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別れ…

「小太郎殿もとうとう三歳を過ぎたか…」

窓際にチョコンと座り 物思いに耽る小ちゃいおっちゃん

「おっちゃんどうした?」

「おぉ 小太郎殿…実はのぉ…」

ジリリリ…

その時 電話が鳴った

「はい…えぇ…えっ!…わかりました…まだ午前中だから今から行きます…大丈夫…はいそれじゃ」

「母ちゃん どうしたんだ?」

血相を変えている母ちゃん

「小太郎 じいちゃんのところに行きますよ」

「本当か!やったぁ じいちゃんに会えるぞ!」

母ちゃんは少し笑顔になり 小太郎の頭を撫でた


「じい様殿…何かあったんじゃな…」

小ちゃいおっちゃんは母ちゃんの顔で何かを察した


「小太郎 じいちゃんの所に行ったら静かにしてるんですよ」

「おぅ!任せろ!じいちゃん元気かなぁ」

小太郎と母ちゃんは電車でじいちゃんの所へ急いでいた

「母ちゃん 次で降りるんだよな!俺 知ってんだ駅四つ目だもんな」

本当は駅五つ目…

「後二つですよ」

「じいちゃん家に行くんじゃないのか?」

「じいちゃんの 所 に行くんですよ」

まだ三歳の小太郎には この違いがわからなかった

小太郎と母ちゃんがやって来たのは 病院

「母ちゃん…俺どこも悪くないぞ…」

そこが病院である事に小太郎もすぐ気付いた

「じいちゃんが入院してるの」

「じいちゃん どっか悪いのか?」

何も言わず 小太郎の手を引き病室を探す母ちゃん

「有った…」

「ここにじいちゃん居るのか?」

「そうみたい…」

「じいちゃん!俺来たぞ!」

躊躇なく入って行く小太郎

「おぉ!小太郎来たか!」

ベッドに横たわってはいるが 元気なじいちゃんがそこに居た

それを見て安心したように母ちゃんも病室に入って来た

「良く来たなぁ!」

「母ちゃんと 電車 で来たんだぞ!」

汽車ポッポから電車に変わった

「おぉ そうかそうか」

目尻が下がるじいちゃん

「お父さん…」

「あぁ 大丈夫だ大丈夫だ…」

娘に心配をさせないように振舞っているのを母ちゃんにはわかった

「もう年なんだから…無理しないで下さいね」

「わかってる…あっ そうだ!小太郎ケーキ食うか?」

「食う!」

母ちゃんに見透かされていると知り 話をはぐらかしているように見える

「小太郎 美味いか?」

「美味い!」

「そうかそうか」

小太郎が来たことにより じいちゃんの顔色が良くなったのかもしれない

「じいちゃん どっか悪いのか?」

「じいちゃんか?どこも悪くないぞ ほらこんなに元気だ!」

「そうか!また今度フナ買いに行こうな!」

「おぉ そうだな」

フナとは じいちゃん家で飼ってるトビの餌

小太郎は昔 フナを食べるトビを見てギャン泣きしたのだ

じいちゃんは小太郎を孫の中で一番可愛がった

他の孫達が大きくなったというのもあるが 小太郎には良く手をかけたのだった


「それじゃまた来ますね」

「じいちゃん早く元気になれな!」

「じいちゃんはもう元気だぞ!小太郎が来てくれたからな」

「俺が来ると元気になるのか?」

「そうだ!小太郎が来ると元気になるんだ」

笑顔でそう言うじいちゃんは小太郎の頭を撫でた


「母ちゃん 明日もじいちゃんとこ行こうな!」

「そんな毎日は行けませんよ」

「じいちゃん 俺が行くと元気になるんだぞ」

「そうだね また今度来ましょうね」


その日の夜

「わかった…ううん そんな事ない…うん…うん じゃ明日 一番の電車で行くから うん じゃ…」

「母ちゃん 誰から?」

「小太郎…明日 また じいちゃんのところに行くよ」

「本当に!やった〜!俺 行くとじいちゃん治るんだぞ!」

母ちゃんは 明日もじいちゃんに会えるから泣いている

