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大好きなお姉ちゃん

「はぁ〜い!今日は 六年生を送る会 で何をやるかを決めます!小太郎くん 前に来て下さい」

「えっ?俺 手挙げてないぞ?」

「小太郎くん…委員長でしょ…」

そう 小太郎は学級委員長という大役を無理矢理やらされていた

「そうだぞ!」

「だから みんなの意見を聞いて何やるか決めて下さい」

「めんどくせぇなぁ…ブツブツ…」

「はぁ…(あきら)ちゃん 悪いけど…小太郎くんの手伝いしてもらえる?」

「は〜い」

小太郎の操縦に慣れて来た先生

「おぉ!晶ちゃんもか!俺 やるぞ!」

(すごい才能はあるんだけどなぁ…)

「っで!何をやるんだ?」

「太郎ちゃん 六年生を送る会で 何をするかみんなに聞いて決めるんだよ」

「よし!かくれんぼがいいと思う人!」

それは 楽しそうだな…会場からみんな消えるぞ!


結局 先生が 一年生らしく 劇 ということにした

劇 桃太郎


配役

桃太郎 小太郎

キジ 晶ちゃん

犬 猿 おじいさん おばあさん 鬼 その他大勢


「母ちゃん!俺 桃太郎やるんだ!」

小太郎の会話には 主語がない

「あぁ もうそんな時期なんだねぇ」

しかし 母ちゃんには分かる

「晶ちゃんが キジなんだぞ!」

「猿は?」

「…」

「犬は?」

「…」

それ以外に興味がない小太郎

「しょうこちゃんも卒業か…」

「母ちゃん 卒業ってなんだ?」


小太郎達は放課後 毎日練習をした

「桃から生まれた 小太郎だ!」

「小太郎くん!桃太郎でしょ?」

「あっ!そうか…」

かれこれ十分以上 ここから 進んでいない…


「先生 あの子が 例の 小太郎くんかね?」

「あっ!校長先生…そうです!あれが 例の 小太郎くんです」

「なかなか 面白い子だねぇ」

「たまに 見るなら…」

先生の言うとおり 毎日これならたまったもんじゃないだろう


「晶ちゃん なかなか出て来ないね」

「太郎ちゃんのところで いつも時間になっちゃうからね…」

小太郎…晶ちゃん ちょっと怒ってるぞ


「先生のところの 桃太郎… あれ 型にはまらないでやってみてはどうかね」

「と 申しますと?」

「在り来たりな 桃太郎は児童全員が内容を知っているだろう だから みんなの思い通りにやらせれば面白いんじゃないかな?と思ってね」

「はあ…」

先生の脳裏には小太郎の顔が…


「母ちゃん!劇 変わったぞ!」

「桃太郎じゃないの?」

「桃太郎みたいの!」

「?」


「小太郎くん 昨日と変わってますよ!」

「だって 好きにやれって!」

(だよなぁ…こうなるよなぁ…)

先生の予感的中…


明日が本番…


「晶ちゃん やっと出番来たね」

「おかげさまで…」

「明日 頑張ろうね」

明日の事を考えると不安な晶ちゃん…


「母ちゃんも今日来るのか?」

「小太郎の晴れ舞台 観に行きますよ」

「おぉ!そうか!」


本番当日

今日は父兄の人達も招待しての発表会のようなものなのだ

「続きまして 一年生による 劇 桃太郎のような話です」

小太郎達の劇 桃太郎のような話 が始まった

「おばあさんが川で洗濯をしていると 川上から大きな桃が…」

ナレーターは先生

大きな桃の絵に隠れた小太郎が現れる

絵からたまに覗き込む小太郎…

観客席に母ちゃんを見つける

「母ちゃ〜ん!」

我慢出来ず 桃から身を乗り出し母ちゃんに手を振る

会場は大爆笑


「あははは しょうこ あれってしょうこん家の隣の子だよね」

「そうだよ 小太郎くん可愛いでしょ」

「もう最高!」

送られる側の六年生達は 次に何をやるのか目を離さないで小太郎達の劇を観ていた


「その大きな桃をおばあさんが川から持ち上げる」

おばあさん役の子が大きな桃を持ち上げようとした時小太郎も一緒に持ち上げる

またまた大爆笑

何かに気づいたのか桃に隠れる小太郎

「おばあさんはおじいさんが帰って来ると その大きな桃を切りました」

桃が半分になり 小太郎 再登場!

