第3話「†明 暗†《Avenger》」
頭脳派能力バトルにしたいけど知能指数が足りないぜ
a.
玄関前で口惜しそうな表情を浮かべる風見ひよりと別れ、緋美華は自宅へ入る、運命的な邂逅を果たし拾って帰って来たゴスロリ少女・津神水無と仲良く手を繋いで一緒に。
「お邪魔します」
「水無ちゃんってば、今日からこの家は貴方の家でもあるんだから、ただいまとか帰りましたとかで良いんだよ?」
「....ただいま」
「良く言えました!」
ご褒美にと蹲んで水無の頭を優しく撫でると、結構な量のフケが落ちてきたので緋美華は、わっと驚いてしまう。
「お風呂何日ぐらい入ってないの?」
「忘れた」
今日まで彼女は能力を用いて悪党を成敗し、そいつから戴いた金で銭湯に行っていたのだが、"ゴスロリの幼女を見たら逃げろ、奴には今まで何十人も殺られている"と噂になり悪党が現れなくなってしまった。
だからココ一週間は食事を雑草で済ませ、銭湯にも入れなかったので髪にふけが溜まりまくってムズ痒かったのだ。
水無は、何がゴスロリ幼女だ! ガキ相手なら負けはしねえと命知らずが挑んで来るのを待っていたが結局この街にそんな気概の有る奴はいなかった。
「じゃ、お風呂に入ろっか」
床に落ちた大量のふけを見て、緋美華は水無をお風呂に入れてあげようと思い付いた。
食事を先に済ませる予定だったが痒みを感じさせたまま、食事をさせるなんて可哀想だし。
「お風呂も食事もトイレも自由だよ」
「助かる、けど風呂にもトイレにも一人で入る」
「トイレはともかく水臭いこと言わないで一緒にお風呂入ろうよ、背中とか頭とか洗ってあげるからお願い!」
「仕方ない」
キラキラと目を輝かせながら懇願してくる緋美華の懇願に、水無は頷く。
体を洗って欲しいんじゃなくて、家事を手伝うくらい(と言っても実はかなり大変だが)で居候させてくれるんだから、それぐらいの願いは聞かなければ申し訳ないと考えたからだ。
「やったー!」
水無と一緒にお風呂に入れることになって喜んだ緋美華は、学校、バイト、戦闘を終えて帰って来たとは思えないほど元気に風呂場のお湯を溜めに行き、そして水無の元へ戻って来た。
「随分と喜ぶんだ、ロリコン?」
「ち、違うよー!!」
冷たい眼差しを向ける水無の疑いを、緋美華は慌てて否定する。ロリコンだと疑われてしまうと此れからの生活が大変な事になってしまうし、実際そんな趣味はない。
「じゃあ何故?」
「私より大人びてるけど妹が出来たみたいな気分なんだもん、一人っ子だったから嬉しくて。ひよりはお母さんみたいなとこあるし」
「納得。で、能力を手に入れたのは嬉しくないの」
「うーん、能力で水無ちゃんを助けられたのは嬉しいけど、自分の為に悪用しちゃわないか心配なんだよね」
「貴方なら、きっと大丈夫」
「ありがとう水無ちゃん....っと、そろそろ入ろ!」
「あっ」
緋美華は水無の手を優しく引っ張って脱衣場に向かい、そこで二人は服を脱ぐと白くてふわふわのバスタオルを巻く。
久々に入浴できると言う喜びを前にして水無は有る事に気付いた、緋美華が脱いだ衣服の中に靴下が無かったのだ。
(そう言えば会ってから脚なんて見てなかったから、今まで気付かなかった)
自分も靴下は履いてないが、ゴスロリは私服なので問題ない。しかし学生服で靴下を履かずに登校するのは聞いたことも見たこともないので首を傾げた。
「緋美華、靴下は? 学校行ってるなら必要だと思うけど」
「私の学校は校則が割りと甘いから大丈夫なんだよ!」
そう言いながら、寝ぼけて靴下を履き忘れたまま学校指定のローファーを履いて登校してしまったが、素足でローファーを履いた方が気持ち良いと気付いた日を思い出す緋美華。
ひよりに指摘されるも校則違反ではないと知り、それから毎日ローファーを素足履きで登校するようになったのだ。
「そうなの」
「さぁさぁ、そんな事よりお風呂だよー!」
ガラッと勢い良く緋美華が浴室のドアを開けた瞬間に、一刻も早く風呂に入りたい水無は風呂を覗いてムッとする。
そうなった原因は、幼女である水無ですら入れないぐらい湯がたまっていなかったからだ。
「....これじゃ入れない」
「シャワーで体を洗ってる内にたまるよ」
「なるほど」
「納得したなら座ってね、頭から洗うから」
「....うん」
椅子の上に小さなお尻をちょこんと乗せ目を瞑る水無の髪に緋美華がシャンプーをし、シャワーを使って頭を洗ってやる。