小太郎はそう思ったのだ


「母ちゃん!じいちゃんの病院こっちじゃないぞ!」

「じいちゃん 家に帰ったから…」

「そうなの?じいちゃん 治って家に帰ったのか!俺のおかげだな!」

今の母ちゃんには 小太郎が居てくれる事がとても頼りになっていた

「じいちゃん!来てやったぞ!」

じいちゃん家に入ってキョロキョロする小太郎だが…

どこにもじいちゃんの姿がない

その代わり 見知らぬ人が沢山居た

「母ちゃん!じいちゃん居ないぞ?」

「小太郎…じいちゃん ここ に居るでしょ」

「これ? じいちゃん?じいちゃん寝てんのか?」

母ちゃんが じいちゃんの顔に被さっている白い布をめくる

「なんだ じいちゃん寝てんのか…じいちゃん!俺 来たぞ!起きろ〜!じいちゃん!」

「小太郎…じいちゃんはね ばあちゃんのところに行ったんだよ…」

「ばあちゃん?あぁ!あの写真の!行ったって…じいちゃんここに居るぞ!」

「小太郎 じいちゃんは ここに居るけど…もう居ないの…」

「ん〜 なんだそれ?」

小太郎にはまだ理解出来なかった


「この後の段取りとかあるからちょっといいか?」

おじちゃんが母ちゃんを呼びに来た

「ええ…小太郎…あんちゃん達の所に行ってなさい」

そう言われても 小太郎はじいちゃんの側から離れなかった

母ちゃんはそのまま小太郎を残して話し合いに参加する

「なぁ じいちゃん…ばあちゃんのとこに行ったのか?」

小太郎は横たわるじいちゃんに話掛けるが じいちゃんは何も答えてはくれない

「俺もばあちゃんに会ってみたいぞ…」


「最近は孫代表の弔辞ってのもあるみたいだなぁ」

「今回 誰かにやってもらう?」

「ん〜」

しばらくすると小太郎が母ちゃん達のところにやって来た

「やっぱりここは棟梁にやってもらうか?」

しょうこ姉ちゃん家のおじちゃんも 師 の不幸を聞きつけやって来ていたのだ

「母ちゃん ちょうじ ってなんだ?」

「じいちゃんにありがとう ってあいさつするの」

「じいちゃんにあいさつするの?俺やるぞ!」

「小太郎には まだ早いの もっと大きくなってからね」

「だって 俺 じいちゃん好きだ!だから じいちゃんにあいさつするぞ!」

「いいんじゃないか?小太郎で」

「でも まだ三歳だし」

「いや 歳は別に関係ないでしょ…練習してやるものでもないし」

「でも…この子 何を喋るかわからないから…」

「俺!やる!」

弔辞の意味もわからず 引き受ける小太郎


そして しめやかに執り行われた告別式も終わりに近づいてきていた

「それでは お孫さん代表で 生前可愛がられた 小太郎くんからお別れの言葉を…」

「あの人何言ってんだ?俺はじいちゃんに別れの言葉なんか言わないぞ!あいさつするんだ!」

「いいから 小太郎おいで」

母ちゃんに連れられて 祭壇前に行く小太郎


「母ちゃん!これで喋るのか?」

会場に小太郎の声が響く…

参列者から失笑が聞こえる…

「小太郎…思った事をじいちゃんに言いなさい」

「わかった!」


「じいちゃん!おぉ…」

マイクを通した自分の声に感動する小太郎…

「小太郎…」

「わかったよ 母ちゃん じいちゃん!じいちゃんはばあちゃんとこに行ったって母ちゃんから聞いたけど じいちゃんすごいな!体はここにあるのに 今度 俺にもどうやるか教えろ!俺もばあちゃんに会ってみたいぞ!友達にはじいちゃんとばあちゃんが居るけど 俺にはじいちゃんしかいない だからばあちゃんに会ってみたいんだ!俺 じいちゃんがばあちゃんのとこから 帰ってくるの待ってるからな!そしたら 一緒にばあちゃんとこに連れて行ってよ 俺ずっと待ってるからな!約束だぞじいちゃん!じいちゃんは 俺の事 いい子だなぁっていつも褒めてくれっから 俺はじいちゃんが大好きだ!母ちゃんこんなんでいいか?母ちゃん何泣いてんだ?」

