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九龍組  作者: 大蔵 富造
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第九・五話

 夜。武古屋が一騎で独派陣に来た。その知らせを受けた滝本が出迎えた。

「怒っていないか?」

「怒ってますよ」

「すまん。お前たちも裏切る事になってしまった」

「そうじゃなくてぇ、いきなり代表にされたら普通怒りますよ?」

「私が裏切った事に怒っているんじゃないのか?」

「誰でも家族を人質に取られたら、命令なんて聞いてられないでしょ? 俺には家族がいないけど、いたら一人でも上国に乗り込んでますよ」

「武古屋…ありがとう」

 頭を下げた。

「や、やめてくださいよ~。それよりあの兵士達を返しますよ」

「どういうことだ?」

「始めは天人を討つ事に抵抗があったらしいんですけど、いざ外国に支配されてカイタタハイラのようになるのは嫌だと。そういうことであの兵士達は味方になりました」

「そうか、それは助かる。私もカイタタハイラを出てきたのはこれ以上の支配を避けるためだった」

「でも、髷を切ったのは外国の影響なんですよぉ。そういうところはしっかりしてますよね~」

「流行というものはそういうものだ。自由な立場にいるから楽しめるのだ。カイタタハイラに住む者にとっては、髷があることが上西国の人間だという証だったよな」

「そうッスよね~」

「ここ最近でいろいろな考え方があることはよく分かった。順応しなければならない」

「大隊長も変わり始めましたか?」

「独派の奴らとも東の奴らとも話したからかも知れんな」

 滝本は東の方角をじっと見た。


「それから皆は天人に言葉で訴える事にしたらしいです」

「そうか。私も色々と考えた。力で天人を押さえ込むのは外国と変わらない。天人と国民が話すことが大事なのだ。だがな、結局は武力に物を言わすようになってしまうのではないかと心配だ」

 そこに赤坂と南海が来た。

「とにかくやってみなきゃ分からんさ! 早くしないと外国が来ちゃうし」

「大隊長、外国軍はどれほどの軍なんでしょうか?」

「船で来るわけだからそう多くはないと思うが…。赤坂よ、カイタタハイラはどうなんだ?」

「警備が厳しくなってるから、もしかしたらもう兵士達がいるかもしれないさ。ともかく天人の元へ行こう」

「ちょ、ちょっと待て。もういるかもしれないだと?」

 武古屋の問いに赤坂はうんうんとうなずいた。

「わからないけど、そんな感じがするさ。情報を基にした勘だね」

「だってよ、上国とカイタタハイラの間の連峰を乗り越えりゃ、二日で上国に入れるぜ? ちょっと気合が必要だけど。そうなっちまったら――」

「それなら平気さ。外国人どもはあの山を恐れている」

「確かにカイタタハイラにいた頃に聞いたことがある。だが、なんでだ?」

 滝本が聞いた。

「そんなの知らないさ~。でも、あの山には入らないんだってさ」

 外国人が恐れる連峰とは上国とカイタタハイラの州境にある山々。ここを超えればすぐに上国に入れるが、外国人は連峰に入る事をなぜか恐れている。

「なんでかわからなくともそれならそれでいい。攻めてくる方向もわかる」

 南海の言うことに武古屋はうなずく。

「てぇことは外国が攻めてくるのは江墨州(こうぼくしゅう)冷泉州(れいせんしゅう)?」

 冷泉州は上国の北に位置する。カイタタハイラから直接攻め込む事ができる位置にある。

「そういうことだ」

 武古屋の意見にうなずく南海。

「冷泉州から来るだろう」

「なんでさ?」

 滝本の断言に赤坂が聞いた。

「土地が開けているから移動しやすい。私が外国ならばそちらを選ぶ」

「さすがは大隊長。江墨州には独派がいるから何かあれば知らせてくるさ。さぁ天人に会いに行こうぜ!」

 赤坂は馬のところに行こうとした。

「駄目だ、明日の朝に移動だ。暗闇での行軍は危険だ。我々だけが先に上国に行っても駄目だ。ここにいる全員で行くのだ」

 滝本の提案に一同は休息を取ることにした。




 翌日の朝から滝本、武古屋、南海は兵士を連れて上国に向かった。その中には独派三百人を置いて一人、西軍に混じる赤坂がいた。先に解散した西軍兵士を集めるべく早馬も走った。そして天人が武士を裏切ったという掛け声とともに兵士の数も増え、国民には外国の支配が始まると誇張して言いふらしながら上国を目指した。

