納め口上じゃ!(エピローグ)
「へぇ〜 お姉さん家の妖精はおっちゃんの妹だったんだ…」
「あちき 小町と申します」
「可愛いね」
「わしも驚いた…まさか小町が…」
「兄上がいつもお世話になってます」
「おっちゃんに似ないで礼儀正しいな」
「小太郎殿には言われたくないわ!」
小太郎は順調に回復に向かっていた
晶ちゃんは春休みの間 小太郎の看病をしたいと母ちゃんにお願いし 陽月姉ちゃんの所に泊まりながら毎日病院に通っていた
小ちゃいおっちゃんは たまに拓海の手伝いをしながら 小太郎の病室で寝泊まりを
「はい 太郎ちゃん!」
陽月姉ちゃんも小太郎を『太郎ちゃん』と呼ぶようになっていた
「今日は りんごを剥いて来たから食べて」
「りんご!」
小太郎の唯一嫌いな食べ物 りんご…
シャリ
「あぁ…」
シャリ
「小太郎殿 食わんのか?」
シャリ…
小太郎はこの 音 が嫌いなのだ
「おばちゃん!りんごはダメ〜!」
「お姉ちゃんでしょ!」
その日からしばらくりんごが続いた…
「しかし驚いたのぉ…」
「まだ言ってる…拓海お兄さんならおっちゃん達が見えるに決まってるでしょ」
「いや そうではない…父上殿の事じゃよ」
「太郎ちゃんの?」
「父ちゃんがどうかしたのか?」
小太郎の父ちゃんは 仕事に戻っていた
「あの時 即答したのじゃ…」
「それは 太郎ちゃんのお父さんが同じ血液型だったから…」
「それはそうじゃが…あの時 廊下におった者ので わしの声が聞こえるのは 晶殿とお姉さん殿としょうこ殿だけじゃった」
「あっ…」
小ちゃいおっちゃんが言う通り
「そんなの簡単だろ 父ちゃんもおっちゃんが見えてたんだ」
「それはない わしが叫んだ時 耳を押さえたのは晶殿 お姉さん殿 しょうこ殿だけじゃった」
看護師達が噂する 急に蛍光灯などが割れたラップ現象のことを言っているのだ
小太郎は身体が動かず 耳の治療も受ける事に…
「何も不思議な事じゃないでしょ」
「どう言う事じゃ?」
「太郎ちゃんのお父さんがそれだけ心配してたって事」
みんなが不思議そうな顔で陽月姉ちゃんを見る
「おっちゃんもまだまだだなぁ」
「お姉さん殿…降参じゃ 教えてはくれぬか」
「太郎ちゃんを心配して みんな集まったんだよ その中でもお父さんとお母さんはどれほど心配したか…どうすれば助かるか 元の太郎ちゃんに戻ってもらいたい そればかり考えてたんじゃないかなぁ」
小太郎達は黙って聞いている
「我が子を思う親の気持ちが お父さんに声を届けてくれたんじゃないかなぁって私は思うよ」
「そうじゃな…お姉さん殿の言う通りかもしれんのぉ」
「みんなで何難しい顔してんだ?」
「あっ!拓海あんちゃん!」
「小太郎くん 回診だぞ」
「俺もう元気だぞ…」
医者嫌いな小太郎
「まぁ おっちゃんのおかげで驚異的な回復で看護師もみんなびっくりしてるよ」
「ねぇ〜 ちょっと前まではオシッコにも行けなかったのに」
「姉ちゃん…それは言うなよ…」
「えっ?」
小太郎が自然と姉ちゃんと言ったのを聞き逃さなかった
「あっ!おばちゃん…」
言い直す小太郎
「もういいんじゃない?意地はらなくて あのね太郎ちゃんはお姉さんが居ない時は…」
「あ〜〜晶ちゃん!」
「姉ちゃんって言ってるんだよ」
小太郎が恥ずかしそうにしてるのを見て
「太郎ちゃんもう一度言ってみ」
「おばちゃん…」
「えっ?聞こえないなぁ」
「おばちゃん!」
「りんご剥いて来ようかなぁ」
「姉ちゃん…」
「えっ?」
「姉ちゃん!」
「あまり揶揄うなよ 小太郎くん顔真っ赤だぞ」
「だって 面白いんだもん」
小太郎が生還してみんなに笑顔が戻った
「俺 思うんだけどさ…小太郎くんのお父さんもそうだけど おっちゃんの気持ちの強さもそうさせたんじゃないかなぁ…俺の車で小太郎くんを運んだ時 おっちゃんはずっと小太郎くんを治療していたよな…あれがなかったら…後は紅さんの存在…俺だけでは手のつけようがなかったかもしれない…そして 小太郎くんのお父さん お母さん しょうこちゃん達の願い 晶ちゃんの なんとかして小太郎くんを助けたいという強い気持ち そのみんなの強い願いが…目標が一つになったから小太郎くんは今ここにいるんじゃないかなぁ」