そこまでで マイクが切れた…

「母ちゃん 俺 じいちゃんにあいさつしたぞ!」

「うん…小太郎はいい子だねぇ」

そう言って 母ちゃんは小太郎の頭を撫でた


「小太郎…良かったぞ…じいちゃん喜んでるぞ…」

おじちゃんにも褒められ

「本当…上手な弔辞だった…」

褒めてくれるみんなの目に涙がある事を 不思議がる小太郎だった


その頃小太郎の家では

「じい様殿…安らかに眠るのじゃぞ…」

小ちゃいおっちゃんは 小太郎のじいちゃんがこの家を建てた時から 守家をしていたのだ

母ちゃん達が結婚するまで一緒に暮らし 母ちゃんの結婚を機に 田舎に新しく家を建て そこに移り住んだのだ

「じい様殿が逝って 小太郎殿もさぞかし寂しいじゃろう…じゃがわしも消えねばならぬ…寂しいのは一時(いっとき)じゃ…その内 わしの事も忘れるじゃろう…」

小ちゃいおっちゃんは ある決意をした

妖精を見ることができるのは 三歳辺りまで…

やがて知恵がつき 欲を出すようになれば 清い心 が無くなり 妖精を見ることが出来なくなる

妖精の寿命は半永久

小ちゃいおっちゃんは遥か昔から守家妖精をして来て 幾度となく寂しい思いをして来た

「さらばじゃ 小太郎殿…わしはいつまでもお主を見守っておるぞ…」

小ちゃいおっちゃんは 小太郎の前から姿を消すことにしたのだった


「ただいま!」

じいちゃんの供養を済ませ 久しぶりに家に帰って来た小太郎

「あれ?」

「どうしたの?」

「おっちゃんの声がしないぞ」

「おっちゃん?」

「うん…小ちゃくて頭がピカピカのおっちゃんなんだけど…」

「おっちゃんか…」

母ちゃんはそれしか言わなかった

「おっちゃん!ここか?」

カーテンをめくり 座布団をどけ 小ちゃいおっちゃんを探す小太郎

「あれ?どこに行ったんだ?」


「小太郎そろそろ寝なさい」

「でもおっちゃんが…」

「きっとおっちゃんは お家に帰ったんですよ」

「違う!おっちゃんは黙って帰ったりしないんだ!」

目に涙をいっぱい溜めて 小太郎が叫んだ

「ズスゥ…小太郎殿…すまぬ…わしも辛いのじゃ…じゃがな…小太郎殿がわしを見れなくなった時…小太郎殿はもっと辛くなるじゃろう…記憶の中にわしが残り…わしが消えるのは今のうちなんじゃ…今なら小太郎殿の記憶からわしは消える…じゃが安心いたせ わしはずっとこの家で小太郎殿と母上殿を災いから守り抜く事を約束しよう…」

小ちゃいおっちゃんは 神棚から小太郎を見ていた


「はぁ…小太郎も見えたんですね」

母ちゃんは 珍しく泣きじゃくる小太郎を寝かしつけ ため息を一つついた

母ちゃんも寝ついた深夜

ピョ〜〜ン

神棚から飛び降りた小ちゃいおっちゃん

「小太郎殿…わしはいつも近くで見守っておるから安心するがよい」

「おっちゃん…」

寝言を言う小太郎

「く…」

思わず泣きそうになる小ちゃいおっちゃんは 両手で口をおさえ 部屋を出た

「ズスゥ…まだダメじゃ…わしの声はまだ小太郎殿に聞こえる…わしが泣いて小太郎殿を起こしてしもうたら わしの決心が鈍ってしまう…」

小ちゃいおっちゃんは 小太郎が大好きだった

それは 小ちゃいおっちゃんと小太郎の前世に話を戻す必要があるだろう








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