小太郎と小ちゃいおっちゃんとしょうこ姉ちゃん
小太郎が産まれて半年が過ぎようとしていた
「ふぎゃ…ホギャ!ホギャ!」
「ぬおぉぉぉ!今 母上殿は風呂に入っておるで小太郎殿泣くでない…と言うても泣き止む訳がないか…どうすれば良いのじゃ…」
オロオロする小ちゃいおっちゃん
「なんとかして 母上殿に伝えねば…」
小ちゃいおっちゃんの事が見えるのは基本的に 子供に多い
それも 三歳までの幼児
三歳を過ぎると 悪知恵がつき清い心が薄れて行く為である
「ホギャ!ホギャ!」
「おぉ 今待っておれな おしめ(オムツ)かのぉ?それとも腹が減ったのか?っと聞いても答えるはずがないか…」
とりあえず風呂場へ走る小ちゃいおっちゃん
風呂場からはシャワーの音
「これでは聞こえんな…」
小ちゃいおっちゃんは 洗面所によじ登り 手当たり次第に物を落として音を立てる
しかし その音はシャワーの音にかき消される
「これでは聞こえんか…」
今度は 風呂場のガラス戸に体当たりをする小ちゃいおっちゃん
トン!トン!
数cmの小ちゃいおっちゃんが体当たりしたところで 大した音は出ない
「ぬおぉぉぉ!母上殿 気付くのじゃ!」
その時
キュッ
シャワーの音が止まった
「あら 泣いてる」
やっと母ちゃんが小太郎の泣き声に気付いたのだ
「ふぅ…やっとわしの美声が届いたか…」
美声というより 奇声
守家妖精は 何かに長けた能力を持っている
この小ちゃいおっちゃんの能力は 声 だった
「はいはい ごめんねぇ」
暴れるように泣きじゃくる小太郎を抱き上げる母ちゃん
オムツを取り替えてもらいオッパイを飲んでも泣き止まない
「どうしたのかしら…」
ピョ〜〜ン
小ちゃいおっちゃんが小太郎のおでこに飛び乗る
ブォ〜〜ン…
小太郎のおでこに手を当てると小ちゃいおっちゃんもう一つの能力を使った
それは 医療の能力
「うむ…これは疳の虫じゃな…」
※疳の虫…俗に言う夜泣き等の事を言う
「疳の虫には 孫太郎虫が効くのじゃが…」
※孫太郎虫とは 江戸時代の頃 疳の虫に効くとされていた ヘビトンボの幼虫
「仕方ないのぉ…」
ブォ〜〜〜〜ン…
小ちゃいおっちゃんは 麻酔効果がある治療を使い小太郎を眠らせた
そんなこんなを繰り返し 小太郎はスクスク育った
小太郎が9ヶ月になる頃には ハイハイをして移動するようになっていた
「小太郎殿 こっちじゃ!」
タタタタタ…
「ほれ こっちじゃ!こっちじゃ!」
タタタタタ…
毎日 小ちゃいおっちゃんを追い回して遊ぶ小太郎
「そろそろじゃな」
小ちゃいおっちゃんが時計を見ると
「こんにちは」
しょうこちゃんが幼稚園から帰って来て 小太郎と遊びに来たのだ
「ほら来た!どれわしは少し休むかのぉ」
ほぼ毎日 これの繰り返し
タタタタタ…
玄関に急ぐ小太郎
「小太郎くん!」
「しょ〜たん!」
小太郎は口も(言葉を覚える)早かった
「あら しょうこちゃんいらっしゃい」
「かあたん!しょ〜たんちた!(しょうこ姉ちゃん来た)」
「じゃあ オヤツにしましょうね」
母ちゃんは しょうこ姉ちゃんが来るのに合わせてオヤツを用意していたのだ
「小太郎くんおいで」
オヤツを食べる時 小太郎の特等席はしょうこ姉ちゃんの膝の上
「小太郎 それじゃしょうこちゃんが食べられないでしょ?」
「やっ!」
「いいよねぇ 小太郎くんが食べ終わったら お姉ちゃん が食べるから」
「まぁ ふふふ」
まるで 姉弟のような小太郎としょうこ姉ちゃん
小太郎にはお姉ちゃんが
しょうこ姉ちゃんには弟が出来たみたいだった
「うむ…美味い…」
小ちゃいおっちゃんは 小太郎の食べこぼしのお菓子を食べていた
「ん?」
視線を感じる小ちゃいおっちゃん
視線のする方を見ると しょうこ姉ちゃんに抱っこされてオヤツを食べている小太郎が
「なんじゃ 小太郎殿か…おっ また落ちて来た はむっ!うむ 美味い!」
また こぼれオヤツに没頭する小ちゃいおっちゃん
そして…
「まて〜〜!」
「ぬおぉぉぉぉ!潰される〜〜」
小太郎 10ヶ月
「何故じゃ〜〜」
ハイハイをして小ちゃいおっちゃんを追いかけていた小太郎が 急に立ち上がったのだ
「ん?一人で立った?おぉ!小太郎殿 でかしたぞ!初めて一人で立てたではないか!」
両手を叩いて大喜びをする小太郎
