小太郎殿ふおえばぁ…
今日 小太郎達は母ちゃんの友達のところへ遊びに行く為 電車に乗っていた
「しょうこ姉ちゃん 中学校はどうだ?」
「小太郎くん まだ入学してないよ」
「太郎ちゃん まだ春休みでしょ」
「あっ…そっか…」
春休みを利用して 晶ちゃんとしょうこ姉ちゃんも一緒
そして…
「小太郎殿はマヌケじゃのぉ」
「太郎ちゃんらしくていいじゃありませんか」
小ちゃいおっちゃんファミリーも
「おっちゃんにだけは マヌケって言われたくないぞ!」
「あははは 確かに!」
「確かにって晶殿…」
「ふふふ」
しょうこ姉ちゃんが笑った
「なぁ しょうこ姉ちゃんもそう思うだろ!」
「どうなんだろう」
晶ちゃんと小ちゃいおっちゃん達は 不思議そうな顔でしょうこ姉ちゃんを見ている
「ん?晶ちゃんどうしたんだ?」
小ちゃいおっちゃんは小太郎の肩に乗り 向かい側に座ってるしょうこ姉ちゃんに お辞儀をする
眩しそうな顔をするしょうこ姉ちゃん
「しょうこお姉さん…見えるの?」
「晶ちゃん何言ってんだ?」
小太郎はまだ気付いていない
「しょうこさん 見えるんですね?」
小さく頷くしょうこ姉ちゃん
「静おばちゃん 何がだ?」
まだ気付かない
「太郎ちゃん しょうこお姉さんにも見えてるんだよ」
「ん?あ!あぁぁ!」
やっと気付いたか?
「駅弁買ってもらうの忘れた!」
………
「小太郎 お弁当なら買ってありますよ」
後ろの席に座っている母ちゃんから駅弁をもらい包み紙を開け…
「ああぁぁ!しょうこ姉ちゃんも見えるのか!」
かなりな時間差…
「ずっと見えてたんだけど…それを言うと お父さんとお母さんに笑われて…そのうち 見て見ぬ振りをするようにしてたの」
「そうじゃったか…」
「小太郎くんが小さい時 ずっと一緒に居たよね」
「それじゃったか…小太郎殿としょうこ殿が遊んでおる時の視線は…」
よく小太郎としょうこ姉ちゃんが遊んでいる時 小ちゃいおっちゃんは 常に誰かの視線を感じていたのだ
「しょうこお姉さんすごぉい」
「ほんにすごい事ですよ しょうこさん今おいくつ?」
「十二…そんなにすごい事なの?」
「しょうこ殿 すごい事じゃぞ わしらは清い心 ピュアな者にしか見えんのじゃ 十と二になって わしらが見えるとは…」
「小太郎 次降りますよ」
電車がホームに入る
プシュ…
「先生!」
待っていたのは 陽月姉ちゃん
「小太郎ちゃん!小太郎ちゃんだね!」
「おばちゃん…俺の事知ってんのか?」
「お姉ちゃんね!知ってるよ まだ小さかったから覚えてないか…」
小太郎が小さい頃 母ちゃんに連れられて来た あの場所
「陽月ちゃん お世話になります」
「私達まで押し掛けちゃって」
晶ちゃんの母ちゃんも一緒に来たのだ
「全然!えぇと…晶ちゃんだよね」
「えっ?私の事も知ってるの?」
「そして しょうこちゃん」
「はい…」
「小太郎ちゃんのお母さんから聞いてるよ」
電話で話している時に必ず出て来るキーワード
「わぁ〜〜綺麗〜〜」
陽月姉ちゃんは 小太郎が一歳の頃に来た 桜の名所に連れて来た
「素敵ねぇ…」
「唯一自慢出来る所です」
陽月姉ちゃんは謙遜するように言う
「そんな事ないでしょう ここは温泉も有名だし冬はスキー 秋は紅葉に芋煮 私は好きですよ」
陽月姉ちゃんは 母ちゃんの言葉が嬉しかった
「おばちゃん あれなんだ?」
「お姉ちゃんね!どれどれ…あれはねここのお城を作った 最上義光公だよ」
「おぉ!最上殿とな!」
「おっちゃん知ってる人か?」
「知っておるぞ ならばわしはここに一度来ておる」
小太郎と小ちゃいおっちゃんが話してるのを 黙って見ている陽月姉ちゃん
クイクイ…
