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やんちゃな幼稚園児

今日は小太郎の入園式

「小太郎!早くしなさい」

「ちょっと待ってろ…上手く履けない…」

小太郎は 靴下を履くのに悪戦苦闘していた

どうしても(かかと)の部分が上に来るのだ

「母ちゃんが履かせてあげますか?」

「いい!自分で履く」

脱いでは履き 脱いでは履きを繰り返し 結局 裏返しに靴下を履く

「これでいいか…母ちゃん出来たぞ」

得意げに見せる小太郎に母ちゃんは

「まぁいいでしょう」

直す事をしなかった

「それじゃあ行きますよ」

「おぅ!おっちゃん行ってくるぞ!」

姿を消した小ちゃいおっちゃんに声をかけて家を出た

キィ…

御扉(みとびら)から顔出す小ちゃいおっちゃん

「小太郎殿…立派じゃぞ…」

我が子の船出を見守る親のような心境だったに違いない


「おぉ!桜スゲー!」

園庭の桜が見事なまでに咲き誇る

「小太郎 これからここでみんなと仲良くやるんですよ」

「おぉ!わかった!」


「本日 御入園児のみなさん こんにちは〜!」

「こんにちは〜!」

園長先生の話が始まる

「うっせぇなぁ…」

「小太郎 寝ないの…」

早くも 居眠りする小太郎…


長い入園式が終わり 教室に行く途中 年中さんとすれ違う

「おっ!俺らの子分入って来たぞ!」

「幸太郎くん!子分じゃないでしょ!」

「俺を呼んだか?」

「ん?」

「今 小太郎くんって言ったろ」

「あぁ!小太郎くんじゃなくて 幸太郎くんって言ったんだよ」

「幸太郎?」

「俺が 幸太郎だ!おまえ 小太郎って言うのか?紛らわしいから 今日からおまえは 太郎にしろ!」

年中組のガキ大将 幸太郎

「うっせぇ!俺は 小太郎だ!」

「おっ!生意気なガキだな!」

「うっせぇ!おまえだってガキだろ!」

入園早々に取っ組み合う小太郎

「幸太郎くん!やめなさい!」

「小太郎!」

幸太郎の先生と小太郎の母ちゃんが間に割って入り事なきを得る


「先生が今日からみなさんと一緒に生活して行きます!みなさん よろしくね〜!」

「先生 よろしくお願いしま〜す!」

小太郎は 黙ってる

「あれ〜?お名前は?」

「俺は 小太郎だ!」

「小太郎くんか…よろしくね」

「おぅ!」

偉そうな 小太郎

「よろしくね」

「おぅ!って言ったぞ!」

「ダメだよ よろしくって言われたら ちゃんと よろしくお願いしますって言うの」

「めんどくさいぞ!」

「よろしくね」

「…よろしく……」

「はい よく出来ました」

先生は 小太郎の頭を撫でた


「先生お久しぶりです」

「久しぶりだね 私はもう先生じゃないですよ」

「いえ 私は先生に憧れて 先生を目指したんです 私にとって先生は一生先生です」

小太郎の母ちゃんと小太郎の先生の会話

入園式が終わり 帰り際に先生に呼び止められたのだ

小太郎は園庭で遊んでいる

「ウチの子には かなり手を焼くと思うけど…」

「いえ これが先生からの最終試験だと思って頑張ります」

「まぁ…」

「母ちゃん!帰ろ!」

「はい はい」

「それでは 先生 明日から小太郎をよろしくお願いします」

「はい!任せてください!小太郎くん さようなら」

「先生 んじゃね!」

「さようなら」

「…さよなら……」

「はい 良く出来ました」


次の日

「先生 おはよ〜ございます!」

「はい!おはようございます!」

「小太郎くん おはよう」

「おぅ!」

決して小太郎に悪気はないのだが…

「おはよう」

「…おはよ……」

「はい 良く出来ました」


「じゃあ 今日は園庭に出て みんなで仲良く遊びましょう!」

「園庭って何だ?」

「園庭とは 滑り台やブランコ 砂場があるとこですよ みんなで仲良く遊ぶようにね」

「遊んでいいのか?」

「遊ぶ事も学ぶことです いっぱい遊びましょう!」

「ヤッタ〜〜!」

小太郎達は喜んで園庭に出た

園庭では 年中さんが遊んでいた


「僕は ブランコ!」

「私は 滑り台!」

