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転園児はあの子

小太郎も年中さんになり 長い夏休みに別れを告げて 今日から二学期

「みなさ〜ん 明日から新しいお友達が この組に入ってくることになりました 仲良くしてくださいね」

「は〜い!」


「母ちゃん ただいま!」

「小太郎 おかえり」

小太郎は 家での挨拶はちゃんと出来る

キィ…

「小太郎殿 帰って来おったな」

御扉から顔を出す小ちゃいおっちゃん

「わしの事を話さなくなったのぉ…まぁ 良いか…わしの決断は間違いではなかったのじゃ…」

そう言いながらも寂しそうな小ちゃいおっちゃん


「なぁ母ちゃん 明日俺の組に一人入ってくるって先生が言ってた」

「この時期に?仲良くするんですよ」

「おぅ!任せろ」

次の日

「先生 おはようございます」

(朝から うっせーなぁ 普通に言えばいいのに…)

「太郎ちゃん 挨拶は?」

「俺は 小太郎だ!それに 俺は 男だ!ちゃん付けすんな」

「太郎ちゃん おはよう」

「…おはよ」

幼稚園では挨拶を促されないと出来ない小太郎

「はい よく出来ました さぁみんな 席についてね

今日からみんなと一緒に生活する…」

(な〜んだ 女の子か…)

「えぇ〜!女なのに『あきら』なの?」

「ん?どうしたの?」

小太郎は 自慢じゃないがひとの話を最後まで聞かない…

「あいつ 女のくせに『あきら』なんだって!変なの」

その女の子が俯く

多分 名前を馬鹿にされた事が原因だと小太郎が気づく

「名前馬鹿にすんな!」

ポクッ!

「痛ぇっ 先生〜太郎ちゃんが殴った!」

「太郎ちゃんって呼ぶな!」

ポクッ!

「また殴った〜」

「はい はい 太郎ちゃん殴ったりしないの」

「だから 太郎ちゃんって呼ぶな…」

ポクッ!

「今の僕じゃないのに…」

小太郎は 太郎ちゃんと呼ばれるのが嫌いだった

「はい (あきら)ちゃんは 今の 太郎ちゃん の隣の席に座ってね」

ポクッ!

「先生〜また殴った…」

癖で隣の子を殴る小太郎

殴るといっても 軽く小突く程度なのだが…

やられる方はたまったものではない

「はい!太郎ちゃん 席についてね」

スカッ…避けられた

「晶ちゃん 席についてね」

晶ちゃんが小太郎の隣に座る時

「太郎ちゃん よろしくね」

笑顔でそう言った

さっきまでポクポク叩かれてた子は頭を抱えたが

「あれ?」

叩かれなかった

二年前 病院で四葉のクローバーを探してた女の子

小太郎と晶ちゃんがその事を知るのはかなり後になる


「今日はねんどで動物を作りましょう」

「先生!なんでもいいの?」

「なんでもいいですよ みんなが作ったら 並べて動物園にしましょうねぇ」

「は〜〜い!」

園児達はそれぞれ好きな動物を作っていく

「これは何を作ったのかなぁ?」

「ゾウ!」「キリン!」「イヌ!」「ネコ!」

「アレ?太郎ちゃんこれは何かな?」

「動物園の飼育員」

「えぇ〜!動物じゃないじゃ〜ん」

「うっせぇ!人間だって動物だ!それにさっき先生言ったろ!動物園にするって!飼育員居ないと動物死んじゃうだろ!」

可愛くない五歳児…

「そうだね 動物死んじゃうから飼育員おこうね」

小太郎を自由にしてくれる先生

「ほ〜ら みんなの動物園が完成したよ」

「先生!動物園にイヌとかネコいないよ〜」

「きっと どこからか迷いこんだんだね」

みんなに優しい先生


「母ちゃん ただいま!」

「おかえり 小太郎 どうでした?新しいお友達来たんでしょ」

「来たぞ!晶ちゃんって女の子」

ガタン!

神棚が揺れたのを不思議そうに見る小太郎と母ちゃん

「くぅ…思い切り頭を打ってしまった…なんと晶殿が小太郎殿の寺子屋(幼稚園)に…黄泉の言うた通りじゃ 会うてみたいのぉ…今世の晶殿に…あの頃の面影は残っておるかのぉ…」

世界大戦で鉄の雨に倒れた 幼い姉弟のことを思い出す小ちゃいおっちゃん


今日は遠足

「隣の人とちゃんと手を繋ぐんですよ〜 出発進行!」

小太郎の隣は 晶ちゃん


山の木が赤や黄色の服を着ていて 川が流れていた

「川の方には 行かないように!いいですか?」

「は〜〜い!」

行かないように…

子供 特に小太郎にこんな事を言ってはいけない…

何故なら好奇心旺盛なのだ

岩の形が かっこいいところに戦隊モノのシートを誇らしげに広げる小太郎

しかし…

同じシートを 五人持って来ていたので裏返しにする

人と同じものが嫌いみたいだな


「太郎ちゃん これ食べる?」

「うん 美味っ!」

「晶ちゃん これ食べて 美味いよ」

「…もう…食べれないよ…」

晶ちゃんは 弁当を食べ終わり 小太郎に オヤツのチョコレートをあげ

その お礼に小太郎は 母ちゃんが作った特大おにぎり一個を晶ちゃんにあげようとしたが

晶ちゃんに断られた


さあ〜弁当を食い終わったら冒険の始まり

友達五人で先生の言いつけを守り? 川に近づく


「な〜んだ あっせぇ川!」

川底が綺麗に見える川だった

「太郎ちゃん 先生にダメって言われたよ」

晶ちゃんが言う

「へっちゃらさ」

「そうだよ 太郎ちゃん先生に怒られるよ」

ポクッ!