「桃から生まれた 小太郎だ!」

頭を抱える先生…

またまた会場は大爆笑

「じっちゃん!ばっちゃん!俺が鬼を退治して来てやるぞ!」

舞台では 小太郎が大きな声で演技をしている

「おばあさんは小太郎…桃太郎にきびだんごをこさえて持たせました」

先生…痛恨のミス…会場の笑いを取る

「桃太郎が鬼ヶ島へ向かっていると犬が寄って来て」

「桃太郎さん 桃太郎さんお腰につけたきびだんご 一つ私にくださいな」

「ヤダ!」

「小太郎くん!」

舞台裾から先生の声…

「しょうがねぇなぁ…」

「…」

「また しばらく歩くと今度は猿が」

「小太郎くん…あっ!桃太郎さん 桃太郎さんお腰につけたきびだんご一つ私にくださいな」

「しょうがねぇなぁ…」

「…」

「そして 今度はキジが…」

「待ってました!晶ちゃん!」

主役がお囃子をする…

もはや…小太郎の一人舞台…

「桃太郎さん 桃太郎さん…」

「太郎ちゃんでいいぞ!晶ちゃん!」

「太郎ちゃん…」

「ごめん!」

小さい声で注意する晶ちゃん…大きい声で謝る小太郎…

「桃太郎は三匹の家来を…」

「何言ってんだ?みんな 仲間だぞ!」

「…桃太郎と三匹の仲間は 鬼ヶ島を目指しました」


「鬼ヶ島に着くと 怖い鬼達が大勢 桃太郎と三匹に攻撃してきました」

「やるか!」

小太郎の迫力に押される 鬼達…

「もう悪い事しないか!?」

何もせず 何もされず 頷く鬼達…

「よし!なら みんな仲間だ!みんな!出て来い!」

小太郎の号令でみんなが出てくる

舞台に横一列に並ぶ桃太郎達

「んじゃ いいか!?せぇ〜の!」

「六年生の お兄さん お姉さん ありがとうございました!」

先生も知らなかった事だった…

これは 晶ちゃん の提案だった

晶ちゃんが小太郎に言って 小太郎がクラスをまとめたのだった


父兄 先生 全校生

総立ちで暖かい拍手が止まらなかった


ただ一人…

先生だけが 疲れきっていた…


「先生 大盛況でしたね!」

校長先生が言う

「ほとんど覚えてません…」

先生ご苦労様でした…


それから数日後

梅の花も散り いよいよ桜の季節


小太郎が幼稚園の頃に少し話を戻す

「小太郎くん」

「あっ!しょうこ姉ちゃん!」

小太郎を小さい時から 可愛がってくれたしょうこ姉ちゃん

「小太郎くん また喧嘩しちゃったな」

「俺 悪くないぞ!」

「そっか…でもあまり喧嘩は良くないぞ」

「うん…わかった…」

小太郎はしょうこ姉ちゃんの前では 素直になってしまう

小太郎は 兄弟がいない

しょうこ姉ちゃんを本当の姉ちゃんみたいに思い 大好きだった

しょうこ姉ちゃんも そんな小太郎をとても可愛がった


「小太郎くん おはよ」

「おっ!しょうこ姉ちゃん!おはよ!」

「ん?小太郎くん今日も彼女と仲いいねぇ」

弟をからかうお姉ちゃん

「しょうこ姉ちゃん…晶ちゃんだよ…」

「晶ちゃん おはよ」

「おはようございます」

「晶ちゃん 小太郎くんをよろしくね」

「うん」

初めて晶ちゃんに会った時の会話


「小太郎く〜ん 晶ちゃ〜ん 一緒に帰ろ」

六年生も今日は お昼過ぎで授業は終わり

しょうこ姉ちゃんと一緒に帰るのは初めてだった

「しょうこ姉ちゃん もう少しで卒業だね」

「うん 後ちょっとでお別れだね」

「お別れとか言うなよ…」

「そうだね お家近所だしね」

「そうだよ…」

いつもより 元気がなくなる小太郎

それに気づく晶ちゃん


「こんにちは」

「あっ!しょうこ姉ちゃん来た」

「しょうこちゃん いらっしゃい あがって!」

「お邪魔します」

「小太郎くん これあげるね」

「なんだこれ?」

「私 もう使わないから」

袋の中には えんぴつ と国語辞書が入っていた


「中学に行ったら 新しい辞書買うし シャーペンに変えようと思ってね」

「しょうこちゃんも もう中学生か」

「母ちゃん 俺 後何年で中学なんだ?」

「小太郎は後五年ですよ」

