第6話「|引 金《trigger》」
イラスト挿入し始めたは良いも漏れなくクオリティが低い、クオリティ高いのフォロワーさんが描いて下さったやつだけ。
金さえあれば・・・・
a.
「俺と付き合ってくんね?」
放課後、クラスメイトである猪野に呼び出されたので校舎裏に来てみると、彼に告白された。
この亜神私立高等学校に入学してからコレでもう五人目、まあ清純可憐容姿端麗なこの凍城 凍虎に惚れてしまうのは仕方ないか。
「ごめんなさい、無理です」
猪野はチャラチャラした雰囲気が好みと真反対なので、今までよりもキッパリ強めの口調で断ってやる。
「は? 俺の何処がダメなんだよ!!」
「きゃっ!!」
何処が駄目なのかって言うけどフラれたからって、こうしてキレて腕を掴んで来る、こう言う所も一つじゃないかしら?
てか気持ち悪いからそろそろ放して欲しいんだけど、力が強くて振りほどけない、睨みながら顔を近付けて来るし怖くなってきた。
「何で駄目なんだって聞いてるんだよ!」
「いやっ」
もしかして私こんな奴に殺されてしまうの? くっそぉ、こんな若さで死んでたまるかってのよ....!!
「ちょっと辞めなさい、嫌がってるでしょ!」
勇猛な声と共に細くも力強い腕が伸びてきたかと思うと、猪野の腕を掴んで強引に私から引き剥がした。
この人は確か二年の風見先輩、わたし並に頭が良くて成績優秀だと噂には聞いていたけど、こうして間近で見たのは初めてだわ。
「チッ、分かったよ糞が!」
二対一では流石に不利と考えたのか、猪野は唾を吐き捨て走り去る、やっと鬱陶しい奴が居なくなってくれたわね。
「ほっ、有り難う御座いました」
「礼なんて良いわよ、じゃあ」
頭を下げる私に、まるで時代劇で見る侍のような台詞を言い残して風見さんは去って行く。格好良いんだけど、彼女の脚がブルブルと震えていたのを私は見逃さなかった。
この時に本当は臆病なのに勇気を振り絞って助けてくれたんだと気付いて、私は風見先輩に惚れてしまったのだ。
「あれからもう一週間になるのね、あら?」
私が風見先輩に惚れてしまった運命の日を思い出していると、授業の終わりを告げるチャイムが鳴った。
これでやっと放課後だ、先輩のいる二年の教室に行って勉強を教えてくれないかと図書室に誘っちゃお。
「お姉様〜いっしょに帰りましょうよー!」
げっ、教室を出て風見先輩の元へ向かおうとしたら香美 良に声を掛けられた....この女は私に告白してきた生徒の一人。
私にフラレたにも関わらず積極的に絡んで来る、度胸は認めるけど鬱陶しいったらないわ、お姉さまって呼んでくるけど同い年よ!?
「ごめんなさい、今日は風見さんに勉強を教えて貰いたいの」
「むぅ、お姉さまは頭が良いんだから教えて貰う必要ないのにー!」
不満を隠さず叫ぶ香美を置き去りにして、いざ風見さんの居る二年の教室へ....!
階段をかけ降りて目的地に到着、まだ帰ってませんようにと願いながら中を覗いて見ると居た、あの女と一緒に。
「今日はアルバイトお休みだから、一緒に帰らない?」
春野 緋美華、赤い髪が特徴的で静寂の対極にあるような性格で風見先輩の幼馴染....一言でいうと邪魔者。
「し、仕方ないわね、一人じゃ可哀想だから、面倒だけど一緒に帰ってあげるわよ」
「わーい! ありがとう〜!!」
「抱き付くんじゃないわよ、もう」
何時もツンツンしてる風見さんに抱き付いて満更でも無さそうな顔をさせるとは、流石に幼馴染だけある。
「きーっ!幼馴染だからって!!」
悔しさに耐え切れなくなった私は、ハンカチを噛みつつ場を離れ学校の外に出たものの、コレからどうしようかしら?
