もう一人の姉ちゃんともう一人の主人公
話を少し遡る
小太郎もうすぐ一歳になる春
「かぁたん ちれいだねぇ」
「そうだねぇ」
「あえ なんてぇの?」
「あれは 桜 って言うんだよ」
「しゃくら?」
小太郎の母ちゃんは 小太郎が産まれるまで小学校の教師をやっていた
母ちゃんは 地方の大学に通い そこで教師免許を取ったのだが そこで知り合った姉弟と今でも交流を持っていたのだ
今日は 小太郎の大好きな電車に乗って その姉弟の姉の方に会いに来たのだ
「ほら小太郎 次で降りますよ」
「ん…ここどこ?」
駅に降り立つと
「あ〜ぁ 汽車ぽっぽいっちゃった…」
「また帰りに乗るからね」
「おぉ かぁたんもう帰ろ!」
電車が大好きな小太郎
「先生 久しぶりです!」
ビクッ!サッ…
背後から声を掛けられ 驚く小太郎は母ちゃんの後ろに隠れた
「こんにちは 陽月ちゃん」
ヒョコ
「母たん…だえ?(誰?)」
「小太郎ちゃん!小太郎ちゃんだね!お話出来るようになったんだねぇ」
小太郎を持ち上げる陽月姉ちゃん
「ほ〜ら 高い高〜い」
普通 子供は これ で大半が喜ぶが 小太郎は目を見開き怯えた顔をする
一歳の小太郎にとって 高い高い は絶叫マシンであったに違いない
「おばたん こえなぁに?」
「お姉ちゃんね これはねエスカレーターって言うんだよ」
「えすかえたぁ?」
「そう ほらそろそろ降りるから…はい!ジャ〜ンプ!」
腕を引き上げられ 自分で降りたように錯覚する小太郎
ニィ〜っと笑う
「もっかい!(もう一回!)」
「じゃあ 今度は登ろうか!」
エスカレーターを登ったり降りたりを数回繰り返す
「ほら小太郎 そろそろ行きますよ」
「はぁ〜い…」
返事をする時は何故か両手を目一杯あげる小太郎
「あら お利口さんだねぇ じゃあ行こうか」
陽月姉ちゃんと手を繋いで一生懸命歩く
「小太郎ちゃん 疲れない?疲れたら抱っこする?」
「ちかれない!歩くのちゅき!(好き!)」
オムツで膨らんだお尻をモコモコとカルガモみたいに歩く
「ほ〜ら 小太郎ちゃん!すごいでしょう」
「うわぁ〜 しゃくらい〜〜っぱい!」
体全体で表現する小太郎
小太郎が連れて来られたのは 駅近くにある公園
その公園は 数え切れないほどの桜の木が見事なまでに咲き乱れていた
「何年ぶりかしら やっぱりここの桜は見事だねぇ」
「母たん あちょんで(遊んで)いい?」
「いいですよ」
「わあぁぁ…」
両手を挙げて桜の木の下へ走る小太郎
「足も口も達者だね」
「そうなの…もう目が離せなくて…」
そう言う母ちゃんは嬉しそうな顔
「いぃち ごぉ しゃん いち ごぉ にぃ」
数を数えているのか?
「小太郎ちゃん何してんの?」
小太郎はしゃがみ込んで一生懸命何かをしている
「しゃくらのはっぱ!」
散った花びらを拾っていたのだ
「花びら拾ってるんだぁ」
「ちゃうよ はっぱ!」
小太郎にとって 広がって咲いてるのが花 一枚一枚になっているのは葉っぱと言う認識なのかもしれない
小さい両手にいっぱいの花びらを拾い上げては上に投げ その中をくぐるという遊びを何度も繰り返す
散々遊んでも飽きるという事を知らない小太郎
「小太郎 そろそろ行きますよ」
「ま〜だ」
「汽車ぽっぽに乗れなくてもいいの?」
「や〜だ」
「はぁ…いつもこうなんだから…」
「小太郎ちゃん わたあめ食べようか?」
「わたあめ?」
「そう おいで お姉ちゃんが買ってあげる!」
陽月姉ちゃんに連れられて 小太郎は出店へ
「小太郎ちゃん どれがいい?」
「あんまんマン!」
あんまんマンとは 『オラァ あんまんマン』という子供向けの番組で 子供に絶大な人気があった
「あんまんマンください」
「あいよ!」
「あえも!(あれも!)」
「ん?あぁ お面か!どれいいの?」
「あんまんマン!」
「あんまんマンのお面ください」
「はいどうぞ」
小太郎は買って貰ったお面を被りご満悦
「おあ(おらぁ)あんまんマンだぁ〜」
「え?」
「あんまんマンの真似してるんですよ」
「あんまんマンって訛ってるの?」
あんまんマンを知らない陽月姉ちゃん
「そうみたい 私も小太郎が夢中になってテレビ観てるうちに家の事やってるから じっくり観た事ないんだけど…訛った言葉が聴こえてくるから」
