第10話「†懺 悔†《Confession》」
色塗って台無しになったので一枚白黒です。
a.
「鴎子から聞いたよ、君を毎日のようにイジメていたと....」
地下闘技場の決勝戦で当たり、脱出を手助けしてくれた爺さん。貴方は何者なんだと訊ねてみると、俺を散々イジメていたクラスメイト・赤土 鴎子の祖父であるらしい。
「イジメどころか殺人未遂だ、こちとら何回も死にかけたんだぞ!」
車に轢かれそうになったり猪に食い殺されそうになったり、洒落にならないレベルの被害だよ、クソ。
「本当にすまない」
「あんたが謝ることはねぇよ....だが何故いまになって」
「君が学校に来なくなり一週間、鴎子自身も不登校になってしまったのだ」
そりゃ酷いイジメに遭うだけの学校に行かず、優勝すれば一億貰えるってトーナメントの方に行くのは当然だよなぁ。
しかし、あの強気な鴎子が不登校になった理由は気になるな、まさかイジメはすれどイジメられる性格でもなかったし。
「何で不登校になったんだよ、カースト上位でモテまくってた癖に」
「真倉くん、君がいないからじゃよ」
「俺がいないと不登校になる意味がわかんねえ」
寧ろイジメたくなるほど不快な人間が消えたら、清々するんじゃねえのかよ普通はよぉ?
「恋をしている相手がいなくなったんじゃ、仕方あるまいて」
は? 恋? 何を言っているんだお前は、有り得ないぞ!? 悔しいが俺とアイツじゃ見た目も地位にも差がありすぎて好かれる理由がねえ。
「だからワシは君がトーナメントに出ていると告げる勘を信じて、連れ戻して話し合う為に出場したのじゃ」
「まじで俺のこと好きなのかよ....」
俺のことが好きだったなんて信じられないぜ、好きな奴ほどイジメたくなるとは良く聞くが本当だったんだな。
理由がどうであれ、かなりの精神的苦痛を味合わされたのに変わりは無いから許す気にはなれんが。
「とにかく一度あの子と会ってくれんかのう」
「仕方ねえなぁ、助けられといて嫌だとは言えん」
「では付いてきてくれんか」
「あぁ」
爺さんの後ろに並び、重い足取りで歩くこと二十分ーーーー住宅街へと出たが、なんか見覚えのある場所だな....って。
「ここ俺んちの近所じゃねーか!」
「どうやらそのようじゃな」
ずっと風景が代わり映えしない山の中を歩いてたから、見慣れた筈の地元の風景が新鮮に感じるぜ。
「そいで、ワシん家はあそこじゃ」
「かなり近いな」
爺さんが指差した家は、俺んちから数分の場所にあって登下校中には何時も見ていた場所だった。
あの悪魔がこんな身近に住んでいたとは、学校以外で遭遇しないか全く知らなかったぜ。
「君と会うと胸が高鳴って仕方ないから見掛けても隠れたり逃げてしまうと言っておった、意地らしいの」
「意地らしいつーか意地悪だったがな」
「すまん」
「だからアンタが謝る必要はねーって」
頭をかきながらインターフォンを押して鴎子を呼び出す、今までは恐怖の対象で逃げ隠れしてきた人間を呼び出せるまでに成長したんだな俺は。
能力様々だな、こいつのお陰で自信がついたし、不良に絡まれたって返り討ちにすることができるんだからよ。
「はーい、あっ」
鴎子が出てきたぞ、久々に悪魔みたいに冷酷な笑みを見させろと構えたが無意味だった....現れたのは悪魔でなく天使の顔をした鴎子だったから。
目を丸くしてるのも可愛さに拍車を描ける、帰ってきたのが爺さんだけじゃなくて俺もだったから驚いているんだな。
「おっす」
「良かった、生きてた」
「残念ながら足はあるぜ....やっぱりテメエの面を見てると気分が悪くなるな」
ん?良かっただと....生きてて良かったって言ってんの? もしかして爺さんの言う通り本当に俺の事が好きなのか!?
「すっかり変わっちゃったね」
「変えたのはテメエだろうが」
俺も元々は、虫も殺せない清楚でおしとやかな女だったのに鴎子による陰湿かつ残酷ないじめのせいで荒んじまった。
つーか鴎子こそ、傍若無人な性格がまるで嘘の様な雰囲気じゃねえか。俺を騙して嘲笑う魂胆か?
