第5話「†蒼 白†《blood》」
月曜日から新しい仕事が始まります、嫌だなあ
a. 闇を蹴散らせ!
「何だこれは真っ暗だ....」
「いてーな、誰だよ俺にぶつかった奴は!」
「仕方ないでしょ、真っ暗で前が見えないんだから」
「だったらジッとしてろ!」
亜神の街、何時もは緋美華達がいる交差点を通る、学校や仕事から帰宅していた人間達が其処から数キロ前後の商店街と本道でパニックに陥っていた、真っ暗闇に包まれて光を奪われたのだ。
お陰で事故も多発し何十人もの死傷者が出る洒落にならない事態になってしまった、それは殺しを依頼した赤タバコが全力で戦えるよう邪魔な人間が彼の居る交差点に行くのを妨げる深山の仕業だった。
「やっぱ楽しいなぁ、くっくく」
ビルの屋上で煙草を吸いながら、人々の大混乱を見下ろして深山は嗤う。
「その楽しみは此処で終わり」
幼さと低さを兼ねた声に振り替えると、ゴスロリ姿の少女が居たので深山は怪訝な顔をする。
「何だテメエは?」
「貴方のような悪を裁く者」
深山がゴスロリ少女・水無に尋ねると、彼女は眠た気な目をほんの僅かに吊り上げて答えた。
水無はニュースで大規模な集団パニックが起きたことをニュースで知り留守番を放棄、犯人探しをしている内に深山を見つけ出したのだ。
「できるモンならやって見ろよ!」
深山は幼女相手とはいえ容赦のないストレートパンチを繰り出す、だが水無から見ればスローで避けるのは簡単だった。
「そりゃ」
「ぬあっ....ひっ!」
水無は避けた序でに足払いで深山を転倒させ、彼の喉元に右手だけで持った三叉槍を突き付ける。
「貴方の能力は割れてる、大人しく倒されて」
「糞が!」
良く見ると水無は左手にライターを持っていた、能力が割れているというのは残念ながらハッタリでは無いようだ。
「貴方が駅前で戦った少女は私の知人」
「くそ〜〜〜〜〜ミスったぜ、俺も此処までか....」
少女越しに近くを翔ぶヘリが視界に入る、コレが最期に見るモノと考えて虚しくなるのが普通の人間だろうが、深山は心底反吐が出る悪党だった。
「だが一人では死なんぜ、お前も俺と死ねえ!!」
「!?」
深山が笑って数秒後、水無は今いるビルに向かって真っ暗な闇に包まれたヘリが突っ込んで来るのに気付く。
「何て外道な....」
「せっかく産まれてきたのに幼くして死ぬなんて、ざまあねえぜ!!」
「くっ」
水無は深山の喉を三叉槍で貫いて息の根を止め返り血を浴びると液状化し、迫り来るヘリコプターにその状態のまま窓ガラスを割って侵入した。
「うわぁ〜!」
元に戻ると母親の名を叫びながら泣き喚く操縦士を、自分と一緒に巨大な水の玉に閉じ込める。
「少し息苦しいけど我慢して」
そう言うと巨大なシャボン玉に包まれた状態で水無は操縦士と共にヘリコプターから脱出し暫くふわふわ浮遊すると、安全な距離で降り立った。
「ぷはっ、本当にありがとうございました」
操縦士は水無の能力を不思議がるが、本来なら確実に死ぬシチュエーションから助かった嬉しさの前に霞んでしまった。
「礼は良いから早く逃げて」
「はっ、はい!」
嬉しそうに逃げる操縦士の背中を見送ると水無は近くに置いてあった自販機で水の入った百五十円のペットボトルを購入し、ヘリが突っ込んだ事で崩壊しゆくビルを眺めながら飲む。
「....彼女なら落ち込みそう」
関係ない人を巻き込んでしまったと涙を流す緋美華の顔が頭の中に浮かんで、水無は少し胸が痛んだ。
「私は貴女みたいに甘くは、なれないよ」
空になったペットボトルをゴミ箱に捨て、水無は呟く。悪を抹殺できれば多少の被害を出しても気にならない私と彼女は決定的に違うんだと寂しい気持ちを味わいながら。
第5話「†蒼白†」
b. 闇に落ちる目
「弾丸の速度にも対応出来るとは恐れ入ったぜ」
灼け落ちる弾丸に赤煙草は驚愕、至近距離から放たれた音速の弾を無効化するなど完全に予想外だった。
「私も吃驚、成功して良かったよー!」
「一か八かだったのか....良い度胸だな、死んだカミさんを思い出すぜ」
妻の笑顔を脳裏に浮かべつつ、赤煙草は慣れた手付きでコートの裏側に備えていたナイフを投げる。
緋美華を仕留めていないのに既に刃先を新鮮な血で真っ赤に染めた状態で平行に飛んでくるナイフの速度は、下手をすると先程の銃弾を上回るかもしれないと思える速さ....
