第14話「†金 色†《gold pride》」
思うよりあっさり
a.
薄暗く気味の悪い森の中、不快な思いになりつつ、湿った土をハイヒールで踏みしめて歩くこと五分。
金城は、注連縄が張られた大木とそれに凭れかかる血塗れの女を見付けて、駆け寄ったが思わず両手で口を塞いだ。
「オエッ、臭すぎますわ!!」
吐き気を催す臭いの原因は一目瞭然、女の全身は腐敗し蛆が湧いてしまっているのだ。
「どう見ても死んでますわね、あら、ビデオカメラ....?」
女の傍に落ちていたビデオカメラを拾い上げ、金城は興味本位で再生してみることにした。
「はい私はいま、行方不明者が多発しているという心霊スポット、黒犬森林に訪れています」
「うぅ....うぅ....」
「幽霊とか全く出てきませんね、やはり迷信なんでしょうか?」
女性のすすり泣く声に、撮影者(恐らく死んでいた女性)は気付いてないようだ....常人なら恐怖するところだが肝っ玉の据わっている金城は平然と動画視聴を続ける。
「あっ、見てください注連縄が貼られた木がありますよ、不気味ですね」
暫くただ薄暗い森の中をライトで照らしながら歩くだけの退屈なシーンが続いていたが、今まさに金城が立っているこの大木に近付いたとき、異変は起きた。
「美味そうだな」
「侵入者は食べて良いらしい」
「腹減ったし食べよう」
いきなり茂みの中から物騒な会話が聞こえてきたのだ、撮影者は驚愕して声も出すことが出来ない様子。
と、次の瞬間だった、声が聞こえてきた茂みから、三匹の黒い狼が飛び出してきたではないか....。
「喋ってたのはこの犬達!?」
「犬じゃない狼だワン!」
「犬じゃねーか!」
(こいつらはヴォルフトの飼い犬ども!)
「....逃げないと!」
「逃がすかよ」
撮影者はふと我に帰るや否やカメラを持ったまま逃亡を図ったが無駄なこと、三匹の黒狼どもは彼女を遥かに凌ぐ速さを発揮し、すぐさま追い付いてしまった。
「いやっ、助けて食べないで!!」
「こちとら上司から餌貰えるのは一週間に三回だけだぞ」
「ブラック企業ってやつだから腹減ってんだよ」
「てなわけでいただきまーす」
黒狼の顔面アップを一瞬だけ映してからカメラは地面に落下したが、「痛い、苦しい、助けて」という悲痛な声と咀嚼音を捉えていた。
....電池がプツリと切れて画面が真っ暗になるまで。
「腹減ってる割には食べ残すなんて、味が合わなかったのかしら」
電池が無いのに何でカメラを再生できたかよりも、そちらの方が気になる金城であった。
「道草食い散らかしてしまいましたわ、いけないいけない」
カメラを死体の傍らに置いて、成仏して下さいましと手を合わせると、金城はその場を立ち去るのであった。
彼女が闘技場のある廃墟ビルに辿り着けたのは、それから十分後のことである。
「この床を破壊すれば!」
金城はゴルアクストを顕現し、思い切り床を叩きつけて豪快に破壊! 緋美華と水無が窮地に陥っている所に舞い降り....
「きゃああーっ!」
....いや、落下した。
「げほげほ。んんっ、悪党め、貴方の悪事はそこまでですわよ!」
「この声....諦めないで良かったよ」
「まさかコイツが助けにくるなんて」
「地上に舞い降りし正義の女神、金城 沙雅ここに参上でしてよ」
それから金城はヴォルフト配下の黒い狼たちをあっという間に始末した、残るのは旧友を倒すのみである!!
b.
我が配下の黒狼ども、一匹一匹が手練れの傭兵に匹敵する戦闘力を持つ中々に使える奴等ではあったが一分足らずで全滅させられるとは。
嘗て友と呼んだ女は現在、こんなにも強くなっている、あぁ余計に跪かせたく、私の長靴を舐めさせたくなる....!!
