第七話 西と東 ~一騎の美学~
夜、前慶と唐嘉は太禅高王廟を管理する坊主を連れて王の間に来た。その坊主は年齢の割にはロン毛のポニーテールでスーツ姿である。坊主の中でも高僧と言われる者たちは髪を長くするのも修行のひとつと考えている。
急遽、集められたため城にいた九品有権党党首の徐江も立ち会っている。坊主は王の前でひれ伏した。ポニーテールが床に着いている。
「わりぃな、オー様。時間がかかっちまったぁ。この坊主が言ってたんだがぁ、太禅高王の呪いぁ東だけの話しなんだとぉ」
「なんだと? どういうことだ、さぁ顔を上げなさい。そのままじゃ私も話しづらい」
「前慶殿がおっしゃられた通り、太禅高王の呪いと言われるものはこの東王国大陸に限ったものと判明しております」
「へ? なんスか、そんな都合のいいことが?」
前慶が徐江を睨んだ。徐江は気迫に負けた。
「前慶、睨むな。実は壁がなくなれば成仏すると話したそうなんです。…太禅高王が」
唐嘉の答えに王と徐江は驚いた。
「そんなバカな! 死人が話しをしたっていうんスか~!?」
坊主が本を取り出して掲げて見せた。
「党首の申される通りでございます。この本の記録によれば太禅高王廟建立式典の際に、天候が荒れ、本堂の太禅高王像が何故か霧に囲まれたのです。霧は像の口より入ると〝壁が無くなるまで、この国での殺人は許さん。私が東の守り神となる〟と話したそうでございます」
安然王と徐江はまた驚いた。
「へ、へぇ~。でも本当に都合のいい話しッスねぇ?」
疑う徐江を坊主が睨んだ。
「でもよぉ、ホントなんだと。さらにだ、さっき聞いたけどよぉ、坊主の話しによりゃあ、今朝方、像から大量の霧が出てったんだとぉ!」
「ほ、本当か!」
王は驚きのあまり立ち上がった。
「はい。いったい何事が起ったのかと、我々坊主一同も震えておりましたが、過去に似たようなことが無かったのかと古文書を調べていたところ、ちょうどお二人が参られたのです」
「そうか。像に入った霧が出て行ったということは…太禅高王は成仏なされたということか?」
唐嘉が前に出る。
「王様、ここで気を付けなければならない事があります」
「なんだ?」
「呪いが無くなった事が知れたら、殺人を犯す国民が出るかもしれません」
「そんな事はないと思いたいが…それはいかん! 何か手は無いか?」
「あるぜぇ、殺人をさせなきゃいいんだぁ。人を殺す事は悪ぃ事だって思わせなきゃいけねぇ」
「なるほど。…よし、太禅高王に習い、戦以外で人を殺したものは死罪とする。これで、よいかな?」
一同、納得してうなずいた。
翌日の昼には王国の太禅高王廟で安然王自らが『殺人罪』という新たにできた法律の内容を読み上げ全国に発布した。全国にある太禅高王廟にて国主が殺人罪の説明を行い、太禅高王の呪いは解けた。だが、まだ誰も人を殺していないので本当に呪いが解けたのかはわからない。試してみてまだ呪いが残っていれば一族が滅亡してしまうかもしれない。それに殺人罪まで適用される。呪いが解けたのか半信半疑ではあるが国民は今までと変わらないと殺人罪をあっさりと受け入れた。
戦争で戦う事ができるようになったが、やはり戦争は避けたいと思っている。しかし、上西国大陸より十日後に攻め込むという書状が届いた。東王国大陸中に早馬が駆け、慌ただしくなった。いよいよ戦争が始まる。
西軍は壁国とだいたい同じ位置にある帯壺州という地域に約三万人の兵を集めていた。小さな国々が集まり、西大陸の大部分は「州」として構築されている。壁が建設された時の名残で西大陸を支配する天人のいる上国だけが上西国大陸で国として存在している。