「うわわわわ!」
....緋美華も素早い側転を披露して飛んでくる高速のナイフを回避する、しかし赤煙草の目的は違っていた。
「これも避けるか、くくく」
「え?」
ナイフが地面に落下した際に、付着していた血が跳ねて緋美華の顔面にかかる。この、血を用いた目潰しこそ赤煙草の本当の目的だったのだ....!
「きゃああああああ!!」
血が顔にかかっただけなのに、大層な悲鳴を緋美華はあげて顔を抑えた。足手纏いになりたくないと信号機の陰に隠れて見ていたひよりだったが、あまりの絶叫に、いても立ってもいられなくなり出て行こうとする。
「緋美華! どうしたの!?」
「来ちゃ駄目だよ、危ないから!!」
緋美華に怒鳴られた瞬間、ひよりの足はストップする。怖くて立ち止まった訳じゃない、彼女の顔面が焼け爛れて直視に絶えない状態になっていることに気付いたから。
「あ....あ....!」
緋美華の顔面に付着したのはただの血では無く、濃硫酸並みに危険な代物であったのだ、焼け爛れた愛する幼馴染の可愛い顔を見たショックで、ひよりは声も出せない。
「殺し屋さん、私を殺しても、ひよりは見逃してあげて」
「あ、アンタなに言って....!」
健気な言葉にひよりはハッとする、一番ショックなのは緋美華の筈なのに彼女は気丈に振る舞って私を守ろうとしてくれているんだと。
「お願い」
諦めた様な声色で緋美華は言う、文字通り目を潰され真っ暗闇で勝ち目が薄い、もし勝ててもこんな顔じゃ....ひよりは彼女が自棄になって死を望んでいるのではないかと不安になる。
「殺しは好きだがターゲット以外に銃弾を撃ち込む気はないから安心しな、殺されるのは嬢ちゃん、アンタだけだ」
「ありがと」
赤煙草は血飛沫で目潰しをした緋美華を撃つ....が、仕留められなかった。緋美華は咄嗟に回避したのだ、結果、鉛の弾は彼女の脇腹を掠める白い服を赤く染める程度に止まった。
「うっ....」
「なんだ諦めたんじゃないのか」
「黙って殺されるのは諦めたよ」
「緋美華、私はあんたがどんな顔になったって幼馴染だし、その、えと、親友を辞める気なんて無いんだからね!!」
「えへへ、ありがとう」
「無駄な足掻きだがな、暗闇の黒しか見えない今の嬢ちゃんには、血の赤で天国に送ってやろう」
赤煙草がロングコートから取り出したのは真っ赤でドロドロした臭い液体、血液が大量に入った瓶。
彼はそれを銃弾で割ると、中に入っていた血が地面に広がる....のは普通だが、血が一ヶ所に集合して真っ赤な拳銃と化すのは普通とは言えないだろう。
「死にな!」
赤煙草が血で作られた銃の引き金を引くと真っ赤な銃弾が発射される。其は緋美華に前転して避けられるも、彼女の背後に停車していた車をドロドロに溶解してしまう。
「恐ろしい武器だわ、あんなのを緋美華の顔に....許せない!」
ひよりは憤ると同時に戦慄する、血が少し付着し顔面が爛れたのは未だマシな方で、コレを食らっていたら緋美華の全身は跡形もなく溶解させられていたに違いない。
「ほらほら、一回でも当たれば終わりだぜ」
「くっ」
車すら一瞬で溶解する恐ろしい血の弾丸を、無情な殺し屋は容赦なく発射する。
「よっ....と!」
目が見えなくとも感覚で真っ赤な銃弾の嵐をバク転や跳躍など持ち前の身体能力の高さで回避する緋美華だが、傷は更に広がり血の滲みが広がってゆく。やがて銃弾が飛んで来なくなった頃には、彼女の体力が激しく消耗されていた。
「全弾を回避するとはな、良くやった!」
ひよりは彼が呟いた良くやったという台詞に違和感を覚える、なぜ自分の攻撃を全て回避した敵を誉めるのだろうか?