早く手を打たないとあの女に奪われてしまう、もう手段を選んでる場合じゃないかもしれない....。
b.
普段より狭くも嬉しく感じる帰り道なのは、緋美華と並んで歩いてるから。彼女は何時も学校が終わると花屋のアルバイトに向かうため登校はともかく一緒に下校するなんてのは珍しい。
「それで野良猫が寄ってきたから撫でたんだよ、凄く可愛いかったんだ〜!」
「わわっ!」
不意に笑顔を向けてきたので咄嗟にそっぽを向く、危うく緋美華の横顔を眺めてニヤニヤしていたのがバレる所だった....油断大敵ね。
「どうしたの?」
「なな何でもないわよ! 猫かわいーわよね私も撫でたいわー」
即興で誤魔化したので棒読みになってしまったけど、猫を可愛いくて撫でたいと思っているのは本当よ?
「変なのー....まあ良いや、今やってる青になの映画を一緒に見に行かない?」
"青にな"って言うのは緋美華が大好きな少女漫画のタイトルを略したもの、明るいだけでなく切なくも淡いストーリーが人気を呼び、ドラマ化もされたんだけど遂に劇場版まで作られたのね。
「あんま恋愛ものとか興味ないけど、一人で見るなんて可哀想だし別に良いわよ」
見た目も悪くはないし明るくて優しいので緋美華には友達が多い、でも、その中で一緒に映画を見に行こうなんて誘える程に深い仲なのは誇らしい事に私くらいなのよね〜!
わたし以外に居るとすれば彼女の自宅に居候している、津神 水無とかいう幼女だけど、流石に心配は必要無いわよね?
実の妹に対するベクトルで好きになるかも知れないけど、きっと恋愛方面では大丈夫よ、と自分に言い聞かせる。
「やったー!!」
「まったく大袈裟よ...あら?」
テンションが上がっているとスマホのランプが光った、メールが届いたのだ。良い感じの時に誰からよ、空気読みなさいよね! 無視する訳にもいかないし、苛立ちを覚えながらも内容を確認してみる。
「今から体育倉庫に一人で来て下さい?」
スマホに送られて来たメールを声に出して読み上げる、差出人不明だから少し気味が悪い。
せっかく緋美華と一緒に帰れる貴重な日だってのに一人で来いとか、カツ上げでもする気?
「また告白されちゃったりして」
無邪気かつ何処と無く寂しそうに緋美華が笑う。そっか告白の可能性も有るのよね、でも安心しなさい、私はアンタ以外は好きにならないから....って口に出して伝えられたら良いんだけどなぁ。
「ちょっと、からかわないでよ」
「本当のことじゃん、たくさん告白されて羨ましい。私だって可愛い筈なのに、何で全然モテないの〜!」
確かに亜神高校に入学してから今までで四人にも告白されてる、何で私なのかは分からないんだけど....これがモテ期って奴かしら?
悪い気はしないけど、どうせなら緋美華に告白されたかったわ、そしたらソッコーでオーケーを出すのに。
いやいや、勇気を出して告白してくれた子達に失礼だから、そんなことを考えたら駄目よね!
「とにかく行ってきなよ〜今度こそ好みの子だったらいーね!」
「まったく、人の気持ちも知らないで」
好みの女の子なんてアンタしか居ないわよ、ばーか!と内心ムカムカしながら笑顔で手を振る緋美華を尻目に踵を返して学校へ再び向かう。
何よ、せっかく久々に一緒に帰ってたのに居なくなるんだから、少しは寂しそうにしてくれたって良いじゃない!!と子供みたく瞳に僅かな涙を浮かべ頬を膨らませて。
c.
