第15話 「†怪 議†《conference》」
今回は割りと早め、なんかやる気が出たから
a.
正義感や良心を僅かにでも持つ者....悪人でも弱者であれば絶対に知ることは出来ない、遥か太平洋の底にある巨大な施設の中、殺風景な真っ白な部屋で会議が開かれていた。
・ロシアの民族衣装であるサラファンを着用し、糸目の片方を髪で隠した長身の女性。
・モノクルをかけた、白衣姿の幼女。
・緋美華が能力を得る原因を作ったフード姿の少女。
・不気味な仮面を付け、道化師服を着ている少女。
・青髪サイドテールの、赤いロリィタ服にマントを羽織った、生意気そうに腕を組む幼女(と言っても白衣幼女よりは僅かに大きい)。
・腕組み幼女に似ているが、彼女よりも九つ歳上で凛々しい顔付きの、修道服を着た女性。
参加者は上記の6人で、皆それぞれ円卓に座っている(あと一つ空席がある)、いったい何についての会議なのだろうかーーーーーーーーー?
「ヴォルフトが敗北、海の底に沈んで行方不明となりました」
円卓の中心に座っている修道服の女性が、機械にさえ冷たい奴だと思われそうなほど淡白に言った。
仲間の一人であるヴォルフトが海に消えたので次は誰が 春野 緋美華 の始末を担当するか....それがこの会議の議題。
彼女達は水無が探っていたが断念した組織・黒き血の幹部連中だ、同じく幹部であるヴォルフトすらこの中では強者とは言い難くなるほどの怪物どもである。
「あらら、私達の中じゃ一番弱いって言っても、それなりに強い子だったのになー」
フード少女は残念だよとジェスチャーをしながらも、何時もと変わらぬ口調、そこそこの付き合いだが別に何とも思ってないようだ。
「哀れですね、彼女は真面目に良く頑張っていたのに」
キャソックの女性はフード少女と違って心の底からヴォルフトの死を嘆いて、ハンカチで目元を拭っている。
「弱いから真面目なんだよー、気を抜く余裕ないから何時もピリピリしてさーあははは、むぐむぐ」
赤ロリ幼女は無慈悲にもゲラゲラ笑いながら、机に置いていたバニラアイスを犬みたいに頬張って満面の笑み。
「話に戻ろうよ、次は誰が春野 緋美華の始末を担当するかだよね、正直なとこ誰でも簡単に出来そうだけど」
「しかしシスター・マルティムよ、神官ヘルネイクが来ていませんが」
「大事な会議だと言っていたのにまたサボりましたね」
キャソックにシスター・マルティムと呼ばれた修道服の女性が、頭を抱えて溜め息を漏らす、どうやら神官ヘルネイクと言うのは手の焼ける人物の様だ。
「あの子もサボり癖直んないよねー、私は無遅刻無欠席だよ、偉いよね誉めて誉めて!」
「しかし偉大なる我らが主は彼女を必要な存在だと仰っています」
「だからクビには出来ない、ああ、面倒臭い」
マルティムは頭を痛ませながら、中心となって会議開始。私がやりたーいとか私は別件が有るのから無理とか、長期休暇中なのでとかいう意見を出した者は候補から除外。
数時間に及ぶ会議の結果、消去法で白衣幼女に決定した、研究開発の仕事はある様だが丁度良い息抜きになるのでOKらしい。
「でな次に活躍して貰うのはお前にしよう、プロフェッサー・カリマール」
「お任せあれ。この私が必ず始末してあげようぞ〜散々モルモットにしてからね」
そう言うと白衣の幼女....プロフェッサー・カリマールはモノクルをくいっ、昭和特撮映画の結局使われなかったが明るい曲調なのに殺伐とした歌詞でマニア人気のある歌を口ずさみながら退室。
「春野 緋美華とお友達、可哀想ー!」
「あんな悪魔に狙われたら、命より前に精神がもたないよねー」
「ふふーん、壊される前に私もちょっと遊ばせて貰おうかな」
そう言って赤ロリ少女が空になったアイスの箱を卓上に置いたまま会議室から出て行くのを見送り、フード少女は不敵に笑む。
(さあ、この試練を切り抜ける事が出来るかな、春野さん。お願いだからこれぐらいで壊れたりしないでよ?)
これから春野 緋美華がどんな目に遭うか想像した為に思わず涎が溢れたが、フードで口まで顔を隠されていたので、誰もその事に気づかなかった。
b.