 夕方には二万人に膨れ上がった兵士と国民は天宮の近くまで来ていた。同じように天宮を目指すように旗を作さん掲げた一群が正面から来た。それは天嵬率いる東王国軍の先発である。行き先はもちろん天宮である。上国より東側では東軍の出現に慌てふためいたが兵士もいないためどうしていいかわからないうちに、東軍の侵入を許していた。

 東軍も戦う意思がないことを何百枚という旗に記して行軍を続けた。それに鎧も着ていないため戦ではないのかもしれない、年始に現れる使者がたくさん来ただけかもしれないと考えた結果、旗に書いてあるように戦わないことを信じた。


 天宮の大門あたりで東軍を目視で確認すると武古屋が二十騎ほど連れて、東軍の前に出た。

「止まれ~! 一体、何しに来た?」

 先頭を悠々と進んでいた天嵬の合図で先頭の東軍は止まった。

「あれぇ? お前どっかで見たなぁ? その鎧の色…」

「そんな事はどおでもいいんだよ。聞きたいことは山ほどあるんだけど、まずは何しに来たんだ?」

「これから天人と話しに行くんだぁ」

「お主がか?」

「俺じゃあ不満かぁ、おぃ?」

 睨んでみせるが、すぐ顔を緩ませる。

「安心しろよぉ、俺じゃねぇ。もう少ししたら来るぜぇ」

「なにが来るってんだぁ?」

「それは内緒だなぁ~」

「…何がしてぇのかわからねぇけど、ともかく我々が先に天宮に入る。それまで止まっていろ!」

「そうゆーわけにはいかねぇ、こっちぁはるばる東から来てんだよぉ。客人をもてなさねぇのかぁ?」

「何が客人だ。だいたいだなぁ、東の連中が――」

「ほらほら、俺らが言いあってても軍ぁ進行中だ」

 天嵬達を避けるように東軍の三十騎ほどが全速力で進んでいた。天宮の大門をくぐっていく。

「あっ! 謀ったなぁ!」

「じゃぁお先に」

 天嵬も一気に馬を進めた。武古屋は天嵬を追いかけるが、天嵬は門の中へを走っていった。



「申し訳ないです! 先に進まれてしまった!」

 武古屋は歯がゆい思いで西軍まで戻るが滝本は東を見ていた。

「だ、大隊長?」

「あれを見ろ」

 指を指したほうにいたのは丹野と織田島であった。南海もそれを確認した。

「なんと! あの二人はすでに東に到着していたのか!」

「家族も連れてたんだろ。そんなすぐ東国に入れるわけがねぇ」

「そうそう、武古屋の言う通りさ。あの二人は東に入らないで東軍に合流したんだろうな。それから二人の後ろにいるのが向こうの王様、安然王さ。俺は会ったことがあるから間違いない」」

 その場にいたみんなが驚いた。車椅子に乗っている安然王がいた。

「とにかく我々は東に先を越された。天宮の場外で幕を張るぞ」

 滝本は先に天人に会うのを諦めた。

「大隊長、また私が天宮の中に入ってまいります」

「いや、南海、もう十分だ。あの二人も向こうにいるしな。しかも東の国王を警護するほどだ。余程、意見が合致したのだろう」

 安然王が天宮の大門をくぐっていくのを見届けると、陣を張り始めた。

「あいつが言ってた後から来る奴ってのは王様の事かよ…。普通、来るか…?」

 武古屋は呆気に取られていた。

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