「ふ〜ん…訛りかぁ…」
「訛り…嫌い?」
「ん〜…どうだろう…こうして話ししてる時訛りを出さないようにしてるって事は 嫌いなのかなぁ」
「そっかぁ 私はね大学をこっちにしたのは 昔父親に連れて来たもらった時 ここの訛りが優しく聞こえてね 少しでもここで生活してみたいなぁって思ったからなの」
「そうなんだ 先生は訛ってないよね」
「何が鈍りで何が標準語なのか…陽月ちゃん 訛りは言葉に着せる服と同じなんじゃないかなぁ」
「服?」
「そう その土地その土地で昔から流行っている服 着心地がいいからみんながずっと使ってる言葉なんじゃないかなぁって思うの 今の時代 若い人達は それ を使わないようになってきてるけど…使わないのはいいけど 忘れちゃダメ その言葉がその土地で育ったって証なんだから」
難しい事を言う母ちゃんだったが
「その土地で育った証か…そうだね!私 この訛り忘れない!」
陽月姉ちゃんは理解したようだった
「おあ(おらぁ)あんまんマンだぁ〜」
母ちゃんと陽月姉ちゃんが話している最中 この言葉を幾度となく繰り返していた小太郎
お面を外さず わたあめを食べ お面の口の周りをベタベタにしていた
「じゃあ そろそろ帰りますよ」
「小太郎ちゃん また来いな」
「あ〜い!」
両手を広げて返事をする小太郎
「陽月ちゃん 拓海くんにもよろしく言っておいてね」
拓海とは 陽月姉ちゃんの弟
母ちゃんが教育実習で 数週間母ちゃんが受け持ったクラスの一人なのだ
「はい 今日も来たかったみたいだったんだけど…」
「いいんですよ 拓海くんにはお医者さんになるって 立派な夢があるんです その夢が叶ったらまた来ます」
「うん 小太郎ちゃんまたね」
その声は小太郎に届いていなかった
何故ならホームに入って来た電車に 目をキラつかせていたから…
それから二年の月日が流れ…
「小太郎 早くしなさい」
「母ちゃん待って」
小太郎 三歳
今日は父ちゃんの実家に母ちゃんとお出かけをすることに
「母ちゃん おばちゃん元気かなぁ?」
「小太郎が行ったら元気になりますよ」
父ちゃんの姉ちゃん 小太郎のおばちゃんが倒れたとの連絡が来て 御見舞いに行く事になったのだ
「小太郎 病院では騒いじゃダメですよ」
「分かってるって!」
三歳にもなるとなかなか生意気な口をきく小太郎になっていた
「こんにちは どうですか?」
「おばちゃん!どうだ!」
騒いではいない…声がデカイだけ…
「おぉ 小太郎よく来たなぁ 大丈夫だぁ わざわざありがとなぁ」
「汽車ポッポで来たんだぞ!」
生意気だけど…言葉が可愛い…
「そっかぁ 小太郎はいつも元気だなぁ」
「もう最近じゃ 元気あり過ぎて手に負えないんですよ」
「小太郎の父ちゃんも子供の頃はそうだったぁ 男の子はそんくらいでいいんだ」
数分後
小太郎は飽きていた…
ギィ…ギィ…
「小太郎 転びますよ ちゃんと座ってなさい」
椅子を傾けてバランスをとる小太郎
バタンッ!
「痛ぇ…」
頭を強かにぶつけ 涙目になる
「ほら…全く 落ち着きがないんだから」
「大丈夫か小太郎?偉いなぁ 泣かないんだなぁ」
そう言われたら泣くわけにはいかない…
「母ちゃん オシッコしてくる!」
「小太郎 一人で行けるのか?」
「俺 一人で行けるぞ!」
「小太郎はお利口さんだなぁ」
「へへへ 俺 お利口!」
褒められて伸びるタイプみたいだな
小太郎 病室から脱出成功
「よし!外行ってみよ!」
小太郎は病院の中庭に出て来た
中庭では入院患者などがチラホラ談笑している
その中に 一人小太郎くらいの女の子が花壇のところにしゃがみ込んで何かを探していた
小太郎が声をかける
「どうちたの?」
たまに赤ちゃん言葉が出るみたいだな…
その子は泣いていた
女の子は小太郎に気づくと涙を拭い
「よつゅば(四葉)のクローバーしゃがしてんの(探してんの)」
「よつゅばのクローバー?なんだしょれ(それ)」
「ほら これがふつゅう(普通)のクローバーで はっぱがみっちゅ(三枚)あるでしょ」
「みっちゅ?」
二人共 たまに赤ちゃん言葉になる
「とっつ(一つ) たっつ(二つ) みっつね」
小太郎と同じくらいということは この女の子も三歳?