みんな好きな遊具のところで順番待ちをしている

しかし…年中さん達は年少さんが並んでるのを見て見ぬふり

並んでいる年少さんを無視して順番を抜かして遊んでいるのだ

今日からの幼稚園生活

どうしていいか分からないでいた

小太郎は砂場の端っこで遊んでいた

「おい!ここは 俺達が最初に取ったんだ!」

小太郎が振り向くと あの 幸太郎がいた

「ここは 誰も居なかったぞ!」

しかし 小太郎は違った

年中さんにも怖気付かなかった

「おっ!おまえは太郎」

「うっせぇ!俺は 小太郎だ!」

「幸ちゃん どうしたの?」

「幸ちゃん?」

「この 太郎 が俺達の場所に入ってきた!」

「おまえ馬鹿か?俺は 小太郎だって何回も言ってるだろ!」

「なんだこいつ 生意気だ!」

「うっせぇ!一個しか違わないだろ!痛っ!」

幸太郎が 小太郎の頭を小突いく

「何すんだよ!」

小太郎の反撃

「痛たたた…」

小太郎は幸太郎の足に噛み付く

先生が飛んで来て引き離そうとするが

「痛たたた…」

小太郎は離さない

「小太郎くん 離しなさい!」

離さない…

「太郎ちゃん!」

「俺は小太郎だ!」

離れた…

「何で喧嘩になったの?」

「俺は悪くない!」

小太郎が言い切る

「幸太郎くん どうして喧嘩になったの?」

「こいつ…生意気なんだよ…」

幸太郎は泣いている

「うっせぇ!おまえらが滑り台や ブランコを俺達に貸さないんだろ!」

小太郎のこの言葉で先生は何が原因かわかったのだ

「年中さ〜ん 年少さ〜ん みんな集まって!」


「年中さんのみんなは どうして年少さん達に遊具を貸してあげないの?」

「だって…」

「だって 何?」

「僕達が年少さんの時も 年中さんの人達が貸してくれなかったから…」

「そうなの?」

「そうだよ…僕達 園庭で遊ぶ時は遊具で遊べなかった…」

園庭で園児を遊ばせる時は 気を抜いていたみたいだな

「それは 先生達 気付いてやれなかった…ごめんなさい」

素直に謝る先生

「でも その時 みんなはどんな気持ちだった?」

「つまらなかった…」

「そうだよね だったら年少さんの気持ち わかるよね」

「…うん」

「じゃあ みんな仲良く遊べますね」

「は〜い…」

小太郎は 返事をせず 黙って話を聞いていた


翌日

「いいですか!今日は 年長さんも年中さんもみんな園庭で遊ぶ予定だから 仲良くするんですよ〜」

「は〜い」

小太郎達が園庭に出ると すでに年長さん 年中さん達が 遊んでいた

小太郎は ある人物を探した

小太郎は 幸太郎を見つけた

「何だよ 遊ばないのか?」

「太郎…遊ばないんじゃなく 遊べないんだよ…」

「何でだ? ってか俺は小太郎だ!」

「年長の奴らが 占領してんだよ」

「なんでだ?昨日先生言ってたろ」

「あいつらは その話聞いてないだろ!それに 話聞いたとしても あいつらにそんな事関係ないさ」


小太郎は 滑り台に並ぶ

小太郎の後ろに年少 年中の園児達が並ぶ

小太郎が滑り台の階段手摺に捕まった時

「どけよ!」

年長さんに突き飛ばされる

小太郎は その勢いで 鉄棒に頭をぶつける

「くぅ…痛ぇ…」

小太郎は痛みを堪え 立ち上がった

「みんな仲良くしないといけないんだぞ!」

小太郎を突き飛ばした年長さんに詰め寄る

「おまえ誰だ?」

「俺は小太郎だ!」

「年少か?」

「そうだ!」

「いいか!教えておくぞ!ここでは 年長 年中 年少の順に偉いんだ!わかったか?」

「そうなのか?」

すぐに信用する小太郎

「そうだ!だから俺達が遊んでる時はおとなしく見てろよ」

「太郎!騙されんな!そんな事あるか!」

「幸太郎!また おまえか!また泣かすぞ!」

「うるせぇ!俺だって年中になったんだ!」

年長に飛びかかる幸太郎

「おまえが年中になったからどうした!俺は年長になったんだ!」

当たり前の事だ…

「年長だからって威張るな!」

小太郎は黙って二人を見ている


幸太郎が負けた


「幸太郎…おまえ 生意気なんだよ…」

その時

「痛ってぇ!!!」

園庭に響き渡る声!