「いま貴方とても気色の悪いこと考えましたわね、死刑ですわ!」
「良いぞ、その嫌悪感を秘めた瞳。敗北による絶望で曇らせたくなる」
「片腕で私に勝てるなんて思ってないですわよね!?」
金城は我が配下を葬った戦斧を容赦なく私に斬りつけてくる、生意気な性格だが正義感は強い。
例え嘗ての友と言えど悪事に手を染めているなら容赦なく始末することができる、ふふふ、やはり屈服させ甲斐のある女だ。
「思うさ、片腕どころか片脚になっても私は貴様に勝てるのだ!!」
私は戦斧をアーミーナイフで受け止めて弾き、サマーソルトで金城の顔面に傷を付ける。
「片腕だけであのおっきな斧を小さなナイフで何とかしちゃったよ!?」
「なんてパワー....」
そういえば春野 緋美華の始末が我が任務だったが忘れていた、この私に任務を忘れさせる程に夢中にさせる、貴様は罪作りな女だ。
「きーっ、美しい私の顔面を攻撃するとか許せませんわ!」
血を拭って再び戦斧を手に突っ込んで来る金城に対し、悪戯な子供の様に脚を出して転倒させる。
「げふぉー!」
「そんなに顔面を気遣うなら仮面でもつければ良いだろう」
膝を擦りながら立ち上がろうとする金城の背中目掛けてアーミーナイフを投擲、しかし彼女の姿が一瞬で消滅、ナイフは地面に刺さっている。
「私の美しい顔面を隠すなんて勿体無さすぎますわよ、センスないですわね」
いつの間にか金城は私の背後に移動していた、人間の身体能力では一秒とかからずこの距離を移動するのは不可能。
つまり瞬間移動が金城の持つ能力と言う訳だな、中々に厄介な能力ではあるが我が能力の敵ではない。
「驚愕したが、予想外の出来事に対応できなければ軍人は務まらないのだ!!」
「きゃああああ!」
ああ、背後から金城の心地よい絶叫が聞こえる、今まで聞いたどんな絶叫よりも堪らないぞ。
「金城さん!!私も戦わな....きゃ」
「緋美華!!....良かった、気を失ってるだけ」
どうやら限界だったか春野 緋美華、私が金城と戦ってる間に水無が治癒したのかかダメージによる疲労までは回復できんようだ。
兎に角さぞかし恐怖しただろう金城よ、何もない・誰もいない背後から銃弾で肩を撃ち抜かれたのだからな。
「私に死角はない、例え上空だろうと真下だろうと背後だろうと」
自分の顔面に自信を持っているナルシストは二度と鏡を見れなくなる程に醜い顔にしたくなるが、貴様の顔は結構な好みだから見逃してやろう、しかし体の方には容赦なく数え切れない傷を付けてやろうではないか。
「たっ、確かに貴方の能力なら、戦車や戦闘機を破壊しなくても中にいる操縦者を始末できますわね」
「そうだ、私は無敵なのだ」
肩を押さえながら金城は立ち上がり、私の方にゆらゆらと近付いてくるので再びナイフを投擲するも、再び瞬間移動で回避されてしまった。
「ただし貴方の無敵は満月の夜に限る」
バレたか、まあ戦争で私が無双した日のデータから推測はできるか、分かっていても対策は不可能だから問題ないな。
「ふふふ、今はその満月の夜、私は無敵なのだ!!」
「げふっ」
学習能力がないのか貴様は、私の背後に移動して無から発射された弾丸に背中を撃ち抜かれるという先程と殆ど同じ目に遭いおってからに。
金城は倒れる際に私の背中に触れた、なにか嫌な予感がする....。
「今度は....触ることに成功しましたわ、ダメージは負いましたけど」
「えっ!?」
「冥土の土産に教えて差し上げますわ、私は体験する危険度の高さに比例して相手を転移させる距離を伸ばすことができますのよ」
「しまっーーーーーー!」
言い切る前に私の体は別の場所に転送された、それは理解できるが、いま何処にいるのだ、私は!!
海の側、たくさんの船、網にかかった魚を見つめる野良猫、港町なのは分かったが何処の国かまでは分からんが今一番の問題は太陽が出ていることだ!
「月がない、月がないいっ!」
金城め、だから、そうか、膝を擦っていたのも肩を押さえていたのも自分を転移させる為だったか。
ここには満月は出ていない、まずい、能力は使えないっ、対して奴は能力を使える、非常にまずいぞーーーーーッ!!
C.