「テメエこそ変わったな」
「あ、あのね、その、ごめ....」
鴎子が頭を下げて何かを言おうとした時、彼女の体が担がれた様な姿勢で浮き上がった。
「お前どうしたんじゃ?!」
「テメエも能力者だったのか?」
「違う!誰かに担がれっ、んぐ!」
「口を塞がれた....?見えない誰かが其処にいて鴎子を担いでいるのか!?」
しかし不思議なことはそれだけで終わってくれなかった、最初から其処にいなかったんじゃないかと思うほど綺麗に鴎子の姿が消えちまったじゃねえか!
「鴎子....ん?」
爺さんは落ちている紙を見付けて拾う、さっきまで無かったものだが、誰がいつの間に落としたんだよ、気味が悪い。
「娘を殺されたくなければ再び闘技場に戻ってこい」
紙に書かれた内容を爺さんが読み上げる、内容からしてヴォルフトが爺さんを誘き寄せる為に刺客を送り込んで鴎子を連れ去らせたってワケだな。
「鴎子ーッ!!」
爺さんが大声で名前を呼んでも、窓を開けて住民が怪訝な目で見てくるだけで返事はなく気配も感じない。
「ワシにすら気付かれぬよう付いてくるとは、鴎子を拐った奴はただ者ではないぞ」
「チッ、あんたの娘は仕方の無い奴だな」
俺に奴を助けてやる義理はないが、爺さんには助けられた借りがあるから仕方ねえな。
「俺はあんたに恩返しがしたい、力を貸してくれ」
「それはワシの台詞じゃ、ありがとう、心強いよ」
爺さんほど強ければ一人でも問題はなさそうだが、鴎子を誘き寄せる為の罠としてだけではなく人質にして動きを封じてくる可能性もあるからな。
(そんときゃ地震を起こして隙を作ってやるぜ....!)
「行くぜ、爺さん!」
「うむ」
助けてやったら今までやってきたこと謝罪させてあれこれさせてやる、だから死ぬんじゃねえぞ!!
b.
「手間かけさせおって」
逃げ惑う観客や審査員どもを鞭で縊り殺し、ルガーで背後から撃ち抜き、我が配下の狼どもに食い殺させ、楽しい粛清パーティーは終了。
心を落ち着かせた私は、逃げた年寄りとガキを誘き寄せるため萌音に連れ去らせ、ぐったりと観客席に縛られている年寄りの娘・ 鴎子を見下ろす。
「中々に良い趣味だな」
「いやぁん、ありがたいっすねえ。あんたらが力をくれたお陰でこの女に復讐できたんだ」
萌音は散々にこき使われたことに対する復讐と称して、鴎子の手袋と靴下を脱がせて爪を剥がしたのだ。
お陰で中々に心地の良い叫びを聞くことができた、この女に力を与えたのは正解だったな。
「くくく、貴様の様なゲスがいる限り我ら黒い血が滅びることはない」
「貴方が仰るんですかい、ぎひひ」
やはり下衆の笑いだと期待を高めていると、ギイー....鉄の軋む音が鳴る、ふふふ、やっと来たか、待ちくたびれたぞ。
「おい! さっさと鴎子を返しやがれ」
「良く逃げなかったな、その勇気に免じて死ね。行くのだ我が右腕・雷撃戦士ロッヘンよ」
「お任せを、ヴォルフト大佐」
瞬時に年寄りの背後に現れたロッヘンは私に向かって敬礼する、わざわざ獲物の背後を取っておきながら真面目な奴だな、昔からだが。
「うわああああ、コイツ二階から降りて来やがったぞ」
「二階からではなく天井からだ、この男はお前らが来るまでずっと天井に張り付いていたのだよ」
それが彼なりの準備体操、傍目に見れば蜘蛛やゴキブリの様で気持ちが悪いったらないがな。
「天井....つまり約10メートルの高さから着地して何ともないとは、恐るべき肉体よ」
「戯れ言はよい、死ね!」
聞けば春野 緋美華の幼馴染である風見ひよりも電気能力を得たらしいが、ロッヘンその数十倍の電気エネルギーを放出することが可能。
どれだけ強靭な肉体を持っていようが、戦車すら一撃で破壊する威力の技を持つ雷の魔獣が相手では黒焦げになるのがオチだ!!