サッカーボールやバスケットボールが粗雑に入れられたカゴ、カラーコーンに得点板、何より跳び箱が場所を取っているせいで元から狭めの体育倉庫が更に狭く感じる。
「でもこの狭さが少し落ち着くわ、風見先輩もそうは思いませんか?」
腕を組んで不機嫌そうな態度で待つ風見先輩に訊ねる、落ち着くというよりは狭い方が彼女との距離が縮まるので都合が良い。
「気持ちは分からなくないけど、そんな話をする為に私を呼んだわけでもないでしょ?」
「えぇ、勿論です」
「先ず私から尋ねて良いかしら?」
「なんですか?」
「何で私のメアド知ってるの、教えたことないわよ」
確かに知らないアドレスからメールが送られて来たら怖いか、信じては貰えないでしょうけど一応は本当のことを話しましょう。
「それはある人に聞いたんです、信じられないでしょうけど彼女は透視能力を持ってて風見さんの携帯を透視して貰ったんですよ」
"彼女"は私に告白してきた生徒の一人で、"東條さんの心を透視しました、風見先輩のメアドを透視して教えるから一日だけデートして下さい"と言ってきた。
一日デートしてやるだけで風見先輩のメアドが知れるのは嬉しいので半信半疑ながらも約束してやった、そして彼女の言ったことは本当だった訳だ。
「能力者....」
"何を言ってるのよ、頭でも打った?" って心配して貰うつもりだったのに、返って来たのは予想外のセリフ、風見先輩も能力者を知っているのか。
「知っているなんてビックリです」
「メアドが欲しいなら言いなさいよねもう、それと透視したの誰?」
「だって恥ずかしいじゃないですか、今回だって勇気を振り絞って呼び出したんですから。後者については秘密との約束をしたので答えられません」
秘密を守ってやらないと透視能力を利用して私を陥れられそうで怖い、てかあいつ私の下着姿とか透視したりして無いわよね。
「約束なら仕方ないか、悪用しないよう強く言って置きなさいよね....で、私を呼び出した理由は?」
遂に此の時が来た。告白されるのは慣れているけど、する側がこんなに緊張するなんて思わなかったわ。
「好きです、先輩」
「ごめんなさい私には」
告白する側になるのもフラれる側になるのも初めての体験。でも先輩の返答は予想通りだから余りショックは受けず、私は逆に先輩がショックを受けるような発言をしてやる。
「春野 緋美華がいるから、ですよね」
「えっ」
幼馴染の名前を出されて風見先輩は鋭い目を真ん丸に開く、やっぱり分かり易いわね風見先輩って。
「ふふふ」
「な、なに言ってんのよ、あんな馬鹿な子を好きになんてなる訳無いじゃない!」
「馬鹿、ですか。先輩はソイツが居ない場所でも人の悪口を言わないのに春野には言うんですね?」
「だって、えーと」
「好きだからこそですよね、あーあ、ムカつく」
此処で私は"能力"を使用することにした、コレを手にしたのは、さっき嫉妬に耐えきれず学校を飛び出した時だ。
見ず知らずの何故か軍服を着た女が現れて私を茂みに引きずり込んだ。何をされるのだろうかと怯える私の前にもう一人怪しい人物が出現、"君に力を与えよう"と言って私の額に素早く鋏を突き刺した。
鋏で刺されたのに痛みを感じず血も出ない、普通なら苦痛と共に血を流して死ぬくらい奥まで突き刺された感覚はあったのに。
....そして鋏を引き抜かれると同時に、私の脳内にどんな能力を取得しどんな技が使えるかがインプットされたのだ。
