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†|赫夜の聖戦†《scaret night jihad》  作者: 再生紫電・怪獣
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第8話「†隙 間†《weakness》」

敵を生かすも殺すも主人公次第、俺には罪を背負う勇気はありません

a.


トイレで襲って来た腕の正体が最初に勘違いした通り、幽霊ならばお祓いなりして去って貰えたかもしれない。


そうすれば戦わずに済んだのに....腕の正体がまだ潜伏していないか、確認の為に家中を回る水無の後ろをついて歩きながら、緋美華は思った。



「やっぱり、もういないか」



最後に天井裏を確認、此処にも敵は居ないと分かった水無がそう言ったので緋美華はホッと胸を撫で下ろす。


しかし直ぐに、緋美華は安心してしまった自分を恥じる。人を襲う能力者に逃亡されたのだから、自分以外の被害者が出る可能性だってあるのに安心して良いワケがないのだと。



「腕を切られちゃったんだから逃げるのも仕方ないよ」



「あんな一瞬で逃亡するなんて」



「瞬間移動する能力だったりするのかな?」



「それならトイレの中に潜むなんて出来ないよ」



「うーん、確かに小さい子供でもトイレの中に入れる訳ないもんね」



洋式トイレだから入れないのは尚更だ....和式ならシュールかつ臭いや汚さで凄まじく苦難ではあるものの、張り付いて潜入できないこともないが。


つまり何処からでも現れる可能性があり、常に警戒を怠れない相手であるんだと二人は気を引き締める。



「寝てる間にまた来るかもしれない」



「自宅の場所も知られちゃってるもんね、ヤバいかな」



「相手はこの家を知っている存在ということにもなる」



「じゃあ私の事を知ってる人? どっかで恨み買うようなことしちゃったのかなぁ」



「貴女に恨みを持つなら、録な人間じゃない」



「言い過ぎだよ」



恨まれる心当たりなら有る、私は水無ちゃんと初めて出会った日に人命を奪った。


彼は極悪人ではあったけど家族や友達とか彼を大切に思っている人も存在したはず、そんな人達から見たら私はさぞ恨めしいだろうなぁ....と考えて緋美華の胸はキュっと痛む。



「敵は誰かに、この場所を教えられた可能性あり」



「うう、何だか怖くなってきちゃった」



自分を憎んでる人が自分の住所を知っているとなれば、能力を得たとはいえ最近まで普通の女子高生であり、自宅に押し入った何者かに家族を殺害された過去を持つ緋美華にとってはかなりの恐怖だ。



「大丈夫、私がいれば何処に居ても安心」



「水無ちゃん....」



「緋美華は私が守るよ」



ぎゅっと水無は緋美華の手を握る、これだけでも少女に勇気を与えるには十分だった。



「うん、ありがとう」



緋美華は、こくり。と頷く水無の頭を撫でる、彼女が側にいる限り一人ではない、警戒は怠ってはいけないが戦慄する必要はないのだと思いながら。






B.