「ふんっ....」
驚いたな。ロッヘンにより繰り出される疾風迅雷の拳をまともに受けて無傷とは、久々に狩り甲斐のある獲物が現れてくれたようだ。
「今やこいつの体は戦車以上の頑強さだというのかーッ!?」
「破壊力では敵わぬが、防御だけで言えばそうじゃな!」
「ぐああああ!!」
戦車の装甲を貫く必殺の拳すらも通用しない敵に驚愕し、隙を見せたロッヘンはまんまと年寄りのボディーブローを食らってしまう。
年寄りは悶絶するロッヘンにアッパーカットの追い討ちをかけて宙に浮かせ、自身も空中へ舞い上がり、彼の顔面に肘打ちを浴びせた。
「やっぱすげえな爺さん、地震起こして逃げようと思ったが返り討ちにできるぜ」
二度も同じ手を食う私ではないわ、地震を起こした瞬間に揺れを感知することで作動する催眠ガス発生装置を用意してあるのだ。
「長年鍛え続けた賜物じゃ」
「なかなかやるではないか年寄り....おい分かっているのかロッヘン」
肘打ちを浴びせられたことで通常よりも速いスピードで地面に落下し、フラフラと立ち上がる情けない我が右腕に問う。
敗者には死あるのみだ、生き恥を晒す様な愚か者は我ら黒い血には必要ないのだからな。
「ハッ、敗者には死あるのみです」
「あれだけされてまだ立てるのかよ」
フン! あれぐらいで倒れられても困る、毎日みっちりと地獄の訓練を施しているのだからな。
「あんた強いのぉ、悪魔に魂を売らなければワシを超えれたろうに」
「お前には分からんだろうが、俺には悪魔の側が心地よいのだ!!」
ロッヘンは両手を天に掲げて暗雲を立ち込めさせる、地下であり空は天井で塞がれたこの闘技場に....数年前に赴いた戦争にて数千人の敵兵を焼き殺したあの技を使うつもりか。
「何やらヤバ気だぞ爺さん!!」
技の発動を阻止しようとガキがロッヘンに土塊を発射する、時速は凡そ百五十キロと言ったところか。
「ぬん!」
こんなもの銃弾と比べれば、狙いにくさ速度ともに大きく下回っている、よって鞭の一振りで粉砕することなど容易いのだ。
「俺の土塊を破壊するなんて、どれだけの力を鞭に加えたんだよ!?」
「うおおおおお!!」
「お前も邪魔をするな!」
爺さんの肉体に直接攻撃しても効果は無いため、床を鞭で叩いて破壊し破片を飛び散らせる。
「ぐあっ」
さすがに怯んだか、この爺さんは直情的な相手に対しては殆ど無敵だが頭の回る私の様な相手には弱いと見た。
「ご助力ありがとうございます大佐、お陰でこれを落とせます」
「ヤバい、地震か地割れを起こして逃げるしかねえ!」
ニヤリ....間抜け過ぎてついつい微笑してしまった、せっかく誘き寄せてもまた逃げられるだけなので能力対策をしない訳がないだろうに。
「辞めなさい、地面の振動で何かが作動する装置を仕掛けているようだ」
「何だって!?」
一瞬だけ口角を上げたのを見逃さず、そこから察するとは伊達に長い時間を生きてないな。
しかしロッヘンは既に充電を済ませており、後はもう暗雲から雷の雨を降注がせるのみ!
「天より降臨し地を焼けーーーーー」
「うつ伏せになれ真倉くん!!」
「あっ、ああ!!」
自分の指示通りうつ伏せになった真倉の上に年寄りは覆い被さる、庇うつもりだろうが耐えれるかな。
「雷 焼 地 葬」
「ぐおおおおおお!」
轟音と共に雷の雨が年寄りの上に降り注ぐ、一発、二発、三発と何発も何発も何発も、凄まじい破壊力を秘めた雷雨を食らいまくったのだ、流石に死ん....!?
「さすがに今のは効いたよ、お陰で腰痛と肩凝りが治ったわい」
死んでないどころか元気に立ち上がった....自分の肉体を頑強にする能力というのは見破ってはいたが、流石にしぶとすぎて苛ついてきたぞ。
「バカなぁ、どこまで頑丈な肉体でっ....う!?」
「命までは奪わぬ、ただ暫く眠るが良い」
年寄り渾身のパンチを顔面に喰らったロッヘンは倒れてしまった、我が右腕がこの程度だったとは思わなかったぞ。
「本当に凄いな爺さんは!」
「大人しく娘を返せばお前らも殺しはせん」
「嫌だと言ったらどうする?」
「殺す」
その言葉を待っていたぞ、敗者が勝者に吼える時に使う言葉....。
「私に殺すと言った者は皆な逆に殺してやった、お前も例外ではない」
この年寄りは今まで戦って来た雑魚どもとは比べ物にならん、萌音に殺らせるには勿体なさ過ぎる獲物だ、私が直々に手を下してやろう。
C.