金城さんがヴォルフトを倒してから早くも一週間が経過! 私達はのんびりとした学園生活を過ごしていた。
そして今は数学の授業中、体育以外の授業はぜんぶ苦手科目なんだけど、その中でも特に眠たくなっちゃうんだよね。
「だから寝ちゃうのも許してね」
「じとーっ」
「あうっ」
隣の席から視線を感じて恐る恐る見てみれば、“誰が許すか“ と言いた気にひよりが私を睨んでる。
しかも黒板に書かれた数式をノートに写しつつなんて流石はひよりだよ、器用だなぁ。
「うわーいきなり眠気が覚めちゃったよ、わーいわーい世界で下から二番目に嫌いな勉強タイムだ頑張るぞー」
「勉強が嫌過ぎるからって変なこと口走るんじゃないわよ」
「仕方ないじゃん、勉強つまんないもん」
体育はあんなに楽しいのに勉強は直ぐ眠たくなる、これってつまらないから以外の理由は無いよねっ。
「こら春野、風見はともかくお前は喋るなああああ!」
「ぎゃふん」
先生のチョーク投擲攻撃が額に直撃、あまりの衝撃で椅子ごと転倒しちゃった。なんて精密さと攻撃力... ...もしも先生が能力者だったら、かなり心強い味方になってくれるかもしれない。
「私はともかくって、贔屓は辞めてください先生」
「いやいや、お前による授業中の私語は無駄な場合が無いからな」
ひよりは超が付くほど成績優秀なのに、加えてというか、だからと言うか、超が付くほど真面目な態度で先生達からの信頼が厚い。
だから先生もこの通りニッコリ笑顔、ふふーん、ひよりは凄いでしょ、自慢の幼馴染だよと、席に戻りつつドヤ顔!!
「緋美華ちゃんは相変わらずバカだなぁ」
先生に怒られた私を見て、入学して直ぐに出来たお友達・石堀さんが意地悪くクスクス笑ってる。
いつも分けてあげてるお弁当の唐揚げ、今日は絶対に分けてあげないかんだからね、べーっ、だ。
「お前も喋るな授業中だろうが!」
「ぎゃふん」
石堀さんの額にもチョークが白い粉を散らしながらヒット、ああ、第二の犠牲者が出てしまいました... ...歴史は繰り返すのですね(昨日ひよりと見た映画に出てきたヒロインの真似)。
やっぱりお弁当の唐揚げ一つ分けてあげよう、戦友への弔いだ(昨日ひよりと見た映画に出てきた主人公の真似)... ...なんちゃって。
「リアルでぎゃふんって言うヤツが、周りに二人もいるとは思わなかったわ」
呆れた表情でひよりは溜め息を吐いて、再びノートに数式を書き写し始めた。
「なーにやってんの、ほら」
「面目茄子茶漬け」
「つまんな」
頭を掻きながら石堀さんと仲良しの三尋木さんが、転倒して目を回している彼女の腕を引っ張り起こす。
それを見て私たちも!とひよりにチラチラ視線を送って催促してみるけど、残念ながらひよりは馬鹿じゃないのと呟いて、プイッと外方を向いてしまう。しょぼん。
「もうひよりってば冷たいんだから〜」
「は・る・の〜?」
「はい....」
うわぁ、先生激おこだよ、良い加減しないと生徒指導室に連行されちゃうかも知れないから大人しく黙っとこ。
c.
....あぁ、喋りたい燥ぎたい走りたい、それが叶わぬ願いなら爆睡したい。
黙ってノートに数式を書き写し初めてから五分足らずで、欲求がいっぱい体の内側を蝕んでくる、我ながら落ち着きないのは分かってるけどさー!!
(我慢我慢、あと五分で授業は終わるし)
時計を見てからノートに視線を移すと、書き写しに使っていたシャーペンの芯先が私に向いていた。
危ない危ない、刃物じゃなくたって場合によっては怪我しちゃうからね、慌ててシャーペンの芯先を再びノートに向けようとした、けど。
(あ、あれ、あれれ、動かない!?)
何故か指が動かない、ううん、指どころか体もまったく動かない、これが世に言う金縛り?
金縛りに遭うと幽霊が襲って来るなんて話を聞くけど、そんな気配はない、でも怖い....でも恐怖はそこで終わってくれなかった。
(うそ、やっば)
なんと私の指がシャーペンを此方に向けたまま勝手に動いて、眼球にゆっくりと迫ってきた。
まるで何かに縛り上げられて指だけを引っ張られてる感覚だよ、操り人形ってこんな気分なのかな?
兎に角ついさっきまでは動いてと思ってたのに、今は動かないで止まってよと願うなんて皮肉なものだなぁ。
(か、体が止まらない、口も動かないから助けてとも言えない!)
全身から冷や汗が滝の様に流れる、やだこれもう、一体どうしたら良いのかな、このままじゃ自分で目を突き刺しちゃうよ。
なんて考えてる間にシャーペンの芯先は私の眼球まであと二センチ程度まで迫ってきてる、やだやだ、誰か助けて....!!