晶ちゃんが陽月姉ちゃんの服を引っ張る
「ん?どうしたの?」
「見えるの?」
「えっ?」
「太郎ちゃんの肩に居る 光…」
あえて おっちゃんと言わない晶ちゃん
「ふふふ」
「眩しいでしょ」
晶ちゃんがとどめを刺す
「あははは」
「ん?どうしたんだ?」
「へぇ〜 小太郎ちゃんや晶ちゃん達も見えるんだぁ」
陽月姉ちゃんも小ちゃいおっちゃん達が見えていたのだ
「しかし…驚いたのぉ…まさか身近にこれほど居るとは」
「おばちゃんは小さい時から見えてたのか?」
「お姉さんね そう小さい時から見えてたの それが当たり前だと思ってたんだけど 周りの人には見えてないみたいで お父さんやお母さんに言っても 『何馬鹿な事言ってるの』って言われてね…それからは誰にも言わず…」
「私も同じ…小太郎くんと遊んでる時 おっちゃんが居るのに気付いてたんだけど…お父さんもお母さんも笑って本気にしてくれなくて…」
見えない人にはそうなるのかもしれない…
「おばちゃん家にはどんな妖精が居るんだ?」
「お姉さんね 私ん家のは可愛い女の子だよ えっと…」
陽月姉ちゃんが小丸を見る
「僕は小丸です」
「小丸ちゃんにちょっと似てるかも」
「うわぁ 小丸ちゃんに似てるんだぁ」
「ほぉ…小丸に似ておるとな ならばわしにも似ておるんじゃな」
「似てない!」
「……」
きっぱり否定された…
「小太郎ちゃん お面と綿アメはいらないの?」
陽月姉ちゃんは昔を思い出し 小太郎に言った
「おばちゃん…俺何歳だと思ってんだ?もう大人だぞ」
大人ぶる小太郎
「太郎ちゃん この前の春祭りで綿アメ食べてたよね?」
晶ちゃんにバラされる
「晶ちゃん シーーーー」
「あははは」
満開の桜の木の下で みんな笑顔
「先生〜〜!」
大声で駆けてくる一人の男性
「誰だ?」
「私の弟の 拓海 だよ」
「拓海くん…?拓海くん!大きくなったわねぇ」
「やめてよ〜 俺ももう二十七ですよ」
「そうですかぁ 立派になって」
拓海を見上げる母ちゃん
「おっ 君が小太郎くんだね」
「そうだぞ!あんちゃん 母ちゃんの事知ってるのか?」
「知ってるも何も 俺は小太郎くんの母ちゃんの最初の生徒なんだぞ」
「最初の生徒って…私が 教育実習生の時の生徒ですよ」
「えっ?奥さん 教師だったんですか?」
ここで初めて 晶ちゃんの母ちゃんが知る事になった
「昔ですよ ところで拓海くん 今日お仕事は?」
小太郎達は春休みだが 今日は平日
「先生 医者は年中無休…って言ってもこうして休んでるけど 救急病院の医者は休みの日に仕事する代わりに平日休みにもなるんですよ 今日は午後からは休みです」
「えぇ!拓海さんって病院のお医者さんなの!」
晶ちゃんの母ちゃんは驚きっぱなし
「まぁ 病院って言っても親父の病院なんだけど…」
「えぇ!陽月ちゃんのお父さんって…」
もう書くまでもないか…
ニャ〜…
「うわぁ!」
飛び上がる小太郎
「うわぁ!」
同じ 『うわぁ』 でも晶ちゃんのは
「可愛い!」
「あら子猫 可愛いね」
女性陣は子猫に夢中
「なんじゃ小太郎殿 猫が苦手なのか?」
小太郎は小さい時 猫にひっかかれ 猫が苦手だった
「じゃが 前に飼っておったろうに 確か ニャンコ先生 じゃったかのぉ」
「ニャンコ先生に慣れるのも時間かかったぞ…」
晶ちゃんは猫が大好き
陽月姉ちゃんとしょうこ姉ちゃんは桜を見ながら談笑している
母ちゃん達もまた 拓海とベンチに腰掛け話しをしていた
「おまえは何て名前なの?」
猫と戯れる晶ちゃんを遠巻きに見てる小太郎
「なんじゃ 小太郎殿は一緒に遊ばんのか?」
小ちゃいおっちゃんが小太郎を揶揄う
「あっ!」
ガバッ!