「こいつ 離せよ!痛ってぇ!!」

小太郎が 年長さんに噛み付いていた

また先生が飛んでくる

「小太郎くん やめなさい!」

離さない小太郎

「太郎ちゃん!やめなさい!」

「俺は小太…あっ!」

小太郎は年長さんを泣かせた


園庭で遊んでた園児達が集まってくる


「太郎ちゃん なんでこんな事したの?」

「俺は 小太郎だ!」

「なんでこんな事したの?」

俺は悪くない そんな顔をして小太郎が口を開いた

「昨日 先生言ったろ!みんな仲良く遊ぶんだって!それなのに 遊んでんの年長さんだけなんだぞ!ちゃんと見てんのか?」

何も言えない先生達

「そこで泣いてる年長さんが 幸太郎を泣かせたの先生見てたか?」

みんなの視線が幸太郎へ向く

「みんな仲良く遊べって先生言ったよな!昨日 年長さん聞いてないから もう一回先生言え!」

入園早々 小太郎が先生に説教をした

「太郎ちゃん…」

先生は小太郎の頭を撫で

「いいですか!園庭はみんなのものです!仲良く遊ぶように!わかりましたか?」

「は〜〜い!」

その後は年長さん 年中さん 年少さんは順番を守り遊んだ

「先生!頭に砂糖塗って!」

「はぁ?どうして?」

「さっき 鉄棒に頭ぶつけた」

見ると小太郎の頭にコブが…

「それで 何で砂糖なの?」

「先生 馬鹿だなぁ…頭ぶつけたら砂糖塗るんだぞ!知らないのか?」

その話を聞いていた 違う先生が

「そう言えば 聞いた事あるかも…」

「本当に?」

「そうだぞ!早く塗って!」

ちなみに これは本当の話

砂糖が熱を吸い取るみたいなのだ


またまた翌日

「今日こそは みんな仲良く遊ぶんですよ〜」

「は〜〜い!」

小太郎 砂場に一番乗り!

「太郎!俺達も混ぜろよ!」

「ヤダ!俺が一番に来たんだ!」

三歳児小太郎!幼稚園一のガキ大将!


それから数ヶ月が過ぎ 小太郎は四歳になっていた

「小太郎〜〜!」

「あっ!母ちゃん!」

小太郎は 蝶々やトンボについて行く癖があった

幼稚園の帰り 虫を見つけると本能がそうさせるのだ

「今日は 何が居たの?」

「ギンヤンマ!」

「全く…」

幼稚園からの帰りが遅く 毎日母ちゃんは途中まで迎えに行くのが日課になっていた


ある日

小太郎ん家の電話が鳴り響く

『もしもし!すいません!小太郎くんが…小太郎くんが幼稚園から消えました…』

先生からの電話がだった

「えっ!今から行きます!」

急いで幼稚園に駆けつける母ちゃん

「先生すいません…気がついたら 小太郎くんが…」

「落ち着いて!小太郎の事なら大丈夫だから!」

小太郎の先生の先生をしていた母ちゃん

先生を落ち着かせる為に 先生の顔になっていた


「今日は 冒険の森で遊んでたんですが…気がついたら小太郎くんの姿が見えなくて…」

冒険の森とは 幼稚園の裏山に作った アスレチックのような遊び場

「警察に電話した方が…」

「いや まだ待って!他の子供達は?」

「みんな居ます」

「じゃあ 居なくなったのは 小太郎だけなのね」

「そうです」

「良かった…なら 警察に電話するのは まだ待って」

現在十二時

「先生は 園児の方を!私は 心あたりを探してみるから」

「園児を帰したら 私も探します」


一方 小太郎は…

「あれ?どこ行ったんだ?…そんで…ここどこだ?」

小太郎は 赤トンボを追って 裏山の反対側まで来ていたのだ

「あっ!いた!」

赤トンボを再び発見!