春野宅から逃亡した香美は腕の手当てを終え、フード少女と合流したのち高架下へと向かう。


すると、これまでカツアゲや暴行を幾度となく繰り返してきた危険な不良グループが屯しており、面倒にも絡んできた。



「俺たちと楽しみに来たのか? ぐへへ!」



「なんだ先客がいたのか」



「うるさい犬、お姉さまの真反対に位置するカスめ」



「なんだテメエ、オレらを舐めてんじゃねえ!」



「どんな素顔か見せて貰うぜ!」



香美の心底見下した台詞にプッツリ来た不良グループのリーダーが金属バットを、女をいたぶる趣味を持つ副リーダーが鉄パイプを持って彼女らに飛び掛かる。



「面倒臭いから無視してあげたのに....好奇心は狂犬をも殺す、か?」



フード少女がそう言い終えるまでには既に、不良チームのリーダーと副リーダーの全身(飛び出た臓器や骨までも)が手にした得物ごとサイコロ状に切断されていた。


これを見た不良どもと香美は、二度とサイコロステーキが食える気がしないと思わずにはいられなかった。



「テメエなにをしやがったんだ!?」



「なによコイツ、これが今の私の味方だって言うの?」



不良達だけでなく香美も顔面蒼白になっていた、人間サイコロステーキが眼前で作られたことも有るがフード少女が何をしたのか分からなかったからだ。


二人の不良に飛び掛かられたあと、彼女は微動だにせず台詞を吐いたのみ。切断系であるというのは死体を見れば分かるものの、どの武器が使われたのかさえ分からない。


そんな武器を持っていたとしても、あんな一瞬で屈強な男性をバラバラにしてしまうなんて人間には不可能だ。



「逃げろ! こいつは人間なんかじゃねえ」



「うわああああああ!!」



「見られたからには生かしておくワケにいかないんだ、ごめんよ!」



口では謝りつつも満面の笑みでフード少女は逃げ行く不良達の背中に何かを投げる動作を見せると同時に、彼らは全員、哀れにもどういう原理か一瞬で溶けてしまった。



「今頃は怯えているだろうね、安心できる場所である筈の自宅という聖域が侵されたんだから....もっとも春野 緋美華にとっては初めての経験じゃないけどね」



夜の高架下。殺した不良グループリーダーのサイコロ状になった腕の一部を眺めつつ、フード少女は吐き気を催しフラフラしている香美に言う。



挿絵(By みてみん)



「どういうこと?」



「彼女はその昔、自宅に押し入った何者かに両親を殺害されているんだよ」



「そう言えば、緋美華の自宅を教えたのは貴方だよね」



「....」



フード少女は返答もなく無言、フードで顔が隠れており表情が読めないのも相俟って気味が悪い。



「ま、まあいいわ、とにかく同情はしない、倒してお姉様を助け出す!」



「まるで勇者気取りだね、右腕を失ったのに勇ましい」



フード少女は、肘から先が無く包帯を巻いた香美の右腕を見つつ小馬鹿にした口調で拍手をする。ちなみに、香美の手当てをしたのはヴォルフトの同僚らしい。



「少し油断しただけよ、まさか子供にトイレまで付いてきて貰うほど精神年齢が低いなんて思わなかったし!」



「君ほどのやる気を見せてくれた子は初めてだよ」



「最初から二人いるって分かっていれば、こっちのもん!」



トイレの襲撃に失敗して右腕を切断されて逃亡してきたばかりなのに、よくやる気が残っているものだと、フード少女は感心しながら再び戦いへ赴く香美を見送るのだった。





C.


「いる、まさかもう戻ってくるなんて」



「そこか、てりゃあああ!!」



水無が気配に気付いて指した物、ラブリーなシールでデコレーションされた自分のタンスに緋美華は飛び蹴りを浴びせボコッとへこませる、今は物に攻撃するのは忍びないなんて言ってる場合ではないのだ。



「気配で分かるとか卑怯だな、わざわざ隙間にしか出てこれないと思わせる為に色々と頑張ったのにさー無駄だったじゃんか」



「わわっ! 今度はタンスからじゃなくて勉強机の中から声が聞こえるよ!?」



「やはり、一瞬で移動してる」



「えい!!」



緋美華は勉強机にも拳を叩き込むが全く手応えはない、そして案の定、声は別の場所から聞こえてくる。



「どれだけ攻撃しても無駄!」



香美はベッドの下から残った片腕を使い、緋美華の足に包丁を投げつける。



「うわっ!! 次はベッドの下から!?」



まんまと(くるぶし)に包丁を受けたことで、驚いた緋美華は転倒して顔面がベッド下の前に来てしまった。



「やばいかな....あはは」



「狙い通り、私が片腕ならお前は片目だ!」



「うあああああああああああ!!」



慌てて飛び起きようとする緋美華だったが間に合わず、右目をベッドの下から突き出されたカッターナイフで刺されてしまった。



「さぁ御姉様の居場所を言え、お前が御姉様を倒して誰かに引き渡したって聞いたんだ!!」



「ああああああああああっ!」



右目を両手で押さえ転げ回る程の激痛で答える余裕が無いのだが、御姉様の居場所を教えるつもりは未だ無いものと誤解した香美は、天井の僅かな亀裂の中に移動し、そこから緋美華に包丁を落とすと言う容赦ない追撃を行う。