遠くの方に西の兵士たちを確認したところで壁国の人壁だけを取り払い、王国と壁国の間に人壁を立てた。
徐江は唐嘉の策で、もしも壁華国が攻められた場合に一万人の義勇軍を連れて壁華国に向かった。徐江は最前線に立ちたいと反対したが九品有権党の党首として重要な役目であると説得されて、意気揚々と壁華国に向かった。そして壁際の南側にある壁端国には壁端国国主の真川と岩海国国主の小篠が二万人の兵で待機している。そして肝心の壁国は九品有権党を含めた二万人の兵で守りを固める。
予告通りに西軍が歩兵を先頭に徐々に進軍して、水深の低い川を渡ってきた。壁国が残した門をくぐる兵士もいれば、あえて避ける兵士もいる。ついに壁国内に侵入して来た。
もともと壁があったため誰も近づかないようにと壁付近には大きな平野があり、いくつかの部隊で構成された先発隊の西軍約一万人はひとまず陣取った。西軍も初めて壁を越えたことでどうやって立ち回っていいものか攻めあぐねていた。そもそもこんな大軍で移動したこともない。東軍がどのような手で攻めてくるかわからなかったためとにかく数を集めたのだ。この日は壁国に入っただけで進軍は止めた。
夜も緊迫感に包まれ、寝るに寝れなかった兵士もたくさんいたという。
平野には壁国都市部に近づけさせないよう、東王国の陣が待ち構えていた。その陣の中には極龍組もいる。
翌朝。両軍の姿かたちがハッキリと目視できる距離で対峙すると、全身を緑色の鎧で固めた武将が西軍から一人だけ出てきた。
「やぁやぁ! 我こそは東王国討伐軍三番隊隊―――」
「かかれぇ!」
東軍の指揮者が一声挙げると二十騎ほど走り出し、罪人を捕まえるように西軍武将を捕らえた。すると西軍から罵声が上がった。だが、誰も助けに来る様子もない。ともかく捕らえた武将を本陣に連れてくる。
その武将は指揮者の前に座らせられると、憤怒の表情であった。
「お主らは一騎打ちを何だと思っている!」
「何を言っているんだ、こいつは?」
指揮者はバカにしたように見下げた。周りの兵士たちもクスクス笑っている。
「お主らは恥も知らんのか!」
武将は憤慨したままだ。そこに前慶と極龍組の面々も集まった。
「ちょっといいかぁ? そいつと話しさせてくれぇ」
指揮者は嫌な顔をした。彼はあまり前慶のことを好きではない。
「好きに話せ」
「…なんだ、お主は? ふざけた格好をしおって」
武将はジーッと前慶を見て言った。前慶はいつもどおりのスーツである。
「ふざけた格好だとぉ? どこがぁ?」
スーツにおかしな部分がないか確認している。
「そんな布みたいなもので頭が守れるのか!」
「これぇ? これぁ…飾りだぁ。わかんねぇかなぁ?」
武将の前でシルクハットを取って見せて、指でクルクルと回した。
「くだらん!」
「俺からしてみれば、おめー達も面白い格好だけどなぁ。その頭はなんだ? 髪の毛? で、これがぁ鎧ってやつなのか?」
前慶は髷をした頭と緑色の鎧をまじまじと見ながら武将の周りを一周して、鎧に顔を近づけたり、兜をもって装飾をじっくりと見た。
「あっ! そうだそうだ、あの罵声はなんなんだぁ?」
「お主らが一騎打ちを拒否したからだ。一騎打ちこそ戦の華。戦の美学だ!」
西では一騎打ちこそが最高の美学である。しかし、東王国では文献から調べた集団戦法の練兵を行ってきていた。
「フ~ン。…なぁ、こいつぅ解放してやろうぜぇ? このままにしておいたらぁ…俺ら恥ぃかかいてんだろぉ? なんか嫌じゃん?」
「な、何を言っている! これが東王国の戦だぞ!」
指揮者が前慶に詰め寄ると天嵬が間に入った。見上げる指揮者は、