小太郎が急に立ち上がった
晶ちゃんの腕から子猫が飛び降り 車道へ飛び出したのだ
それはほんの一瞬の出来事
みんなが音のする方向を見た時 小太郎は宙を舞っていた
「小太郎〜〜〜〜〜〜〜〜!」
腕から逃げた子猫が車道に飛び出したのを 助けようと晶ちゃんも車道へ
車が走って来ている事に気付いた小太郎は晶ちゃんを
助けようと…
晶ちゃんに体当たりをした後…
「痛ったぁ…おまえ大丈夫?」
晶ちゃんはまだ何が起きたかわかっていない
母ちゃんが小太郎に駆け寄る
「晶ちゃん!見ちゃダメ!」
陽月姉ちゃんが叫ぶが…
「えっ…太郎…ちゃん…い〜や〜〜〜〜〜〜」
道路一面に流れる…
「俺だ!緊急オペの準備を急いで!」
拓海が病院に電話をし
「救急車より俺の車で運ぶ!姉ちゃんあまり動かさないように後ろのシートへ!早く!」
「私が運びます!奥さんは晶ちゃんについて居てあげてください」
気丈に振る舞う母ちゃんにみんな驚いたが
「先生 あまり動かさないようにそうっと」
バタン!
「先生…必ず助けるから…」
拓海は 気休めにしかならないが そうしか言えなかった
「お願い…します…」
気丈に振る舞っていた 先生が泣いている…
拓海は病院へと車を飛ばす
「拓海先生!」
病院に着くと 電話を受けた看護師が救急入り口で待っていた
「危険な状態だ…すぐオペに入る」
拓海は 母ちゃんに聞こえないように看護師に言った
「うわぁ〜〜ん」
泣き噦る晶ちゃん
何かに取り憑かれたように…
「晶!」
バチン!
晶ちゃんの母ちゃんが 晶ちゃんを叩いた
「泣いて小太郎くんが治るんですか!しっかりしなさい!小太郎くんの所に行きますよ」
小さく頷く晶ちゃん
「小太郎殿…こんなところで逝ってはならん!」
小ちゃいおっちゃんは小太郎について来ていたのだ
「どうすればいいのじゃ…血が止まらん…わしにもう少し力があれば…いかん…弱音を吐いては…必ず助けてやるぞ小太郎殿」
「血は俺が止める おっちゃんは心臓マッサージをしてくれ 心臓の位置 わかるな?」
「わかり申した…ん?」
ピピッ…ピピッ…
「血圧低下!輸血を急いで!」
「はい!」
拓海は 若先生ながら 的確な指示 的確な処置だった
しかし それでも難易度は高かった
小太郎の事故から二時間が経とうとしている
「小太郎…」
祈るように手術室の前に座っている母ちゃん
「太郎ちゃん…」
晶ちゃんも…
「大丈夫ですよ晶ちゃん 太郎ちゃんなら大丈夫」
静おばちゃんが晶ちゃんを安心させようとずっと付き添っている
「小太郎〜〜〜〜!」
そこへ しょうこ姉ちゃんから連絡をもらったおじちゃんとおばちゃんがやって来た
「奥さん…小太郎ちゃんは?」
黙って首を振る母ちゃん
「そんな…」
「小太郎〜…おじちゃんが来たからもう大丈夫だ…そんなとこに居ないで…笑顔で出て来い…」
無茶苦茶な事を言うおじちゃんにツッコむ人は居なかった
みんなが同じ気持ちだったのだ
「先生!血圧上がりません!」
「上がりませんじゃなく 上げろ!ちくしょう…止血が…血が止まらない…」
「拓海殿!弱音を吐くでない!」
「だよな…小太郎くん必ず助けるからな…」
ピィ〜ヒョロロ〜
「静様〜〜!」
「ふぅ…やっと来ましたか…」
話しを数時間戻そう
「静殿!わしは小太郎殿について行く!紅を呼ぶのじゃ!いや 紅を連れてくるよう サスケに連絡をするのじゃ!良いか 一刻の猶予もないと申すのじゃぞ!」
「静様 遅くなりました」
「太郎ちゃんは?」
「まだ 闘っています 紅…お願いしますよ」
紅は 医療の能力を持つ妖精
「わかりました あの時のような事は二度とごめんです」
「頼みましたよ」
「御意!」
紅が手術室のドアの隙間から入って行く
「若 遅くなりました」
「おぉ 紅来てくれたか!」
「はっ!これはひどい…」
紅は小太郎を見て愕然とする
「紅…なんとしてでも小太郎殿を救うのじゃ!」
「…もちろんです 若!とりあえず心臓マッサージは後回しで!」
「何故じゃ?」
