第16話「†悪 魔†《Intimidation》」
ペースがやたら早い時期と遅い時期、いまは前者。というか前投稿した話が学生時代に読んだ小説の作者さんにふぁぼられてテンション上がったからです。
たぶん誤ふぁぼ、とかそんなオチでしょうけども、ふぁぼられたことにはかわりねーし?(調子に乗る
a.
「この手紙を書いたのは、さっきアンタに自分で目を潰させようとした人物ね」
緋美華のロッカーから出てきたのは、“春野 緋美華、娘の為に死んでくれ。そうすればもう襲わない、頼む“ そんな戯れ言が血で書かれた紙だった。
(こんなの送り付けられちゃ、青冷めるのも無理ないか)
ラブレターじゃないって聞いて一瞬だけ安心したけれど、死の催促状よりはそっちのがよっぽどマシだったかもしれないわね。
「娘の為って一体....」
「考えられるのは、娘を人質に取られてアンタを襲えって誰かに言われたとか、そこら辺かしら」
「だとしたら私は、どうしたら良いんだろ」
隠し切れてるつもりだろうけど、緋美華は悪党相手ですら心を痛めながら戦っている。
そんな彼女がもし脅されて襲って来た罪の無い人間と戦うことになったら....私やあのマセガキが戦えばいい、でも。
(アンタは止めるんでしょうね、自分がどれだけソイツに傷つけられても)
「迷うことでも無いでしょ、見つけ出して倒すのよ。流石に御人好しのアンタでも、死ねと言われたからって死にたくはないでしょ」
「でも、倒しちゃったら娘さんまで!」
「大体これが本当のことかも分かんないじゃない」
緋美華はバカだからあからさまに嘘臭いことでも簡単に信じ込む、敵は彼女の名前もロッカーも知ってるんだから、それぐらいのことも知っていてもおかしくない。
その性格を突いて、娘を人質に取られた罪無き殺人者と偽り現れれば、緋美華はきっと抵抗できない。
「そうだよね、罠って可能性も有るよね!?」
希望のある可能性を聞いて、餌を与えられた子犬の様にパッとした表情になる緋美華。
かわいいけど若しもこれが罠じゃなくて本当のことだった場合は、かなり沈痛な表情になるんだろうなって考えると心苦しくなる。
「敵を探したいとこだけど、先生に早退するって言った手前、学校には居れないわね....どうする?」
「一先ず帰ろう、人気の少ない場所を通って」
「なるほど、ね」
要するに緋美華は、敵を誘き出してケリを着けるつもりなのだろう、人気の少ない場所でなら襲いやすいしね。
緋美華を仕留め損なって焦った敵は後を付けてくるハズ、そこを私が取っ捕まえてやる。
(この子を傷付ける奴は許さないから、例え娘を人質を取られていたなんて理由があっても)
「うわーん! 太陽が隠れてるよ、やな天気だなぁ」
....校内から出ると、鈍色の雲が空を覆っていた、例えどんな大雨が心に降ろうと私は緋美華の傘になって彼女を守ってみせる。
「一雨来そうね、傘買って行きましょっか」
「確か四百円だったよね」
「そうよ、降る前に行きましょ」
「うんっ!」
四百円は最寄りのコンビニで売られている傘の値段....百均に行ければベストなんだけど遠いのよね、途中で雨降られたら意味ないし。
はぁ、たった四百円の損失でもお小遣いギリギリの女子高生には辛いわね、と嘆かずにはいられない。
(でも、ま)
緋美華と一緒に歩けるんだからそれぐらい別に良いわね、我慢できるわ、ふふふふふ。
「ひより、なんだか嬉しそう?」
緋美華が怪訝な顔で私の顔を覗き込んできた、喜びが顔に出てしまうなんて、まあ幾らでも誤魔化せるし。
「曇り空、わたし好きなのよ、涼しくて」
「初耳!」
「始めて言ったもの」
早歩きでそんな下らない会話をしつつ、私達は最寄りのコンビニへ傘を買いに向かうのだった。
b.
(あわわわ、ドキドキする)
もしかして緋美華は私に気が有るんじゃ?って少しぐらい期待しても良いですか神様、違ったとしても今わたし凄く幸せです.....なんてらしくもないことを心の中で言ってみる。
何故こんなに喜んでいるかと言えば、私と緋美華はいま一つ傘の下で歩いているから。彼女が相合い傘すれば二人とも買わなくて済むと、なけなしの四百円を支払い一本の傘を買ってくれたのだ。
(私が払うって言ったのに頑固なんだから、傘を持つのは私に何とか譲ってくれたけど)
ざあざあと大雨はコンクリートや家屋などを絶え間なく叩き続ける、キモい蛙やカタツムリも出現するし、何時もは大嫌いなこの天気に今は掌返して感謝。
「はいはい傘なんへカッふるみたいはへー」
相合い傘なんてカップルみたいだねと、コンビニで傘の序でに買った黒豆コーンアイスとかいう気持ち悪い食べ物を咥えながら緋美華はいう。
「ふん!誰がアンタなんかと、それに食べてから喋りなさいよね」
なんて言っても本当は滅茶苦茶カップルぽいと思うし、本当にカップルになりたい....。
(なれるわよね、あ、いま思えば、この雰囲気なかなか良いじゃない、此処で告白しちゃうのよ、頑張りなさい私!)
敵を誘き寄せるため、私達はいま何時もの通学路とは違う人気のない廃道を歩いている。
二人きりの場所で(敵はついてきてるかもしれない)相合い傘なんて、今行かずにいつ行くのか....勇気を振り絞り、いざ勝負!!