その後も体を丁寧に洗ってあげたりしているうちに風呂がたまった。
「たまってる、じゃあ入ろう〜」
「うん」
タオルを外して二人は仲良くお風呂に浸かる、一日の疲れがスーッと消えていくほどの気持ち良さだ。
「久しぶりの風呂....あったかい」
「気持ち良いよね、ついつい眠たくなっちゃうよ」
「溺れ死ぬから寝ちゃ駄目」
「すぴー」
「....言った側から寝るなんて。私がいるから大丈夫だけど」
水無は湯船の中、隣で眠る自分より子供みたいな顔で眠る緋美華の寝顔をのぼせて風呂から上がるまでずっと眺めることにした。
風呂から上がりサッパリした水無は、満足そうな顔でダイニングチェアに座って緋美華が晩御飯を作るのを待っている。
「この服以外を着たの久しぶり....」
水無は隣のチェアの上に畳んで置いてあるゴスロリ服を見詰めながら呟く、彼女はいま愛用のゴスロリではなく緋美華が子供の頃に愛用していた赤いパジャマを着ているのだ。
「....」
置かれたゴスロリ服を見て、水無は母親を何者かに惨殺されて数ヶ月後に起きたことを思い出す。
....その日は厳格で口数が少なく仕事ばかりで殆ど構ってくれたことの無い父親が何の気紛れか街まで散歩に連れて行ってくれた。
その際に服屋のショーウィンドウに並んでいたゴスロリ服を見かけて思わず欲しいと呟いてしまい、父親から"高いから無理だ、お前を母さんを殺した犯人から護る為の護衛を雇う金で精一杯だ"と言われてしまった。
それから二日後の朝だった....父親も母親と同じ様に殺害されたのは。警察の捜索により犯人は護衛を気絶させ津神宅に侵入、父親の首を刃物を用いて切断し殺害したことが分かった。
....そして水無が欲しいと言っていたゴスロリ服が包装された箱が、父親の書斎から見つかった。口ではあんな事を言っていたが、水無にプレゼントするつもりだったのだ。
以来ずっと水無は父親が買ってくれたそのゴスロリ服を着用して来た、犯人への憎しみと親の愛を忘れないように。
「パパ、ママ、待っててね。私が必ず犯人を....」
回想を終えた水無は、優しくも厳しかった母親と不器用ながらに愛してくれた父親の仇を絶対に討つと改めて誓う。
「お待たせ〜出来たよ!」
エプロン姿の緋美華が卵焼きやハンバーグ、豚肉の生姜焼きなど美味そうな料理をお盆に乗せてやって来た、金を払わないで風呂に入れて料理も食えるなんて有り難い。
「ありがとう」
「気にしないでたくさん食べてね、あと足りなかったら言って!」
家族の復讐を誓った幼女は思った、この春野 緋美華という少女だって自分と同じく両親を殺害されているのに明るく笑えるのが羨ましいと。
「ねぇ、緋美華は復讐したいと思わないの」
隣に座って味噌汁を喉に流し込んでいる緋美華に対して、水無はそう訊ねた。
「復讐?」
「家族を殺した奴に対する復讐、貴方だって両親を殺されて哀しく辛い思いをしたはず」
「復讐なんてしたら逮捕されて皆と居られなくなっちゃうし、警察に任せるよ」
「今の貴方には能力がある、それも焔を操る能力。イパの様に消し炭にしてしまえば証拠も残らない....復讐しない手はない」
そっか、フードの子が親の仇を討つ力が手に入るって言ってたのコレだったんだと緋美華は数年前に聞いた台詞に納得する。
もし犯人が能力者でないならば捕まえて警察に突き出すが、能力者だったらその場で....。
「でも犯人が何処にいるか分からないし」
「私も分からない、だから悪い奴らを片っ端から倒して知らないか訊いて回ってたんだけど結局まだ分からない....」
そう言って拳を握り締め、水無は卵焼きを口の中に運ぶと紫色の瞳から涙をツーっと流した。
「あっ」
自分の涙に気付いて水無は目をごしごしと擦る、人前で泣かないようにしてきたのに今日だけで二回も涙を浮かべる羽目になるなんて....。
「えっ、ごめん不味かった!?」
「違う、美味しい」
「じゃあ泣くほど美味しいってことかな!?」
「...美味しいのに間違いは無いけど」
「けど?」
「....何でもない」
溜めるだけ溜めて水無は教えてくれなかったので、緋美華は思わずズッコケてしまった。
「えーっ、気になるよー!」
「教えない」
緋美華が作った卵焼きが、かつて母親が作ってくれた卵焼きの味に似ていたから泣いてしまったなんて、とてもじゃないが恥ずかしくて言えない水無であった。
第3話「明暗」
b.