「心臓は体の中で血液のポンプの役割 マッサージすれば この止血が出来ていない状態では流れ出るだけです」
あくまで 紅の独学
妖精の能力ゆえの医学
「しかし…」
「えっ!」
紅が拓海に気付く
「紅 驚くのは後じゃ 今は小太郎殿に集中じゃ」
「そうですね…私が止血をします 止血が終わったらマッサージをお願いします」
ブォ〜〜〜〜ン
紅は出血しているところを手際よく止血していく
「えっ?出血がどんどん止まって行く…」
看護師達には魔法のように見えたに違いない
「あの時の私とは違うんだから…太郎ちゃん…必ず助けるからね…」
「紅…」
「若 そろそろ出番ですよ」
「すげぇ…」
拓海も驚いて見ていた
「先生!どんどん血圧低下!どうしても上がりません…」
「若!」
「良いのじゃな!」
ブォ〜〜〜〜〜〜ン
「上がりました!」
「良し!紅 ようやった!」
「……若 ダメです」
「先生!また低下しました!」
「どこだ!後どこが…」
「若 この方は私達が見えてますよね?」
「見えておる!紅や 直接話し掛けるのじゃ!」
「お医者様!私が診たところ 上大静脈から出血があるかと…」
「上大静脈から?君 ちょっと写真!」
「失礼します」
ピョ〜〜ン
紅が拓海の肩に乗り レントゲンを一緒に見る
「ここが上大静脈だろ…」
「ここです!この 絵 だと見落としてしまうかもしれませんねぇ 微かに出血が見られます」
「何!こんなところから…」
拓海は紅を信じた
しかし そこはとても危険な場所
「どうすればいいんだ…」
「………」
紅は昔を思い出していた
「紅姉ちゃん 毎日ありがとう」
「なぁ紅姉ちゃん おっちゃんってハゲてるだろ…」
「ほら!みんなおにぎり持って来たから食え!」
「紅お姉さん…ありがとう…太郎ちゃん…見えたって…」
「私が治して来ます!」
「治して来ます?」
「紅お主…」
紅が躊躇なく小太郎の口内に飛び込んだ
「ん?ここどこだ?あっ!じいちゃん!じいちゃ〜〜ん!」
「おぉ 小太郎!大きくなったなぁ」
「じいちゃん…隣に居るのばあちゃんか?」
「小太郎ですね…ばあちゃんですよ」
「やっぱりばあちゃんだ 俺会いたかったんだ」
小太郎はじいちゃんとばあちゃんに会っていた
「小太郎 どうしたんだ?こんな所で」
「こんなところ?」
小太郎が周りを見渡す
見慣れない風景
「ん〜〜 わかんない でもじいちゃんとばあちゃんに会えたからいいや」
「ダメです!ここは死んだ者が来るところ 小太郎帰りなさい」
「どうやって?」
「まだそっちに居るって事は 誰かが今助けようと頑張っているんです 小太郎は誰が好きなんだい?」
「じいちゃん!」
思わず抱きしめようとするじいちゃん
「ジジィ!触ってはダメ!小太郎が帰れなくなるでしょ」
「お…おぉ そうだな…しかしジジィって言わなくても…」
小太郎も驚いている
「母ちゃんの母ちゃん怖ぇ…」
「小太郎 おまえは母ちゃんが好きかい?」
今度は優しく小太郎に尋ねるばあちゃん
「好きだぞ!晶ちゃんも…しょうこ姉ちゃんも…おっちゃんも…みんな大好きだ」
「なら 声が聞こえるはずです その声がする方に行きなさい そうすれば帰れますよ」
「声がする方?あれ?じいちゃん!ばあちゃん!」
じいちゃんとばあちゃんは消えた
「声がする方か…」
「紅…時間がない…早ようするのじゃ」
紅が小太郎の体内に入ってから二時間が経とうとしていた
「小太郎…」
手術室前では母ちゃん達が祈るような想いで小太郎の生還を待っている
そこへ
「小太郎は…?」
「あなた…」
小太郎の父ちゃんが駆けつけた
「すまん…遅くなった」
母ちゃんが 父ちゃんの会社に電話をし 会社から連絡をもらった父ちゃんは 寄港していたところから飛行機で駆けつけたのだ
小太郎が手術室に入ってから かれこれ八時間が経過していた
「先生!心拍数も低下…輸血も間に合いません」
「くそぉ…」
「血があれば良いのか?わしの血を使ってくれ!」
輸血を申し入れる小ちゃいおっちゃんだが…