「また捕まえりゃいいじゃねぇかぁ! また俺が捕まえてやっからよぉ!」
と、睨みに押され、あとずさりしていく。
「わ、わかった、わかった。…この者を離してやれ! き、極龍組、責任を取れよ!」
縄を解かれたことに武将はとても不思議に、そして夢でも見ているかのように辺りを見回す。
「おめー向こうに行ったら、もう一回かかってこいよ?」
天嵬が武将の前に出て挑発すると武将は睨みに負けず、
「私の名前は南海 考助である。また会おう」
前慶から兜を受け取ると堂々と陣を後にし、西軍へと戻っていくと歓声が上がった。
「まったく、なんでこんなところに極龍どもがいるんだ…」
指揮者は肩を落とした。
西軍。帰ってきた南海の周りに他の武将達が集まった。皆、髷を結っている。
「おぉ、南海! 怪我はないか! 逃げてきたのか!?」
青色の鎧を着ている丹野 松之(三十六歳)が南海の両肩を叩いて無事を確認した。
「そ、それが…解放されたのだ。そして、よくわからん奴らが敵陣にいる」
「まったく一騎打ちの素晴らしがわからんとは! これだから東王人は!」
顔を真っ赤にして言うのは黄色の鎧を着ている織田島(三十八歳)である。彼が言う東王人とはそのままの通りで東王国大陸に住む者たちのことである。
「しかし、次からは一騎打ちに答えてくるかもしれん」
「本当かぁ南海殿? ちょっくら試してくらぁ」
赤色の鎧を着ている武古屋(二十七歳)が慣れた様子で三又の槍を持ち、馬に乗った。それを見送る武将達は一騎打ちに応じるのか東軍をじっと見た。
「お~い、誰かこの俺と勝負しろぉ! 東王国討伐軍五番隊隊長、武古屋・A・一士だぁ! かかってきやがれぇ!」
槍を振り回しながら、見得を切った。
武古屋は上西国大陸の北西にある外国植民地『カイタタハイラ』で生まれている。カイタタハイラの中にいる上西国人の間に生まれているが、戸籍は外国人であり、外国人の証として名前の間に記号が置かれている。上西国の兵士として就職しているため、軍では上西国人として扱われている。
武古屋の見栄に反応した前慶は腕を回している。
「よぉし、俺が相手だぁ。ちょっくら行ってくるぜぇ!」
「組長! 俺が先に行きます!」
周泰征が前慶の前に出た。天嵬は前慶の行動に呆れている。
「シュウの言うとおりだぁ。おめぇ~さ~何考えてんだよぉ。普通ぁ組長が先に行かねぇぞ?」
「そうですよ、シュウより先に俺が行きますよ!」
新豪も前に出て止めた。そこら辺にある槍を持った前慶は素振りをしている。
「組長だからこそぉ、やる気を見せなきゃなんねぇだろぉ! な?」
ニコッと微笑んでみせると自分の馬に乗り、鎖帷子以外の防具は付けず、シルクハットも被ったままだ。馬の前に指揮者が出てきた。
「おい! これ以上勝手な事をしてくれるな!」
「これぁ極龍組が勝手にしたことなんでぇ、気にしないでくれよ」
「ムムム…もう、どうなっても知らんぞ!」
指揮者の怒りも聞き流し、前慶はどんどん進んで行った。だが、その騎馬姿はなんとなくぎこちない。程子はぎこちない前慶を指さし、
「ねぇ、止めないの?」
「もぉ止まんねぇだろぉ。あいつぁ頑固だろ」
天嵬は諦めていた。
「でもさぁ、馬に乗るのかなり久し振りだと思うよ~」
そこにいた一同は程子を見た。正弦が信じられないという顔をしている。
「ほ、本当ですか?」
程子は笑顔のままうなずいた。一同はヨロヨロしている前慶の後ろ姿に一抹の不安を感じた。
前慶と武古屋は両陣の間で相見えた。二人の周りには何万人もいるのにとても静かである。