気付くと二人の不振人物は消えていた、彼女らはきっと私の恋路を手助けしてくれる恋のキューピットに違いないわ。
「寒っ!?」
心が痛むけど風見先輩に対し能力を使う、私が覚醒したのはシンプルかつ強力だから下手をすれば殺してしまうかもしれない、気を付けて使用しないと。
「い、いや! 何これ冷たい寒い!!」
やっぱり臆病なんですね、取り乱しちゃって可愛いですよ先輩。まあでも、足元から段々と凍って来たら誰でも焦るか。
....私が目覚めたのは冷凍能力、暑がりだから嬉しいわ。
「少しばかり我慢して下さいな、凍死したりはしませんから。風邪も引きません、ただ寒いだけですよ」
「あんたも能力者だったのね、何でこんなことするのよ!」
死なないと教えられたことで冷静さを取り戻したのか、風見先輩は私を怒鳴り付けるけど怖くないわ。
私が能力者という上の立場にいるからと言うより、ただ単に可愛いく見えてしまうからだけど。
「邪魔な春野を始末するため、貴女を人質にするんです」
「な、な、何ですって!! 辞めてよ、あの子は私を見捨てるなんて絶対出来ないじゃない!」
「好都合、確実に仕留められるって教えて戴いて有り難うございます、やっぱり風見さんは優しいですね」
先輩には自慢の微笑みを向けるけど内心では、"クソが、先輩がこんなに必死になるなんて!" と春野 緋美華に対する憎悪が雪国に降る雪の如く更に積もった。
「や、め....」
風見先輩は泣きそうな顔をしたまま遂に全身が凍ってしまった、普通なら凍死しているだろうけど特別な技なので死の心配は無い。
「酷い事をして本当に御免なさい、全ては貴女に纏わり付く愚者の命を消す為なんです」
「ひぃっ!?」
「誰!!」
ガラガラと倉庫の扉が開かれる音と共に、素っ頓狂な声が背後から聞こえたので振り替えると猪野が腰を抜かして尻餅をついていた。
氷付けにされた風見さんを見てビビったか、こんなヘタレ振って正解だったわね、口外されてしまうと厄介だし逃げられる前に始末するとしましょう。
「見たからには死んで貰うわよ」
私は逃走を図る猪野の背中目掛けて、春野をいたぶってやろうと用意していた手斧を投げ付ける。
「ああああああぁあああ!!」
斧に背を裂かれて絶叫を倉庫内に響かせ倒れる猪野だが、彼の未だ息の根は止まって居なかったので、能力を利用して作り出した氷柱で首を貫きトドメを刺した。
猪野の首から溢れる血を見て私の気持ちは昂った、春野からも血を....コイツより大量に流させてやるわ。
「ふふふ、はははは、アイツを確実に消せる....」
私を遥かに上回る運動神経を持った男すら簡単に殺せた、目的を"確実"に達成できると確信して笑いが止まらない。この力さえ有れば警察も怖くはない!
首を洗って待ってなさいよ春野 緋美華、貴方を殺して先輩を私のモノにしてみせるわ!!
d.
「ひより!」
もう数年は誰の声も聞こえて来る筈がないこの廃墟ホテルのホールに、憎々しく勇ましい声が響いた。
"風見先輩は預かった、助けたければ廃墟と化した亜神ホテルに来い"と呼び出しメールを送ったのは三十分前にもなるわよ、来るのが遅くないかしら春野 緋美華!!
「遅かったわね、ちょっとイライラしちゃった」
「そんな事より何処にひよりが....!?」
私の背後、受付前に佇む全身が氷に覆われた風見先輩の姿を見付け、緋美華は絶望に顔を歪める。
何時もウザいぐらい明るい笑顔を浮かべているコイツの、こんなに暗い顔を拝められるなんてスカーッとするわ!