「気持ちだけありがたくもらっておくよ おっちゃん優しいんだな」
「拓海殿 どのような血じゃ?なんでも良いのか?」
「A型RH−…極めて珍しい型なんだ…」
「えぇ型のあるえっちまいなすの血じゃな あいわかった!」
極めて珍しい は小ちゃいおっちゃんの耳には届かない
小ちゃいおっちゃんは手術室の外へ
「誰か!えぇ型のあるえっちまいなすの血は居らぬか!」
あらん限りの声で叫んだ
「俺の血液型もA型RH−だ!」
「おぉ 小太郎殿の父上殿!来ておったのか 拓海殿!えぇ型の血がおったぞ!」
親子の遺伝子が奇跡を呼んだ
「小太郎…先生!俺はどうなってもいい…小太郎を…倅を助けてください」
ベッドに横たわる息子に涙を流す父ちゃん
「小太郎くんは必ず助けます 君!輸血の準備を!」
「はい!」
隣のベッドから小太郎を見る父ちゃん
「声のする方か…何も聞こえないぞ…」
小太郎は彷徨っていた
「おっ!珍しいチョウ見っけ!」
蝶々を追いかける…
手術室に入って既に十時間…
紅が小太郎の体内から出て来た
「若 止血に成功しました!」
「おぉ 紅でかした!」
しかし 小太郎の意識は戻らない
「拓海殿…」
「後は小太郎くん次第か…」
「小太郎殿…還ってくるのじゃ…もう一度笑顔を見せておくれ…」
手術室から出る拓海
「拓海!小太郎ちゃんは?」
「最善の手は尽くした…でも…意識が戻らないんだ…」
「意識が戻らない…このまま植物人間になるのか?」
誰も聞けない事をおじちゃんが聞いた
拓海は黙って下を向く
「拓海くん…小太郎の命…繋ぎ止めてくれて…ありがとうございました」
植物人間でもいい 小太郎がこの世に居てくれるなら
そう母ちゃんは言ったのだ
その言葉に 全員涙する
一人 晶ちゃんを除いては
「拓海お兄さん 太郎ちゃんと話ししてもいい?」
「晶…小太郎くんは…」
晶ちゃんの母ちゃんを止める父ちゃん
「晶ちゃん 小太郎と話してやってくれるか?」
小さく頷き 拓海を見る
拓海は迷った
小太郎の今の姿を見て 晶ちゃんがどうなるか…
「拓海殿…晶殿に任せてみてはどうじゃ」
「わかった…晶ちゃんおいで」
まだ手術台に乗せられている小太郎
「太郎ちゃん…」
小太郎は身体中包帯を巻かれている
心拍音が悲しいリズムを刻んでいた
小太郎の手を握る晶ちゃんに涙はない
「太郎ちゃん…ごめんね…私のせいでこんな事になって…私…いつも太郎ちゃんに助けてもらってばっかりで…私が泣くと…太郎ちゃんはいつも 泣くな…笑えって言うから…私は泣かないよ…太郎ちゃんに心配かけたくないから…」
晶ちゃんの目から大粒の涙が溢れ出す
「晶殿…」
晶ちゃんの言葉にみんなが涙…
その時だった
「太郎ちゃん還って来て…うっ…うぅ…わぁ〜〜〜〜〜〜〜〜」
晶ちゃんは我慢してたものが爆発したのだった
「太郎ちゃんごめんね〜〜!!!」
小太郎の手を握り号泣する晶ちゃんを 引き離そうとする晶ちゃんの母ちゃん
「晶…小太郎くんは…」
ギュ……
握っていた手に微かな反応を感じた晶ちゃん
「えっ……」
「晶…ちゃん…」
その声は みんながいつも聞いてる声
「太郎…ちゃん?」
「晶ちゃん…何泣いてんだ?…誰かに泣かされたのか?」
奇跡が起きた…
「ん?なんだ?みんな泣いてんのか?何かあったのか?おぉ 父ちゃん…おじちゃんとおばちゃんも…痛て…なんだこれ?」
「小太郎…母ちゃんがわかるかい?」
「何言ってんだ?母ちゃんを忘れるわけないぞ」
「小太郎〜〜!」
愛息子を抱きしめる母ちゃん
「いっっっっっっってぇぇぇぇぇぇぇ!」
それでも離さない母ちゃん
「母ちゃん!痛ぇぇぇぇ」
「小太郎ちゃん…みんなに心配かけた罰だよ…」
みんなが小太郎に抱きついた
「ちょ…痛いって!」
「き…奇跡だ…」
「拓海殿 これは奇跡ではない」
スゥ〜〜〜〜〜〜〜〜
「これが本当の 愛 じゃあぁぁぁぁぁ!」
小ちゃいおっちゃんが叫んだ
パリン!パリパリパリン!
病院の窓ガラス 蛍光灯 花瓶…が割れた…
「拓海殿…すまぬ…」
「はぁ…これがおっちゃんの 愛 か…」