「なんで僕だけ叩くんだよ〜」

晶ちゃん以外に 太郎ちゃん と呼ばれるのが嫌だった

先生は…しょうがないから許してやる事にした

「あっ!」

その時 風が吹き 晶ちゃんが被っていた帽子が川の中へ

「俺が取ってやるよ!」

「太郎ちゃん 危ないからいいよ」

「大丈夫 大丈夫」

小太郎は 木の枝に捕まり手を伸ばす

ボキッ!バッシャ〜ン!

半分失敗…

半分成功…帽子は確保した

先生がこっちにかけてくるのが見えた

晶ちゃんに帽子を渡す小太郎

「太郎ちゃん 大丈夫?」

「エヘッ ふざけて落ちちゃった…」

先生に嘘をつく

「風邪ひいちゃうから服脱ぎなさい ほらこれに替えて」

先生が来ていた ジャージを脱ぎ小太郎に着せる

上だけで小太郎の膝下まで隠れた


家に帰ると母ちゃんが

「どおしたの?」

「転んだ」

「転んで水に濡れるわけないでしょ?」

「転んだ」

「本当は?」

「転んだ」

「…」

「転んだんだ!」

母ちゃんは 諦める…

頑固な五歳児

晶ちゃんが落とした帽子を取ろうとして落ちたと言ったら 晶ちゃんに迷惑をかけると思ったのだ

その夜 熱が出た…


「母ちゃん…おはよ…」

「小太郎 今日は幼稚園はお休みですよ」

「えぇ!なんで?」

「当たり前でしょ 三十九度もあって…今日は病院に行ってお休みです」

「えぇ〜〜…」

小太郎 二重のショック

大好きな幼稚園を休み 大嫌いな病院に行く


「先生!今日 太郎ちゃんは?」

「太郎ちゃんはお休みですよ」

「やっぱり昨日川に落ちたから風邪ひいたんだ…太郎ちゃん居ないとつまんないなぁ」

「そうだね 太郎ちゃん居ないとつまんないよね」

幼稚園で人気者の小太郎

小太郎の居ないところではみんな 太郎ちゃん と呼んでるんだな


その日の午後

「こんにちは…」

「は〜い」

母ちゃんが玄関に出ると

「小太郎くんのお宅ですか?」

「はい そうですけど…」

そこに居たのは晶ちゃんと晶ちゃんの母ちゃんだった


「そうだったんですか」

晶ちゃんは責任を感じて 幼稚園から帰ってからお母さんに昨日の事を話し 小太郎のお見舞いにやって来た

「何度聞いても 転んだ の一点張りで…全くあの子は…小太郎!晶ちゃんに移したらダメですよ!」

「わかってる!マクスしてるから大丈夫!」

小太郎は晶ちゃんが来た事により元気になっていた

「太郎ちゃん ごめんね」

「なんで謝るんだ?」

「だって…私が帽子を落とさなければ…」

「晶ちゃんは悪くないぞ あそこに川があったからダメなんだ!」

滅茶苦茶な事を言う小太郎


「あらぁ 旦那さんの転勤で…」

晶ちゃんは 父ちゃんの転勤で小太郎達の幼稚園に転園して来たとのこと

「でもね奥さん こっちに来てからすごく明るくなったんですよ」

「そうですかぁ」

「毎日 幼稚園から帰ってくると 今日太郎ちゃんがね って…前の幼稚園ではそんな事一度も…たまに泣いて帰って来る事もあって…」

小太郎と一緒に絵を描いて にこやかにしている晶ちゃんを母ちゃん達は見ている

「名前なんですよ」

「えっ?」

「晶は名前でからかわれるみたいで…」

「そんなぁ どうして?」


話を少し遡る


「…(あきら)です みなさん仲良くしてください」

「えぇ!晶だってよ!女なのに変なの!」

晶ちゃんはお父さんの仕事でこれが転園二回目

「おかしくないもん!お父さんとお母さんがつけてくれた名前だもん!」

「おかしいよな!○○子や○○美ってのが女の名前だろ」

晶ちゃんは 名前の事で男子児童から嫌がらせを受けていた

「晶ちゃん 男って馬鹿だから気にしないでいいからね」

女の子は気を遣って晶ちゃんを慰める

「うん…」


「や〜い!や〜い!女男!」

「ちょっと!やめなさいよ!」

「うるせぇ!ブス!おまえになんか言ってねぇよ!」

「ブスって言うな!バカ男!」

「なにおぅ!」

いつも 男子と女子が喧嘩になる…

「喧嘩しないで!やめて!」

それから晶ちゃんは あまり人と親しくするのを避けていくようになる

自分の為に 喧嘩になる

それが 嫌だったのだ


「お母さん…幼稚園行きたくない…」

「何かあったの?」

「ううん…でも 幼稚園は行かなくてもいいんでしょ?お母さんと一緒に居たい…」

「でもね 幼稚園で学ぶこともたくさんあるんだよ」

「……」