「んじゃ 後五年すれば また しょうこ姉ちゃんと一緒に同じ学校になるんだな」

「小太郎 しょうこちゃんとは 同じ学校にはなれないんだよ」

「えぇ!なんで?」

「小太郎が卒業する時には もう しょうこちゃんは高校生なの」

「えぇ〜!そんなのヤダなぁ…」

「小太郎くん いつでも会いに来てくれれば お姉ちゃんはお家にいるから」

「うん!」


卒業式当日

「晶ちゃん おはよ!」

「太郎ちゃん おはよ」


「今日は 六年生のお兄さんお姉さん達と最後です 卒業式は静かにするんですよ」

「は〜い」

小太郎はちょっと悲しんでいた…

体育館に 小太郎達 在校生が最初に入り 席について卒業生を待つ


卒業生の父兄達も会場に入っていた

その席にはしょうこ姉ちゃんのおじちゃんとおばちゃんの顔もあった

「小太郎!」

しょうこ姉ちゃんのおじちゃんが小太郎に声をかける

小太郎はしょうこ姉ちゃんのおじちゃんに軽く頭を下げただけだった

「なんだ?いつもの小太郎と違うぞ?」


「卒業生入場」

会場に流れる 悲しくもあり これから羽ばたこうとしている卒業生へのエールとも聴こえる曲

卒業生は 父兄へ ここまで育ててくれてありがとう そう感謝し これからもよろしくお願いします そう願い 頭を軽く下げて席へと向かう

もう既に泣いてる卒業生もいた

小太郎は後ろを向き しょうこ姉ちゃんの姿を探した

しょうこ姉ちゃんが小太郎に気づき軽く手を振る

小太郎は安心したようにちょっと笑顔を見せ 席に座り直した


卒業生が席に着く

しょうこ姉ちゃんは 小太郎の斜め前の席だった


「卒業生!在校生!起立!」

「卒業生回れ右!」

卒業生が在校生 父兄の方を見る


「この素晴らしい日 僕達 私達は…」

卒業式が始まった

卒業生1人1人が 在校生 父兄に向けて気持ちを投げかける

在校生も 卒業生からの気持ちを受け取り 感謝の言葉で応える


卒業生が 仰げば尊し を歌う

ピアノの演奏がなんとも言えない悲しさを醸し出す

それは 小太郎にでもわかる悲しい曲だった

歌詞の意味などわからないが 自然に涙を流す小太郎

小太郎に気づくしょうこ姉ちゃんの目にも小太郎と同じものが

しょうこ姉ちゃんは 小太郎の涙を初めて見たような気がした


「小太郎くん 入学おめでとう」

「しょうこ姉ちゃん!俺も小学生になったぞ!」


「小太郎くん また喧嘩したな」

「俺 悪くないやい!」


「しょうこ姉ちゃん!これ 甘くて美味いな!」

「よかった 小太郎くんおかわりあるからね」


「小太郎くん」


「しょうこ姉ちゃん!」


小太郎としょうこ姉ちゃんは 今までの事を思い出していた


小太郎は 自分のお姉ちゃんのように思ってた しょうこ姉ちゃんの卒業が 寂しくもあり 嬉しくもあり 涙が止まらなかった


「卒業証書授与!」

卒業生が名前を呼ばれ 一人一人壇上で卒業証書を受けとっている

しょうこ姉ちゃんの番が来た

卒業証書を受け取り 席に戻るしょうこ姉ちゃんに写る小太郎の涙…


「在校生代表 送辞!」

在校生代表が壇上に上がり 卒業生へ感謝の言葉を伝える

「続きまして 卒業生代表 答辞!」

「はい!」

立ち上がったのは しょうこ姉ちゃんだった

壇上へ一歩一歩階段を踏みしめるように上がっていく


しょうこ姉ちゃんの目には涙が…

小太郎は 心の中で 「頑張れ!」と叫んでいた


「今日は…」

しょうこ姉ちゃんは 泣いて声が出ない…

小太郎も涙であのセリフが言えない

その時 晶ちゃんが小さな声で小太郎に言った

「太郎ちゃん 笑うんだよ 笑うと喋れるようになるんでしょ?だから 太郎ちゃんが笑って お姉さんを助けてあげて…」

「晶ちゃん…わかった」

静かに立ち上がる小太郎

「しょうこ姉ちゃん!」

会場に響く小太郎の声

涙を流しながら笑顔の小太郎

「しょうこ姉ちゃん!笑え!なっ!笑えば喋れるようになるんだ!だから笑うんだ!」

誰一人として笑う人はいなかった