小太郎は何も言わず黙って拓海の話を聞いている
「あの場に 誰か一人が居なかったら…この奇跡は起こらなかったかもしれないか…」
「お姉さん殿 奇跡ではない」
スゥ〜〜〜〜〜〜
「あぁ わかった!愛ね愛 だから騒がないで!」
フゥ〜〜〜〜〜〜
「なんじゃ…わしの見せ場を…」
「おっちゃんの見せ場で病院が壊れたら洒落にならないでしょ」
「その小さな体で どこからあんな声が出るんだか…」
「拓海殿 教えようか?」
「いや いい…」
「………」
小太郎は驚異的な回復をみせて 今日が退院日
「拓海くん いろいろお世話になりました」
「俺は何もしてないですよ 強いて言うならみんなの想いが通じた…小太郎くんは みんなに愛されてるんですよ そうだろ?」
拓海が小ちゃいおっちゃんを見る
小ちゃいおっちゃんは 何も言わず笑顔で 親指を突き出した
「まぁ ふふふ」
「ん?」
小ちゃいおっちゃんが母ちゃんを見る
目を逸らす母ちゃん
ピョ〜ン!ピョ〜ン!ピョ〜ン!
「おっちゃん何やってんだ?」
小ちゃいおっちゃんは小太郎や晶ちゃん 陽月姉ちゃんを行ったり来たり
それを目で追う母ちゃん
小ちゃいおっちゃんは見逃さなかった
「見えておるな…」
「何言ってんだ?」
「母上殿…見えておるじゃろ…」
薄い頭で流し目をする小ちゃいおっちゃんは 誰の目にも滑稽でしかなかった
「あははは!なんだおっちゃんその顔」
「ぷっ…全く ちゃびんは…」
ジワ……
小ちゃいおっちゃんの目に涙が溢れる
「久しぶりに聞いたのぉ…」
「ちゃびんが急に姿を消したんでしょ…」
小太郎の家は 元々じいちゃんが建てた家
そこで育った母ちゃんは 小さい時小ちゃいおっちゃんと出会っていたのだ
「まさか…先生 見えるんですか?」
「間違いなく見えておる わしを ちゃびん と呼ぶのは…」
「見えてますよ 私は小太郎の母親 そのまま母上殿でいいです」
名前を明かさない母ちゃん
「ちゃびん 小太郎の事ありがとうございました」
小ちゃいおっちゃんに頭を下げる母ちゃん
「わしは何もやっておらん」
「いいえ 小太郎が小さい時から ちゃびんは小太郎の面倒を見てくれていた事わかっています とても助かりましたよ」
はにかむ笑顔を見せる小ちゃいおっちゃん
「なぁ母ちゃん なんでちゃびんなんだ?」
「わしも知らぬ…何故なんじゃ?」
「確か昔…私が小さい時 再放送で観た事ある…ハゲちゃびんってアニメ…」
陽月姉ちゃんが再放送で観たアニメは 母ちゃんが小さい時リアルタイムで放送されていたもの
「母上殿…そうなのか?」
目を逸らす母ちゃん
「し…しどい…」
「あははは 母ちゃんセンスあるな!」
春の陽気に散り始めた桜が舞い 小太郎達を祝福していた
エピローグ…
「どうじゃった?わしの活躍を観てくれたか?」
「またおっちゃんが変な事言ってるぞ…」
「どこが変なのじゃ!わしが主役だと申しておろう!」
「おっちゃんは途中しばらく出て来なかったでしょ?この物語の主人公は太郎ちゃんなの」
「晶ちゃんもだぞ!この物語は俺と晶ちゃんが主人公なんだぞ!そして時々おっちゃん それでいいだろ」
「わしは友情出演か…サブタイトルは間違いなくわしの台詞なのに…」
「んじゃ〆は晶ちゃんよろしく」
「もう…太郎ちゃんは…しょうがないなぁ…みなさん『小太郎と晶ちゃんと妖精と〜わしが愛を叫ぶ〜』どうでしたか?太郎ちゃんと私は いつまでも妖精が見えるように頑張ります!太郎ちゃん こんなんでいいかなぁ?」
「さすが晶ちゃん!」
「晶殿 一つ忘れておるぞ!」
スゥ〜〜〜〜〜〜〜〜………
「やばい!みんな耳を塞いで!」
「またのぉ」
ガクッ…