「今度は私の番だよ!」
血の弾丸の御返しにと緋美華は焔の弾丸を連射、血の弾丸の威力も驚異的だが此方も負けてはいない。
軽い火傷ですら強い痛みが比較的長く続く、そして此の焔の弾丸の温度は約千度....この技も並みの人間なら一溜まりもないのだ。だが此の技は赤煙草に当たる直前で真っ二つになり消滅した。
「ふんっ....! 残念だったな嬢ちゃん」
目を潰された緋美華は見えなかったが、ひよりは見た、赤煙草の手に禍々しい真っ赤な剣が握られているのを。
あの溶解血液で構成されているのは一目瞭然、食らえば終わりのまさに一撃必殺の剣と言えよう。
「緋美華、そいつ次は血の剣を持ってるわよ!!」
「ええっ!銃の次は剣だなんて....でも、もう避ける体力が残って無いよ」
「やっぱり、こいつ弾丸を避けるのは想定済みで、体力の消耗を狙って確実にトドメを刺すつもりだったのね!
「誰でも分かるだろ」
実際、ひよりは気付いていたが、体力の消耗が狙いだと注意したところで意味は無かった。一発でも当たれば即死の銃弾を避けるな....なんて死ねと言ってるのと同じだから。
「まあこれなら死体は残るから依頼主に証拠として提出し依頼料を貰って....と、残すのは顔だけだが」
赤煙草が血の剣を手に膝をつく緋美華を見下ろし、無力を承知でひよりが躍り出ようとした時だった。
「救急車が通ります、道を開けて下さい」
....救急車がサイレンを鳴らしながら交差点を通り過ぎた、すると、どうしたことか獲物を狩る後一歩だと言うにも関わらず、赤煙草は血の剣を消した。
「命拾いしたな、俺の依頼人を殺しやがった奴に感謝するこった」
「え?」
「あの救急車で運ばれてたのは俺の依頼人さ、血の臭いで分かる、ありゃ死んでる」
そして救急車が来れた....と言う事は人払いをしていた深山、つまり依頼主が倒されたと考える他にない。
「依頼主が死んで報酬が貰えないから、殺さず見逃してくれるってこと?」
「察しが良いな」
「でも私達に顔を見られてるんだよ?」
「バカ、余計なこと言わないの!!」
「顔を知ってるからと何が出来る、もう嬢ちゃんの目は見えないだろ?」
「うう」
彼の言う通りだ、目が見えなくなってしまった今の状態で再戦しても緋美華に勝ち目は薄いだろう。
「まあ精々こっちの嬢ちゃんに気を遣って本気を出さなかった事を後悔するんだな、本気を出しゃ俺なんて簡単に倒せたろうにな」
半ば悔しそうな口調でそう言い残すと、煙草を咥えて背を向け去って行く。また会うかは分からないが、依頼料さえ出されれば罪の無い人間でも殺してしまう危険な人間を取り逃がしてしまった。
「ごめんなさい....私のせいでこんな酷い目に」
暫く続いた静寂を何時もより遅く訪れた足音が破ると共に、ひよりは謝罪する。
自分さえ一緒にいなければ緋美華は顔を焼かれず敵を取り逃がす事もなかった、しかもコレを知ったのも敵の言葉を聞いたから....自分が情けなくて仕様がない。
「もう気にしないでよ、この交差点から一人で帰るのはもっと危なかったんだからさ」
「え?」
ひよりは緋美華に集中して気が付かなかったが、冷静になって今やっと高く燃え上がる焔と煙がこの交差点を挟むように存在する近くの商店街辺りに見えた。
「ね? ひよりは悪くないの....きゃっ」
緋美華の視点が上昇する、ひよりにお姫様抱っこされたのだ。体重は比較的軽めなので、余り力の強く無いひよりでも簡単に抱き抱えられる様だ。
「あんたは目が見えないんだから連れて帰ってあげるわよ、私のせいだしね」
何時ものひよりなら此処でポリポリと頬を掻く所だが、緋美華を抱き上げているので出来なかった。
「ありがとう! 凄く疲れちゃったから助かるよ、帰って冷蔵庫に入れといたケーキ一緒に食べよ?」
目を潰され暗闇しか見えない状態であるに関わらず、ひよりに余計な気遣いをさせない為に絶望感を圧し殺して明るく振る舞う。