「待て〜!」


「小太郎〜!」

先生には ああ言ったものの心配な母ちゃん

「すいません この辺で 園服着た子供見ませんでしたか?」

「いや〜見てないなぁ」

「そうですか…ありがとうございます」

母ちゃんは 手当たり次第に通行人に声をかける


そんな母ちゃんの心配をよそに

「よし!止まった…そう〜っと…あっ!待て〜!」

どんどん幼稚園から離れる小太郎


その頃 母ちゃんは全く逆の方を探していた

まさか 道のない山を越えているとは思っていなかったのだ


現在十五時


「先生〜!」

小太郎の先生が 母ちゃんと合流した

「他の先生達も今探しに行きました」

「そうですか ありがとうございます」

「どこ行ったんでしょう…」


「おぉ!どんぐりだ!どんぐりがいっぱいあるぞ!」

小太郎の視界には もはや 赤トンボは入っていなかった…

小太郎の 次の獲物 はどんぐり

「おぉ!なんだこれ!二つくっついてるどんぐりだ!」

親の心子知らず

小太郎は時間を気にせず どんぐりに夢中になっている


「先生…そろそろ暗くなります…やっぱり警察に」

「もうちょっと…多分 あの子の事だから 心配はいらないはず…大丈夫…大丈夫だから…」

本当は 一番心配してる母ちゃん

警察沙汰にすれば 幼稚園に迷惑をかけてしまう…

「他の先生達が見つけたかも 一度 園に帰りましょう」


その頃

小太郎はやっと帰ろうと思ったが…闇雲にトンボを追った為 今どこに居るのかがわからない

「おっちゃん!ここどこだ!」

「なんだ坊主 どこから来たんだ?」

「幼稚園!」

「幼稚園?幼稚園ならあそこの角を曲がって真っ直ぐ行くと…ん?そういえば…」

このおっちゃんも 母ちゃんに聞かれた中の一人

「園服…居た!」


「坊主 送ってやるぞ!乗れ!」

「いいのか?やったー!」

「坊主 何やってたんだ?」

「トンボ追いかけたらどんぐり見っけた!」

「そうか!それは スゴイ冒険したんだな」

おっちゃんは自分の幼い時を思い出した

「おぅ!楽しかったぞ!」

「でもな みんな心配してるぞ」

「…うん」


現在十六時半


「やっぱり 見つからないですか…」

「先生…」

「やっぱり警察に…」

プップ〜〜!

「なんだ?」

秋の夕暮れ時

夕焼け空 逆光の中からシルエットが近づいてくる


「おぉ〜い!」

そのシルエットは元気に手を振っている

「小太郎?小太郎〜!」

「小太郎く〜ん!」

「あれ?なんで母ちゃん居るんだ?」

逆光の中から おっちゃんの耕運機に乗せられた小太郎が現れた

「あっ さっきの…」

「やっぱり あんたが探してたのは この坊主か…この山の裏に居たよ」

「そんな所に…」

「坊主 母ちゃんに心配かけんなよ!」

「おぅ!おっちゃん ありがとう!」

おっちゃんは 颯爽と耕運機で帰って行った


「母ちゃん!これ見て!」

小太郎の手には 二つくっついたどんぐりが…

小太郎は満面の笑みだった

「本当にご迷惑をお掛けしました」

母ちゃんが先生達に深々と頭を下げる横で 小太郎はどんぐりに夢中

「いいえ 無事で良かったです」

「小太郎!先生に迷惑掛けたんだから謝りなさい!」

「先生!俺 楽しかったぞ!」

満面の笑みで言われたら何も言えない

「はぁ…本当にすいません」

「太郎ちゃん 今度 そのどんぐり有るとこ 教えてね みんなで行きましょう!」

「えぇ〜 俺の秘密の場所だから ヤダ!」

「…」

きっぱりと断る小太郎


「小太郎…」

「なんだ母ちゃん!」

「今日 楽しかった?」

「うん!」

「そうか 楽しかったか」

夕焼けに向かい歩く母と子

それを見送る先生達…


みんな今日は 秋の夜長を感じることはなく 早めの就寝に就くことになるだろう












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