「あのね緋美華、私はアンタのことが」
「うん、なに?」
「すっ、すっ、好きなの、恋愛的な意味で!!」
言えた。言えたんだけど....言ったと同時にゴロゴロ、ピシャッ!ドーン!! 嫌がらせかと思えるほどデカい音を鳴らしながら雷が落ちた。
「ごめん、雷のせいで聞こえなかったよ、もう一回お願い!」
なので残念ながら緋美華に告白は届かず、私が絞り出した勇気は台無しになった。ラノベ並のバッドタイミング....雷あんた空気読みなさいよ、ヘソ取られたいの!?
「何でもないわ、ま、此処まで来たら流石に襲って来るでしょ」
「うん、来るのを待とう」
緋美華は目を閉じて言う、きっとあの手紙が嘘で本当でないことを祈っているのだろう、テスト前にする神頼みとは重さが違う。
「....あのガキ、目を潰して俺が有利になる様にしてくれるって言ったのによ」
「来たわね!」
無精髭を生やした顔中皺だらけの白髪の男が、トンネルの中から虚ろな瞳でふらふらと体を揺らしながら現れた。
「貴方が私の命を狙ってる人ですか!?」
緋美華がどストレートに訊ねると男は、そうだ。と力なく答えて尻ポケットからカッターナイフを取り出した。
「やめてください!娘さんは必ず助け出しますから!!」
「無駄だよ、あれを見な」
「あれって....」
男が空を指差し、それを目で追うとタコの様に赤い触手を回転させながら雨空に浮く気持ち悪いドローンらしきものが。
「雨音と雷鳴に気配も音も遮られていたとはいえ、全く気付かなかったわ」
「もしお前が死ぬ場面をアレに見せることが出来なかったなら、娘は死ぬ」
「....いいよ、でもちょっと待って下さい」
津神 水無を連れてくるつもりね、彼女がいれば即死しない限り致命傷でもすぐ治癒して助かる。
「ちなみに死んだ真似をして、津神 水無に後で治癒してもらうというのもナシだとさ、だから駄目だ」
「!」
くっ、対策されてる、やっぱり敵は私達のことを良く知ってる相手か。
「てなわけだ、津神がいない場所で死なせなくちゃならないんだ!!」
「きゃあっ」
男はカッターナイフを手に緋美華へ突進してくる、娘の命を背負った親の顔は真剣なものだった。
そりゃ娘さんは大切よね、だけど。
「貴方にとって娘さんが大切な様に、私だって緋美華は大切な子なの!」
私は傘で男の足を払い、転倒させてからカッターナイフを没収、氾濫する用水路の中へポイっと捨てた。
「わかるけど頼むよ!! 死んでくれ、そのあと俺を殺してくれても構わないから、妻に負担をかけちまうけど」
男は泣きじゃくりながら何回も何回も土下座を繰り返す....この様子だとあの紙に書かれていたことは本当みたいね、演技じゃ此処までは無理だわ。
「....私、は」
「ばか!!」
痛ましく泣きながら懇願する男の姿を見て、何を緋美華が言おうとしたのか察した私は、思わず彼女の頬を叩いてしまった。
「いたっ」
「あんた今死んでも良いって言おうとしたでしょ!?」
「私が死んだって、水無ちゃんやひより、金城さんがいるじゃん、だから私一人いなくなっても敵は倒せるよ?!」
最初は津神と自分だけしか善良な能力者を知らなかった、でも今じゃ増えたから一人ぐらい減ったって戦力は十分って言いたい訳ね。
他の誰か一人でも死のうとしたら絶対止める癖に、まったくアンタって子は本当に....!
「バカね、アンタが死んでも敵は同じ事を繰り返して来るわ!」
直感でわかる、ヴォルフトを倒された黒い血が狙ってきたのだと、だから報復の為に私達を散々いたぶってから始末するつもりだと。
「ジカンギレ、いつまで口論しテンダ、殺し合ってクレルト思ったノニのう?」
ドローンは、いきなりそんな加工された音声を発したかと思うと黒い墨を男に噴射。
「うああああ、あ、ああ」
墨を吹き付けられた男は一瞬で白骨化してしまった、なんて残虐非道なの....!?
「アナタガダマッテ、殺されネーカラ男はシンだ」
「私の....せい」
殺人ドローンに煽られて、緋美華は冷たく濡れた汚いコンクリートの上にペタンとへたり込んでしまった。
「バカなこと言わないで! 殺したのはアンタじゃない、緋美華、こんなカスの台詞を真に受けちゃ駄目よ! 」
「ムスメもオマエのせいでシん」
「くそぼけ!!」
ドローンが言い終える前に雷撃で撃墜し黙らせた、けれど遅かった、緋美華は青冷めてガタガタ震えている。
「娘さんも....」
「アンタが罪悪感を覚える必要なんてないわよ、アンタは何も悪くない」
「あっ、うん、ありがとう、大丈夫だよ」
優しい彼女は自分で分かっていても罪悪感に苛まれているだろう、悪い奴と戦ってる時にすら心を痛めていたんだから。(口には出さないけど表情でわかる)
それでも私を安心させようとムリやり笑顔を作るものだから、健気さに切なくなった私は思わず彼女を抱き締めて呟いた。
「雨、止まないわね、今なら涙を流しても分からないぐらい土砂降りだわ」
これは嘘だけどね、私なら緋美華が泣いていたらすぐに分かるもの....というか私の声も今にも泣きそうなぐらい震えてるわね。
「ひより....」
緋美華は私の胸で、初めて人を殺めたあの日の様には泣かず静かに泣いていた、雨が止み、空に虹をかけるまで。
一方わたしは傘を抱き締め続けてあげることぐらいしか出来なかった、せっかく戦う力を得たのに結局、助けてあげられなかった罪悪感に拳を握り締めながら。
つづく
目のバランス難しくないですか?かけねえ