三歳で数を数えてる…
小太郎は見て 形で覚えた
「これは ほらとっつ(一つ)多いでしょ?」
「おぉ!本当だ」
もう一度言うが 小太郎は形で覚えた
「よつゅばのクローバーか!いっちょ(一緒)に探してやるぞ!」
「本当!なかなか見つからなくて…」
少し笑顔になる女の子
「あった!ほら よつゅば(四葉)のクローバー!」
「やったー!ありがとう!」
さっき泣いていた女の子は嬉しそうに笑っている
「へへへ」
小太郎はそれが嬉しかった
「……帰りますよ」
「あっ!お母さん!よつゅば(四葉)のクローバーありがとう バイバイ」
女の子はお母さんと帰って行った
「はぁ…こんなとこに居た…小太郎!行きますよ!」
トイレから帰って来ない小太郎を 病院中探した母ちゃん
「おぅ!もう帰るのか?」
「今度は 四日後 おばちゃんが退院の時にまた来ますよ」
「やったー!また汽車ポッポに乗れる!」
そして四日後
「おばちゃん!また来たぞ!」
「わざわざありがとな」
おばちゃんは元気になっていた
「一人で大丈夫だったのにわざわざありがとな」
「そんな事…義兄さんからもうちの人からもよろしく頼まれているんですから」
「全く男はあてにならないねぇ」
おばちゃん家に向かうバスの中から人集りが見えた
「母ちゃん あれなんだ?」
「あら〜あそこのじいちゃん亡くなったんだ…同じ病院に入院してたのに…」
「小太郎 あれはお葬式ですよ」
バスで その家の前を通り過ぎる時
病院で四葉のクローバーを探していた女の子が居たのに気付いた小太郎
小太郎のおばちゃんの家は その葬式をしている家からそれほど離れていなかった
「母ちゃんちょっと行ってくる!」
「小太郎 どこ行くの?」
小太郎はさっき見えた 葬式のところに…
病院で見た女の子は また泣いていた
「どうちたの?」
「おじいちゃんが…」
女の子は どこかが痛いから 誰かに怒られたから
そんな事で流している涙ではない事が小太郎にも伝わっていた
三歳くらいの女の子が おじいちゃんが亡くなって悲しくて泣いているのだ
生前かなり可愛いがられたのだろう
「せっかく…よつゅば(四葉)のクローバー見つけてもらったのに…」
女の子は おじいちゃんに元気になってもらいたい その一心で四葉のクローバーを探していたのだった
「もっと…もっと四つ葉のクローバーがあれば元気になるか?」
「えっ?」
「俺のじいちゃんは 俺が泣くと困った顔をするんだ…だから…泣いちゃじいちゃん困るぞ!待ってろな!」
小太郎は田んぼのあぜ道に座り込み四葉のクローバーを探し始まった
プァーーーーーー
黒くてデカイ車が走り出す
女の子はお母さんに連れられて別の車で その車の後ろを追いかけるように小太郎の視界から消えて行った
「みっけ!」
小太郎はそれでも探すのをやめなかった
「みっけ!」
しばらくしてさっきの車が戻ってきた
「あっ!まだ居た!」
女の子が車を降りて小太郎のところに駆け寄ってくる
「ほら!こんなに有ったぞ!」
小太郎の小さい手に握られている十数本の四葉のクローバー
数本 普通のクローバーも…
「こんなに見つけたの?スゴ〜イ!」
女の子が笑顔になった
「そうだ!笑え!笑うとじいちゃん安心するんだぞ!」
「うん!ありがとう!」
女の子は小太郎から四葉のクローバーを受け取り家に入っていった
「小太郎!帰りますよ!」
「あっ!母ちゃん!」
「何してたの?こんなに手汚して…」
「へへへ」
女の子はじいちゃんの仏壇の前に行き
「お母さん これおじいちゃんにあげていい?」
「晶どうしたのそれ?」
「お友達にもらったの」
小太郎 三歳になったばかり
晶ちゃん 後半年で三歳
のちに この物語の主人公となる二人が初めて出会ったのが この時だった