「俺ぁ、極龍組組長、前慶だぁ。俺が勝負しようじゃねえかぁ?」
シルクハットを取って挨拶して見せた。
「お、なんかしゃべり方が似てんなぁ。まぁ俺はハキハキしゃべるがな」
「ハッハッハッ、その訛りでぇ冗談が巧いな。でもよ、俺の方がぁ顔がいいな」
顎に手をやって気取ってみせた。
「関係ねぇだろ! じゃあ、その自慢の顔を潰してやらぁ!」
「そぉか自慢に見えるほどやっぱ俺ってぇカッコイイ?」
「うるせぃ!」
武古屋の馬が走り出した。交差する瞬間、振りかぶられた三又の槍をかわす前慶だが一向に馬を走らせない。その場で転回するだけだ。戻ってきた武古屋の突きは鎖帷子を貫く勢いである。何度も襲いかかってくる武古屋。
「危ねぇじゃねぇか!」
「すばしっこい奴だなぁ! さっさと死ね!」
「一つ聞きてぇんだがよ、西じゃ人を殺した時にぁ何も起こらねぇのかぁ?」
「何ってせいぜい役人が追っかけてくるだけだぁ!」
「役人ってのは人だよなぁ?」
「なんだその質問は、人に決まってるだろう!」
また襲い掛かってきた武古屋に前慶は初めて突きを出すが、槍は赤色の鎧を通さず、槍先が折れた。
「おぉ! なんだぁ! この槍ぁ!?」
「隙ありぃ!」
三又の槍は頭を狙うが、ギリギリで避けたために前慶はバランスを崩して落馬した。その時、シルクハットが脱げた。武古屋は前慶に止めを刺そうとしたが、前慶は両手を挙げていた。武古屋は異様な行動に馬を止めた。
「な、なんだぁ? なにしてやがる?」
「降参だぁ~! 参った、参ったぁ! 槍が折れちゃ戦になんねぇ」
笑っている。
「な、なんだとぉ! お前、それでも武士かぁ?」
「なんだぁ、武士って?」
「知らねぇならどうでもいい…とりあえず死ねぇ」
「あぁ構わねぇぜ。俺の命くれてやらぁ」
その発言に振り上げた槍が止まった。
「なんでだ?」
「なんでって、もう俺ぁ必要ねぇ。極龍組だってシュウがいれば平気だぁ」
ゆっくりと手を下して、落ちているシルクハットを拾うと砂を払う。
「そうだなぁ、俺がぁ死んだら組員ぐれぇぁ悲しんでくれるかもなぁ」
被るとニカッと笑って見せた。
「お前、さっきから戦場でベラベラとしゃべりやがって…殺す気が失せた! 陣に来い!」
槍で押されて西軍へと誘導される。
「おぅ、危ねぇ。しゃべってたのぁお互い様だろぉ?」
「うるせぇ、ヘラヘラしてねぇ、さっさと歩けぇ!」
「ハッハッハッ、捕まっちったぁ」
前慶の馬は自然と東軍へと戻ってきた。その時、指揮者が前慶を指をさして地団駄を踏んでいる。
「そら見ろ! 捕まっているではないか!」
「ホントだねぇ~、クミチョー捕まっちゃったね~」
「おぃおぃ、程子ぃ笑い事じゃねぇだろぉがぁ。…どうするよ?」
天嵬が頭をかきながら周泰征に聞いた。
「組長が殺されるか、殺されないかで状況は変わるが…」
「あ~~、やっぱり俺が行っときゃよかったぁ!」
新豪は頭を抑えて悔しがった。新豪の後ろから正弦が出てくる。
「あの赤い武将がすぐに殺さなかったところを見ると組長が殺されるまで時間があると思われます。西軍も情報が欲しでしょうから。それに、先ほど南海という武将を解放したことで西軍にも解放するべきという動きが出るかもしれません…。ですが、より確実なものにするために向こうの武将を捕らえて交換条件にしましょう。ここは、私が行きます」
正弦が長々と話したことに極龍たちは驚いたが、正弦が出陣するという方がより驚いた。
「おぃ! 正弦、無茶言うな! 太刀を持たねぇあんたが―――」
「私の武器はこの鉄杖です」
銀色に輝く杖を見せた。鉄杖とは一・五mほどの棒である。失敗作の太刀などを再加工したもので出来ている。