それにしても学制服姿で靴も履かずに裸足のまま来るなんて、相当慌てていたと見える、となるとモタモタしてた訳じゃなくて単に家が遠かっただけか。
「大丈夫、死んでないわ。寧ろこの状態なら数百年は生きられるはず、コールドスリープってヤツ」
絶望の表情が消えるのは勿体無いけど、風見先輩を人質として利用するには真実を話す必要があるのよね。
「ほっ、本当なんだね?」
チッ、ホッとした顔しやがって、風見先輩は生きてても貴様は死ぬんだよ、どのみち永久の別れを免れることは出来ないんだから。
「猪野くんを殺したのも貴方なの!?」
「良く知ってるわね、此処に来る途中で話を聞いたのかしら? そうよ私が殺したのよ、風見先輩を凍らせてるとこ見られて〜まあ前からキモいって思ってたし」
「そんな自分勝手な理由で殺すなんて酷いよ....!!」
野蛮にも春野が拳を握り締めたまま私に飛び掛かかって来た、なかなか迫力あって少し冷や汗が流れてしまう。でも焦る必要は無い、今こそ先輩の力をお借りする時が来たみたいね。
「動いたら風見先輩を殺して私も死ぬから」
そう言うと春野の拳は私の顔面直前で止まる、ったく私の綺麗な顔に危うく傷が付く所だったわ。
「どうしてこんなことするの?」
「あんたを始末する為よ、風見さんに何時もくっ付いて気に入らないのよ!」
「わわっ」
さっき猪野を殺して血がこびりついた手斧を学生鞄の中から出して、今からお前はコレの餌食になるのだと春野に見せ付つけ恐怖心を与える。
「言っとくけど、私が念じれば風見先輩は氷ごと木端微塵になるわよ? だから私の隙を突いて取り返そうなんて考えないことね」
私は先輩を木端微塵になんて絶対にしない、しかし春野から見た私はやりかねないヤツに見えているハズ。だから春野は私に手を出せず黙って殺されるしかないのよ!
「だから変なことはしないでって事だよね」
「馬鹿の癖に察しが良いこと!!」
手斧で緋美華の横腹を思い切り叩く、ズシンと重たい手応えが中々の快感だわ、癖になりそう。
こいつを始末して風見先輩と結ばれたら、彼女の為に強盗殺人でも繰り返して宝石の山をプレゼントってのも悪くないわね。
「あうっ」
私に斧で攻撃された春野は血の滲む脇腹を押さえながら仰向けに倒れる、ふふふ、凄く痛そうね、ざまあ見なさい。
「今の私には人並み外れた力があるから、貴方を嬲り殺しても警察に逮捕さる心配もしないで良い、最高ね能力者ってのは!」
後はコイツさえ消せば風見先輩は私のモノ、今までかなり苛つかせてくれたんだから楽には殺してやらないけど。
だから敢えて手斧を顔面や頭部でなく、致命傷には至らない膝に恨みと共に力を込めて振り下ろして血を吹き出させる。
「きゃああああああああああ!!」
天を劈く絶叫が響く。普通はこんなもの聞いたなら、か弱い乙女の私は耳を塞がずには居られない筈なのに、憎い女のモノと分かっていると心地良くて、そんな勿体無い事は出来ない。
「やっぱりまだ物足りないわねぇ」
「うあっ!!」
ふらふらと立ち上がる春野の額を思い切り殴ると、今度はあまりの痛みからか彼女は悲鳴を上げる間もなく再び倒れてしまった。
せっかく汗がダラダラ流れて来る程に熱くなって来たと言うのに、何処までも気に食わない女。
「あーあつまんないの、もう少し苦しんで欲しかったんだけど」
「うぅ、痛みで立ち上がれない....」
「さあトドメよ、消えなさい御邪魔虫!
確実に仕留める為に斧の刃を凍らせ小さな氷柱を備える、さぞや凄まじい痛みで死ぬことでしょうね。
では御機嫌よう春野 緋美華、先輩は私に任せて貴方は一足お先に地獄に行ってなさい!!
d.
緋美華が凍城に散々いたぶられる様子を私は見せられていた。でも全身を凍らされてるせいで助けるどころか叫ぶことも出来ない、そして遂に。
「さあトドメよ、消えなさい御邪魔虫!」
凍城は凍らせた斧を緋美華の頭に振り翳しトドメを刺そうとした、目前で愛する人が自分のせいで殺されるなんて絶対に嫌だ。
私は昔、緋美華を守ってあげると約束したのに他でもない私のせいで傷付けられて、いま殺されようとしている。
....そんなの絶対に嫌だ、強く心が叫び声をあげた。
「やめてええええええ!!」
心の叫びが私自身の耳に響いた、本当は全身を凍らされて唇を微かに動かすことすら出来ないので、そんな事は有り得ないのに。
「!?」
大声を上げた私に凍城が気を取られたことで、氷の斧は緋美華の後頭部スレスレで動きを止めた。
私が声を出せた理由は全身を覆っていた氷が溶けて水になっていたからだった、理由は分からないけどこれで緋美華が助かるのには違いないわ!