晶ちゃんはお母さんに心配させないように 嫌いな幼稚園に通った

「晶ちゃん 一緒に遊ぼ!」

「私 いい…」

晶ちゃんが友達と遊べば その子が一緒に馬鹿にされる

それが晶ちゃんは嫌だったのだ…

晶ちゃんはいつも一人で居るようになっていた


「私もみんなと一緒に 砂遊びしたいなぁ…」

遠目でみんなが遊ぶのを見てる晶ちゃん

「晶ちゃん みんなと遊ばないの?」

「あっ 先生」

「みんな!晶ちゃんも混ぜてあげて!」

「晶ちゃんおいで!」

女子児童は快く受け入れるが

「女男と遊ぶの〜!」

男子児童は揶揄う

「私 いい…」

結局 晶ちゃんは独りぼっちを選んだ


「お母さん…どうして 私の名前 晶 なんてつけたの…」

「晶…幼稚園で何かあったのね?」

「男子が…晶の名前を…」

初めて 名前の事で 親の前で流す涙

今まで我慢していたのだ


「あなた…今日 晶が…」

晶ちゃんのお母さんは 今日 幼稚園での出来事をお父さんに伝えた

「そうか…」


「晶 ちょっとおいで」

「なぁに お父さん」

「晶は 晶って名前が嫌いか?」

「嫌いじゃないよ…でも…」

「晶が産まれたのはな 雪がたくさん降るとこだったんだよ」

「前に居たとこじゃなかったの?」

「違うんだよ 晶が産まれたのは 冬になるといっぱい雪が降るとこだったんだよ」

「そうなんだ!」

「晶が産まれそうになって病院に行こうとした時も雪がたくさん降っててなぁ 前に降った雪もあって 病院に行くのにひと苦労したんだ」

「そうなんだ…」

「なんとか 病院に着いてお母さんはすぐ分娩室に入ったんだ」



『記録的な大雪はこのまま明日も降り続く模様…』

テレビから流れる 記録的大雪のニュース

「明日も降り続けるのか…」


「雪が多い日に産まれるのか…女の子なら雪子…こんな安易な考えではダメだよなぁ…しかしよく降るなぁ…」


「お父さんはな 心配を紛らわす為 名前を考えていたんだよ 晶はお母さんのお腹の居心地がいいのか なかなか出て来てくれなくてな 産まれたのは朝方だったんだ」

晶ちゃんは黙ってお父さんの話しを聞いている


「分娩室から晶の声が聞こえた時は嬉しくてなぁ…」



「おめでとうございます!元気な女の子ですよ」



「看護師さんが抱いてお父さんに見せに来た頃は雪もやんでいて 太陽が出ていたんだよ まるで祝福してくれているかのように 暖かい陽射しでね」

「ふ〜〜ん」

「その時に 晶の名前が決まったんだ」

「どうして?晶の名前にどうしてなったの?」

「晶 の漢字には 日が三つだろ?」

「うん」

「季節はいくつある?」

「春と夏と秋と冬!だから四つ!」

「そうだよな 晶の一つ目の日は春 二つ目の日は夏 三つ目の日は秋」

「一つ足りないよ」

「冬は寒いから 三つ合わせて…」

「あっ!」

「晶には あの時の太陽のように みんなに暖かい陽射しを与える そんな人になってもらいたい そう思ってつけた名前なんだよ」

「ん〜」

「晶にはまだ早かったかなぁ?」

「ううん なんとなくわかった!」

晶ちゃんはなんとなく なんとなくだが理解し そして嬉かった



「それから晶は 笑顔で幼稚園に行くようになったんですが…また夫の転勤でこっちに来たんです」

「そうだったんですか…まさか小太郎も…」

「奥さん そんな子が晶をかばって 川に落ちた理由を黙っていますか?小太郎くんは逆です 転園初日に小太郎くんは晶を守ってくれたみたいですよ」

「小太郎が?」

「はい 帰って来るなり 『今日 太郎ちゃんがね』って今まで見た事がないような笑顔で いっぱい小太郎くんの話しを聞かされました それから毎日 誰々ちゃんが 誰々くんがって…今までの幼稚園ではなかった事なんです まぁ 大半が小太郎くんの話しなんですけどね」

「小太郎でも誰かの役に立ってるんですね」

我が子を褒められ 照れ隠しに母ちゃんはそう言った

「まぁ…ふふふ」


母ちゃん達の話しを聞いていた人物がもう一人

「ズスゥ…晶殿 そのような事が有ったのか…辛かったじゃろう…もう安心じゃぞ きっとあの頃のように小太郎殿が守ってくれるじゃろう」

小ちゃいおっちゃんは 神棚から二人を眺めて居た








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