「きゃああああああああ、ああ、あああ!!」



落下した包丁は緋美華の腹部に刺さり、刃先を真っ赤に染めて更なる絶叫を上げさせた。


良い気分だ、流石にこれだけ苦痛を与えたのだから答えるだろう....不敵な笑みを浮かべたとき、香美は水無がさっきから部屋の真ん中に座ったまま、ずっと動いていないことに気付く。



「どうしたガキ、こいつを助けないのか?」



「....」



水無は問いに答えず目を瞑り黙ったまま....端から見れば戦意を喪失しているようにも見えるし、香美もそう思った。


こちからの攻撃は直ぐに逃げられてしまうが向こうからは次々と攻撃が飛んでくる、何をしても無駄だから放心しているのだと。



「はははは! 貴方を見捨てたみたいね、良い性格してるわ!!」



「きゃああああ!!」



今度は数本のカッターナイフを背中に喰らい、緋美華の意識は朦朧としはじめている、かなり危険な状態だ。



「呑み込み欲望を充たせ、暴飲の水魔」



水無がボソっと呪文の様にそう唱えた瞬間、逆転の時は訪れる!!



「うっ....!?」



「ありがとう水無ちゃん」



香美の呻き声を聞いて出血と苦痛に耐えつつ立ち上がる緋美華に、水無は駆け寄り、すぐに腹部と右目に自分の唇を当てて治癒を行う。



「隙間のある場所、潜り込める可能性のある場所を水でいっぱいにしたの」



「さすが水無ちゃん!」



「なんばぼれば!?」



「私が緋美華を見捨てる訳ない。発動するには時間がかかる上に動く訳にはいかなかっただけ」



相手が潜り込めそうな場所という広範囲を水で満たし、溢れない様にする精密性が求められたので余計に時間が掛かってしまったのだ。



「ぐぞ、どこに移動しても水浸しだ、遠くに逃げる力も残ってない!!」



暗くて冷たい水の中で呼吸ができず苦しみが増していく恐怖、しかし出て行けば二人がかりでどんな目に遭わされるか分からない。


御姉様に再び会えず殺されたくない、水も能力である以上は水無のエネルギーが切れれば消えるはずだと香美は必死に耐える。



「ごめんね」



「ううん、信じてたもん! 水無ちゃんがいるから私は大丈夫だって!!」


挿絵(By みてみん)



「緋美華....」



水無は何時も通りの涼しい顔をしたまま顔を赤らめる、こんなに真っ直ぐで優しく強い人と邂逅できたのは凄く幸運だと。


挿絵(By みてみん)



「げぼぼぼぼぼっ」



「さて、溺死するか、姿を現すか、選んで」



水中であるが故に、香美には水無の小さな声量で発される言葉は聞こえなかったものの、どちらかを選択する必要があるのは言われる間でも無く分かっていた。



「このままではどのみち死ぬ、なら一か八か抵抗するしかない!!」



あまりの苦しみに耐え切れず、死から逃れたい生物の本能で、遂に香美は水中地獄から脱出し緋美華たちの前に姿を現してしまった。



「やっと出てきたね、照れ屋さん」



「こんちくしょーっ!お姉様を返せ!!」



「同じ所になら連れてってあげるよ!」



「うっ!!」



ナイフを持って飛び掛かって来た香美の腹に、緋美華は渾身のストレートパンチを叩き込んで気絶させ、ふーっと息を吐いた。



「殺さないで良いの?」



水無は首を傾げて訊ねる、彼女的には厄介な能力を持ち、何より緋美華を狙っている存在なので始末しておきたいと思っているが果たして?



つづく

ヴォルフト登場したの7話なのにもう決戦回を書くとこだったぜ

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