しかし まだおぼつかないバランスの為 尻もちをつく
「ほれ 小太郎殿もう一度立つのじゃ」
さっきは偶然立てたのか 今度は慎重に両手を前につき ゆっくりと両足を伸ばす
「ほれ 頑張るのじゃ!」
両手をそおっと浮かすがバランスを崩し前のめりに倒れる
「大丈夫か!」
頭を床に強かにぶつけた小太郎を心配する小ちゃいおっちゃん
しかし小太郎は泣きもせず 再度立とうとする
「うむ さすがおのこ(男の子)じゃ!頑張るのじゃぞ小太郎殿」
それから何度も挑戦を繰り返す小太郎
「小太郎殿…もう良い…」
おでこを何度もぶつけ 小太郎のひたいは軽く腫れ上がっていた
それでも立とうとする小太郎
「………」
小ちゃいおっちゃんは 何も言わず見守る
そして…
「もう少しじゃ…」
そおっと両手を離し ゆっくりと足を伸ばす小太郎
「ほれ…もう少しじゃ…」
オムツが邪魔で少々がに股だが 小太郎は立った
「良し!ようやった!」
小太郎に駆け寄ろうとした小ちゃいおっちゃんだったが…
タッタッタ…
重心を前にかけ二、三歩前に出て
「おぉ!今度は歩きおった!でかしたぞ小太郎殿…って…」
タッタッタッタ…
そのまま小ちゃいおっちゃん目掛けて歩みよる
「ぬおぉぉぉ 何故わしを追うのじゃ〜!」
逃げる小ちゃいおっちゃん
追う小太郎
「そのような笑顔で追ってくるでない!余計に怖いわ!」
初めて立ち そして初めて歩いた小太郎は 坂道を全力疾走して止まらなくなった子供みたいに ひたすら前に進む
「小太郎殿すまぬ!」
行く手を壁に塞がれた小ちゃいおっちゃんは 90°ターンした
おぼつかない足取りの小太郎は壁に向かってまっしぐら
「擦りむいたらわしが治してやるでのぉ…」
小ちゃいおっちゃんは 止まって小太郎を見ていたが…
そこで奇跡が起こった
小ちゃいおっちゃんを追っていた小太郎は 小ちゃいおっちゃんがターンしたのを目で追っていた為 頭を振った方向に小太郎もターンしたのだ
乳幼児とは頭が重い
その為 重心がそちらに傾いたのかもしれない
「ぬおぉぉぉ 何故曲がれる!」
再び小太郎に追われる小ちゃいおっちゃん
この遊びは数分続いた
「はぁ…はぁ…小太郎殿…はぁ…まだお主に捕まるような…はぁ…わしではない…はぁ…ん…疲れて寝おったか…はぁ…怖かったぁ…」
疲れ果てた小ちゃいおっちゃんは 眠りに落ちた小太郎に寄り添い眠りに落ちた
そして 間もなく小太郎一歳
この頃になると 口がかなり達者になっていた
「ちゃん!(おっちゃん)」
「なんじゃ?小太郎殿」
「ちゃん ピカピカ!」
「違うわ!わしはこれから生え揃うのじゃ!」
そう 小ちゃいおっちゃんは頭のてっぺんが寂しかった
「キャハハハ ピカピカ!」
「小太郎殿…人の欠点を笑うでない 笑えばわしを見る事が出来なくなるぞ」
「キャハハハ ピカピカ!」
「……欠点ではないわ!これから生え揃うと申しておろうに」
時間差で自分にツッコむ小ちゃいおっちゃん
時には一緒に遊び 時にはいろんな言葉を教え 父ちゃんが仕事でなかなか家に帰って来ない 小太郎の父親代わりをしているようだった
「こんにちは!」
「あっ しょこねえたんきた!」
タタタタタ…
「おぉ 小太郎!」
「お!おいたんもきたな!」
「おぉ来たぞ!」
愛想を振りまく小太郎は みんなから愛されてすくすくと育った
「おいたん しげ(ひげ)いたい…」
少し伸びたひげ面でグリグリされる小太郎は これが嫌いだった
「あっ…朝剃り忘れた…」
「全く…小太郎ちゃんに嫌われるから剃りなって言ったでしょ」
この日は 小太郎一歳の誕生日
いつもお世話になっている隣のしょうこ姉ちゃん達を招いての誕生日パーティー
「ほ〜ら小太郎 これはおじちゃんからだ!」
「わぁ〜ありがちょ!おいたん」
「小太郎ちゃん これはおばちゃんからだよ」
「おばたん ありがちょ!」
「すいません」
「なぁに ほんの少しだ なぁ母ちゃん」
「そうだよ 小太郎ちゃんの笑顔には 元気をいっぱい貰ってるんだから」
おじちゃんとおばちゃんからプレゼントを貰い いつにも増して笑顔の小太郎
「小太郎くん…これ 私が幼稚園で作ったの…」
恥ずかしそうに出すしょうこ姉ちゃんが持っていたのは 紙と割り箸で作った 鯉のぼり
「おぉ!しゃかな(さかな)!」