「ま、まさかそれだけで? 危険です!」
周泰征は止めにかかった。
「安心しろ。私もこれだけでは不安だ、隠し玉もある」
「でもよぉ…」
「天嵬殿、私はただの管理人ではないですよ。まぁ、見ててください」
颯爽と馬に乗り、一気に陣を飛び出した。
「ホントに平気か?」
「シンゴーも心配性だなぁ。隠し玉があるって言ってたじゃない?」
「程子の言うとおりだ。皆、正弦殿を応援しろ!」
シュウの命令で組員達が励ましの声援を送る。その声は出陣する正弦に十分に聞こえた。
「フフ、皆から声援を受けるとは。さらに気合を入れなければ!」
正弦が出てきた時に武古屋が前慶を連れてきた。後ろ手に縛られて座らせられる前慶。そこに武将達が集まってきた。南海の姿もある。武古屋は槍を部下に渡した。
「こいつは殺す価値がねぇ。俺の槍が泣いちまう」
「武古屋よ、この人が私を解放した人だ!」
南海が前慶に近づいた。前慶はニヤニヤしている。
「おぉ、あんたぁ。久しぶりだなぁ。今度ぁ俺が捕まっちまった」
「諸将よ、この人は私が敵だというのに、解放してくれた。どうだろう、その貸しとして解放してやっては?」
「そうだ、それで貸し借り無しになる。仕切り直しができるぞ」
丹野は賛成した。
「こいつの命は好きにしてくれぇ。あ~ぁ、もっと歯ごたえのある奴と戦いたかったぜぇ!」
武古屋も賛成のようだが織田島は腕を組んで納得していない。
「諸将よ、甘い。甘すぎるぞ! こやつは敵だぞ! 強い弱いの問題ではない!」
「織田島殿、そう言わずに。南海の顔を立ててやってはくれまいか?」
丹野の説得にも耳を貸そうとしない。
「ならん。武士は武士らしく戦場で散るべきよ!」
「こいつは武士じゃねぇんだ」
武古屋の発言に皆、驚いた。
「何! お主、武士じゃないのか!? さては農民か!」
織田島はすっとんきょうな声を上げてしまった。
「なんだよ、武士ってのは? それに俺ぁ農民じゃねぇ! 極龍組の―――」
「武士とは我々のように戦場で命を張る者のことだ!」
織田島が前慶を遮った。
「なるほどな、東国で言う〝古士〟だなぁ」
「なんだよ、古士って?」
「おめーぁ武古屋っつったな。教えてやるよぉ、東にぁ武士じゃなくて古士がいた。東ぁ長~い間、戦が無かった。あの壁ができた頃からなぁ。だから昔、戦をしていた人を古士っつぅんだぁ」
一同、納得した。
「東に戦はなかったのか…。同じ大陸でありながら不思議だな」
南海がそういった時、声が聞こえた。
「私は極龍組管理人、正弦だ! 一騎打ちをする者はいないか!」
「なにぃ? 正弦だとぉ!」
さすがの前慶も驚き、立ち上がって武将や兵士たちの間を抜けて走って行った。走り出した前慶に慌てた武将たちもあとを追いかける。
「おい、勝手に動くんじゃねぇ! なんだよ、あいつ強ぇのか?」
「俺よりもな。それにぃ武古屋ぁ、あんたよりも強ぇぞ~」
前慶の肩を押さえる武古屋を肘で小突いた。それを聞いた織田島。
「ならば奴を捕らえてくれるわ! こやつの処分は待っとけ!」
織田島はヒラリと馬に乗り、出陣した。その手には双戟が握られていた。二本の一m程の戟で、取り扱いが難しい武器でもある。
「織田島は強い。殺されるかもしれないぞ」
「フフフ。南海殿ぉ、極龍組管理人の強さが分かるぜぇ」
前慶は不敵の笑みである。
「か、管理人? 古士でもなければ武士でもないのだろう? そんなに強いのか?」
「丹野殿、どぉせこいつのハッタリだよ。あ~ぁ、俺が戦いたかった。しっかし東はあんな格好で戦うんだなぁ…」
もちろんスーツ姿のことである。