様、外見は外国同様のものになりました。ですが、このままでは精神までもが外国に支配され、西国民がいなくなってしまいます!」

「もうこの国は外国の物なのだ! 諦めろ! 天人の御意志は変わらない!」

 丹野の訴えに山野が一喝するも天人は山野に手を向けて黙るように促したがまだ暗い顔をしていた。

「天人様、天宮に入る前に西軍を率いる滝本殿や武古屋を見かけました。しかし、我々に一騎打ちを仕掛けてくることはなかった。それはどういう事かお分かりですか?」

「なんだと! 我は…武士に見限られたということか!?」

 織田島の発言に再び席を立ちあがる天人。

「そうか…滝本までもが…」

 その時、紫色の鎧に身を包んだ滝本が部屋に入ってきた。

「ずいぶん長く話しをしているな」

 そして天人に向って礼をする。

「天人、先ほど入った情報ではすでにカイタタハイラに外国軍が集結しているそうです。外国が出てこれないようにしなければなりません。出陣しますがよろしいですか?」

「た、滝本! 我が…お主を裏切ったのだ。すまなかった…。外国の事はお主に任せる。我よりもお主のほうが正しい行動をするだろう」

 その発言に側近の二人は驚いた。二人が喚くように外国には手を出さないように天人を説得しようとしているが、手を広げて制止した。


「自分の命を守るために我は国民を巻き込んでいた。それを東王国に教えてもらうとは…我は恥ずかしい」

 頭を抱えてうつむいた。

「滝本、申し訳なかった。対外国軍の総大将を任命する! こんな言い方もなんだが、後は好きにしてくれ。我はお主を信じる」

 滝本は膝を着いて返事をした。そして立ち上がり振り向いたその顔はは覇気が満ち溢れている。

「織田島、丹野! お主達の力が必要だ。力を貸してくれ!」

 二人は深々と礼をした。滝本は前慶の前に来て手を出した。

「前慶! 今度は私と一騎打ちをしてくれ」

「え? 嫌だよぉ。おめぇ強ぇからよぉ」

 無理やり前慶の手を取り、握手した。

「フッ、逃がさないからな」

 ニヤリと笑って天の間を後にした。織田島と丹野も安然王や極龍組に笑顔を浮かべながら挨拶して出て行った。

「おぃ、天嵬ぃ、次に滝本殿が来たら頼むわ」

「あいつぁ俺でも無理かもしれねぇ」

 真剣な顔をしていた。

「えぇ? おいおぃ、冗談だろ?」

「いやぁ~あいつぁ強ぇぜ」

「二人ともそこまでだ。安然王の話は続いている」

 正弦が窘める。


「天人よ、外国と敵対することになればカイタタハイラも取り戻さなければならない」

「安然王はやはり戦になると思うか?」

「外国と話しが通じればいいが…。無駄な血は流したくないからな」

「ここまで来ちまったらぁ、時には殺し合いにもなる。簡単に終わらねぇぜ。わかるだろ?」

 前慶の言葉に皆、黙ってしまった。

「やるしかないな。なるべくそれを控えたいが…。安然王よ、我に力を貸して欲しい」

「この大陸を外国から守る事は大陸統一の鍵となる。外国と戦争ばかりしていては大陸内でも内紛が起こるかもしれん。ここは協力し合おうではないか」

 安然王は手を出して近付く。天人は座から降りて安然王と握手した。これは東西統一をしたと言っても過言ではない歴史的な出来事となった。




 天宮の場外。西軍の幕舎がたくさん建てられている。織田島と丹野、そして滝本が西軍に戻ってくると歓声が上がった。赤坂が独派で仕入れた情報を手紙にして持ってきた。

「何! もう外国軍が出陣しただと!」

 さすがに滝本の手紙を持つ手が震えた。赤坂を除いてその場にいた武士達は驚いた。天人と約束していた期日よりも早すぎる。

江墨州(こうぼくしゅう)から来るってさー」

 赤坂の言葉に武士達はさらに驚いた。滝本の予想通りだった。

「やはり江墨か」

 織田島は腕を組んで納得していた。

「織田島殿も江墨州からって思ってたのかい?」

「当たり前だ! どれだけ上国を攻めやすいと思っているんだ。赤坂も江墨は見たことがあるだろう」

「平原だもんねぇ~」

「おしゃべりはここまでだ、後は移動しながら軍議を開く。上国に外国を入れないために急いで陣を張りに行くぞ!」

 滝本の指示で軍の再編成を始めた。天宮から江墨州と上国の境までは丸一日あれば到着する。しかし、夜は行軍しないため、今から行っても途中で進軍を止めなければならない。外国軍より遅れて着くのは滝本達には十分わかっていた。そこで滝本は五千騎の先発軍を作り、丹野を大将に、武古屋を副将に任命した。少しでも外国軍の進行を牽制するためだ。残った一万五千のうち、一万は東軍に対抗するために残しておいた。その一万は独派に敗れた武士達に任せ、残りの五千を滝本が率いることとなった。