人智を超えた頑強さを持つ年寄りの肉体は能力によるもの、でなくては幾ら鍛えていてもロッヘンの雷を食らって耐えれる筈がない。
流石の私でもまともに突進を受ければ、軽い怪我では済まんだろうが恐るるに足らん相手だ....何故なら。
「正義の制裁を喰らうが良い!!」
....私には無い死角がお前には有るからだ。
「口を開いた時点で私の勝ちだ、寿命を迎えるより先に死なせてやる。穿て」
「がっ」
銃弾を口の中に発射すると、拳一撃を私に食らわせる直前で年寄りは多量の血を吐き出して倒れる、目の前にいたので私の顔面にもかかってしまったではないか。
「爺さああああああああん!!!」
やはり肉体を強化できると言っても流石に体内までは無理だったな、この異様な出血量を見るに、能力の代償は体内が傷付きやすくなるというものか。
「さすがっすねえ〜」
「ヴォルフトは、奴は銃なんか使ってない。なら何処から弾丸は飛んできて....爺さんを殺したんだあああああーーーーーーっ!!」
分かるまい、私の能力により弾丸がどこから飛んでくるか、敵は予測できずにただ殺されるのみだ。
「遺言を残す間もなく死んだか、さぞや無念だろうなぁ? はっはっはっ!!」
「畜生おおおおおおおお!!」
真倉はくたばった年寄りの体を揺さぶりながら叫ぶ、何の役にも立てず残念だったなぁ?
「へへ、良い気味だぜ。でも良かったんですかい? トーナメント優勝者を春野 緋美華に差し向ける作戦だったはず」
脅威的と判断していた敵が死亡した瞬間に透明化を解除して姿を見せるとは、やはり良い性格をしているな萌音よ。
「つい先ほど、忠実な萌音を手に入れたいま、従わぬ面倒なあいつらは殺してしまえとの御命令があったのだ」
「信頼には答えてみせましょう、その前に憎いこの女をぶっ殺してやりますが」
拷問で鬱憤を晴らし終えたいま萌音にとっても、人質として使い終えた私にとっても鴎子は不要な存在、もう殺しても問題はない。
「良いだろう殺せ!」
「あいあいさー!」
「待ちなさい悪党ども! そんなこと絶対させないわよ!!」
その声に驚いたのか萌音はナイフを鴎子の喉元で止めてしまう、その隙を突かれてた....。
「ふにゃっ!?」
迅雷のごとき一閃が走ったかと思えば萌音の側から鴎子が消えている、まんまと奪い返されるとは。
「何者だ!」
「答える義理はないよ、とにかく貴方達みたいな悪い人の敵!!」
赤い髪に青い瞳....貴様の方から来てくれるとは手間が省けたな、春野 緋美華!!
「金城さんに能力者を集めて戦わせてる人がいるって聞いたから来てみれば、か弱い女の子を殺そうとするなんて許せない!」
金城か、懐かしい名前だな、敵同士と言う立場ではあるが今一度会えたなら....是非とも跪かせて私の長靴を舐めさせたい。
何故この場所に居ないのだ、今宵はせっかくの満月だというのに、満月時でなければ理想的な屈服をさせることができないではないか!
「覚悟なさい、ぼこぼこにしてやるんだから!」
「....駄目」
む、懐かしい名前だけでなく顔まであるぞ、能力を使用する私と戦って一分もった初めての相手ゆえ顔は覚えておる。
津神 水無....殺したはずだが、生きていたという話は本当だったのだな。
「相手が悪すぎる。逃げよう」
「水無ちゃん!?」
「そうよ、あんたらしくないわよ!?」
「風見ひより、そこに倒れてる人も泣いてる人も連れて逃げて!」
慌てているな少女よ、それほど私が怖いのか。くくく仕方ないか、散々にいたぶって圧倒的な実力差と恐怖を教えてやったからな。
「なに言って...」
「良いから早くして」
「分かったわ....そんな訳で逃げるけど返しては貰うわよ!!」
「うおっ!?」
一瞬だった、真倉も鴎子も年寄りの死体でさえも、二度目の迅雷と共に奪還されてしまったのは。
風見ひよりめ、先ほど鴎子を奪い返した時ことと言い、ロッヘンと比べて電気エネルギーは少ないが速さでは一枚上手のようだな。
「萌音よ奴らを追うのだ!」
「必ずや取り返して見せますよ、死にたくはないんで」
私の命令に従い、不快な微笑を場に残し、萌音は姿を消して逃亡を選択した負け犬共の追跡へと向かう。
奴の暗殺スキルは一流だ、任せて置いても良いだろう。私には機密情報や薬物の売買といった組織を支える金を稼がねばならんので忙しいからな、ふふふ!!
つづく
自分で思ったより何だかこのエピソードつづくなぁ