「氷が溶けてる、何で!?」
「えへへ、ひよりには目の前で私が死ぬとこなんて見せられないから、溶かさせて貰ったよ」
「興奮して熱くなってたと思ったら、貴方の能力のせいだったの?」
確かに此の時期にしては夏の様に暑く、今まで氷の中に閉じ込められていた反動もあって汗が滝の様に流れて来る。
流石に私の未来の嫁だけあって馬鹿だけど有能ね、それに比べてまんまと捕まって人質にされた自分の無能ぶりが恥ずかしいったらない。
「でも残念だったわね、貴方に戦う力は残ってない!」
「そうだね、もう体動かないや」
額・脇腹・膝の三ヶ所を斧で攻撃されたんだから体が動かなくなっても無理はない、もう痛みすら感じていないのかも、ここまで緋美華が傷付けられたのも私のせいよね。
「ひよりは今の内に逃げて!」
緋美華は凍城が振り下ろした手斧を、ギリギリで転がって避けると私に向かって掠れた声で叫んだ。
「クソッ、避けてんじゃないわよ!!」
やっぱり優しいわねアンタは、あんなに酷い目に遭う理由を作った私に自分を置いて逃げろだなんて。
でも此所で逃げたら其れこそ罪悪感に耐え切れないわよ、緋美華は絶対に私が守るんだから。
「お断りよ」
「えっ、ちょっと、ひより?」
凍城と戦うか逃げても再び冷凍されてしまう可能性が高い、だから私はどちらでも無い方法を実行することにした。
「あんたは私のこと好きなのよね?」
「はっ、はい!」
凍城は瞳を輝かせて私の問いに答える、緋美華を虐めていた先程までと同じ人物とはとても思えない。
「じゃあ緋美華を殺すのを辞めなさい、もしこの子を殺したら私も死ぬわ!」
「そんな....斯くなる上は春野を殺して風見先輩と共に死ぬしかない」
思った以上に私への愛が重くて作戦は失敗に終わった、どうしよう此のままじゃどのみち緋美華が殺されちゃう!
「あわわわわ、あれ!?」
パニックになりかけた時、手に違和感を覚えたのでふと見てみると、いつの間にかモーゼルC96というドイツ帝国が開発した銃を握ってる....もしかしたらコレって!!
「その通り、貴方も能力に目覚めたんだよん」
「きゃっ!」
突然横に現れたこの子は、緋美華が能力を覚醒させるきっかけになったフードの少女。神出鬼没で一体何者かは分からないけど今のところ私達の味方と考えて良さそう、いや恋愛方面では敵かもね。
「ひよりにも能力が目覚めるなんて!」
「私は風見さんと闘うつもりは有りません、は、早くコイツを始末しないと!!」
「させないわ!」
凍城が今度こそはと緋美華に振り下ろす斧に狙いを定めて引き金を引くと、私の体は反動で吹き飛ばされてしまう。
備えていたけど予想以上の反動の強さだったわ....でも放たれたマウザー弾は斧に直撃すると粉々に破壊してくれた、中々の破壊力だしこれなら凍城にも勝てる!
「か、か、風見さん....!」
「私だけなら許したけど、貴方は何の罪もない猪野君を!」
残された力を振り絞って緋美華が立ち上がり、野獣の如く鋭い眼光で凍城を睨み付ける。
「ひっ、ひえっ!」
焦った凍城は緋美華に鋭く尖った氷柱を飛ばすも、焔の弾丸で造作もなく全て迎撃されてしまう。
「生死を別つ静止の世界、凍死しろぉおおおお!!」
凍城が壊れた斧の破片を拾って叫ぶと、斧の破片から白銀の光線が真っ直ぐ緋美華に向かって放たれた。簡単に言えば冷凍光線、たぶん食らうと死ぬわ!