「なにやってんのよアンタ!?」
パチン。凄い形相でひよりが私に対して思い切りビンタ。まったく容赦のない一撃でかなり痛かったけど、お陰でシャーペンは私の手から落下。
これで一先ず自分で自分の眼を潰さないで済んだよ、水無ちゃんに治して貰えば早いけど、痛いのは嫌だし何より彼女に出来るだけ手間かけさせたくない。
「風見さんナイスヘルプ!!」
「え?なになに喧嘩?」
「春野さんが自分の目にシャーペンを」
「ええーっ?」
教室中がざわついて先生は怪訝な目....助かって安心はしたけどちょっぴり恥ずかしい、目立つのは嫌いじゃないとはいえこんな形じゃあね。
「私がたまたま、そう、たまたまよ、たまたまアンタのこと見てなかったら危なかったわね!」
「有り難う、ひよりは私の命の恩人だ〜!」
「きゃあっ、ちょっともう抱き付くんじゃないわよ」
ひよりは抱き心地が良いから落ち着くんだよね、すりすり、柔らかい〜良い匂い〜。
「ひよりん嬉しそう〜」
「緋美華に抱き付かれて嬉しいなんて思うわけ無いでしょ、てか誰がひよりんよ!?」
石堀さんに嬉しそうって言われた瞬間、ひよりは慌ててパッと私を押し退ける。
「むぅ、けちー!」
「ドンマイ、まあ思い悩みなさんな」
涙目で膨れる私の肩に、ポンっと手を置いて三尋木さんが私を慰めてくれた。
「一体どうしたんだ....はぁーあ、勉強できないからって、あー、自分を追い詰めるなよ」
だるいなぁって態度を隠す気配のない先生、問題を起こされたら面倒臭いし一応それっぽいこと言って置こうって思ってるでしょ、もう。
「先生、申し訳ないのですが、この子のメンタルケアをしたいので早退させて下さい」
「確かにお前は春野と幼馴染だし、相談相手には持って来いだ、頼んだぞ」
「はい、任せて下さい」
「ひより、別に私は悩みがあるわけじゃっ....」
「悩みがある奴は大体そう言うの、で、いきなり自殺したりするのよ」
そう言ってひよりは私の腕を力強く掴んで教室から引きずり出した、うぅ、出るとき皆の、まさか春野さんがそんな....大丈夫かな?とか、誰かいじめたの?とか聞こえてきて罪悪感が。
まあ、こうして私はひよりと一緒に早退することに。金城さんが御両親の仕事の手伝いでいなかったから良かったけど、もし居たら、“風見さんにまた面倒をかけて許せませんわ!“っておこおこになってただろうなぁ。
「うぅ、正論じゃん、ごめんね迷惑かけて」
「まったくね、で、今日怪しい奴を見かけたりした?」
「え?」
「さっきの自傷行為未遂、やりたくてやった訳じゃないでしょ」
「なんで分かったの!?」
「アンタはそんなことする性格じゃないもの、何年わたしがアンタの幼馴染やってると思ってんのよ」
感動して泣いちゃいそう、やっぱり私はひよりのことが大好きだよ、愛してるぜベイベ!!
「ひより....ううん、怪しい人は見てないよ」
「うーん、あんまり言いたくは無いけど、生徒の中に能力者がいてアンタを狙ったのかも知れない」
「そんな!みんな優しい子ばかりだよ!?」
「可能性の話よ、それに少しは人を疑いなさい、また糞みたいな林檎を買わされるわよ?」
「う、あう」
何年か前に、見知らぬおじさんが自宅に来て、わざわざ遠い北海道から売りに来たんだから林檎一万円分を是非買ってくれないかと頭を下げて頼まれた。
何だか可哀想なのでつい買ってしまったところ、箱の中には林檎はたったの六個、しかも腐りかけで凄く不味い、ひよりにバカじゃないのアンタって散々お説教された苦い思い出が甦る。
「それに優しい顔して心の中では....なんて人珍しくないんだから」
「分かってるよ、でも嫌だな、人を疑うのって」
「誰だってそうよ....と、履き変えましょ」
会話して歩いているうちに玄関に着いたので、シューズからローファーに履き変える為にロッカーを開けると(私はいつも裸足だからこの時の床の冷たさを肌で感じられて気持ち良いんだよっ)、一枚の紙が入っていた。
「もしかしてラブレターかなぁ?」
「ばっ、ばばばばば、ばっかじゃないの、誰があんたなんかに告白とかするのよ、ま、まあ恋人出来ずに学生生活終わるのは可哀想だから、そ、その、私が....」
「なんなのこれ....」
残念ながらラブレターなんかじゃなく、ロッカーに入っていた紙には血でこう書かれていた、“春野 緋美華、娘の為に死んでくれ。そうすればもう襲わない、頼む“ と。
つづく
昔見た映画で手が勝手に動いてペンで自分の目を刺すシーンがありましてトラウマなんですが、それが今回の元ネタです。
でもその映画のタイトル思い出せません、誰か教えて下さい