父兄からは 拍手すら出ていた

「小太郎くん…ありがとう」

しょうこ姉ちゃんは静かに答辞を読みあげる

「今日はわたしたちのために卒業式を開いていただき ありがとうございます

来賓のみなさま PTAのお父さんお母さん お忙しい中 わたしたちの卒業式にご参列いただき 温かいお言葉もいただきありがとうございます

思えば6年前 この体育館で入学式に出席した時のことが懐かしく感じられます あっという間の小学校生活でした 土砂降りの中をみんなで歩いた遠足 徒競争で転んでひざを擦りむいた運動会 冷や汗をかきながら臨んだテスト どれも今となってはいい思い出です そんなたくさんの思い出を胸に抱いて 本日わたしたちは卒業します

期待と不安があるなかで この小学校で学んだことを忘れずに成長していきたいと思います

まだまだ未熟者ですので 今後ともご指導のほどよろしくお願いいたします

卒業生を代表してもう一度心からの感謝を申し上げ 答辞とさせていただきます

本当にありがとうございました」

しょうこ姉ちゃんは 立派にやりきった


会場内からは惜しみない拍手がなりやまなかった

しょうこ姉ちゃんは 一礼し 顔をあげると 小太郎に軽く頭を下げた

その顔は 笑顔だった

小太郎も涙目ながらも笑顔でしょうこ姉ちゃんに手を振っていた

凛とした姿で自分の席に戻るしょうこ姉ちゃんを 小太郎は目に焼き付けていた

(しょうこ姉ちゃん カッケーぞ!)


「卒業生 退場!」

来賓 父兄 在校生の手拍子に合わせて 卒業生は会場から一人また一人と…

小太郎には それが 消えていくように見えて涙がまた溢れる…

しょうこ姉ちゃんが 席を立つ

小太郎は思わず

「しょうこ姉ちゃん!行かないで!」

そう叫ぶ!

手拍子でかき消された小太郎の声

しかし しょうこ姉ちゃんには届いた

しょうこ姉ちゃんは 小太郎の方を振り返り

(小太郎くん ありがとう)

そう言ったように 笑顔で小さく 手 を振った

小太郎は それ に答えるように流れる涙もそのままに手拍子を一生懸命していた


卒業生が全員退場して 式の余韻が残る会場に

「小太郎!」

小太郎を呼ぶ声が響いた!

その瞬間

小太郎が高々と抱え挙げられる

「小太郎 よくやった!」

しょうこ姉ちゃんのおじちゃんが小太郎を抱え挙げていた

答辞の時の 小太郎のセリフに感動した父兄達からも拍手がおこる

しょうこ姉ちゃんのおじちゃんの目にも 光るもの が…


「おじちゃん そろそろ降ろして…恥ずかしいぞ…」

小さなヒーローは照れていた


「晶ちゃん さっきはありがとう」

「ううん お姉さんの挨拶 立派だったね」

「あたりまえだ!俺の姉ちゃんだ!」

「うん!そうだよね!」

小太郎と晶ちゃんが帰ろうと校門まで出て来た時

「小太郎くん!」

しょうこ姉ちゃんが小太郎を待っていた

「しょうこ姉ちゃん!」

しょうこ姉ちゃんは セーラー服姿で胸には (卒業おめでとう)と書かれたリボンが…

「小太郎くん おいで」



数日後

しょうこ姉ちゃんからプレゼントが届く

それは しょうこ姉ちゃんと小太郎が 校門の三分咲きの桜の木の下で 写る二人の写真

二人共 満面の笑みだった

もう一枚

小太郎と晶ちゃんが 手を繋いで写る写真が二枚



「次は小太郎くんと晶ちゃん 並んで!」

2人でぎこちなく並ぶ

「表情が堅いぞ 小太郎くん!晶ちゃんと手 繋いで」

「えぇ〜!恥ずかしいなぁ〜」

晶ちゃんから 手を繋ぐ

「はい チーズ!」


「晶ちゃん!小太郎くんを 私の 弟 をよろしくお願いします」

「うん!」



写真と一緒に手紙が入っていた



しょうこの 弟 へ


小太郎くん 晶ちゃんといつまでも仲良くね

小太郎くんが卒業する時は あの場所 で 二人が笑顔で写る写真を待ってます


小太郎くんの お姉ちゃんより










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