津神 水無が春野家に同居する事となった次の日、見晴らしの良い真っ直ぐな道が続く峠を一台の車が走っていた。
「な、なんだ!?」
車の運転手である鷹田は驚愕した、いきなり明るかった車外の風景がベタ塗りされたみたいに真っ暗になってしまったからだ。
運悪く故障中なので車のライトを点けることも叶わない、彼はこの状態で運転を続けたら不味いと慌ててブレーキを踏むが間に合わず、ドンッ....何かにぶつかってしまった。
「クソっ、やっちまった」
いきなり夜になる訳がないし、トンネルに入った訳でもないのに不思議だなと思いながら鷹田は懐中電灯を手に車から降りる。
すると車が衝突したのは対向車では無くガードレールとハッキリ分かるぐらい、辺りは元の明るさをすっかり取り戻していた。
「狐に化かされた気分だ」
「半径二十キロメートルは能力の効果が発揮できるのか、流石は俺の能力だな」
鷹田が呆然としていると、背後からサングラスをかけ髪の毛を金に染めたいかにも柄の悪い若者が現れた。
「何だお前は」
「その車、気に入ったから俺が貰うわ」
「ふざけてると警察を呼ぶぞ」
「できんのかよオッサンよぉ」
若者が指を鳴らすと鷹田の体だけが、先程と同じく真っ暗な暗闇に包まれた。
「これは....うっ」
若者は暗闇に戸惑う鷹田の首根っこを掴み上げ、さよなら〜と笑いながら彼の体をポイッと放り投げた。
「うわあああああああ!」
放り投げられた鷹田の体はガードレールを越え崖下に落下、哀れな男の断末魔の叫びが木霊する。
「これでこの車は俺のもんだぜ!」
若者は鷹田を殺して奪った車に乗り、なに食わぬ顔で平然と峠道のドライブを開始するのだった。
c.
「起きなさい、遅刻するわ....よ?」
ウェーブがかった茶髪ショートヘアーの少女・風見ひよりが、ベッドの上に敷かれた可愛いらしい兎模様の布団を捲ると赤い長髪の少女・春野 緋美華が涎を垂らして眠っていた。
....それは毎朝の様に見る光景だが何時もと違う点が一つあった、緋美華の直ぐ隣で蒼い髪の幼女が丸まって眠っていたのだ。
「確か津神 水無って言ってたわね、いやいや子供に対して嫉妬なんて流石に有り得ないわよ私!」
「気持ち悪いから独り言は辞めた方が良い」
閉じていた目を開けると、水無は布団の中で丸まったままひよりに苦言を呈した。良く見ると彼女はツインテールをほどいて髪を長く伸ばしている。
「げっ、起きてたの」
「このケーキ二年前のだけど美味しい〜」
一方の緋美華は水無とは正反対に未だ夢の中で、むにゃむにゃと腹痛になりそうな寝言を言っている。
「なんて夢を見てるのよ、この子は....ほら起きなさい!」
寝坊助な幼馴染を起こすため、ひよりは心を鬼にして緋美華の体を激しく乱暴に揺さぶり目を開けさせるのに成功した。
「うぇ〜おはよう、ごめんね毎朝おごじでもらって〜」
「別にアンタの為じゃないわよ、さっさと顔を洗って着替える!」
「は〜い」
気の抜けた返事をすると緋美華はパジャマを脱ぎ、下着姿になった状態からスカートを履き白ワイシャツを着てネクタイを締めた。
「あまり不器用だと、損する」
「余計なお世話よ!」
「ねえねえ着替えたよ、行こ!」
「朝ご飯はどうするの」
水無の疑問は当然だった。緋美華の様な元気な子が朝ご飯を食べないってのはあまり考えられない、ダイエットでもしてるのならば話は別だけど。
「私が作ってやったわよ、はい」
ひよりは床に置いていた学生鞄から、顔が体の一番下に付いていて尻尾が二本ある可愛いくデフォルメされた怪獣がプリントされた布に包まれた弁当箱を取り出して緋美華に渡した。
「何時も有り難う」
「さっさと食べなさい!」
「はーい、いただきまーす!」
弁当箱を開けると、おにぎり六個と卵焼き四個、ウィンナーとミートボールが八つずつ....どう考えても並み以上の量はある。
だが緋美華は良く食べる方なので、作りすぎと言う訳でもない。
「 あ、そうだひより」
「何よ?」
「水無ちゃんに半分あげちゃ駄目かな?」
「え、ああ、良いわよ別に....はぁあ」
「凄く嫌そうだけど、ありがたく貰う」
こうして緋美華と水無は、キリキリしたひよりの視線を感じながら彼女作の弁当を半分こして食べたのだった。
「それじゃ水無ちゃん、学校行って来るから」
朝食を食べ終わった緋美華は、机の上に置いていた教材や課題の入った学生鞄を手にする。