 天宮付近まで集まった国民達も進軍が始まると歓声を上げて応援した。中には付いて行く者もいた。




 翌日、午前中。先発軍は上国と江墨州の州境に到着した。少々、強引な行軍ではあったが夜はしっかり休んでいるの疲労度は低い。辺りを見回しても外国軍の形跡はない。

 西軍の本体はまだ半日かかる距離にいると予想される。先発軍は陣地を張る場所を探していた。国境付近では木が多く大人数の陣を張るには困難であった。

 偵察部隊からの知らせを受けた武古屋が丹野を探していた。

「丹野殿~! あの森の間に陣を張れば外国軍が見えませんかね?」

「ふむ。だが、向こうも同じことを考えていた場合、ああいう場所は危険だ」

「じゃあ、ちょっと偵察してきますよ。丹野殿が気にしているのは伏兵とかってやつでしょ?」

「そうだ。実際に経験した事はないが、とても危険な状態に陥るというのを聞いた事がある」

「へぇ~。じゃ本隊はここにいてください。俺らで行ってきますよ」

 そういうと武古屋は騎馬隊五百人を連れて進みだした。

「くれぐれも気を付けろよ!」

 帰ってきた偵察部隊の話では外国軍はいない。それを信じて武古屋は部隊を進めた。


 森に入って見ると陣を張れば大軍は通れない。しかし森を焼き払われると危険だというのはわかった。だが外国軍がそんなことをするとは思えない。

「平気そうじゃないか。森の中を調べろ!」

 数名の兵士が森の中に入ろうとした時、見た事もない弓に射られて死んだ。

「まさか、もう来ているのか!」

 その時、ガンガンと金属音のような異様な音が左右から鳴り響いた。そして森の中から外国軍が出現したこの奇襲には勉強したばかりの集団戦ができないくらい動揺した。一騎打ちで名乗りを挙げた者は数十本の矢の的になった。

 外国軍は銀色の鎧を着ていた。西洋鎧である。それで全身を覆う者もいれば体だけ覆う者もいた。しかし半は西国軍と同じ鎧を着ていた。武古屋は銀色の兵士を槍で突くが倒れるだけでゆっくりと起き上がってくる。

「槍が刺さらないぞ! なんなんだこいつらは! 退却!」

 武古屋隊の指示した頃には部隊は三百人ほどまで減っていた。騎馬部隊だったため森から離れるのは早かった。馬が混乱したために馬を捨てるものもいたが散り散りになって逃げる形となった。

 外国軍は森から出てこなかったが、武古屋も丹野も森から距離を置くことにした。




 幕舎を一つだけ建て、丹野と武古屋は深刻な表情だった。

「逃げてきたのはいいが…武古屋よ、外国軍は見たか?」

「見た。あの外国人の鎧は俺の槍を通さなかった」

 丹野が打刀を抜くと途中から折れていた。

「それは?」

「騎馬隊の打ち刀だ。斬れなかったらしい」

 武古屋は信じられないという顔をしていた。

「武古屋よ、これでは西軍全員の打刀が通用しないという事だ」

 二人は悩んでいた。その時、西軍本隊が到着したと知らせが来た。二人は外に出ると滝本が立っていた。

「だ、大隊長!」

 二人とも平伏した。

「もう外国と戦ったのは本当か」

「伏兵とかってのをやられてしまいまして」

「武古屋…お主らを責める事はできん。これが外国の力なのか。一騎打ちをしたわけじゃないのか?」

「えぇ。こっちは何人か名乗り出たんですけど向こうは集団で…。せっかく教えてもらったばかりの集団戦を実行することもできず」

 武古屋は肩を落としていた。

「こちらの一騎打ちを無視したのか? 東軍と戦った時と同じように?」

「向こうは一度も一騎打ちを名乗り出ませんでした」

「外国は集団戦法か…。伏兵などという戦法も知っているというわけか」

「大隊長、ここを突破されてしまったら上国はすぐそこです。何度もこのような戦が続いてしまったら…」

 丹野の言葉に滝本は腕を組んで考え込んだ。国民保護主義の滝本は怪我をしている国民を前線から上国へと返す手筈を整え、約一万の兵で奇襲に会った森までは行かずに陣を敷いた。

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