「穢れを祓う地獄の番犬」
凍城の冷凍光線に対して緋美華は怪獣みたいに火炎を吐き、瞬時に溶かした。冷気は時に焔も凍結することがある、でも緋美華の怒りの焔を凍てつかせる事は出来ないみたいね。
「ひいえっえ〜〜〜〜」
こりゃ敵わないと悟った凍城は螺旋階段を掛け上がり、逃亡を図る。緋美華はそれを追おうとするけど、今度こそ体が限界を迎えた見たいで膝を突いてしまった。
「あうっ!?」
「任せなさい、私がケリを就けるわ!」
ここから階段を上がる凍城の脚に照準を合わせて、素早く発射。銃弾は目標の膝に命中してくれたわ、さあ後はホールまで落ちて来るのを待つだけね!
「きゃあああああ!」
「っと捕まえましたわ....」
撃たれたことで階段から落下してきた凍城は地面に激突することはなく、キラキラした宝石の指輪が五個それぞれの指に付けられた手袋に首と尻をキャッチされた。
「金城! あんた何で此所に居んのよ」
「風見さんのピンチには駆け付けますわよ、さあ東條さん?」
ピンチには駆け付けるって危うく緋美華が死ぬ所だったんだから、もうちょっと早く来てくれても良かったんじゃないかしら?
「な、なな、なによ!」
「風見さんと結ばれるのはこのワタクシだと言うのに出しゃばって、貴方にはたっぷりお仕置きが必要ですわね? 死ぬよりもずーっと辛くて苦しいお仕置きが!」
「ひぃいいいい〜〜〜〜〜!」
金城が凍城をホテルから連れ出してロープで縛り上げると車のトランクに詰め込み、助手席から私に投げキッスをして何か言おうと口を開こうとした時、専属メイドの椋椅さんが車を出した。
「あっちょ風見さんも自宅まで送って〜〜〜〜!」
立派な拉致よねコレ....にしても凍城には一体どんなお仕置きが待っているのかしら、考えるだけで背筋が凍るわね。
「いやいやもう凍るのは懲り懲りだわ」
「氷だけに〜?」
「ああもう寒いこと言わないでよ!」
「ごめんごめん....ありがとね、ひよりのお陰で助かったよ」
「礼なんて良いわよ、抑あんたは私のせいで散々に痛め付けられてこんな傷だらけになって、私こそごめんなさい」
ぺこり、謝るだけならともかく産まれて初めて私は緋美華に頭を下げた、これで許してなんてとても言えないけれど、責めて此ぐらいはしないと気が済まない。
「悪いと思うなら罪悪感なんて忘れてもう気にしないで、傷口を焼いて血は止めたし、それで許してあげるからさ」
「もうアンタって子は....っ!」
「手繋いじゃダメ?」
馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿、そんな濡れたで瞳で上目遣いなんてされたら断れるないじゃない、駄目な訳ないし寧ろ嬉しいぐらいだし。
「仕方ないから繋いでやるわよ、言っとくけど別に嬉しいなんて思ってないから勘違いしないでよね」
「とか言って顔が赤いし凄く嬉しそうだよ?」
「えっ、嘘っ?!」
「あはは本当だよ、手鏡あるけど見る〜?」
「見ないわよ....それにしても金城は能力のこと知ってたのかしら、何で来たか結局は分からなかったし」
「それと何時の間にかフードの子も消えちゃったし」
「謎は深まるばかりね」
私のせいで緋美華が死にかけて、私に能力が発現して、何よりこうして暗い夜道を会話しながら二人きりで手を繋いで歩いて帰る。
きっと今日という日を忘れる事は出来ないだろうなぁと、私と手を繋げて上機嫌そうな緋美華の横顔を見詰めながら思った。
つづく
名前からして元ネタ分かりやすすぎて訴えられないか心配、まあ見つかるわけもないでしょうけどね
まあ飽くまで自己満だしありがたいことにブクマして下さってる方のためにもがんばります〜