「ここが海外かぁ、初めて来たよ」
「私も。港町ってのは分かるけど」
「今までになく疲れましたわ」
ヴォルフトを海外に転移させるだけで大変なのに、連れていけと我が儘を言う春野と津神ペアまで連れて来なければいけないなんて。
「貴様らは戦闘不能になった筈ではないのか!?」
「回復したよ、ちょっと寝たら体力ばっちり回復したもん!」
「私も貴方にとどめ、刺せるくらいには回復したよ」
この二人のタフネスさは何処から来るのでしょうか、それに比べてすぐバテてしまう風見さんの可愛らしいこと。
おっと、風見さんのことを考えるのはヴォルフトをぶちのめして帰ったあとにゆっくりしましょう。
「切り裂け・水 刃」
「ひぎゃっ」
津神の水刃(名前まんまですわね)により、ヴォルフトは右足を切断されてしまいました。
一応銃で撃ち落とそうとはしてましたが、いきなりの軌道変更には対応することが出来なかったみたいですわね。
「逃げ、逃げなくてはっ....」
「片足がなくても私に勝てるのではなくて?」
「あっ、あれは能力が使えたから」
「認めましたわね、能力がないと私には勝てないって!」
「くそっ、ん、運が良いな私は、神は私の勝利を望んでいる!」
この国の人々はヴォルフトが来たときに異様さでみな逃げたと思っていたが、興味本位の野次馬らしき女がひょっこり現れた。
そしてヴォルフトは野次馬女の背後へ片足で跳躍からの空中一回転で移動、首筋にアーミーナイフを突き立てた。
「こいつがどうなってもいいのか!」
「help!」
「あー、この卑怯もの! 関係ない人を巻き込まむなんて!!」
「小物になったね」
「はああ、追い詰められて人質とか敗北フラグですわよ? ああ、どうぞお好きに」
「血も涙もないのか貴様は〜〜〜〜〜!?」
「貴方がそれを言いますの?」
私はヴォルフトにそう言ってやる、背後から。もう人質は安全な場所、春野 緋美華の真後ろへと転移させてやりましたわよ!
「えっ!?」
「神が望むのは正義の味方の勝利ですわ!」
「げほっ」
ヴォルフトの背中を思い切り蹴飛ばす、ハイヒールだから凄い痛みの筈ですわよっ....!
「ぐふおああ、あ、ひっ!?」
「さっきの御返しだよ!」
「私も」
「げぁあああああああ!」
よろめくヴォルフトに焔を纏った春野 緋美華のパンチと水無のキックが連続で炸裂、悪の軍人は遂に倒れる....さあ終わりの時間がやって来ましたわよ!!
「我が親友よ、楽しかい時間をありがとう。しかし貴方は数多の罪なき人々の楽しい時間は奪った!」
私はヴォルフトの片足を掴み上げて超高速で大回転、一回転、二回転、だけじゃ足りませんわ、三十回転!!
「ぐうおえええうおええ!!」
「だから私が、貴方に引導を渡す!!」
四十回転目でパッと手を離すとヴォルフトは高速回転しながら海の中へポチャン、暫く警戒していましたが浮上して来ることはありませんでした
私は近くにあった無人の花屋に向かい、レジに五百円を置いて花束を一つ貰う、そして海へぽいっ。
「さようなら」
悪に落ちたとは言え嘗ての親友、これぐらいはしてやりますわ、地獄でゆっくり眠りなさいな。
「金城さん....」
「さて、あの花束代五百円は貴方の給料から引いときますわ〜」
「ええ!?」
「このケチ、テンプレ金持ちキャラ女、ブスでも美人でもないやつ」
津神 水無、こいつ春野 緋美華の肩を矢鱈と持ちたがりますわね、というかケチ以外の悪口が独特ですわ....。
「駄目だよ水無ちゃん、そんな失礼なこと言ったら!」
「わかった」
「それに金城さんが居なかったら、今頃わたし達は死んでたんだし、五百円なら安いもんだよ!」
「確かに」
「水無ちゃんが助かるなら五百円どころか何億円とかでも頑張って渡すもん」
「緋美華....すき(照」
「もう水無ちゃんってば、こんなとこで頬っぺたすりすりしたら暑いよー」
「暑さとか私たちの熱さで、吹っ飛ぶから」
この私をサウナみたいに暑苦しいイチャイチャの出しに使うとは良い度胸ですわね、はぁ、風見さんと私もいつかこの二人みたいになれるかしら。
(いいえ、きっとなって見せますわ!!)
エネルギー切れで転移能力が暫く使えない為に、椋椅がヘリコプターで迎えに来るまで、私は海を眺めながら風見さんとの将来を妄想するのでした。
つづく
水落ちは....特撮好きな方なら、あっ(察し ってなりがちです。
あと次回からたぶん暫く鬱々とした感じになります、ご注意を(あ、百合キャラが男に靡いたりは無いです、其処はご安心を)。