「私だって恥ずかしいんだから全速力で帰るわよ、しっかり掴まってなさい」
チクリ、緋美華の意図に気付いて、ひよりの心が激しく痛む。
「落とさないでね?」
「任せなさいってば」
目立つのは苦手なひよりだが、罪悪感により奇異の目を向ける人々の視線も気にならないで春野宅へ向かって只管に走るのだった。
c. 光は再び
「?」
深山を倒して春野宅へ帰る道中、閑散とした商店街にて水無は漆黒のコートを身に纏った男と擦れ違い、彼から異様な臭いを嗅ぎ取った。
「血の臭いがする....貴方は何者?」
「職業柄、答えられないな」
「悪人?」
「まあそう言う事だ!」
ターゲット以外は殺さないのが信条の赤煙草だが、この幼女は危険だと判断、始末する為に愛銃の引き金を引く。
車すら溶解してしまう恐るべき血液の弾丸が水無を狙ったが、それも彼女が空気を指で弾くまでの事だった。
「何だと!?」
赤煙草は水無の奇妙な動作を警戒するが予想外の事が起きた、弾丸が軌道を変え自分に向かって飛んで来たのだ。
「うわぁああああぁぁあぁああ!」
自らが放った紅の弾丸に額を撃ち抜かれ全身がドロドロに溶ける赤煙草、遂に凄腕の殺し屋は殺す側から殺される立場に立った、危険と判断しても信条を曲げず逃げていれば未だ長生き出来たかも知れない。
「恐ろしい血だけど、水分が含まれてる以上わたしには勝てない」
今までターゲットが一般人であれ能力者であれ必ず依頼を成し遂げてきた赤煙草だが、水を操る能力を持つ水無と遭遇してしまったのが不運だったとしか言い様がない。
「早く帰ろう」
相性が良かったので緋美華を苦しめた敵を簡単に撃破した水無が、留守番へ戻ったその十分後....扉を蹴り開ける激しい音と共に優しく明るい声が帰って来た。
「ただいま水無ちゃん!」
緋美華を抱き抱えてるのでドアノブを回せないひよりは、ドアを蹴破って彼女の部屋へ入り、ベッドの上で丸まっている水無の姿を見て眉をひそめた。
「緋美華、その顔は」
水無はひよりに緋美華が御姫様抱っこされているのにも驚いたが、何より彼女の焼け爛れた顔面に驚き僅かに目を開く。
「あははは、敵にやられちゃってさ」
「....大丈夫」
軽い動揺を直ぐ沈めると、水無は冷たくて柔らかい唇を緋美華の焼け爛れた目にあて、まるで一滴の水が零れ落ちてきたかのように錯覚させた。
「ちょっとアンタ何してんのよ!?」
ひよりが緋美華をベッドに寝かせながら凄い剣幕で睨んで怒鳴っても、水無は全く動じない。
「これで元に戻るから。それに嫉妬は見苦しい」
「なっななな!」
嫉妬しているという図星を突かれて、ひよりが慌ている間に緋美華の顔面の皮膚が元に戻って行く。
「どう?」
「ありがとう水無ちゃん、目が見えるよ!」
「予想より早く治った」
「本当なの!?」
私も同居したいのに何でこんな奴が....等とブツブツ呪詛を吐いていたひよりだったが、緋美華の顔を見るなり歓喜の雫を瞳に浮かべた。
「良かった....癪に触るけど素直に感謝するわ、ありがとう」
ひよりはペコリと頭を下げ、緋美華の幼馴染だけあって悪い人間では無いのだと水無に思わせた。
「うん、これであの人達を倒しに行けるよ!」
「黒いコートの男と金髪の男なら倒したけど、彼らのこと?」
「ええええ、そうだよ、凄いよ水無ちゃん!!」
「ちょっと待ちなさい、敵を倒したのは褒めるけど....留守番を放棄してんじゃないわよ!」
「コイツ頭固い、緋美華を見習って」
「見習ったら馬鹿になるでしょ、絶対に嫌よ!」
「うえーっ!? 酷いよひより〜!」
こうして二つの悪は消えた、今まで彼等の被害に遭い、死に追い込まれた人間達の魂も報われる事であろう。
しかし悪はまだ存在する、世界の平和を守る為に少女達は明日も戦うのだ....!
つづく
夕陽を見ると某宇宙人を思い出しますなあ