「学校....」
「悪いけど留守番してて、お腹空いたらオカズ温めてね」
緋美華は寝る前に水無が餓死しないように昼食を作り置きしていた、ちなみにメニューは唐揚げとウィンナー、トマトとサラダである。
「ほら早く行くわよ、遅刻しちゃう!」
「いい子にしてるんだよ!」
「うん」
緋美華はひよりに引っ張られ学校に連れて行かれてしまった、昨日会ったばかりなのに彼女が居ないと格段に寂しく感じるもんだなと水無は思った。
(久々に二人で下校....どきどき)
夕刻四時四十四分、風見ひよりは機嫌が良さそうに胸をときめかせながら、緋美華の隣に並んで歩いていた。
今日はバイトが休みだから一緒に帰ろうと緋美華の方から誘ってくれたのだ、ひよりは仕方ないわねと渋々頷く素振りを見せたが内心かなり嬉しかった。
「でさ〜昨日から始まった青空になるってドラマが凄く面白くてさ〜」
「そうなの」
「ひよりも良かったら見てみてよ....あっ!」
緋美華はふと何かに気付くとダッシュで走り出した、重そうな荷物を持ってトボトボ歩いている老婆の姿を見付けたのだ。
「また始まった....」
困ってる人を見付けると何時も助けちゃうんだから....ひよりは、ため息を吐きながら緋美華に追い付くと、彼女はとっくにお婆さんを背負って歩き始めている頃だった。
「この人自宅まで連れてく気?」
「もちろんだよ」
「....はぁ、良いわよ私も付いてくわよ!」
「うぅ....」
緋美華の背中にしがみついていたお婆さんがいきなり泣き出した、ひよりはもしかして自分が大声を出してしまったからではと焦る。
「えっ、お婆ちゃんどうしたの?」
「いやね、最近嫌なことがあったから親切にして貰えて嬉しくて」
「嫌なことって?」
....緋美華が尋ねると、お婆さんはゆっくりめの口調で事情を話し始めた。
「実はね、若い人にぶつかって....その人が持っていた大切な宝石を壊してしまったんだ」
「もしかして弁償しなきゃいけないの?」
「私が悪いから仕方ないんだがねぇ、ただその前に変な事が起きたんだよ」
「変な事って?」
「....いいや、言ってもボケ老人の戯れ言だと思われるだろう」
お婆さんを背負っている緋美華からは見えかったが、ひよりはお婆さんが悲しい顔をしたのが見えて今まで誰にも信じて貰えず辛い思いをしたのだなあと察した。
「そんなこと無いよ、私はお婆ちゃんのこと信じるから」
「本当かい?」
「うんうん、本当だよ」
「じゃあ言うけれど、そのぶつかる直前にいきなり辺りが真っ暗になってねぇ」
緋美華とひよりは顔を見合わせて頷く。もしかしたら、その男と言うのは能力者で、雲井やイパのように能力を悪用している可能性が高い。
「その男の人って、どんな人だったか覚えてるんですか?」
今度は緋美華じゃなくて、ひよりがお婆さんに質問する。それが分かれば格段に探し出し易くなるからだ。
「出会ったのは駅前で、いかにも不真面目そうな....」
....金髪のサングラスを掛けた若者。その特徴をした人物を探しながら、緋美華はひよりと一緒にお婆ちゃんを自宅まで送り届け、別れ際に犯人を捕まえてあげるよ!と約束して帰った。
「と言う訳なんだよ」
もしかしたら能力者の悪事かも知れないと、ひよりと一緒に帰宅した緋美華は水無に先程お婆さんから聞いたことを全て話した。
「怪しい。その若者は徹底的に調べるべき」
「へへーん、その人と何処であったかお婆ちゃんに聞いたよ。其処をうろうろしとけば、犯人は能力を使って難癖つけてくるかも!!」
「....でも緋美華、学校もバイトもあるよね」
「あ」
水無の言葉に緋美華は間抜けな声をあげた、どうやら知能指数の低い彼女はそこまで考えていなかったらしい。
「一人で行くから」
何だか寂しそうな顔で水無は言う、ひよりはコイツ緋美華に若干なついたなと勘づく。
「ううん、バイトは休ませて貰うから二人でやろーよ」
「ちょっと!」
「お店の人には迷惑かけちゃうけど、代わりに土曜日にでも働かせて貰えば良いし!」
「....わかった」
淡々と、でも少し嬉しそうに言って水無は頷いた。
「アンタはっ!!」
学校とバイトだけでも大変なんだから、あまり無理しないでよ....そう言いたいのに口に出せず、ひよりはただ緋美華を不安気に見つめた。
つづく
いやあ悪役が魅力的な作品はいいですね、どうやったら魅力出せるんすかね