「小太郎 これはな 鯉のぼり って言うんだぞ」
「こいのぼり?」
「そうだ 鯉のぼりだ」
「ふ〜〜ん こいのぼりかぁ…しょこねえたん ありがちょ!」
手作りのプレゼントを恥ずかしそうに出したしょうこ姉ちゃんは 小太郎の笑顔が嬉しかった
「しょうこちゃん ありがとね」
「うん 小太郎くん喜んでくれて嬉しい」
「ブゥ〜〜ン」
ちょっと遊び方が違うが…
おじちゃんとおばちゃんに貰ったプレゼントを 開けもせず 夢中になって鯉のぼりで遊ぶ小太郎
「そういえば 小太郎が産まれた時 棟梁が鯉のぼり買って来ただろ」
おじちゃんが言う通り 小太郎が産まれた次の日 じいちゃんは鯉のぼりと兜飾りを買って 病院へ持って来たのだった
「えぇ でも鯉のぼりはどうやって上げていいかわからなくて…兜飾りだけ出したんです」
「なんだ…それならそうと言ってくれれば 良し!俺が上げてやる」
おじちゃんが立とうとしたが
「来年お願いします」
母ちゃんは しょうこ姉ちゃんに貰った鯉のぼりで喜ぶ小太郎と それを見て嬉しそうにしているしょうこ姉ちゃんを見た
それに気づくおじちゃんは
「そうだな…小太郎 鯉のぼり嬉しいかぁ」
「うん!」
「そうか」
小太郎としょうこ姉ちゃんの頭を撫でた
「小太郎ちゃん美味いか?」
「うまい!」
誕生日ケーキを口いっぱいに頬張る小太郎
「本当に小太郎はなぁ…」
おじちゃんが急に涙を流す
「どうしたんだい こんなめでたい日に」
「いや…」
おじちゃんは 小太郎の父ちゃんの事を考えたのだ
小太郎の誕生日でも帰って来れない父ちゃん
それでも笑顔の小太郎がおじちゃんの心を打ったのだ
「よしなよ…小太郎ちゃんがこんなに笑顔なのに…」
おばちゃんもちょっともらい泣き
「良し!あれを出せ!小太郎ちょっと来い」
涙を思い切り袖口で拭い おじちゃんが小太郎を呼ぶ
口の周りをクリームだらけにした小太郎がやってくる
「なぁに おいたん」
「小太郎 これはな一升餅って言ってな これを担ぐと一緒食い物に困らないんだぞ」
小太郎に風呂敷で包んだ餅を襷掛けしてやる
「お…おいたんおもい…」
それもそのはず 一升の餅は約2キロの重さ
いろいろな地域で一歳の誕生日でやる習わし
一歳児には かなり重く感じるに違いない
まだ歩けない一歳児に背負わせ 後ろに転がらせたり 歩くようにはなっているが 重さによりバランスが崩れ 後ろに倒れる姿を見て 大人達が目を細るもの そういう習わしなのだが…
小太郎は違った
「お…おもい…」
10ヶ月から歩くようになった小太郎は 足腰が他の一歳児より強かったのだ
「ほら 小太郎こっちだ」
おじちゃんは 小太郎を転ばそうと少し離れた所から小太郎を呼ぶ
「お…おもい…」
「ほら ひっくり返るぞ…」
おばちゃんは小太郎の後ろについて ひっくり返った時のサポートに入っている
「お…おもい…」
ワクワクして見ている大人達の期待を裏切り 小太郎は一歩一歩おじちゃんに近づいて行く
「ほら 小太郎くんもうちょっと…」
しょうこ姉ちゃんは ハラハラしながら小太郎を応援している
「転べ…」
大人達は ひっくり返る小太郎が見たい
結果は…
しょうこ姉ちゃんの想いが勝った
「良〜〜し!よくやったぞ小太郎!」
転ぶ事を願っていたおじちゃんは 小太郎の頑張りが嬉しかった
「おいたん…いたい…」
顔をしかめる小太郎に 容赦なくおじちゃんの無精ひげが突き刺さった
「さすがじゃ小太郎殿 うむ!美味い」
小ちゃいおっちゃんは 小太郎が食い散らかしたケーキを頬張りながら 小太郎を見ていた
「ん?」
また誰かの視線を感じる小ちゃいおっちゃん
振り向くとそこには ケーキを食べながら 笑顔で小太郎を見ているしょうこ姉ちゃん
「おかしいのぉ…まぁ 良いか…うむ 美味い…これは何と言う食べ物なんじゃろう?」
「ケーキ…」
「ほぉ けーき とな!美味いのぉ…ん?」
また振り向く小ちゃいおっちゃん
そこには 無精ひげから逃げようと必死になっている小太郎を 笑顔で見ているしょうこ姉ちゃんがいるだけ…
「ん〜〜……」
じっとしょうこ姉ちゃんを見つめる小ちゃいおっちゃん
チラッとしょうこ姉ちゃんと目が合う
「ん?」
ニッコリと笑って目をそらすしょうこ姉ちゃん
「ん〜?見えておるのか?」
その問いかけには答えなかった